レポート◉編集部 一柳 取材協力◉ブラックマジックデザイン
学校法人東放学園はTBSの教育事業本部が設立した学校を前身とする専門学校で、長い歴史のなかで映画監督からテレビカメラマンや照明などの技術スタッフ、さらにテレビやアニメなどに出演する演者(キャスト)まで、エンターテインメント業界に多数の人材を幅広く輩出している。
東放学園のグループ内には、テレビのディレクターやカメラマン・音声・美術、コンサートライブなどの照明スタッフやラジオ業界を目指す東放学園専門学校をはじめ、映画やMV業界・CGやアニメなどのクリエイターを目指す東放学園映画専門学校、音楽・音響・コンサート業界を目指す東放学園音響専門学校、俳優、タレント、声優、配信クリエイターを目指す専門学校東京アナウンス学院のほか、エンターテインメントの世界を目指す高校生を対象とした東放学園高等専修学校がある。
4月上旬に開催される入学式では、おもに東放学園専門学校の放送技術科の学生がスタッフとして式の模様を撮影、スイッチングしての収録と会場のスクリーンや配信用の映像制作を行なったほか、会場の照明は照明クリエイティブ科、PAは東放学園音響専門学校の音響技術科、会場の誘導は専門学校東京アナウンス学院の学生が担当するなど、学校の式典イベントでありながらも、学生自身がイベント本番のスタッフを担当しているという。
今年の入学式は4月4日、LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)で開催され、放送技術科が担当する映像の撮影とスイッチングの様子を取材した。式典後にお話を伺ったのは教務教育部の杉本貴史先生。杉本先生ご自身もこの学校の卒業生で、テレビ局の関連会社で報道やスタジオでのカメラマンを14年ほど務めてきて、数年前に教える立場として学校に戻ってきたそうだ。
撮影やスイッチングなど制作スタッフは学生が務める。杉本先生が全体をサポートする。
実習授業の一環
――これは実習の授業というより、まさに本番なので緊張感がありますね。
入学式は学校のイベントですが、学生がスタッフとして活躍することで自身が成長できる機会にもなり、これから入学してくる学生や保護者の方、業界へのアピールにも繋がります。だから学生主体で頑張ってもらおうと。これ以外にも1年を通していろいろなイベントがありますし、実習授業として音楽ライブやeスポーツ大会を実施して、それを運営、収録、配信するという環境もあります。大学との差別化を図るためにも、「専門学校ならでは!」という実習授業を数多くやっていこうと思っています。
――今回の入学式の準備期間としてはどれくらいですか?
およそ2週間です。新たに導入したブラックマジックデザインのカメラ(Blackmagic URSA Broadcast G2)、スイッチャー(ATEM Television Studio Pro 4K)などが届いたのが3月下旬。もちろん、新しい機材だったので、勉強やトレーニングを続け、本番数日前にシステム全般をすべて仮組みしました。そこから本番の入学式が始まるまでの数日は、われわれ教職員も検証しましたが、学生もやはり不安なのか自発的に頻繁に練習・勉強に来ていましたね。やはり、われわれの指導だけでなく、学生たちのやる気がないと実現できないことです。
――メンバーというのはどうやって決まるのですか?
基本的に希望者を募ります。手をあげる学生はたくさんいますが、ポジションや人数の上限によって、やりたくてもどうしても選に漏れてしまう学生もいます。
――ちなみに人気のあるポジションは?
テレビカメラですね。放送技術科に関してはまず入学する際にテレビカメラマン志望と編集志望に分かれます。カメラマン志望が多くて、最近では女子学生が音楽ライブのカメラマンとかバラエティ番組のカメラマンを目指すということが増えてきました。編集では、バラエティ番組やドラマの編集をしたいという希望が多いですね。ただ、実習授業を通して、ビデオエンジニアという職種があるということを知ると、その希望が増えていきます。
――スイッチャーは人気ないんですか?
