ソニーから10月半ばに発売されたシネマカメラ・FX30。FX3の半額ほどの価格で登場したSuper 35mmセンサー搭載モデルだが、その実力はどうなのか? カメラマンの早見さんが実際に作品撮りの現場にFX30を投入したインプレッションをレポート。

レポート●早見紀章 モデル●金村知都 ヘアメイク●山崎順子 スタイリスト●川久保はるか カメラアシスタント●與那覇祐佳

 

 

 

ソニーFX30
273,900円

有効約2,010万画素の裏面照射型CMOSセンサーを搭載するEマウントカメラ。ソニーのシネマカメラシリーズ・Cinema Lineとして初めてSuper 35mmセンサーを搭載した。

 

 

すべてのレンズがパワーズームになる魔法の機能を搭載!

筆者がFX3を購入したのが約1年前となる。その当時、すでにα7S IIIが発売して5カ月が経過しており、動画クリエイターや映像技術関係者は軒並みα7S IIIを購入した後だったと記憶している。ソニーのCinema LineはVENICEを筆頭にFX9、FX6と続いており、いわゆるプロ仕様はCinema Line、それ以外の映像クリエイターはαシリーズといった具合だったが、FX3の登場により、このラインも曖昧になり撮影シーンやバジェットによってカメラを変えるスタンスに変更されたように感じる。

そして、このシリーズに共通していたのが、35mmフルサイズセンサーの搭載だろう。これより、どのカメラでも同じ画質を得られ、撮影現場の規模に応じてFX3からVENICE2までさまざまな規模感に対応できるようになった。誰しもがFX3をソニーのシネマカメラの入門機として認識していただけに、突如発表されたFX30には大変驚いた。しかも、シネマラインの中においてSuper 35mm搭載モデルとして発表・発売になったからだ。

ご存じの方も多いだろうが、業界標準はSuper 35mm。FSシリーズが全盛期だった頃にはFS7やFS5を見かけない現場はなかったほど、TVCMをはじめ企業VP、TV番組、WEBCMなど様々な現場でSuper 35mmフォーマットは活躍している。また、ツァイスやフジノン、シグマといった各社レンズメーカーはSuper 35mmを前提としたシネレンズの販売し、それらのプロダクトも多く普及したのは言うまでもない。

しかし、時代は35mmフルサイズという規格に移行し今ではフルサイズ機を見かけないことはないと断言できるほど、一般的になってきた。この一連のムーブメントを作り出したのは間違いなく、ソニーを含めメーカー側ではあるが、ユーザー側もボケ味の美しいフルサイズ機を熱望していたので35mmフルサイズ機の普及はごくごく自然な流れだと感じる。

筆者はFX3ユーザーであるが、以前保有していた機材はSuper 35mmサイズが中心だった。そのためセンサーサイズが業界標準である新型機は発表当時から気になっていた。今回は限られた試用期間で作品制作を行なったため、機能について深堀りしきれない部分はあるのだが、このカメラについて私なりにレビューしていきたい。

 

 

FX30のファーストインプレッション

FX3はメカシャッターを搭載しており、スチル撮影する際にも心地よいシャッター音を感じることができる。対してFX30はメカシャッター非搭載。一応電子シャッターを使用したスチル撮影も可能ではある。また、FX3同様フラットデザインであり、FX3と外観上の区別はつきづらい。フルサイズのHDMI端子、空冷ファン、タリーランプなど映像撮影において必須といえるFX3の機能をそのまま踏襲しており、FX3のサブ機としても最適だ。

意外とαシリーズとFX3やFX30とは操作性で異なる点も多くあり、複数台をオペレートする時に1台だけαシリーズが入ると操作性的に困ることもあり、結局マルチで台数を用意する時にはFX3を用意することが多かったので、操作性が同一なのはとても嬉しいことだ。

ボディには上面と側面に1/4インチネジ穴がきっているため、ケージを付けずとも簡易的なパーツであれば取り付けることが可能だが、筆者の場合は純正のトップハンドルパーツを愛用しているのでFX3同様にこのスタイルで持ち運ぶことが多かった。

また、建物内ではスタジオ運用を想定しており、三脚に固定する際には画像伝送装置やリグを装着して運用したシーンもあったが、簡易的なワークに関しては機動力抜群のカメラということもあり、手持ちにて行うシーンもあった。

 

 

スペック的に気になるポイントは?

FX3と同様の機能であるが、背面のタリーランプはかなり視認性が高いものが採用されている。モニター側が赤枠表示、RECボタン、背面上部、前面といった複数の赤色ランプによってREC状態を確認することができる。作例撮影時は撮影時間が厳しいところも多くRECの最終確認をしないまま撮影をしたところもあったが、今回の試用期間中にタリーが点灯していなかったということは経験しなかった。

 

録画中だとわかりやすいタリーランプ


これらのタリーランプ点灯の設定はセットアップ項目から「全て点灯」「前面のみ点灯」「全て消灯」の3つを選択できる。

 

また、FX30では記録解像度自体は最大4K(3840×2160)となっている。撮像素子自体は6K相当で豊富な情報量を凝縮することで、高品位な4K映像を収録できる。記録フォーマットはXAVC S-I(H.264 ALL-Iフレーム)、XAVC S(H.264 LongGOP)、XAVC HS(H.265 LongGOP)がある。

フォーマット設定によっては、ビット深度やクロマ・サブサンプリングの項目が個別に選択できる。XAVC S-Iでは本機の最大画質に自動的に設定され、選ぶ項目としてはフレームレートだけとなる。ただ、XAVC SもしくはXAVC HSを選択すると、ビット深度やクロマ・サンプリングをいくつも選べる。ポスト処理の有無や収録時間、用途に合わせて無数に選択できるのはうれしい。

