クライアントとの良好な関係を築くためにコミュニケーションは欠かせない

勝てるビデオグラファーの条件を言い換えるのであれば、「リピートされる」もしくは「紹介される」ビデオグラファーだと僕は考えています。僕自身、取り引きの長いクライアントが何社かありますし、紹介されてお付き合いが始まったクライアントも多くあります。

例えば、服のブランドの撮影現場であれば、アパレル会社だけでなく、モデル事務所やカメラマン、別の会社の方など、複数の会社が集うことも珍しくありません。現場での出会いからまた別の仕事を紹介してもらえることが少なくないです。そのような状況を生み出すためには、クライアントとの良好なコミュニケーションは欠かせません。本項では、クライアントといい関係を築くために、どのようにコミュニケーションを取ればいいのか、ビデオグラファーとして活躍していくために大事な要素を解説していきます。



クライアントコミュニケーションに欠かせない要素のひとつは「挨拶」です。ただ挨拶をするのではなく、相手にしっかりと届いているかどうかが大事です。大きな声で挨拶することにデメリットはありませんし、実際、僕は外でクライアントを見つけたら、5mごとに「おはようございます!」と言いながら近づき、さらに面と向かって「今日はよろしくお願いします!」と言うようにしています。クライアントだけじゃなく、モデルさんやクリエイターにも同じようにしているので、僕と一緒にやっている人たちには「確かに」と思っていただけるんじゃないかなと。

挨拶と聞くと、「なんだ、そんなことか」と思われる方もいるかもしれません。ですが、大きな声で挨拶をすることって実はすごく重要なことで、それだけで相手からの印象はとても良くなります。意外とそれができていない社会人の方は多いと思います。こういうことができるだけで、まず他の人よりも頭ひとつ抜きん出ると思いますね。



次に、「返信スピード」について。ビデオグラファーの方々を見ていると、1日中ジンバルを握り続ける日もざらにあります。そうなると、携帯を触ることもできないし、撮影のちょっとした休憩中には「次のカットどうしようかな?」と考えたり、撮影を円滑に進めるためにモデルさんとコミュニケーションを取ったりと、そういった時間に当てているので、そもそもの返信スピードが落ちてしまうのは仕方がないことだと思っています。

ただ、だからこそあえてスピードを意識した返信を心がけましょう。これは、単純にレスポンスを早くするという意味ではありません。

例えば、翌日は丸1日撮影があると事前に分かっていた場合、 前日に「明日は終日撮影となりますので、こちらからの連絡が明後日以降になります」と伝えたり、今すぐに返せる内容ではないと感じたら、「ありがとうございます。本日は撮影中ですので、明日以降のご連絡とさせていただきます」とだけでも返したりしておけば、相手側は返信がなくて不安になることもないですよね。急用であれば、クライアントもその旨を伝えてくれるかと思います。何よりも、相手に対して今自分がどういう状況なのかを伝えることが大切です。そういった意味での返信スピードを意識するようにしましょう。



「相手の立場に立って考える」という言葉はよく耳にしますが、ここでは「相手の立場に”立ちきって”考える」という言葉を覚えてほしいと思っています。

例えば、「予算30万円で、ブランディングムービーを1本作ってほしい」という依頼があったとします。僕らはそれをそのまま作るのではなく、「制作した動画はどこに出すんですか?」「販促よりもブランディング要素のほうが強いですか?」などをクライアントから吸い上げた上で、「でしたら、リール動画2本のほうがいいと思います」と別の提案をするときがあります。本来、要望通り30万円で1本の動画をそのまま作ったほうが楽ですが、相手の立場に立ちきって考えたとき、「最終的にどんなことを目指し、何に対してのアクションの手段としての動画なのか?」を考えてみると、また違う提案が出てくると思うんです。

また、クライアントと僕らは発注者と元請けという関係性ではなく、「一緒に未来を作るための手段として動画を作りましょう!」という関係性です。ただの制作屋になるのではなく、「御社の子会社の気持ちでがんばります!」なんてよく冗談を言うんですが、そういう気持ちで取り組むからこそ、「何かあったらまた頼もうかな」とリピーターになってくれるクライアントも多くありました。みなさんもぜひ、相手の立場に立ちきって物事を考えるようにしてみてください。