人気ありますよ。でも学生は最初はそこから入らないんですよね。テレビ番組の仕組みを知って、授業で習って、実習で理解していくと、スイッチャーや他の技術スタッフが何をやっているかがわかってきて、志望が広がっていきます。
――スイッチャーは大役ですよね。
今日取材いただいた時、学生がスイッチングをしました。ミスもありましたが、しっかりと切り替えていました。学生も事前に台本を見て、映像構成やカメラ割りの計画は立てていますが、実際には台本通りいかないし、思い通りに撮影できないこともありますし、まだまだです。それも学校ならではで、授業の一環として学生にどんどんやってもらおうと思っています。
――来賓挨拶でのVTR出しも話に合わせて学生スタッフが連携して頭出しして送出しているのを見て、心強かったです。もちろん先生の指示があってのことだと思いますが。
私も本番になると、学生に少々厳しい口調で指示することもあります。学生には瞬時に伝えるべきこともあります。この式典にしても、お客様である新入生などがいて、プロのアナウンサーがいて、お笑い芸人もゲストで来ていて、そんなイベントの撮影をする機会なんてなかなかないですから、達成感があるはずです。こういうイベントに参加する学生のやる気を伸ばすために、できるだけこのような機会をたくさん設けてあげたいと思っています。
XDCAMのディスクでV出し。来賓挨拶のなかで「閃」という文字の話になり、VTR中のその部分を呼び出して再生する。
機材の選定について
――放送技術科の機材選定というのはスタジオもあるし、ロケもあるし、ドラマではシネマカメラで撮られることも増えてきたので幅広くて大変だと思います。ドラマではカラーグレーディングも必要ですし、東放学園映画専門学校と被ってくる部分もありますよね。
2年の実習授業でドラマ制作もあるんですけど、今はソニーのFS7で撮影してカラーグレーディングをしています。放送技術科でもDaVinci Resolveを使用してグレーディングできる環境があって、学生が積極的に取り組んでいますね。今後さらに充実させて、Blackmagic URSA Broadcast G2でドラマを撮影してグレーディングまでできるようになるといいなと思っています。
――カメラの選択肢としてURSA Broadcastを選んだというのは?
やはり放送技術科なので、B4マウントの放送用ズームレンズを使えるというのがひとつのポイントで、もうひとつは光ケーブルでアイリスまで含めて全部リモートでコントロールするという環境設備が安価に導入できるというのが大きいですね。今回カメラコントロールユニットなども一緒に導入しています。
フロアの上手と下手のカメラはURSA Broadcast G2で、Studio Viewfinder G2を装着してモニタリング。B4マウントの放送用ズームレンズをズームデマンド、フォーカスデマンドで操作していた。
URSA Broadcast G2に合わせてATEM Camera Control Panelも導入(手前左側)。その右側はセンターのソニーのカメラ用のCCUコントロールパネル。ブラックマジックデザインとソニーのカメラの色味は厳密に合わせるのが難しかったという。
URSA Broadcastの豊富な機能はとても便利なのですが、その簡便さと教育がすべてにおいて一致するわけではありません。就職先の現場では、様々なメーカーの機材を使っていくことになりますし。そして、従来使用しているソニーのシステムカメラとブラックマジックデザインのカメラでは、たとえば、タリーの仕様が異なるため、それに対応するタリーBOXを特注し導入しました。現場でブラックマジックデザイン製以外のカメラを混在して運用することで、タリーの扱い方とか、カメラの色合わせなども実習することができます。
本校のテレビスタジオはHDC1000などのソニーの放送用システムカメラが設備されている他に、学外持ち出し用のHDカメラシステムとしてソニー製品を使用していましたが、今回は持ち出し用の機材を4K規格の新たなシステムカメラに置き換えようと考え、高品質で機能が充実していて、しかも比較的安価なURSA Broadcast G2を3台導入しました。入学式ではソニー製のポータブルカメラHDC1500を混ぜてカメラ5台で撮影したのですが、色を精細に合わせ込むのが難しかったですね。そのあたりが今後の課題でしょうか。
