富士フイルムから登場したフルサイズを超えるラージフォーマットセンサー搭載のコンパクトデジタルカメラ・GFX100RF。映像クリエイターの視点からはどう映るのか? ドキュメンタリー映像を主戦場に活躍する伊納達也さんに実際に使ってもらい、その使用感をレポートしてもらった。

レポート●伊納達也|Tatsuya Ino
1988年生まれ。東映シーエム株式会社にて制作進行として勤務後、株式会社adoir(現・株式会社Vook)の立ち上げに参画。2014年から株式会社umariにて様々なソーシャルプロジェクトのクリエイティブディレクションを担当。2017年から株式会社inahoを設立し、栃木県鹿沼市を拠点に活動中。映像ディレクターとしてドキュメンタリー広告の制作を行う側、ドキュメンタリー作家として作品を発表。またライフワークとして世の中の映像コンテンツを分析し、より良い映像作りのための制作メソッドを開発、XやYouTubeで発信している。

 

伊納さんのYouTubeチャンネルで公開中のGFX100RF動画レビュー。

「写真家のように動画を撮影したい」

「写真家のように動画を撮影したい」。私にとってはそれが長年の理想であり、追い求めている姿でもあります。世界中の街中をひとり旅しながら撮影をしたり、コミュニティに入り込んでその様子を写しとっていく。そうした写真家たちのようなスタイルで動画作品を撮ることができないのだろうか?というのが、写真家に憧れながらも動画という表現手法を志向した自分の夢でした。そしてそれはここ20年ほどの撮影機材の進化と小型化、さらにYouTubeをはじめとした発信の場の拡大によって、かなり現実味を帯びてきたと感じています。


そんな理想を持つ自分にとっては、コンパクトながら上位機種並みのクオリティで撮影ができるレンズ一体型カメラというのは究極の理想機であり、LeicaのQシリーズや富士フィルムのX100シリーズの新作が出るたびに「これで動画が撮れたら最高だな」「この一台だけで撮影に出てみたいな」という誘惑に駆られてきました。しかし当たり前ですが、それらのほとんどは写真専用機であり、動画の撮影機能には限度があったという状況でした。

そんな中、登場したのが富士フィルムのGFX100RF。富士フィルムのラージフォーマットカメラシステム「GFXシリーズ」から登場したレンズ一体型です。私は以前GFXシリーズのフラッグシップ機GFX100 IIでショートドキュメンタリー映像を撮影したことがあり、その際に大型センサーが生み出す映像の美しさに強く心を打たれました。その大型センサーを搭載したGFX100RFではどんな映像が撮影できるのか、期待が高まりました。

伊納さんがGFX100 IIで撮影したショートドキュメンタリー

基本スペックと動画性能は?

このカメラの注目すべき基本的なスペックとして、まず挙げられるのは43.8mm×32.9mmのGFX102MP CMOS IIセンサーが搭載されていることです。ここに新開発の35mm F4(フルサイズ換算で約28mm)のレンズが組み合わされています。内蔵NDも4段分のものが1枚搭載されており、ボタンひとつでONにできるのも便利なポイントです。センサーシフト式の手ブレ補正機構は搭載されていませんが、電子手ブレ補正(DIS)が使用可能です(この際、1.32倍のクロップがかかります)。

レンズは35mmF4一体型。4段分のNDフィルターを内蔵。カメラ前面のスイッチを長押しすることでON/OFFできる。


収録できる動画のフォーマットは多彩で、DCI4K/4K(16:9)では最大29.97p、FullHD(17:9)/FullHD(16:9)では最大59.94pまで対応。コーデックはApple ProRes422HQ/422/422LTやMP4(MPEG-4 AVC/H.264)を選択可能で、MP4収録時にはLongGOPだけでなくAll-Intraの収録もできます(ただし、ProResはSDカードには収録できず、USD-C経由で接続したSSDへの記録にのみ対応)。富士フィルムが誇る20種類のフィルムシミュレーションを使えるほか、F-Log 2収録にも対応しており、動画ユーザーにとっても非常に充実した仕様になっています。

動画の記録モードとH.265 ALL-I 422のビットレート。

デザインやインターフェースは?