最後に、「納品までのコミュニケーション」について。クリエイターから「修正が多くて仕事に着手できそうにない」と相談をされることがよくあります。その理由を聞いてみると、大体が関わっている人が多いという理由でした。

例えば、代理店やクライアントがいて、さらにモデルもいた場合、モデル事務所に「この映りでいいですか?」と確認のための動画をあげたり…。確認先が多くても納品日は変わらないため、クリエイターの作業が徹夜になってしまうといったケースをよく聞くんです。そういった事態を防ぎつつ、クライアントとの良好なコミュニケーションを築くには、納品までのプロセスを改善するための念入りな事前確認が必要となります。




動画を作る前に確認すること

動画を作り始める前段階の打ち合わせで、河合さんが確認している項目。念入りに確認しておくことでクライアントとのトラブル防止、クリエイターへの負担を減らすことができる。







クライアントの状況を把握する

これからクリエイターをやっていきたいという方に「どのくらいの値付けをしたらいいですか?」とよく質問されます。予算の提案フローとしてはまず、その動画はどこで流したいものなのかを聞いておくことが大事です。なぜかというと、流す媒体により書き出し方法が変わり、それによって予算がズレこむケースが想定されるからです。

例えば、「Windows Media Player形式で書き出してください」などの指定が後から判明した場合、Windowsを持っていないがために書き出しのみ自腹で外注するはめになってしまったり、工数が割に合わず、技術的にはプラス料金をいただいてやっと適正料金だったという場合もあります。そういった事態を防ぐためにも、前もってその動画をどこで流し、どんな書き出しの指定があるかなどを把握しておきましょう。



例えば、クライアントとなる企業の社員さんが自社の商品を紹介するようなYouTube動画の撮影依頼があったとします。その内容であれば、動画の費用は広告費から捻出されることが大半だと思いますが、採用活動にも使える内容を兼ねた動画提案ができれば、人事部など別の部署からの費用として捻出ができるかもしれません。そうすることで、こちらが提案できる予算も大きく変わってくるため、その動画が何費から計上されるのかを把握することは予算提案をする上で大事な要素になります。

また、何の費用から計上されるかがわかれば、意思決定をする人がどのくらいの人数いるのかも予想できますし、部署の担当者単位で確認が取れれば納品になるのか、もっと上の立場の人間に見てもらわなければいけないものなのかなど、見えてくるものが多々あります。



自分がほしい金額を提示する

値付けの部分をどう考えるかという部分ですが、まずは時給で考えてみましょう。例えば、今勤めている本業があるならば、年収と総勤務時間から時給を割り出して、それをベースに今回の依頼の作業量が何時間かを算出し、時給を比較してみましょう。その結果、チャレンジ枠として安く引き受ける判断をするもいいですし、納得できなければ金額交渉をするという判断もできるので、まずは比較できる対象を作ることをおすすめします。



「家賃を払いたい」「カメラを買いたい」「旅行に行きたい」など、お金にはいろいろな使い途があるので、案件がいくらかではなく、自分が今いくら必要かを逆算しましょう。そうすることで、今まで曖昧だった「いくらくらいの案件をやっていこうか」という部分が明確になります。

また、「30万円ほしいな」と思ったとき、30万円の仕事を1本やる生活をするか、10万円の仕事を3本やる生活をするかで動画の作り方も変わってくると思います。



自身のブランディングとして、自分を安売りしないようにしましょう。業界も自分たちで首を絞めている側面があって、ダンピング合戦にならないようにしなければいけないと思うんです。

例えば、動画撮影に使うカメラ機材は1台50万円程度、レンズも20万円程度するものがほとんどです。動画編集においては、PCも高スペックでなければ仕事にならないので、仕事をするための先行投資の部分も含め、強気で「僕はこの金額なんです」というのをしっかりと伝えてほしいなと思います。