センターのソニーカメラ用のコントロールユニット。その上にあるのはソニーのカメラ用とブラックマジックデザインのカメラ用のタリー信号の変換ボックスとして特注したもの。
スイッチャーもブラックマジックデザインの4K入力が可能な ATEM Television Studio Pro 4Kを導入しました。さらにビデオハブSmart Videohub CleanSwitch 12×12を持ち込んでいます。これは、ルーティングスイッチャーの機能だけではなく、Videohub Smart Control Proを用いて、ビデオエンジニアがカメラの映像信号をシームレスに切り替えて色味調整がやりやすいようにしています。また、スイッチャーが壊れた際のバックアップスイッチャーとしても使えます。そういうことを現場で教えることができます。
――なるほど。学校に導入する機材は将来現場に出たときに参考になるのかどうかという観点が重要なんですね。しかも安価であれば助かると。
できるだけ実習では最新の機材を揃えたいと思っています。今増えているのがLANケーブルで接続してIP設定が必要なものです。従来はなかったものなので、そういった新しい知識も必要になってきます。そういう話は今回レクチャーをしました。
実際の現場を想定した実習
――導入した機材で今後どういう実習をされていくんですか?
本校の5学科合同でのスタジオでの番組制作実習があります。放送芸術科がディレクター、放送技術科がカメラスイッチング、照明クリエイティブ科が照明、放送音響科が音声を担当して、テレビ美術科が美術セットを組みます。いわゆる5つの会社が集まって一つの番組を作るというかたちです。
ロケーション実習としては、本校のセミナーハウスがある山中湖畔に宿泊して、山中湖の番組を作ってみるというものもあります。
――本当にリアルな制作ですね。一人で始めたビデオグラファーとかYouTuberではなかなか体験できないスタッフワークを実地で学んでいくわけですね。一方で、今後は放送技術科と言えどYouTubeとか配信というのは無視できないのではないですか?
配信業務はかなり増えているので、本学科でもライブ配信などの実習も取り入れています。グループの他校では配信クリエイターを養成する学科を設置予定ですし、実際にやっている学生も多いようです。ただ、放送技術科はテレビ業界での活躍を第一に目指している学生が入学してきます。YouTuberを目指す学生は少ないですが、そこは彼らなりに将来を考えているのではないでしょうか?
――たしかに浮き沈みが激しいYouTuberではなく、就職先も確実にあるテレビの技術スタッフというのは長く働ける仕事として、実は親御さんからしても安心かもしれませんね。今回、真剣に映像技術に取り組んでいる学生さんを多く見られて、嬉しくなりました。
今度はぜひ学校のスタジオのほうも見せてください。
本日はお疲れのところ、ありがとうございました。
現場で使われていた機材類
左はスイッチャーのATEM Television Studio Pro 4K。右はそのソフトウェアコントロール。インカムには左側に「TD」、右に「先生」とあった。左にテクニカルディレクター・スイッチャー担当の学生が立ち、右にそれをフォローする先生が立つという関係。
モニターの裏側の端子部とスタンドはこのように改造されていた。学生が接続時に壊してしまっても本体に被害が及ばないようにという配慮。
その下の青いボックスのラックも特注したもの。本体に直接挿すのではなく、端子部を別に設けている。ある程度奥行きがあったほうが設置もしやすい。
センターの2台のカメラはソニーのHDC1500。1台にはフジノンのボックス型レンズを装着していた。
壇上にもカメラ(URSA Broadcast G2)があり、新入生代表の挨拶を撮影してスクリーンに投影。
モニターも青いハードケースに入れて、背後の接続端子部を別途設けて現場で運用しやすくしていた。
入学式が終わった後も学生が迅速に動き、あっという間に撤収が進んでいった。
東放学園グループ https://www.tohogakuen.ac.jp/
東放学園専門学校 https://www.tohogakuen.ac.jp/toho/