REPORT◉森下 千津子(プロ機材ドットコム 社長)

初めてのオペレーション!ゲストを迎えて自動スイッチング配信を行う

前回は、配信スペシャリストとして各方面の出張配信等で活躍されている泉悠斗氏の力を借りて、趣味の社内スタジオ構築を行った。最初に当社の背景幕、照明機材等を使用したセットを作ったのだが、その後はなかなか自分で配信する機会もないままになっていた。ところがある日、私もかねてから大変お世話になっていた、某カメラメーカーを定年退職された方から連絡があり、沖縄に行くので当社スタジオでライブ配信番組をやりたいというお話をいただいた。これでいよいよ、ちゃんとゲストをお迎えして本格的なマルチカメラライブ配信をするという機会を得ることになったわけである。後日聞いた話では、私が作ったスタジオがなかなか使われないのを見かねて、配信の練習の機会を作ってくださったとのことだった。

前日まで別の業務でスケジュールがいっぱいだったため、準備ができるのは配信日当日に2時間のみ。すでに配信に慣れている人ならともかく、まだ慣れていない(一人でオペレーションするのは初めて!)、そして運用もまだ安定していないという状況で、2時間以内のセッティングは正直無理があった。結果、様々なことを妥協せざるを得なくなってしまったのである。

当社のスタジオのコンセプトとしては、普段会議室として使用しているスペースを、必要な時に配信スタジオとして活用するということだったので、機材等は常設ではなく、前回使用後には片づけてあった。なので、機材のセッティングをすべて一から行わなければならない。準備しなければならないことはこんな感じだ。

・カメラにカプラーを入れて、三脚に固定する。
・カメラの位置、アングルを決める。
・出演者の座る位置を決める。
・カメラや出演者の位置が決まったらテーブルや椅子を移動させる。
・カメラとスイッチャー、返しモニター等機材の配線。
・スイッチャーの自動スイッチングの設定。
・挿入するパソコン映像がスイッチャーを経由して出力されるかの確認。
・マイクの確認(音が正常にでているか、雑音がないか)。
・配信するFacebookのアカウントのストリームキーを取得。
・Liveshell.Xを起動してダッシュボードにストリームキーを入力。
・Liveshell.Xのテロップを設定

機材の配線に関しては、物理的につないでいくだけなので、一度覚えてしまえばさほど苦労することもないのだろうが、今回は配線以外の準備段階で難航した点が大きく2点あった。一つはゲスト2名、MC1名という出演者に対してのカメラの位置とアングル、そしてもう一つは、パソコンの映像を入れることと自動スイッチングの両方を1台のスイッチャーで成立させることだった。また、この2つの大きな課題以前に、使用するマイクの選択でも問題が生じた。

 

 

使用するマイクを決める

ライブ配信や動画配信において、視聴者に離脱されてしまう最も大きな要因は音にあるのではないかと思っている。音の質が配信視聴時の快不快にダイレクトに直結してくるのである。普段デジタル一眼カメラでの対談撮影や、前回の2名でのトーク配信では、当社で販売しているBOYA社の二股ラベリアマイクを使用していた。しかし今回は3名なので、2名用の二股マイクは使えない。別のコンデンサーマイクを使用することにしたが、それだと前回の構成に入れていたオーディオインターフェイスを挟むのも使い勝手が悪く、結局1カメにオンカメラでコンデンサーマイク使用、ということで落ち着いた。どのマイクを使用するか、そしてマイク→オーディオインターフェイス→スイッチャーとするのか、マイク→スイッチャーとするのか、はたまたマイクONカメラ→スイッチャーとするのか、決定するまでに、経験のなさ故にああでもないこうでもないと時間がかかってしまった。

▲対談には便利なBOYA社のラベリアマイク BY-M1DM 4000円(税別)

 

▲BOYA社のコンデンサーマイク BY-BM3011 3500円(税別)

 

カメラアングルの問題

最も大きな課題となったのはカメラアングルだ。3名での自然なトークを行いたいので、テレビバラエティ番組のような3名横並びの配置は違和感がある。ゲスト2名が横並び、MCの私がゲストに対して90度の位置に座ることにした。オフィス内の会議スペースで、後ろはごちゃごちゃと修理機材が並んでいるため、目隠しに背景幕を使用する。ゲストの背後とMCの背後と2名にそれぞれ背景幕を使ったが、一つの面の幕なので、どうしても間に隙間ができてしまう。引きで3名を入れることは諦めた。1名に寄ってアップの映像では背景幕使用で問題ないが、引きの映像がとにかく難しい。ゲスト2名を画角に収める引きの映像では、もう少し引きたいがこれ以上引くと背景が見切れてしまうというギリギリのところに収めたが、なんとも中途半端な画角となってしまった。もう少し余白というか余裕が欲しかったように思う。また、カメラをクロスさせて斜めからのドラマチックな表情も押さえたかったが、クロスのアングルも見えてはいけないものが見えてしまうため、実現できなかった。

実際に配信映像を見てみると、お酒を飲みながらのざっくばらんなトーク内容なのに、テレビワイドショーやバラエティ番組のような正面ばかりの平面的な絵の構成がしっくりと来ず、番組の内容やゲストの人数によってアングルを変えることができるようにしていかなければならないということを痛感した。セットを作りこんだスタジオならともかく、簡易的に背景幕を使用するという制限の中で、背景をどう使いアングルをどう決めるか、ということは今後の課題である。

▲人物に寄った時はいいが、引いた場面では見せたくないものが見えてしまう。

▲ゲスト2名が横並びのアングル

 

▲MC(自分)のアングル

 

どんな番組でも自動スイッチングは使えるか?

