▲Magic Carpet Carbon Fibreをオペレート中の田村さん。カメラとヘッドを合わせて4.6kgでも滑らかな操作が可能だった。耐荷重は5kgなのでこれがギリギリで、ベストマッチングはデジタル一眼だろう。
REPORT◎田村雄介 協力◎ヴァイテックイメージング(株)
移動撮影といえばジンバルというイメージが強い昨今だが微妙なカメラワークではやはりスライダーに軍配があがる。数々の撮影機材を自腹を切って検証してきたビデオグラファーの田村雄介さんが、Syrp(シロップ)のスライダー、Magic Carpetシリーズを検証してみた。
Magic Carpetシリーズラインナップ
●Magic Carpet(税込44,000円~)
●Magic Carpet Carbon Fibre(税込63,800円)
●Magic Carpet Pro(税込148,500円~)
▲Magic Carpetシリーズ手前からCF、Pro、標準モデルでそれぞれのショート仕様になる。Proが61cmで標準とCFは60cm。
2021年現在、いろいろな撮影手法が確立されていますが、こと移動撮影という点においてはジンバルの台頭がめざましく、ちょっと本格的に映像撮影してみようという方々はほぼ所有している、そんな昨今ではないでしょうか。しかし移動撮影においては熟成した市場にもまだまだ良い製品は投入されています。その熟成された市場とはずばりスライダー。レールを敷くよりも手軽に移動撮影ができる便利さが受け、これもまた一世を風靡した機材です。ジンバルが動作や挙動、運用面での安定性を手にしたため少し忘れられがちになっているスライダーですが、ここ一発の画作りの安定性に関してはジンバルに負けない良さがあります。アナログ機材だったスライダーも近年は電動化という進化を続けています。そんなところで今回紹介するのが、様々なタイムラプスで使用するシステムとして名の知られたSyrp(シロップ)からリリースされているSyrp Magic Carpetシリーズ、そしてそこに付随する電動化ユニットGenieシリーズです。
第1回目の今回はこのSyrpのMagic Carpetシリーズを順番に紐解いていきたいと思います。
Magic Carpetシリーズの比較
まず様々なセットアップを作る上で肝心要になるのがこのスライダー「Magic Carpet」シリーズになります。アルミモデル、カーボンモデル(以下CF)、プロモデルと試しました。
一言でまとめるとアルミ製トラックの標準モデルはシンプルではあるものの価格面で導入しやすいコスパに優れたモデル、Proは23kg〜32kgという耐荷重をもって、大型セットアップになりやすいカメラでも、キャリッジに内蔵されたフライホイールの効果で非常に滑らかなスタート&ストップを実現しつつ(実際にALEXA Mini LFとTokina Vista 18mmT1.5の組み合わせでもしっかり仕事をしてくれました)、オプションの延長トラックを組み合わせていけば理論上はどこまでもレールを延長できるというハイエンドな仕上がりに。そしてCFは、軽量カメラ用ではあるもののコストパフォーマンスとレール延長のオプションそれぞれの良さを兼ね備えた上で、非常に軽量なタイプ。このような位置付けが見えてきました。
CFモデルではフライホイールを装備していないものの、軽量なミラーレスカメラなどを使用するビデオグラファー層のニーズにとてもマッチしています。CFモデルで一番に驚くのがその軽量感。スライダーを使ってきた方なら誰もが驚く軽さであり、動作も紐やベルトを使用しない機構ではあるものの、カメラ搭載状態に合わせてロッド間のテンションを調整することにより非常に滑らかに。シンプルなのでメンテナンスも簡単です。
レール長のあるスライダーを用意すると持ち歩きだけでもそこそこの重量になってしまい、持ち出しが億劫になっていた方にもオススメしたい軽量感です。これはオプションの延長トラックを追加しても変わらないため、ぜひ店頭で一度手に取って動作とともに確認してほしい点です。軽さという一点でも一昔前のスライダーとは隔世の感。またそれぞれのモデルで操作性を色々と便利に考えられているのがMagic Carpetシリーズの良さでもあります。共通して言えるのはセットアップの簡単さ。これもまたぜひ手にとって確認してみてもらいたいところです。
▲今度は手前から標準、CF、Proの並びで、標準モデルは100cmタイプ、CFがエクステンション(延長)トラックを追加した120cm、Proがミディアムモデル+ショートモデル+ショートトラックと組み合わせた213cm。後ろのステップワゴンと比較すると2m超えはなかなかに使い勝手が良さそう。地べた置きでも真ん中が少したわむので固定方法は考慮したい。
スライダーとジンバルの使い分け
そもそもジンバルのような安定した移動撮影を実現できる機材があるのにスライダーを選ぶ理由とは? という疑問に関しては、まずアナログな部分で一点明確なものがあります。ジンバルを多用される方ほど感じる繊細な近距離超低速でのパララックス(手前と奥の物体が異なるスピードでずれ込んでいく表現)演出の難しさ。遠景はともかくとして近距離に被写体をおいてのこの動作、ジンバルで実現しようとするとかなり難しいんです。理由としては、近距離の低速になればなるほどオペレーター自身の身体のブレ揺れからくるジンバルのゆらぎを抑えることは難しくなり、直線的な表現がしにくくなるからです。手前と奥に配置された人物が絡むようにといった、対象物が動く場合のパララックスに少し揺らぎを…というような時はジンバルもしくは手持ちはアリかもしれませんが、風景やブツ撮りなどFIXの世界を動かすような場合において揺らぎは不要。静謐な演出が必要なケースにおいては少しの練習は必要ですが、スライダーに軍配が上がります。そして慣れてくると手動でも回り込ませるような動きや移動中のフォーカス操作などもできるようになってきます。とにかく移動範囲も撮影場所の広さも限られたレールを敷けないような状態で、安定したシンプルなワークをする場合はスライダー! となるでしょう。
さて、3種類のMagic Carpetとスライダーの有効な部分をご紹介してきましたが、Syrpラインナップの本領はここからです。スライダーの電動化。すでに電動作動するスライダーはいろいろなメーカーからリリースされているため体験済みの方もいるかもしれませんが、次号ではGenieIIリニアやGenie Mini IIを使用したSyrpシステムを解説します。皆様それまでにMagic Carpetをお手元にご用意してお待ちください!
▲継ぎ目の処理はPro(左)がアタッチメントを使用する差し込みレバーロックタイプ、CF(右)はカーボンパイプをねじ込むタイプ。Proはフライホイール機構があるため取り付け向きには注意。
▲スライダー末端となるエンドキャップは標準とCFが共通、Proはスライダー部の重みに耐えられるよう専用品となっている。直置きの際に使用する脚は双方少しコツがいるが細かく角度調節が可能。
▲キャリッジをひっくり返すと標準モデルは表裏で雲台用ネジの太さを差し替えるネジと取り付け部が出てくる。ここもProとの違いだ。そして緑のローラーはベアリング部をレールに押し当てるトルクを変更する機構だ。搭載する機材によるがここは締めすぎ注意。締め過ぎることによって逆に安定性を欠いてしまうことがあるためだ。
▲雲台を載せるキャリッジもまた標準とCFが共通、Proが専用品となっている。このキャリッジに関しては大きな差がある。一つはProモデルのヘッド搭載部分がクイックリリースとなっている点。これはGenieIIリニアやGenieIIパンティルトなどの底面やクイックリリースと互換性がありシチュエーションに応じて差し替えが可能となっている。Proモデルはこのクイックリリースの裏面にて1/4ネジと3/8ネジの交換ができる。
第2回目のレポートはこちらから
●VIDEO SALON2021年6月号より転載