ハリウッドではもはや定番のカラーグレーディングソフト、DaVinci Resolve。最近ではカラーグレーディングのみならずカット編集ソフトとしての機能も大幅に強化され、Blackmagic Cloudとの併用でよりスムーズなワークフローを行うクリエイターも増えてきた。今回は長野朝日放送のテレビ番組『藤森慎吾の信州観光協会』を事例として、当番組のディレクターである長野朝日放送の村井洋太郎さん、そしてディレクター兼エディターの永田太郎さんにインタビューを行なった。
文●takumifone
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村井洋太郎
長野朝日放送 報道制作局報道制作部(ABNサービス所属)
2009年在京制作プロダクション入社。
2013年ABNサービス入社。長野朝日放送で主に情報番組、ドキュメンタリー番組を担当。
永田太郎
OTTO PRODUCTIONS
映像ディレクター・監督(フリー)
プロジェクトに応じて、企画~撮影・編集まで、映像制作過程の1部または全てをマルチにこなす。
ジャンルもCM・PV・MV・TV・映画と多岐にわたる。YouTubeチャンネル「映像とまと」運営。
SNSと地元愛がつなぐ、信州の旅バラエティ番組
――まずは、『藤森慎吾の信州観光協会』についてどのような番組なのか教えてください。
村井:番組の趣旨としては長野県の諏訪市出身の藤森慎吾さんが、長野県の77市町村をSNSの情報で回る番組です。「X(旧Twitter)を使って若い人に番組を知ってもらおう」というところから始まり、グルメや風景、ちょっとディープな場所など番組で皆さんの地元の推し情報を募集して、アポなしで藤森慎吾さんがその場所に自ら足を運び食べたり体験したりしながら、その地域を全力でPRをする番組になっています。
2023年度に4回60分の枠で放送した後、去年の4月から長野県内で日曜日の夕方の30分の枠で毎週放送をしています。現在では、千葉テレビ、テレビ埼玉、サンテレビの3局でも放送をしていただいて、今後もそういった県外での放送が増えていけば長野県のPRにもつながっていくのかなと考えています。

――村井さんが企画された番組とのことですが、構想の段階から藤森さんをキャスティングしようというのが念頭にあったんでしょうか?
村井:ある程度の知名度のある人に出ていただきたいなという考えもあり、SNSを活用するという部分であらゆる世代に影響力を持った人で、長野県にゆかりのある人という中で藤森さんに出ていただきたいなというのがありました。それで企画が決まる前から藤森さんにもご相談をしていました。藤森さん自身も年齢を重ねられて、地元長野県で自分が貢献できることをやりたいという考えがあったみたいです。
予測不能×アポなし取材。だからこそ“裏側”が面白い
――30分の番組ということですが、1回のロケで何本分撮影されるのでしょうか?
村井:基本的に月に1回、1泊2日のロケです。大体2日でふたつの市町村を回って、それで4本分ぐらいを作っているような感じです。ただ撮れ高によっては1泊2日で5本、多い時は6本などもあります。基本的にはカットをしないという考えのもと、取材にご協力していただいた皆さんのシーンはなんとか面白く楽しくして放送したいという気持ちの上で放送しています。
ロケの裏側的な部分もなるべく見せるように意識をしていて、皆さんから情報をいただいていることもあり、出来上がったものを完成品として見せるのではなくてどんな流れでその場所に行ったのかといった普段のテレビ番組で見ることのできないような裏側の部分っていうのはすごく大切にして見せるようにしてます。
――SNSの情報を頼りにしているという点では、台本がない、どうなるか分からない不安みたいなものが、制作の中であるのではないかなとも思うのですがその辺りはいかがですか?
村井:やっぱり不安なんですよね。特に特番の頃とかは情報が集まるかという不安もありました。ロケハンなどもしてないものですから、どんな展開になるのかという不安はすごく大きいです。その反面、ワクワクみたいなものもあります。でもそれは観ている人にとっても一緒で、どうなるかわからないみたいな不安の中で観てもらった方が同じその空気感を共有できるかなとは思っています。
――制作体制としてはどれぐらいのスタッフの方と行かれるのが多いのでしょうか?