前回のスタジオ構築時のテスト配信では、入力1~3がカメラ、4がPCで7秒ごとの自動スイッチング(オートスキャン)を行ったが、カメラのみを自動、PCは手動で挿入したくてもすべて自動で切り替わってしまうため、スリープしたPCの真っ黒な画面も7秒間映し出されてしまうという失敗をしてしまった。Roland社のスイッチャーに搭載されているオートスキャンという自動スイッチング機能は、秒数固定でカメラの切り替えができて大変便利な機能ではあるが、うまくいかない場合もある。任意の場所でPCの画面を挿入したい場合も、オートスキャンを使っていると難しい。PC画面を挿入したい場合の方法はいくつかある。スイッチャーが1台しかない場合、最初から手動スイッチングにするか、もしくは始めは自動でもいいがPCを挿入する場面では手動に切り替える。あるいは、いささか乱暴なやり方ではあるが、PC挿入をする時にHDMIケーブルを差し、PCを挿入したくないときはケーブルを引っこ抜く。今回はカメラ側のスイッチングをどうしても自動にしたかったため(初めての配信で私がMCをしながらスイッチングまでする余裕がなかったため)、無理やりこのやり方で行った。予算に余裕があれば、通常は2台のスイッチャーを使い、1台で複数台カメラをスイッチング、もう1台にはカメラを自動スイッチングしているスイッチャーからの出力映像を入力、またPC等挿入したい映像もこちらに入力し、カメラとは別のスイッチャーでカメラとPCを切り替える。もちろんオペレーター要員がいればこんな苦労はしなくても、手動でスムーズにスイッチングできるだろうが、あくまでもスタッフゼロで最低限の手間で誰でも簡単にマルチカムライブ配信を行うための最適化である。

しかしあとから配信映像を見てみると、どうも自動スイッチングが適していないように思えた。理由は2つあった。一つは、テレビバラエティ型の正面からのカメラアングルだったこと、そしてもう1つは、2名のゲスト、そしてMCの私の発話量にかなりの差があったということだ。話していない人が7秒も真正面から映されているのは退屈な絵になってしまう。話している人の表情が見たいというのが自然な心理だろうし、聞き手の表情としても正面からのアングルでは話を聞いている雰囲気が成立しない。カメラアングルをもう少し突き詰めて考えるか、やはり手動でのスイッチングを選択すべきだったと思う。それも経験したからわかったことだった。

▲Roland社のスイッチャーは比較的安価なモデルでもオートスキャン(自動スイッチング)機能がついているので使いやすい。

 

初めての配信オペレーションを行って

なんだか前回同様失敗の反省ばかりになってしまったが、とりあえず、マルチカメラスイッチングしかもPC映像挿入ありの配信が、自分がMCを務めながらゼロスタッフでできた。カメラアングルやら2台目スイッチャーの導入やら、大きな課題はあるものの、あとは経験を重ねてオペレーションに慣れていきたい。そして、やはり対談や座談会トークのライブ配信は面白い。今回もマニアックなカメラ談義を楽しみにしてくださった方が多く視聴してくださり、コメントもたくさんいただき質問にも答えたりして、視聴者の方とコミュニケーションをしながらの配信となった。私が目指しているライブ配信は双方向コミュニケーションなので、その点では十分成功だったと言える。

最後に、私の初めてのオペレーションというこの何が起こるかわからない配信に出演してくださった、元パナソニックの井上義之さん、沖縄の生物写真家の湊和雄さんに心より感謝したいと思う。

使用機材

・カメラ
LUMIX DMC-GH4 3台

・レンズ
H-E08018(8-18/2.8-4)
H-ES12060(12-60/2.8-4)
H-NS043(42.5/1.2)

・スイッチャー
Roland V-1HD

・マイク
BOYA コンデンサーマイク

・モニター
プロ機材ドットコム 4K対応7インチモニター

・照明
プロ機材ドットコム ロールフレックスLEDライト RX-12TD+RX-12SB 2台

・背景
マンフロット オートポール032B
プロ機材ドットコム 4mクロスバー
プロ機材ドットコム マイクロファイバー背景布

・配信エンコーダー
CEREVO Liveshell.X

・その他
三脚、卓上用ミニ三脚、電源タップ、HDMIケーブル、マイクロHDMIケーブル、カメラ電源カプラー、ライトスタンド、ノートPC等