生成AIと著作権におけるふたつの場面

生成AIと著作権を考える上で大事なポイントは”どの場面の話をしているのか”を考えるということです。生成AIの開発と利用の流れとして、まずいろいろなデータを収集し学習させます。次に、学習済みのモデルを作り、プロンプトと言われる指示を入力し、画像など成果物を出力し、それを利用していくのがAI生成の利用の流れです。つまり、AIにデータを学習させて開発する段階と、学習済みモデルに指示を与えてできたAI生成物を利用する段階というふたつの場面があるわけです。ここでの議題は、生成AIを使用し作品に活用する場合、どういったことに気をつければいいのかという話なので、後者を中心に解説していきます。

生成AIで制作したものを利用すると著作権侵害にあたるのかどうかについては、問題になりそうなパターンがふたつあります。ひとつは、出力されたものが学習済データの何かに似ていたというパターン。もうひとつは、学習はしていないけれど、出力された作品が偶発的に何かに似ていたというパターンです。共通している点としては、どちらのパターンも既存の作品に似たものが出力されたという点です。そして、「出力された生成物をそのまま使うことで著作権侵害になってしまうのか?」という疑問を紐解くには、そもそも「著作権侵害とはどうなったら成立するのか?」を考える必要があります。

著作権侵害は、類似性と依拠性の両方を充たした場合に成立します。類似性とは、新しくできた何かが、既存の何かと類似していることですが、「100人中90人が似ていると言ったから類似性があります」などということではなく、法的な観点から評価・判断されるものです。また、依拠性とは既存の作品を見聞きし、それに基づいて新たな作品を制作することをいい、、結論から言えばどんなに似たものを作ったとしても、偶然似たものは著作権侵害にはあたりません。つまり、このどちらかだけでも否定ができれば著作権侵害ではないということになります。



例:2種類のクマのキャラクター


● 同じ2足歩行のクマ

● 全体のシルエットもなんとなく似ている

● 顔のパーツもほとんど同じ


ここが似ていたらアウト!

既存のもの(作品など)と、新たに生成されたものとの「表現上の本質的な特徴(創作的表現)」が似ていたらアウト
著作権が発生している部分(著作物性のある部分)

ここが似ていたとしてもセーフ!

「著作物」に該当しないもの: 「アイデア・着想」「作風・画風・表現技法」「事実・データ」「ありふれた表現」など上記の要素には著作権が発生しないため似ていてもセーフ
著作権が発生していない部分(著作物性のない部分)

「著作権侵害(アウト)となる判断基準が分かりづらいため、逆にセーフとなる部分を理解することでアウトとセーフのラインが見極めやすくなります。アイデアや着想など、著作権が発生しない部分であれば、仮に似ていてもセーフという判断になります」と田島さん。



依拠性がないとする説

・AIはパラメータとして覚えているのみ。

依拠性があるとする説

・学習するため、データに一度でもアクセスしている以上、依拠性が認められる。

議論が分かれる部分であり、令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」(文化庁著作権課)によれば、「依拠性の有無は、最終的には裁判所により個別の作品ごとに判断されるものだが、文化庁としてもAI生成物の場合の考え方を整理し周知を進めていく」としている。


生成AIを使用した結果、偶然に既存の何かと似たものができたなら、仮に類似性を充たしたとしても、依拠性を充たさないと考えられる(ただしAI 利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合は別)





出力されたAI生成物は誰のものなのか?

Q. AIが制作したもの・AIが作業した部分は「著作物」といえますか?

作品(文章やイラストなども含む)

著作権のない部分

※著作権法による保護の対象外=許諾なく自由に利用可能

●単なる事実の記載

●ありふれた表現

●表現でないアイデア(作風・画風)など

●著作権法の著作物の定義(法第2条1項第1号)

1/思想又は感情を

2/創作的に

3/表現したものであって

4/文芸学術美術又は音楽の範囲に属するもの

●「著作物」ではない例

・ アイデア・着想

・ 作風・画風・表現技法

・ 事実・データ

・ ありふれた表現 など

著作権のある部分

※著作権法による保護の対象=複製や公衆送信等の利用行為には原則、著作権者の許諾が必要
性質上、「著作物」(創作的表現)と言えそうだと仮定して…


人がどの程度寄与していれば「創作的寄与」を認めるか(その人に著作権を認めるか)については、議論の過程にある。



AI生成物の著作権は、いったい誰のものになるの?

