レポート:鈴木佑介  取材協力:北山壮平、佐藤綾真  協力:ティアック株式会社  機材協力:アスク・エムイー

 

名機・DR-10Lがパワーアップして帰ってきた!

タスカムからDR-10L Proという32ビットフロート録音対応ピンマイク フィールドレコーダーが登場しました。DR-10L Proは、映画、ドラマ、結婚式、YouTube、Vlogなどの「声」をクリアに収録するピンマイク付きのポータブルオーディオレコーダーです。

この型番で思い出すのが、「DR-10L」です。タスカムのピンマイクレコーダー(正式にはラベリアマイクだが便宜上ピンマイクとして表記)DR-10L を初めて手にしたのは何年前だったでしょうか? 筆者が個人ブランドでのウェディング撮影をやっていた頃ですから、おそらく7年前くらいだと思います。

ウェディング撮影においての音声の収録は披露宴会場ではPA卓からラインをもらって会場の音声を外部レコーダーやワイヤレスでカメラに入力をすることが多く、挙式中であったり、メイクアップ時など披露宴というイベントシーン以外で音声収録をする方法がカメラマイクしかないということがほとんどだったりします。

一番綺麗な音を録る方法は「音源の一番そばにマイクを置く」ことを簡単に実現してくれるDR-10Lは新郎の胸ポケットに仕込んでおくだけで、カメラが回っていない時の音をはじめ、隣にいる新婦の声もしっかり収録でき、ウェディング映像の品質をグっと高めてくれる録音アイテムでした。



ドキュメンタリー撮影などの一発勝負の現場であればあるほど重宝され、このDR-10Lが定番になったのは皆さんもご存知のことでしょう。実際今も使われている人が多いはず。音質面でも優秀で、プリアンプの性能が良いのもタスカム製品の特徴です。

そんなDR-10Lに対して、DR-10L Proは、Proの名にふさわしく32bitフロート収録可能で、ささやき声から叫び声まで確実な録音ができるようになりました。


デザインはDR-10Lを踏襲する形で、底面部にボタンが配置されていますが、前モデルのユーザーであればマニュアルなしで触ることができるでしょう。側面部にはスライド式の電源とRECボタンがありますが、スライド式なので、誤操作でのRECミスを減らすことができます。

従来どおり3.5mm ステレオミニジャックが付いているため直接モニタリングもできるようになっているのは安心です。収録メディアは前モデルと変わらずmicroSDカードですが、DR-10LはmicoroSDHCまでの対応でしたが、DR-10L Proではmicro SDXCにまで対応しています。

さらに録音中に20秒ごとに録音データを自動で保存するオートファイルセーブ機能に対応したのがポイントです。長回ししていて途中で演者さんに電源を落とされてしまったとしても、途中まではデータが存在するということになります。


▲取り外し式のクリップが付属しており、演者の腰やベルトに引っ掛ける時に便利。

3人でのトークコンテンツを撮影する

今回はこのDR-10L Proを3台使用してのレビューをすることになりました。普通の映像制作での利用ではなく時代も変わり、今ではトークコンテンツ動画やPodcastなど、我々映像制作者以外でも音声収録のニーズが高まっていることを考慮して3人での対談動画コンテンツを撮影・録音してみることにしました。音のレベルに関してそれほどナーバスにならずに収録できるのは「動画軸のユーザーにも」大いなる助けになるはずです。

動画は別途見ていただきたいのですが、まずはセッティングの概要をお伝えします。

室内で男性3人がトークをする内容の撮影です。DR-10L Pro 三台をBluetooth経由でATOMOSのUltraSync BLUEを使ってタイムコードシンクして収録しました。部屋の中の反響音を収録しておくためPortcaputure X6でステレオ収録しています。

カメラはFX3を1カメにて収録(FX3がUltraSync BLUE非対応のため編集で音声同期)というセットアップで撮影を行いました。
音声は適正レベルを取って、あとはレコーダーを気にすることなく喋っています。

