去年の12月は今年の仕込みのためにいろいろと取材したのですが、年末で忙してくまったく処理仕切れていませんでした。中でもインパクトがあったことをここで少し先出ししていきます。

12月半ばくらいにnac(ナックイメージテクノロジー)さんに遊びに行きました。

営業の岩志さんに、最近のトレンドってなんでしょう?と聴いたら、アナモフィックレンズとヴィンテージレンズでしょうね、と言います。

アナモフィックレンズに注目が集まっているのはわかります。ARRIのALEXAはもちろん、ソニーのVENICEも36×24mmのフルフレームCMOSを採用しているのは、4:3アナモフィックを想定してということですし、ハイエンドでなくても、URSA Mini ProやGH5も4:3アナモフィックモードがありますから、トレンドになっているのは確かです。でも、気軽に使えるレンズがないんですよね、SLRMagicくらいしか。あれも試してみて、運用面でちょっと厳しいなあと思ったのが正直なところで。

では、ヴィンテージレンズとは?

nacは映画機材のレンタルとして老舗なので古いレンズが残っているのですが、それが価値を持ってきているというのです。

レンズがずらっと並んだ棚。これはセット組されていないレンズ達で、きちんと調整管理され、使われているもの。一番上にツァイスの新製品、ライトウェイトズーム、21-100mmが見える。中段が主にカールツァイスのプライムレンズのヴィンテージレンズ。

CMや映画ではARRIのALEXAがいまや定番になっていますが、現代のデジタルシネマカメラはARRIに限らず、ソニー、パナソニック、キヤノン、RED、ブラックマジック、すべて高精細に写ります。たしかにメーカーで個性はありますが、かつてのフィルムカメラほどの個性はありませんし、特にハイエンドになるとARRI一択になって、撮影者の個性が出にくくなっています。また、デジタルシネマになって、DITが入り、カラーグレーディングもするとなると、ますます撮影時の(撮影者の)個性というのは「色」では出しにくくなっているそうです。撮影者として「あ、このカメラマンに頼むといい画撮ってくれるなあ」と自分の個性を出すには、レンズ選びで「ボケ味」と「コントラスト感」で個性を出すという選択肢があるのだそうです。

そこで求められているのがヴィンテージレンズです。カメラマンによっては、具体的にこのレンズと指定してくることも多いとのこと。

nacレンタルで、レンタルから返ってきたものを清掃しているところを拝見すると、たしかにかなり古いレンズです。

カメラの調整に使われているのもヴィンテージレンズでした。

さらに驚くのは、nacではそのヴィンテージレンズを使って、ここ数年はコーティングを外したレンズもレンタル品としてラインナップしているということ。それもむやみやたらにコーティングを外せばいいというものではなく、どのレンズ玉のコーティングを外せば、描写がどう変わるか研究実験した上でコーティングを剥がしているといいます。

これがコーティングを剥がしたレンズ。区別がつくように鏡筒の方もシルバーになっている。

たしかに。これは前玉のコーティングがないのだろうか。

たとえば一般的には、前玉のコーティングを剥がすとゴーストが出やすくなり、後ろ玉のコーティングを剥がすとコントラストが落ちるといったように、効果が違ってくるので、それを見極めながら剥がすのだといいます。nacは映画機材のレンタルや輸入代理店というだけでなく、映像計測機器を製作するメーカーだからこそできること。

このレンズはドイツのバンテージのアナモフィックレンズで、Vintage ’74とあってエンハンストフレアと書かれている。フレア強調ですよ。「70年代風のフレアや色収差などを再現する低コントラストなアナモフィックレンズ」なのだそうです。

フレアは出ないほうがいい、コントラストは高いほうがいい、というのがレンズメーカーの論理であって、宣伝文句なのですが、使う側からすると、特に動画においては、フレアは奥行き感、立体感を演出するし、コントラストがひたすら高い画は長時間見るのに疲れてしまう。特に4Kのデジタルシネマカメラになってくると、どうやってレンズで柔らかく、味を出していくかに腐心することになってきたのかもしれません。

使う側に近いレンタルの現場では、MTFだけでは測れない別の基準でレンズが選ばれていました。

この話題、続きます。