今回の使用機材の一部
● カメラ Blackmagic Pocket Cinema Camera 4K
● 照明 ARRI Daylight 18/12
18kWのHMI照明2灯を使用。HMIを選んだ理由は赤外線を出していないかつ、光量が多いため。赤外線を出しているライトは、赤外撮影では赤くなり、見え方が変わってしまう。タングステンのハロゲンライトは赤外線の量が多いため適さない。ロケ撮影の場合、太陽の光量に匹敵する照明を選ぶ必要があるため、LEDでは光量が足りないことから、今回はHMI照明を使用した。
① ローパスフィルターの取り外しやすさ
自前カメラであるBMPCC4Kとソニーのα6300を赤外撮影できるように改造したが、α6300のほうはカメラ全体を分解しなければローパスフィルターを取り外せず、大掛かりな作業となった。一方、BMPCC4Kの場合はレンズマウント側からローパスフィルターまですぐにアクセスできる設計のため、作業の負担も軽かった。
② RAW撮影かつ内部収録
パナソニックの「EVA1」や「VARICAM LT」といったシネマカメラは赤外線(IR)撮影ができるように設計されているが、天候などの条件によってはホワイトバランスをカットバイで細かく調整する必要がある。そのためRAWデータで撮影ができ、かつ内部収録ができるBMPCC4Kを選択した。
ホワイトバランスによるルックの違い
● モノクロでの輝度差比較
赤外撮影をすると輝度が上がるという例。通常撮影した場合、モノクロにすると葉や空に明るさの差が大きく出てしまい、部分的にマスクを切って輝度を変えても違和感が出てしまう。しかし赤外撮影の場合、葉の輝度が上がって、空の輝度が相対的に落ちる。そのため、部分的に明るくしたときの違和感が少ないなど、技術的な面でも、ソフトで加工せずに、赤外撮影を行うメリットがある。
意義や意味を大事にする
思想があるからこそ赤外撮影に意味がある
ここまで面倒なことをしなくとも、普通に撮影した映像で葉の部分だけマスクを切って加工すれば、赤外撮影らしいルックになるのではと思われるかもしれないですが、そこはやはり目的や思想が大切。「見えないものにフォーカスするんだ」という思想の上で、見えない赤外線の光を捉えることこそに意味がある。掲げた想いがブレなければ、仲間たちと迷わず進んでいくことができます。最後に、本作品を制作するにあたって多大なる尽力をいただいたプロダクションマネージャーの辻本壮邦氏への限りない感謝と敬意を込めて、本作品解説を終えたいと思います。
作例② ONE OK ROCK / 『Broken Heart of Gold』
楽曲のテーマは”美しさと儚さの二面性”の表現
ちょっと叩いたら壊れてしまう卵の殻のようなイメージ
この楽曲のMVは、個人制作で作ったものを応募した作品になります。テーマは、表層の美と儚さ、水面下の混沌となっています。最初に楽曲を聴いたとき、「人間はいろんな感情を持っている。見せたい自分と見せられない自分がある」というテーマがあるのかなと思い、人の美しい部分と醜い部分の狭間にいて、もがいているところを表現したいと思いました。また、それは花に似ていると感じて、地上で見えている部分はとても美しいけれど、地面の下では生きるために必死に根を張り巡らせている。そういうところが人間らしいなと思い、花をモチーフにしたいと考えました。
そんな思いから、人間の内外面を表現する手法が何かないかと模索していくうちに、今にも壊れてしまいそうな脆く儚いもので、ちょっと叩いたら崩れてしまう卵の殻のようなイメージを描きたいなと思ったんです。そこで、ひび割れた人間と、それを支える根元の人間を表現したいと考え、Kinect(キネクト)によるサーフェスキャプチャをやろう決めました。
RGBカメラと深度センサー、音声認識ができるデバイス。もともとはゲームのデバイスとして登場したが、物質の表面形状のキャプチャやモーションキャプチャを活用して映像にも利用ができる。本格的なモーションキャプチャや人物認識を行うには大掛かりな機器が必要だが、Kinectの登場により卓上サイズかつ1台数万円で簡易的な表現が可能になった。
Kinectを活用したワークフロー
Kinectのデータから3Dモデルを生成する
まず、Kinectを使ってダンサー撮影していきます。撮影と言いましたが、Kinectは画像だけではなく、深度情報とRGBデータを記録していきます。またカメラの向いている方向しかキャプチャができないため、全体を撮るために4台用意し、4方向から撮影しました。