GFX100RFは操作系にも新しいチャレンジが見られるカメラです。特に目を引くのがアスペクト比切り替えダイヤル。大型センサーを特性を活かして9種類のアスペクト比をワンタッチで切り替えながら撮影できるのは非常に楽しい体験でした。アスペクト比が変わることで画面の印象がどう変わるのかを直観的に試せるこの機能は非常に魅力的ですが、残念ながらこの機能が使えるのは写真のみで、動画撮影時には使用できません。

アスペクト比切り替えダイヤル。天面からみると4:3、3:2はもちろんシネスコなどの比率も選択できる(ただし、写真のみ)。

ボディの構成は、一般的なミラーレスカメラと同様に、グリップ側にSDカードスロット、反対側にUSB-Cやヘッドホン・マイクなどの端子接続部が配置されています。同じ富士フィルムのレンズ一体型カメラであるX100VIでは、これらの端子類がグリップ側に配置されていたため、ケーブルを挿すとグリップを握ることができないという不便さがありました。また、マイク端子が2.5mmで一般的な3.5mmのものを使うにはアダプタが必要だったり、ヘッドホン端子がなくUSB-C経由で繋ぐ必要があったりと、動画撮影のために色々な外部機器を接続するのは現実的でないという不満がありました。その点、GFX100RFではこれらがしっかり改善されています。マイクとヘッドホンを繋いでも問題なく撮影でき、アルカスイス規格の三脚プレートを装着したままでもバッテリー交換が可能。このあたりの使い勝手はX100VIとは段違いです。

SDカードスロットと端子類

バッテリーの持ちは?

バッテリーはGFX100 IIやX-H2などと同じNP-W235を採用しており、ボディサイズの割に大容量のものとなっています。撮影可能時間はメーカー公表値では4K撮影時に約140分とのことでしたが、実際に4K/24p MP4 All-Intraで収録テストをしたところ、バッテリー切れまで約150分撮影することができました。参考として横で回していソニーFX3の方が先にバッテリーが切れるという結果になり、GFX100RFのバッテリー持ちは非常に優秀だと感じました。

録画しながらバッテリーがどれくらい持つのかテスト

動画撮影時の使い勝手と画質は?

実際に撮影した動画を見てみると、その解像感を感じる画質には好印象を受けました。換算28mmの画角は極端にワイドすぎることもなく、風景を広く見せつつも扱いやすい焦点距離で、一本だけ使うのにちょうどいいバランスです。内蔵NDも4段分ということで、晴天の屋外撮影時に使うには最適な濃度。画質に関しては、デフォルト設定ではややシャープネスが強い印象を受け、遠景の木々が少しチラついて見える画面がありましたが、設定でシャープネスを下げることで自然な描写に調整できました。

動画から切り出し画像
シャープネスは「画質設定」メニューから-3に設定して撮影

悩ましかったのが手ブレ補正です。このカメラにはセンサーシフト式の手ブレ補正機構は搭載されておらず、電子手ブレ補正(DIS)のみが搭載されています。カメラモニター上ではとてもいい感じに効いているように見えるのですが、PCに取り込んで大きな画面で見てみると、補正が効きすぎて画面内に歪みや不自然な動きが目立ち、常用は難しいという印象でした。広角レンズという特性も踏まえて、基本的にはDISは使わず、できるだけカメラをしっかり固定して撮るのが良さそうです。

全体的には?

GFX100RFはこれまで発売されたどのレンズ一体型の大型センサーカメラよりも、動画撮影機能が本格的に整ったカメラだと言えます。ただし、このカメラは動画専用機でもなければ、写真と動画のどちらにもフルに対応するハイブリッドカメラでもありません。“あくまで写真をメインに楽しむカメラでありながら、動画も妥協なく撮れる”という立ち位置を理解しておくことが大切です。

決して安価な製品ではありませんが、写真機としての魅力を最大限に活かしながら、しっかりと映像作品を撮ることもできるカメラ。GFX100RFは、そうした贅沢な体験を求める人にとって、非常に価値ある一台だと感じました。

GFX100RFで撮影したスチル画像(クリックすると別ウィンドウで原寸大画像が表示されます)
GFX100RFで撮影したスチル画像(クリックすると別ウィンドウで原寸大画像が表示されます)