予算の擦り合わせ

何を削るべきか何を削ってはいけないかをクライアントにも理解してもらう

よくあるパターンで、相手側から「価格を抑えてほしい」という打診がくることがあります。そういった場合、どこが削れる要素なのかをクライアントと一緒に擦り合わせていく必要があります。「最低でも人員がふたり必要」「こういう機材が最低限なければダメ」など、こちらにも理由があってその金額を提示しているので、細かく説明をした上でマストな部分は何なのか、要望に対してオーバースペックになっている部分はどこなのかを相手側にも理解してもらい、一緒に考えていくことがローバジェットで現場を幸せにする方法に繋がると思います。

具体例でいうと、少し前に「4人対談の動画を撮影してほしい」という依頼がありました。撮影にはカメラ2台とピンマイク4台が必要になるため、僕らの持っている機材では足りないピンマイク2台分のレンタル代を上乗せした金額を提示したんです。すると相手側から、「そのカメラの上についているマイクじゃダメなんですか?」と聞かれました。もちろん、それでできないこともないんですが、「カメラにつけたこのガンマイクだと、距離があるため音声が劣化してしまいます」とお伝えしたところ、納得してもらえました。このように相手側のわからない部分は、僕らもプロとして伝えるべきところをしっかり伝えなければいけないし、何が必要で何が必要ではないのかをクライアントと擦り合わせする必要があるんです。

修正回数の制限を設けることも予算を抑える方法のひとつです。金額の決め方は大きく分けて工数と機材費なので、修正できる回数を2回から1回に減らして、その分少しだけディスカウントするなどは可能です。もちろんこちら側のミスであれば回数に含めず修正しますが、「好みじゃない」というような要望に対しては修正しないという方向で進める形になります。ただし、僕らを信じていただけるクライアントという前提ではありますね。



抱き合わせは可能か?

提示する予算を下げるのではなく他の予算を持ってこれないかを考える

ほしい金額は30万円だけど、予算は20万円しかないというとき、提示する予算を下げるのではなく他の予算を抱き合わせで持ってこれないかを考えます。

例えば、新商品のプロモーションにはどうしても大きな費用がかるけれど、同じクライアントから毎月固定の仕事があった場合、「今月のみ、固定案件の納品本数を1本減らして、その分の予算を新商品のプロモーション費用に乗せることはできませんか?」というような提案をするんです。そうすることで、僕らも貰いたい金額をいただけた上で、クライアント側も限られた予算の中でどこから費用を捻出するかの違いだけで対応ができますよね。このように別の予算との抱き合わせが可能かどうかの提案をする場合もあります。



落としどころを探る

限られた予算の中でそれが最適なクリエイティブなのかを模索する

本質的にいいクリエイティブを作ることがクライアントと僕ら両方のやりたいことなので、限られた予算の中でどうしたらいいものができあがるのか、お互いが納得できる形での落としどころを探りましょう。

ローバジェットという表現を、ただ金額が低いだけ、ただ安いだけと捉えてほしくはないので、その意味を変に履き違えることなく、決まった予算の中で本当にそれが最適なクリエイティブなのかを模索していくことが大切なことだと思います。







何が自分は得意なのか胸を張って言えるくらいまで突き詰める

価格競争に巻き込まれるということは、「価格でしか勝負できていない」ということでもあります。何が自分は得意なのか、何が自分の肩書きなのかを胸を張って言えるくらいまで突き詰めていただいて、自分らしさとは一体何なのかをぜひ考えてみてください。何でも屋さんになってしまうとどうしても価格競争に巻き込まれてしまうので、「自分はシネマティックが得意!」「納品スピードの早さなら負けない!」など、自分ならではの武器を身につけてもらって、強気に出られるようなブランディングができるよう意識してもらえたらと思います。

これからクリエイターとしてやっていきたいと考えている方は、動画自体に魅力を感じているからこそ、クリエイターになりたいのだと思います。ただ、その中にも不安があるから、この記事を読んでいただけていると思うんですよね。僕自身も立ち上げのときはワクワクしながらも不安なことがたくさんありました。今それを振り返って不安という言葉を紐解いていくと、先が見えないことを人は不安と表現するのかなと思うんですね。僕が今回話したことを実践していただいて、不安という抽象的な何かを具体的な課題に変えて、ひとつずつ取り組んでいってもらえたらと思います。



