ソニーから発売になったモバイルモーションキャプチャー・mocopi(モコピ)。主にVTuberやメタバースでのアバター用途に作られたものだが、約5万円という手に取りやすい価格で登場してきたこの製品が3DCGのNPRアニメでどこまで使えそうか? いち早くからこの分野で作品制作を手掛ける映像制作チームHurray! のぽぷりかさんにアニメーション制作の視点からレビューしてもらった。

レポート●ぽぷりか

レビューの視点

mocopiのテスト機を貸していただいたので、「3DでNPRアニメーション映像を作るのに使うなら」という視点でレビューさせてもらう。購入の参考になれば幸いだ。

 

自分は普段、少人数での3Dアニメーション制作を行なっており、 モーションキャプチャーで撮られたデータをベースに制作することが多い。 VICONOptiTrackといった非常に高額な光学式のものや、 MVNNeuronなどの磁気式、慣性式のものを含めひと通り収録の経験がある。

 

また個人でPerception Neuron Studioを所有しているため、それとの比較が多くなると思われる。

mocopiについて

 

モバイルモーションキャプチャーmocopiとは

 

まずmocopi自体の説明を軽くしておくと、 ソニーから1月20日に発売された小型のモーションキャプチャーシステムだ。

 

高額な機材が数百万から数千万円クラスで導入も大変なのに比べ、mocopiは手に取りやすい価格と気軽さに重点を置いて開発されている。

 

個人で所有できる程度の価格帯で、精度もそれなりにあると言われるPerception Neuron Studioでも100万円程度するが、mocopiは約5万円。2桁違う。

 

初見の印象

やはりその小ささに驚いた。 今手元にPerception Neuron Studioがないのであくまで記憶の中の比較だが、デスクトップPCとiPhoneくらい違う。

 

また、実際に収録を始めるまでの気軽さも素晴らしかった。アプリを立ち上げて、バンドを何個か巻いて、それでもう撮り始められる。

 

▲mocopiの使い方解説動画。

初めてモーションキャプチャースーツを身にまとい、 自分のアバターがデジタル空間にいるのを見る時にはそれ特有のワクワクがある。

 

それをこれほど気軽に体験できるとは思わなかった。VTuber始めちゃおうかなという気持ちにさせてくれる。

 

 

キャプチャー精度

自分で使うならば、

そのまま最終的な素材として使えることは多くないが、 テスト収録には使えるのではないか

というのが本音の感想だ。

 

いくつかサンプルで撮影したものを載せながら解説する。 まず、歩きに大きな破綻がないのはすごいことだと思う。 正直に言うと実際にテストを行う前は、歩き出した時点でズルズルに滑りだすと思っていた。

 

ただし、どうしても複雑なアクションになると苦手な姿勢やアクションが出てきてしまう。 上のモーションでも、歩きに比べると ラジオ体操のモーションをしている時に足が滑っているのが分かると思う。

 

ものを持ち上げて後ろにバランスが崩れるパントマイムをやってみた。 持ち上げたあとの足の部分に違和感はあるものの、何がやりたいかは分かる。

 

屈む動作までは印象が良かったが、リアルな動きではおしりをついて座っている。 その部分は、どうしても違和感のある動きになっていると思う。 ただ、この動きに関しては100万円するNeuron studioでも似たようなものだ。 mocopiだけが悪いわけではない。

 

最高に苦手だろうなと思ってやってみたスキップでは、 やはり苦しい結果になった。なぜか上半身も不思議なポーズになっている。

 

mocopiは慣性センサーでキャプチャーを行うシステムである。 慣性センサー型のシステムでよく問題にされるのが、足の滑りだ。 足が地面に着いている印象がなく、ふわふわとしてしまい一気に現実感が薄れてしまう。

 

 

キャプチャデータからさらに改変を加えることも多い

映像用途でモーションキャプチャーを使用する場合には、 上記のような不自然な部分を修正した後にまだやることがある。収録したモーションをそのまま使うのではなく、 演出に即した演技をさらにデジタル上で追加していくという作業だ。

 

現実の人間の動きではキレが足りなかったり生々しすぎたりするので、 アニメっぽい緩急や現実では不可能な動きを足していくのだ。これはmocopiの話ではなく別の機器の話だが、 足の滑りや体の不自然な揺れを修正し、さらに演技を追加する作業をしていると、「もはやこれは1から作ったほうが早いのではないか?」という瞬間に遭遇することがある。

 

シンプルな動きならば手付けのほうが扱いやすいし、 複雑な動きは破綻を直している時点でも相当大変だからだ。「なんのために収録したんだろうか」 時々ではあるが、何千万円もするモーションキャプチャーシステムを使った時ですら そう思う時がある。

 

mocopiのように手軽さを優先している機器ならなおさらだ。2度目になるが、mocopiの精度は、 そのまま映像用途で最終素材として使うには難しい場面もある。という結論になる。

 

 

mocopiの有用性

じゃあmocopiは映像制作では使えないということか?というとそうではない。 上記は、あくまでアニメーション制作に慣れた人間の意見だ。

 

手付けで3Dアニメーションをつけるというのは、 やったことのない人にとってはすさまじくハードルが高い。 なめらかで生きているかのような動きを手付けでつけるのは、本当に職人技なのだ。

そして、何より膨大に時間がかかる。

でもmocopiならば、 体で演技をすれば多少滑ったりする部分はあれど全身が動いてくれる。 慣れていない人にとっては、これはとても心強いと思う。

 

例えばの話だが、下は遠くの人に呼びかけ、手を振る演技をしている。 演技プランを決め、実際に演技をするので1、2分程度だろうか。

ではその1、2分で、すごく手付けアニメーションの得意な人間を連れてきてアニメーションをつけさせたらどこまで出来るだろうか。 答えは簡単だ。最初の1秒分すら作れない。

 

でも、mocopiを使えばだれでも1、2分でこのクオリティのアニメーションが作れる。 これは本当にすごいことだ。

 

個人で3Dでアニメーションを作るというのは、まだまだ難しい。 自分でキャラクターを作ることも、背景を作ることも、 アニメーション以外にも難しい部分はたくさんある。 その中でも手付けの3Dアニメーションは個人的にはかなり難しく時間もかかる作業だ。

 

3Dで映像作ってみたいな!という人が、 mocopiをベースにアニメーションをつけることで 少しでも映像制作を気軽に感じてもらえるなら、それは素晴らしい。

 

初めにいった通り、自分で使うとしてもとりあえず3Dでレイアウト切りたい、 後で修正はするとして15分でとりあえずざっくり雰囲気をつかみたい。 という時には使えると思う。 始めるまでの心理的な障壁が少ないというのは本当に良い。

 

 

今後期待すること

やはりどうしても足の滑りや、センサーが少ない事による姿勢の違いが気になる。

iphoneのカメラで撮影しながら収録することで、精度を上げるモードがあれば嬉しい。

画像ベースと慣性センサーを組み合わせて姿勢予測の精度を向上させることが出来れば、 センサーを増やさず、気軽さも損なわずのより良い体験になると思う。

また、上半身だけの演技をするときには足首のセンサーを肘につけるなど、 撮影用途によって精度向上を図れると嬉しい。

 

非常に短い時間でのレビューとなってしまったため行き届かない部分も多いが、 少人数で3Dキャラアニメーションの映像を作っている作家からのレビューとして参考になれば幸いである。

 

 

mocopiの製品情報