ちなみにDR-10L Proの電源ですが、単4電池2本で稼働します。
3時間程度の収録でしたが、電池が1メモリ減っているか程度でした。7〜8時間は問題なく稼働してくれる印象です。調べてみると、仕様としては、アルカリ乾電池で16時間、リチウム乾電池では最長24.5時間駆動を謳っています。

 

1:マイクが優秀

DR-10Lのユーザーならピンと来ると思いますが、付属のマイクが優秀なのです。良い意味で可もなく不可もなく、きっちり中音域を押さえてくれていて、EQで弄らずともバランスが良い印象を受けます。

もし他社のマイク(特に安いマイク)を持っていたらぜひ付け変えて比較していただきたいくらいです。またクリップと風防がついていますが、もちろん取り外しが可能。コネクタ部はスクリューロック式なので、撮影中に外れる心配がありません。風防も直接風に吹かれることがなければ、そのまま歩いてのロケでもかなり風を防いでくれます。





3人にそれぞれ装着(風防は付いた状態)。マイクは強い指向性ではないため、多少横になっていてもきっちり音は拾ってくれる

 

2:Bluetoothでタイムコード同期とスマホモニタリング

DR-10L ProはATOMOSのUltra Sync BLUEを使用することでタイムコードの同期ができますが、DR-10L ProでBluetoothを使用するには別売りの外部アダプター(AK-BT1)が必要になります。機能が内蔵されていればもっと便利ではあるのですが、タイムコード同期やモニターをしない用途であれば、こういったオプションは不要になるので、あえてオプションにしたとのことでした。

▲Ultra Sync BLUE

▲Bluetoothの外部アダプターの装着口がマイク端子の横にあり、ここに別売BluetoothアダプターAK-BT1(ティアックストア販売価格:税込5,038円)を装着する。

では、Ultra Sync BLUEを使って3台のDR-10L Proをタイムコード同期していきましょう。これは1台ずつ設定が必要になります。


3台のDR-10L ProのTCが同期された。スマホでモニタリングしてみると、3台きちんと同じTCが走っている。Ultra Sync BLUEのTCよりもスマホ画面でのTCが若干遅れて表示されるのはどうしてもディレイが起きるので仕方ない。

タイムコードの同期は操作自体は難しくないのですが、Ultra Sync・DR-10L Proともに小さい液晶画面の中でボタン操作していくことと、接続された後の解除操作、再接続などを行う際に、現在の状態がどうなっているかなど、DR-10Lの方は液晶に表示される「T」の文字の表示のされ方で状況はわかるのですが、Bluetooth接続のクリアの方法であったりと、使い方はきちんと説明書を読んでおかなかったこともあって、このあたりは苦労しました。

スマホでの操作やモニタリングは専用のアプリDR-10L Pro CONNCTを使用します。



それぞれのローカットや録音レベル調整、モニタリング、RECコントロールなどが可能になります。上のように複数台を同時にモニタリングできるとうのがポイントになります。

さて、ここからは使い方の注意になるのですが、先にTCを同期させた後、3台のDR-10L ProのBluetooth設定をスマホとの接続に切り替えることでアプリを使用することができます。こうすれば複数のDR-10L Proを同じTCでスタートさせて自走させるモードとスマホモニタリングを併用することができます。メーカーによるとUltra Sync BLUEなどのジェネレーター同クラスの高精度なクロックを採用しているので、自走モードでも1日の撮影で1フレームズレない精度だそうです。

 

3:32bitフロート収録でも自分で録音レベルを調整可能なのは?

他社からも32bit フロートで収録できるレコーダーは発売されていますが、モニタリングの音量調整はできても収録時に自分で録音レベルを決められるものが少なく、いくら音割れを気にしなくて良いと言われていても「適正で収録」したいと多くの人は思うでしょう。このDR-10L Proは録音レベルを選択することができます。ただ、これは紛らわしいのですが、ゲイン調整ではなく、あくまでもSDカードに書き込むRECレベルを調整するパラメーターであり、音質には影響を与えません。これは編集ソフトで開いたときに、波形が小さすぎて見えなくなったり、大きすぎたりしないようにするための機能になります。つまり、ここを調整したとしても、音割れを防ぐとか、ホワイトノイズ等に影響することはありません。