次にKinectで撮影したデータから、Brekel PointCloud v3というソフトを使って3Dモデルを生成していきます。このソフトを使うことで、Kinectで測った深度情報を4台ごとのポイントクラウドとしてキャプチャすることができ、このデータをもとにメッシュデータを生成することができます。そしてこのメッシュデータをCinema 4Dに読み込ませるため、Alembicというファイル形式で書き出します。Alembicを選択する理由はワンファイルで連番になるため、データの取り回しが容易だからです。
そして中央の花役のダンサーと根っこ役のダンサーを作り込んでいきます。Cinema 4Dで、Alembicファイルのメッシュデータだけを読み込み、それぞれのダンサーを作っていきます。周りの根っこ役のダンサーについては、複数テイク撮影したものを散りばめ、全てが同じではなく、少しズレた動きをさせることで、混沌とした感じや、感情が渋滞しているカオスな表現に仕上げています。
なお、複数処理にはMoGraph、質感作りにはTopoWireというプラグインを使いました。レンダリングにはRedshiftを使用しています。レンダリングでは、いわゆる画像情報としてのデータ「Beauty」、後から部分的に色を変えたり、オブジェクトごとに調整処理をするための「マスク」、ボケ足などを作るための「デプス」を書き出します。
最後に、After Effectsでマスクを使って色調を整えたり、デプスを使ってフォグや塵を足して空気感を出したり、レンズのディストーションや色収差、グレインなどを足す作業で仕上げていき、最終的にカラーグレーディングをしてフィニッシュといった流れになります。今回はフルCGのショットということもあり、Cinema 4D側である程度のところまで持っていけたので、CGで出すチャンネルの種類なども比較的シンプルな構成で完結できました。
ダンサーを4方向からKinectで撮影、Brekel PointCloud v3で同時にキャプチャし、メッシュデータを生成。Alembicファイルで書き出す。
● 書き出したAlembicファイルをCinema 4Dへ読み込ませる
Kinectで撮影した4方向からのキャプチャデータを、重ね合わせた状態。
メッシュデータのみを使用。4方向からのキャプチャデータをCinema 4Dでひとつにまとめることで、ひび割れた殻のような動く人体モデルを作る。
● レイアウトや質感づくり、コンポジットへ向けたレンダリング
各テイクをレイアウトしていく。中心にあるオレンジ色のモデルが花役、その周りに根っこ役のダンサーを複数配置している。根っこの人間を表現する複製処理には標準エフェクトの「MoGraph」、質感作りには有料プラグインの「TopoWire」を使用。レンダリングにはMaxonのC4Dレンダラー「Redshift」 を使用している。
レンダリングした素材は「Beauty」のデータ、中央の花・周りの根っこ・地面の「マスク」、深度情報の「デプス」。
マスクチャンネルは、コンポジット時に色を変更したり、塵をオブジェクトの前後に足したり、輝度などを調整するために使用。
デプスチャンネルは、深度情報によってボケ足を作ったり、デプスフォグ(遠景がかすむ処理)を加えるために使用。
● カラーグレーディングをしてフィニッシュ
カラーグレーディングでは、人間の陰湿な要素や物寂しさを演出するため、じめっとしたフォーギーな空気感、土の中の薄暗い雰囲気を意識して行われた。その中で花だけに光を当ててオレンジ色を際立たせるなど、人間の二面性を演出している。
A.
切り口にもよると思いますが、手法に関係なく的確な選択や発想をパッと出せる人や、その人にしかできない独自性を持っている人は素敵だなと感じます。共通している部分ですと、「この仕事をあなたに頼んで良かった」と言われるような人。結果に対して、ちゃんとアプローチできる人が優秀なクリエイターだと思います。
A.
現場の撮影環境や最適なライトはもちろん意識しますが、スキントーンをノーマルに担保するための撮影設定は何が正しいのか、そしてフィルターの使い方をものすごく考えました。あとは、彩度が高過ぎるとおどろおどろしい世界に見えてしまうので、印象として優しい世界に見せるために、色をキツくし過ぎないように意識しました。
A.
広告の場合はまず企画があって、それに対して「どんな演出をすれば良いのか」と頼まれるケースが多いです。プランナーやクリエイティブディレクターの狙った効果を実現することが大切。自分の思想を重ねすぎると、依頼されている企画の本質とズレてしまうこともあるのでバランス感は意識しています。
A.
意識していることは正直あまりないのですが、撮影で使えるネタを収集するためだけに、インプットをするのは少し違うのかなと思いますね。日々の生活の中で感じることや、身の周りの人々とやり取りする時間を大事にしていくことで、審美眼も自ずと養われていくものなのかなと考えています。