生成AIを使った作品について、「出力されたAI生成物は果たして、誰のものなのか?」という議論があります。性質上、著作物でなければ著作権は発生しないため、”著作物性のない部分”については誰のものでもないということを説明してきました。ただ、ここで問題になるのは”著作物性のある部分”です。原則として、少なくとも日本では、AIが自律的に生成したものは、著作物に該当しないと考えられてきました。要するに、創作は人に与えられた特権であるといった考え方です。ただし、人間が機械を道具として使えば、著作物になり得ます。我々人間は、これまでもカメラやPCなどを使って様々な創作をしてきています。これと同様に、生成AIを道具として使って創作しているのであれば、「カメラで撮った写真がカメラマンの著作物になるのと同様、AIで生成した絵がAIを使った人の著作物になりますよね」という議論に発展するわけです。

では、”道具として使う”とはどういう状態なのかというと、人の「創作意図」があり、人の「創作的寄与」があったと認められるような行為を行なったかどうかで判断されます。要は、人がその生成物の創作的表現部分を担ったのであれば、生成物の著作権をその人が持つことを認めましょうと。しかし、創作的表現部分のほとんどをAIが担ったのであれば違いますよね、というのがざっくりとした考え方です。その上で、結局のところ、生成AIによる制作物に対して利用者がどの程度関与していれば、「創作的寄与」と認められるのかについては、議論の過程にあるという状態です。


「AIが自律的に生成したものには著作権は発生しないと考えられていますが、生成AIサービスによっては利用規約で著作権があるように規定し、利用制限をかけているサービスも存在します。サービスを使用するのであれば、原則として利用規約には従わなくてはならないので注意しましょう」と田島さん。


AI開発・学習段階と著作権

生成AIに学習させることは原則自由だが、著作権者の利益を不当に害するのはNG

世界に比べると日本はAI学習をさせやすい状況にあるといわれることがあります。平成30年の改正により、著作権法第30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)が定められ、AI学習のためのデータベース化や複製がある程度自由にできるような法改正が行われたことがその理由の一つとしてあげられます。これにより、AIに覚えさせるだけであれば、原則自由であるように定められました。ただし、「著作権者の利益を不当に害する場合は除く」というセーフティネットはしっかりと張られています。

では、権利者が明確に「自分のものは覚えさせないでくれ」と言っているのにも関わらず商用目的で学習させる場合や、海賊版から学習させる場合はどうなるのかなど、さまざまな議論があります。これらに関しては、現状ではまだはっきりとした答えはなく、最終的には司法の場で個別的に判断されていくことになるでしょう。

著作権者の著作物の市場と衝突しそう、あるいは将来における潜在的販路を阻害しそうな場合などは、著作権者の利益を不当に害する場合に該当する可能性があるため、学習を控えるのが安全とも思われます。

生成AIの著作権については、現状曖昧な部分も多いですが、こういった新たな技術が生まれたときに、既存のルールを前提として理解した上で今後どうしていくべきかを皆で議論していきながら、よりよいルールを作っていくことが大事だと思います。





A.

その脚本が既存の作品そのものと酷似していたら、もちろんダメですよね。ただ、着想やアイデアレベルで何か似ていたとしても、具体的なストーリーラインや表現面で似ていなければ使ってもいいといえるので、生成された脚本を参考に加筆し、既存の作品と違うストーリーにするのであれば問題はありません。

A.