これまでのレコーダーになれている自分としては、地声が大きい筆者のDR-10L Proだけ少しレベルを押さえて他の人と同じレベルになるように微調整をして収録しました。



 

 

4:部屋の反響音を足すためにPortcapture X6を使用

そして今回部屋で3名の対談なので反響音が少し欲しいと思い、同じくタスカムの32bitフロートで録音できるフィールドレコーダーPortcapture X6をエアマイクを録音するレコーダーとして使用して、環境音を収録しました。やはりステレオのアンビエント音があると仕上げ時の「リアルさ」が増します。

▲32ビットフロート録音 6トラックポータブルレコーダーPortacapture X6。

▲Portacapture X6でこの部屋の環境音を押さえる。3人にDR-10L Proを仕込み、テーブル上のスマホのアプリでモニタリングした。

 

収録した生の音とMAしたものを比較

1:マルチオーディオクリップの同期が簡単

今回編集はDaVinci Resolveで行いました。タイムコード同期されているので、3つのDR-10L Proの音を「タイムコードで自動配置」をかけると瞬時に同期がされました。

今回使用したカメラがBLUE非対応のため()カメラとのTCの同期はできませんでしたが、もし同期されていればワンオペでのドキュメンタリー収録の際の音声同期が大変楽になるでしょう。

タイムコード同期されていないFX3とPortcapture X6の音は音声の波形で同期。このオーディオ波形で見てクリップしかかっているところは少しゲインを下げたりしつつ、編集を行いました。

※対応カメラは2024年1月段階でニコンZ 9、Z 8、Z f、富士フイルム GFX100 II、X-H2X-H2S。

 

2:盛り上がって音声がクリップしても大丈夫

複数人でトークをしていくと、ついつい盛り上がってしまって声も大きくなります。特にタイトルコールなどを行うと明らかにボリュームオーバーになったりします。

こういう時が32bitフロートの本領発揮となります。クリップのボリュームを下げればきちんと割れずに音が戻ってきます。

3人それぞれの声の大きさに合わせて適正レベル(筆者はだいたい-12dB前後)で取っておけば小声になっても大声で音が割れてしまっても、問題なく戻せるので、録音されていることだけが確認できれば安心して自由にトークに集中できました。自作自演でのコンテンツを作る人も今は多いと思いますし、音のレベルをリアルタイムで調整できない撮影の時などにはもってこいのアイテムです。

 

Before_MA

 

After_MA

そのままでも十分聞けるレベルですが、やはり処理をすると違いますね。「綺麗に録って」「綺麗に処理する(してもらう)」のが鉄板なのは32bitフロートになっても変わりません。

三島元樹氏にMAをお願いして、仕上げたトークコンテンツはこちらです。映像制作業界での今の生き方を色々なテーマで話しています。結構面白いコンテンツになったので移動中などのラジオがわりにどうぞ。第一回の他、あと二回分収録してあるので、お楽しみに。

鈴木佑介のゴールデンもっこりナイト
(冒頭の3分半のタスカム製品について話してる部分まで、DaVinci ResolveとRXのみで後編担当の三島元樹さんがMAしてます)

さて、まとめになります。

 音声を別録り、というのは一見「手間」に感じるかもしれませんが、ワイヤレスで飛ばさない分、音切れ混線などの心配がないので安心して綺麗な音声データを収録することができます。筆者もこのレビューが公開される頃、おそらくDR-10L Proとステレオレコーダーとの組み合わせで音源収録をしていると思います。つまり、1台は持っていても損はないということです。前述しましたが、いつ「良い言葉」が飛び出すかわからないドキュメンタリー系の現場においてレベルを気にせずに長時間収録できるDR-10L Pro、使ったことがない人はぜひ使ってもらいたい一品です。

 

【後編】TASCAM DR-10L Proで録った素材をiZotope RX Elementsで整音してみる

製品情報 TASCAM DR-10L Pro. https://tascam.jp/jp/product/dr-10l_pro/top