全編URSA Miniで撮影したフジテレビドラマ「炎の経営者」
Report◎千葉 孝
(このレポートはビデオサロン4月号に掲載されたものを再構成したものです)
昨年末に千葉がカメラマンとして参加させて頂いたフジテレビのドラマ「炎の経営者」が3月19日にオンエアになりました。この記事をご覧いただいている読者の皆さまはタイミングが良ければ番組のご覧頂けた方もいらっしゃたかもしれません。
◉フジテレビのスペシャルドラマ「炎の経営者」は3月19日(日)午後4時から放送された。国産技術にすべてをかけた実在の経営者をモデルにした高杉良の原作小説をドラマ化。http://www.fujitv.co.jp/keieisha/
今回は主に撮影に関してのお話をさせていただこうと思います。
しかしドラマの撮影は大変ですね! 毎日寝不足でまさに体力勝負でした。今回のドラマは全編URSA Mini 4.6Kで撮影しています。コーデックはProRes4444。Filmモードを使用し、UHD(3840×2160) 29.97p で収録。映像クオリティに関してRAW収録という選択肢も当然考慮したのですが、2週間に及ぶ毎日の撮影において、データ量の増大はワークフローの利便性を圧迫するため、今回はあえてProResを採用(本当はRAWで撮りたかったんだけどね)。データ管理は日々の撮影終了後、撮影済み素材をポスプロに持ち込み、バックアップ並びにオフライン用データ(ProRes422LT / HD)の作成を行いました。このように毎日深夜に及ぶ場合もある長期の撮影において、安全にデータを運用するためのワークフローを確立することはひじょうに大切です。万が一の事故も許されないため、(当たり前だけど)データの管理に気を使いました。ちなみに現場では容量256GのCFastカード8枚でやりくりしています。
カメラ周りのモニタリングはフォーカスプラー用にBlackmagic Video Assistをノガアームを用い接続しています。近年カメラ横に小型モニターを用意するスタイルが基本となっていますが、BMD ビデオアシストはフォーカスアシスト機能やオリジナルLUTを導入できるためひじょうに便利。接続はURSA Miniからのモニタリング用HD-SDI OUTが1系統しかないため、ウッデンカメラ社製のC-BoxというVマウント接続のVDAを用い、信号をカメラ側で分配しています。こいつはHDMIも同時に出力できるので何かと便利。最近自分の現場で大活躍です。
撮影はFilmモード、つまりLog収録で行いましたがモニタリングには撮影前にテスト撮影素材を基に作成した、オンエアを前提としたオリジナル709LUTをURSA Miniにインストールして運用しました。メーカーからもLUTはリリースされてますが、そのまま使ってる人を筆者は見たことありません。多分自分で作成したほうがいい結果が出ると思います。
現場でのモニタリングは パナソニック BT-LH1710 を監督用に使用し、その横にVideo Assist 4Kを設置しました。こちらはすべての撮影素材をProRes422 /HDにて収録しています。カメラ側のRECトリガーでビデオアシストも自動収録されて便利です。特に監督やスクリプターさんが、「前のシーンのあのカットはどんな感じだったっけ?」と遡って確認したい場合、技術者の手を煩わせることなく監督自らプレビュー操作が可能なシステムはひじょうに好評でした。
レンズに関しては前々回の記事でも触れましたが、シグマから発売直前のシネズームレンズ、「18-35mm T2」「50-100mm T2」の2本のレンズをお借りすることができ、全編この2本のレンズのみで撮影しています。ディストーションが少なく、キレのある映像は本当に美しく、URSA Miniとのマッチングもバッチリでした。それに47万円という値段はありえない! まさにバーゲンプライスですね。
今回はほぼ2週間、毎日撮影という過酷なスケジュールでしたが、URSA Mini 4.6Kは一度もトラブルを起こすことなく、始終完璧に動作し、プロフェッショナル用デジタルフィルムカメラとしての安定性を改めて証明してくれました。また、その映像のトーンに関して、豊かな階調と真のシネルックを具現化する映像は、ビックバジェットのハリウッド映画にもひけを取らないクオリティで撮影することができ、テレビ局のプロデューサー初め、製作側のスタッフからも画質に関してひじょうに高く評価されたことは撮影部としてとても誇りに思えることでありました。
振り返れば筆者がURSA Mini 4.6Kのベータテスターとしてこのカメラに出会ってちょうど1年が経ちました。その間、URSA Mini 4.6Kで様々な作品を撮影しましたが、一度も期待を裏切ることなく、毎回の作品でとても素晴らしい結果と高い評価を残してくれました。今改めて、自分は本当に価値のあるカメラに出会えたと心から実感しています。また、技術的質問などがある度に、迅速かつ適切なサポートをしていただいたブラックマジックデザイン社のスタッフの皆様にもこの紙面を借りてお礼の言葉を述べさせて頂きたいと思います。
【編集部より】その後、千葉さんにはURSA Mini Proのレポートもお願いをしたところ、デモ機返却後にすぐに購入されたという連絡が。以下、千葉さんよりコメントをいただきました。
私とBMD 千葉孝
URSA Mini Pro、
その描写力と現場での使い勝手はデジタルムービーカメラとしての 理想形に近い。 結局いいカメラの定義とは数値上のスペックよりも、 カメラマンがその機械に「惚れる」 事が出来るかどうかが重要なのだ。その点においてURSA Mini ProとBMDの製品群はこちらの期待を裏切らない。
PROFILE
1965年 東京生まれ。㈱ソニーPCLに入社しハイビジョン推進部にてハイビジョンカメラの研究開発に携わる。 その後、撮影技術プロダクションを経て1998-2007年渡米。ニューヨークに本拠を構え、テレビ、映画、PVなど数々の作品に携わる。その後、チェコに移住。プラハでCMや映画の製作に参加。日本に帰国後はCMを中心にDP、DITとして活躍する。カメラマンとしてだけでなく、4K撮影とデジタルワークフローの構築を得意分野とし、多数の映画、ドラマなどのテクニカルアドバイザーを手がける傍ら、自らダヴィンチリゾルブを使用したカラリストとしても活躍する。現在はヘルメット株式会社所属。