なお、4K/60pまでと異なり、4K/120pではレンズのクロップファクターが約1.6倍と大きく、ピクセルバイピクセルの状態となる。これは昨今の4K収録が前提となっている撮影現場の中では使い勝手が悪く感じるポイントであり、筆者も困惑したポイントであるのは言うまでもない。今回の作例では4K/60pが中心だったが、髪の質感を表現する際には120pにて撮影を行なった。4K/120p および 1080/240p では1.6倍のレンズクロップ倍率となる。使いどころはレンズの焦点距離に依存するので使用の際には、前もって検討しておくと現場で慌てずに済むだろう。

 

記録モード

XAVC HS 4Kの場合の設定項目。

 

特に単焦点レンズを活用しているときに便利な機能といえば「全画素超解像ズーム」。ソニーは画質の劣化を従来のデジタルズームから最小限に抑えた「全画素超解像ズーム」を製品に搭載しており、FX3をはじめとして本機でも機能を搭載してきた。FX30においてもFX3同様に4K動画撮影においては1.5倍まで、FHD動画撮影においては2倍までの超解像ズームを使用できる。

 

超解像ズームは直感的に操作できる



超解像ズームの機能はシャッターボタン付近のズームレバーに割り当てられており、直感的にズーム操作が可能となっている。メニュー画面から設定が可能であり、従来のデジタルズームも含めて設定が可能である。

 

また、FX30ではレンズのピント位置による画角変化を電子的に補正するブリージング補正機能を持っている。これはカメラボディ側もしくはレンズ側に記録されたピント位置毎のブリージング量を元に、リアルタイムに画角補正を行う処理をしているものと思われるが、補正に対応したレンズであればこの機能を使える。

今回、作例制作においてジンバルワークおよび三脚を使用した撮影が中心だったため、手ブレ補正機能を検証する時間を多く取ることはできなかったが、アクティブモードだと効きすぎる印象があったので今回の作品作りにおいては手持ち部分では「スタンダード」にて撮影を行い、ジンバル搭載時には手ブレ補正をOFFにした。

 

小型・軽量な機動性を活かしてFIXから手持ちまで様々なシーンで使用

▲見た目はFX3と区別がつかない。操作系統もFX3と統一されている。
▲XLRハンドルユニットを同梱したセットは328,900円。
▲スタジオ撮影の現場では三脚に据えて。
▲同時に小型軽量な機動性を活かした手持ち撮影も行なった。

 

 

実際に現場で使ってみて

ここまではスペック面を中心に紹介したが、これ以降は実際に現場で撮影した印象を記載していきたい。撮影地は千葉の海岸からスタートして千葉市、そして都内という流れで撮影を行なった。チームはカメラマン、キャスト、撮影助手、ヘアメイク、スタイリストといった構成になった。大きな現場というよりは、昨今のクリエイターによる映像制作のチーム編成に近い形態となっている。

まず、印象としては想像以上にFX30とFX3とのスペック的な差がない点だろう。もはやセンサーサイズ以外の差はないといった印象だった。今回の作例は『RUNWAY』というタイトル通り、自然の中や建物の中でモデルがランウェイを歩くようにウォーキングをしてもらった。撮影した時期は11月の初旬ということもあり、日の時間が極端に短くなっていたので、屋外の撮影に関してはジンバルワークを基本とした。

レンズはキレとボケ味に定評があるGMシリーズの単焦点レンズを中心として撮影を行なったが、先日発売されたE PZ 10-20mm F4 Gもワイドの表現では積極的に活用した。

屋内の撮影現場では照明機材を使用したが、逆光ベースの撮影条件にもかかわらずオートフォーカスは瞳を認識しており、まったくストレスは感じなかった。チーム全体に映像を共有しながら迅速に意思決定を行えるのは少数チームならではの利点といえる。

全体の印象としてはグレーディング耐性の高さに驚いた。また、夜間の撮影地では単焦点レンズとデュアルネイティブISOのおかげもあり、ポスト作業を前提とした充分な露出を得ることができたことも大きい。FX3ではCine EIモード時に800もしくは12,800といった極端なISO設定しか選べなかったが、FX30では800と2,500というベースISOから選択できるので、屋内の夕暮れから積極的に活用することができ実に重宝した。FX3にて高感度を設定した場合、12,800しか選べないので日中の屋内などではNDを用意する必要があった。これは屋外でも同じであり、使い勝手が良いとはいえない。それと比較してFX30ではFX3の高感度設定と比較しても撮影現場に適している感度域だと感じる。FX30ではちょうど良いISOベース設定となっており、現実的な撮影現場に適していると感じる。ただし、夜間のノーライトではFX30のノイズがかなり目立ち、この点に関してはフルサイズ機のFX3がやはり優秀だと感じる。

今回、屋内以外はノーライトにて撮影を行なったが、全体の印象としては充分な画質とFX3にひけをとらない機動力を存分に感じることができた。Cinema Lineの今後展開に期待しつつ、様々な撮影現場で見かけることを楽しみにしたいと思う。

 

現場で使ってみてAFの精度とベース感度の使いやすさに感心


▲ロケ撮影の現場。ジンバル撮影はTILTAのアドバンスリンググリップに取り付けてDJI RS 3 Proを使用。
▲今回使用したのはソニーG MASTERレンズ。


▲屋内での撮影風景。逆光で照明を配置したが、AFはしっかりと瞳を捉えていて外れることはなかった。
▲ベース感度はデュアルネイティブISOで800と2,500。

 

 

VIDEO SALON 2023年1月号より転載