ひとつは、待ちの姿勢すぎる人ですね。仕事の始まりって、自分から営業をかける場合もあれば、好きが高じて仕事になった場合などいろいろなケースがあると思いますが、自分から連絡をせず待ちすぎてしまうと来るものも来なくなってしまいます。もうひとつは、発信しない人です。仕事が増えていくとポートフォリオに出せない仕事も多くなるかと思いますが、その人のWEBページを見ても更新されていないと、目に触れる機会が減ってしまいます。小さな自主作品でもいいので、作品を発信してアピールすることが大切です。



これまでの経験則から言うと、値下げを極端にしてくるクライアントは、結局のところあまりいい取引相手にはならなかったかと思いますね。僕も立ち上げの頃はどうしてもお金を獲得しにいかなければならなかったので、折り合いがつかなくとも本来の金額から大きく下げて、無理やり依頼を受けてしまったことがありました。当時は、それを皮切りに「何かひとつでも次の仕事に繋がれば」と期待して値下げをしたんですが、その後いい未来になったかというと、そんなことはなかったです。



伸びそうなクリエイターの特徴は、自己発信をしっかり行なっている方です。SNSも最初は皆0人のフォロワーから始まりますが、何かを発信し続けることで数字は作られますし、そういう人はクオリティが上がっていくのも目に見えてわかるので伸びていくと思いますね。また、僕が関わっているクリエイターで、伸びていきそうな人材を挙げるなら、Y2さんというシネマティックの動画クリエイターです。無駄なカットが一切なく、妥協を感じない動画作りをしています。彼の動画を見て、自分はクリエイターにはなれないなと思いました(笑)。






今後のビデオグラファーの在り方

勝てるビデオグラファーになるために

動画制作以外のキャッシュポイントをクリエイターに作ってあげることも大切

僕らは「動画で人生を豊かに」というコンセプトで活動しているのでそこに変わりはないですが、動画制作だけでは間口が狭いと思っています。カメラをいつまで握り続けられるのかといった体力勝負の部分もあるし、今が良ければ全てがいいわけでもない。また、仕事が急に途切れたとき制作一本では心許ないと思うので、クリエイターには少しだけ他のことにも視野を向けながらやっていってほしいなと考えています。そのために、動画制作以外のキャッシュポイントをクリエイターに作ってあげることもプロデューサーとして大切なことだと考えています。

動画を軸にした「tape_class」というセミナーもその一環で、クリエイターが今頑張っていることを講師として喋ってもらい、その価値に対して皆さんからお金をいただいています。セミナーでこだわっているのは、オフラインでしか開催しないということ。来てくれた人と直接コミュニケーションをとることで、僕らのファンになってもらいたいからです。

また、例えばメーカーさんが新商品を出す際に、その商品をベースにしたセミナーを組むことで、その場で直販することもできます。クライアントにもそういった提案をすることでまた別の取り引きが増えることもあり、オフラインのセミナー開催にはこのような狙いがあります。

また、動画クリエイターのためのユニフォームとして「tape_wear」というアパレル展開もしています。これをやり始めた理由として、クリエイターがチャレンジする新しい場を作りたかったという理由があります。受注の仕事だけだとどうしてもお客さんありきになってしまいます。自社のアパレル撮影の現場を作ることで、新規クライアントに対して「現場ではこういうスタイルのクリエイターです」というプロフィールを伝えることができます。コミュニケーションツールとして立ち上げた側面が大きいです。

僕自身、これからも大好きな仲間たちと動画で人生を豊かにするために頑張っていきます。本記事を通して、魅力的な動画プロデューサーやビデオグラファーが生まれ、一緒にやってくれる人が増えてくれたらうれしいですね。



tape_class

定期的に開催される「tape_class」セミナー。tape所属クリエイターが講師として、動画編集技術などをレクチャーする。



tape_wear

「動画クリエイターのためのユニフォーム」をコンセプトに展開される「tape_wear」。



YouTube

河合さんの運営しているYouTubeチャンネル。動画撮影や起業に関する情報を不定期で発信している。