村井:技術チームはカメラ2人、音声1人の3人体制です。ほかに、僕が藤森さん付きのディレクターというポジションで運転もしながらやり取りをしているという感じです。あと、メイクさんとサブディレクターみたいな形で永田さんなどのスタッフに来てもらうことがあり、大体8人ぐらいでロケをしていることが多いですね。
――例えばお店に入るとかでもその8人が一緒に動いてくというようなイメージですか?
村井:そうですね。そこがちょっと今のボトルネックでして、今後どうしていこうかという部分のひとつです。大所帯で動いているので、あまりスペースのないようなお店さんなどには、ある程度人数を絞って、ディレクター、カメラ、音声さんと藤森さんの4人体制とコンパクトにしています。
――撮影後から放送までの時間は基本的にどれぐらいなのでしょうか?
村井:ロケをして1本目が放送されるのがちょうど1カ月後ぐらいのタイミングで、そこから4週かけて放送していくので、4週目とかになると(ロケした日から)2カ月後とかになってきますね。
編集に革命をもたらした、Blackmagic Cloud
――編集のワークフローについて教えてください。
村井:カメラが大体6台から7台くらい回っていて、1泊2日のロケが終わって戻ってきて素材の取り込み作業をして、まずは最初にプロキシデータを作ります。プロキシデータを作ったらそれをBlackmagic Cloudにアップするみたいな流れにしています。僕も編集をするんですが、社内にいるディレクターと2人で4週分編集するっていうのはなかなか厳しくて…。
それで永田さんや外部のディレクターに編集をお願いしたりする機会もあり、Blackmagic Cloudで素材とプロジェクトを共有して、先の回を編集してもらうという流れです。
永田:変更がありそうな場合は、融通がきくようにやってくださいねなんて指示をいただいて、初めと終わりはちょっとファジーにしながら編集して進めています。
村井:1週間後ぐらいには永田さんがあげてくれて、それをBlackmagic Cloud上のプロジェクトで共有して、こちらで一旦確認しています。(Blackmagic Cloudの)チャット機能などを使って「ここもうちょっと長くしてください」とか「ここ入れ替えた方が面白いじゃないですか」というようなやり取りをして、また永田さんに直してもらうというラリーをしながら、完パケにしていくっていうような感じですね。
――Blackmagic Cloudで使いやすいところはどんなところですか?
村井:今まで別の編集ソフトでDropboxに素材をあげて、プロジェクトはxmlでデータ共有をやっていました。ただどうしてもDropboxに素材をアップロードする時間が1日ぐらいかかってしまっていて、永田さんがそのDropboxからダウンロードする時間もまた1日ぐらいかかって、そこから作業を進めてもらって、今度そのプレビューさせてくださいっていうタイミングでxmlデータを共有してもらうんですけど、多少の素材のずれが発生することが多かったんですよね。それと素材がリンク切れの状態になってしまうこともありました。そしてその修正作業に半日かかってしまうということもあり、どうにかならないかなという課題があったんです。
そのタイミングで、永田さんからBlackmagic Cloudの話を聞いたので、ちょっと1回試しに使ってみようかってことで導入してみたところ、ものすごく画期的で今までの苦労はなんだったんだという気持ちになりましたね(笑)。
中でも、プロジェクトに素材を入れるだけでそれが共有されて、タイムラインがリアルタイムでお互いに同じものを見ることができるというのが僕としては革命でした。こんなことできたんだ! という…。しかもチャット機能もついていてDaVinci Resolve上でやりとりが完結してしまう。ここを直してほしいみたいな時にマーカーを打つ作業が発生するのですが、その情報なども共有できるのでとても使いやすいなと思ってます。
――今後、主に県内外で外部の編集の方も増やしていくそうですね。
村井:これまでだったら長野市に住んでいる人じゃないと、なかなか編集ができないという状況がありました。長野県は南北に広く、弊社が長野市というかなり北部の方にあるんですよね。永田さんは安曇野市というところに住んでいて、テレビ局から1時間ぐらい離れている場所にいらっしゃるんですが、これまではプレビューや最後の仕上げの度に足を運んでいただいていました。このクラウドを利用することでその実際に来てもらうって手間も省けるようになったので、県内外問わず、さまざまな方に編集の仕事を頼めるようになりましたね。
“切り捨てない編集”が生む番組の人間味
――編集として面白くするために気をつけていることはありますか?
