映画を作りながら、映像の仕事と両立できるようになってきた
取材・文/編集部 一柳
岩田さんの作品より
『スイッチバック』(長編映画)
『五時のメロディ』(短編映画)
ペンギンラッシュ『高鳴り』(MV)
映画の道の目指し方
地域発の映画を探しているときに、愛知県大府市で撮られた『スイッチバック』(Switchback)という映画のことを知った。地域映画がプロモーションを目的とするものが多いなかで、明らかに肌触りが違う。主人公は外国籍の親を持つ多様な背景を持つ中学生たち。大府は豊田にも近く自動車産業がさかんな地域で、住人には外国人労働者が増えている背景もありそうだ。
監督の岩田隼之介さんに取材を申し込んだ。岩田さんは名古屋近郊の出身で、現在は愛知県を拠点に、映画を作りながら、映像作家としてミュージックビデオ、美術展の記録映像、WEBCMや企業VPの制作をしている。
高校卒業後に映画の道を志し、名古屋の専門学校で映像・映画を学んだ。
「15年前の選択肢としては、東京に出て、助監督からスタートして商業映画の道を歩むか、地元にいて自主映画を作りながらコンペティションで映画監督を目指すかという、ふたつがあったんですが、ちょうどデジタル一眼で映像が撮れるようになった時期で、自分も当時GH2を買って、映像を作り始めました。特に就職せずに映画館とかでアルバイトしながら、映像制作をするうちに、YouTubeが普及して、ビデオグラファーが活躍し始めて、小さい映像制作が増えていきました。いまようやく自分の映画制作をやりながら、自分のテイストも活かせる映像の仕事の依頼がくるようになり、両立できる方向が見えてきた感じです」
もし東京に出て商業映画の道に進んでいたらどうなっていたか分からないが、いまとなってみると15年前の人生の決断は正しかったことになる。
地域映画らしからぬ映画
その岩田さんが脚本・監督を務めた『スイッチバック』は、地域映画としてはいろいろな解釈ができる、めずらしく攻めている映画だ。
「地域映画は流行っていると思うのですが、自分としては深く考えられるテーマのものを作りたかった。助成金は出ていますが、少し批評的な部分も含みつつ、それを許容していただけたので、プロデューサーの辻卓馬と共に、単なるお祭りにならない映画に挑戦することができました」
主人公は4人の中学生。外国人の両親を持ったふたりと日本人ふたり。そこに不思議な体験型ワークショップや、外国人の労働者の方たちに日本語や勉強を教える団体がドキュメンタリータッチで挿入されている。
「主人公の4人は実名で登場します。脚本を並行して書きながら、土日ごとに半年かけて撮っていきました。14歳だと半年で体も大きくなってくるし、顔も変わってくるし、喋り方というか、セリフとはいえ言葉を言う時の強さも変わってきたことが分かりました。時系列で撮っているので、その変化を映画に記録できたことも貴重だった気がします」
撮影が2019年で、完成が2022年。編集にもかなりの時間がかかっている。
「コロナ禍と重なったこともあり、焦って出すよりも、冷静な視点で編集してみしてみて、必要のないシーンを思い切って切ることができました。この映画はあの時代のあの街でしか作れなかった不思議な映画になったと思います。劇場公開や同キャストでの続編制作も計画中です」
撮影現場の様子。岩田さん自身でカメラを回すこともあるし、カメラは任せて演出に専念することも。映像を見ていると、カメラワークには強いこだわりを感じる。
「絵コンテはほぼ必ず描いています。芝居は基本的に役者さんに任せますが、その役者さんをどう動かして、どのような構図で撮っていくかは、監督の腕の見せどころだと思います。カメラワーク次第で、そのシーンがハッピーなものにもなるし、クールだったり、怖い印象にもなります。映画制作において重要な要素だと考えています」
撮影機材
編集環境
主な機材リスト
●VIDEO SALON 2024年6月号より転載