著作権者の利益を不当に害する場合は控えるといった話をしましたが、その観点から、特定の脚本家の作品だけを学習させるのはリスクがあるように思われます。一方、様々な脚本家の作品を学ばせるのであれば、現状は問題ない可能性が高いですね。

A.

生成されたキャラクターが、既存のものと表現上の本質的な特徴が似ていた場合、前述のとおり依拠性の問題はあるもののアウトになる可能性が高そうですが、着想的な部分やありふれた要素などが共通しているだけであれば問題はないかと思います。

A.

脚本のケースと同じで、ひとつの有名作品にでてきそうなキャラクターデザインを制作し利用するために、ある特定の作品だけを学ばせることについては、著作権者の利益を不当に害する可能性があるとして、リスクが存在するように思います。

A.

生成された背景が既存の著作物に該当するようなものと似ているのであれば問題になり得ますし、ありふれた要素しか似ていないのであれば、特に問題はないといえるでしょう。先のケースと考え方は全く同じですね。

A.

『太陽の塔』ように芸術性の高い建築物には著作権が発生しますが、ありふれた実用的な商業ビルのデザインなどに著作権は発生しません。著作物であれば、著作権侵害の問題が生じますが、屋外に恒常的に設置されているものについては、いくつかの例外を除き自由に使えるというルールがあります(著作権法46条)。よって、背景に小さく建造物が映っているような場合はセーフと思われます。

A.

バーチャルヒューマンが特定の誰かに似ている場合には、以下の肖像権の問題などについて検討が必要となりますが、そうでない(実在する誰かと似ているわけではない)ならば基本的には問題にならないように思われます。

A.

明らかに特定の誰かだと分かる形で無断で公開すると、肖像権侵害の問題になります。肖像権侵害に該当するかどうかは、以下6つの要素を総合的に考慮し、判断するというのが裁判所の見解です。声の場合、声優など著名人の顧客吸引力を無断利用するといえる場合には、パブリシティ権侵害と判断される可能性があります。


肖像に関する権利について

肖像権: みだりに自己の容ぼう、姿態を撮影・公表されない権利

法律に規定はなく、判例で認められた権利。肖像権侵害に該当するかどうかは、❶被撮影者の社会的地位、❷撮影された活動内容、❸撮影場所、❹撮影目的、❺撮影の態様、❻必要性等を総合考慮し、撮影・公表が社会生活上受忍限度を超えるかにより判断される。生成AIと肖像権については、例えば偶然誰かい似てしまったAI生成画像の公開がここでいう「受忍限度」を超えるといえるのかなどについては今後の検討課題といえるでしょう。

「デジタルアーカイブ学会が示している『肖像権ガイドライン』は、何が肖像権侵害にあたるのか、あたらないのかを分かりやすくガイドライン化しているため、興味のある方はそちらを深掘りしてみてください」と田島さん。

パブリシティ権: 著名人の氏名や肖像等が持つ顧客吸引力を使用する権利

他人が、専ら顧客吸引力を目的に著名人の氏名や肖像等を無断利用することはパブリシティ権侵害となる。肖像権と同様に法律に規定はなく、判例上、認められた権利。昨今問題となっているディープフェイクについては、それ自体を直接規制する法律は存在せず、刑事上の責任としては、名誉毀損、偽計業務妨害・信用毀損、著作権法違反、わいせつ物頒布等罪などが考えられる。


A.

独創的で、この人の独自のエフェクト表現といった例外的なものをあえて似せたような場合は別ですが、広く公に使われているようなエフェクトを、AIが出力した場合は、ありふれた表現として問題ないといえるでしょう。編集についても同様です。

A.

アイデアや着想、あるいは技法の部分を超えて、具体的な映像内容として著作権侵害にあたるほど類似することはあまり考えられないように思います。ただし、特定の人物の編集方法だけを学習させ同種の動画を量産するようなAIを作成する場合、著作権者の利益を不当に害する場合にあたる可能性もありそうです。