村井:極力テンポ良くっていうのもありますし、観ている人が疑問に思うこととかをなるべくなくすところに気をつけています。台本もない中、流れでロケをしているので、何気ない話の中でそこだけ使ってもわからないよねみたいにならないように気をつけていますね。
永田:前回から続いている話をするんだったら、必ず振り返りを挟んだりということですよね。
村井:そうです。例えば1泊2日で続きもののロケで、どうしてもその前の流れからの話になったりとか、まだ放送していない流れの話を言ってしまったりとか、観ている人にとってはすごくストレスになる原因になってしまうかなと思います。
永田:また、情報番組では落とすようなところをなるべく落とさないということも気にかけながら、編集をしています。例えば、道行く人とのささいな会話だったり、パーソナルな部分というのをできるだけ落とさないようにしています。藤森さんが長野県の方と交流している姿に共感が生まれたりしていると思うので、できるだけ意味のなさそうな部分をすごく大事にしたいなと思って残すようにしています。
iPhoneも戦力に。番組制作でのカメラの多様化
――カメラマンの方、おふたりとおっしゃっていましたが、カメラ自体は6台から7台ぐらいとのことでした。村井さんたちディレクターの方々も常にカメラをお持ちなんですか?
村井:そうですね。ディレクターやスタッフはアクションカムみたいなものを持っていて、カメラマンのふたりのうちひとりはその場でしか撮れないような日替わり定食の物撮りなどを隣のテーブルで撮るみたいな感じでやっています。
――いわゆるアクションカムみたいなものでも画質的にはテレビでも耐えるのでしょうか?
村井:そうですね。最近はiPhoneなどの性能も上がっていて、以前、試しにサブカメをiPhoneでやってみたんですけど、全然遜色ありませんでした。むしろiPhoneの方が綺麗なんじゃないかと思うぐらいのクオリティで、僕らが使ってるカメラもそんなに民生機と変わらない機動力重視のソニーのPXW-Z90という小型のカメラなので、iPhoneを使っても大丈夫じゃないかってことで、それはもう定番にしていこうかなって思っているぐらいですね。
クラウドとモバイルが切り拓く、テレビ番組制作の未来
――基本的にはプロキシの素材で編集して、ピクチャーロックがかかったらコンフォームしてオリジナルの素材で作るみたいな感じですよね。
永田:はい。なので元の撮影素材は1TBくらいなんですけども、僕の手元にクラウド経由で来るプロキシファイルはおよそ100GBぐらいです。以前はわざわざ素材のアップロードだけをGigafile便やDropboxに取りに行くということをやっていたんですけど、今は村井さんの方でプロジェクトの中に入れていただければBlackmagic Cloudにアップロードされて、僕の方にも勝手に素材が反映されるので、いきなり出来上がったテロップやMAの音をタイムラインに持ってくることができる状態にあるっていうのは本当にストレスフリーです。
村井:すごいなと思います。テロップも30分の番組で200枚から300枚ぐらいあるんですよね。それを今までは一旦Dropboxに入れてとか、Gigafile便に入れてとか、永田さんにメールを送って、このテロップはここのここに入ってますみたいなことをやらないといけなかったんですけど、今はもうプロジェクトの中に入れておけばそれで永田さんはテロップができたんだなとか、MAの音が上がったんだなみたいな感じでできるので、これはBlackmagic Cloudならではのメリットだなと思いますね。