パナソニックは富士フイルム製の有機薄膜を用いたCMOSセンサー技術を発表した。今回の発表の目玉は広ダイナミックレンジを実現したことと合わせて、グローバルシャッターを採用したことで一般的なCMOSセンサーに採用されているローリングシャッターによる歪みを解消していること。
 今後、有機CMOSイメージセンサー技術を、監視・車載用カメラ、業務放送用カメラ、産業検査用カメラ、デジタルカメラなどに採用していくという。

広いダイナミックレンジの秘訣

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▲左が従来までのフォトダイオードを使用したCMOSセンサー。右が今回技術発表された有機薄膜を使用したCMOSセンサー。
 従来のイメージセンサーは、受光部のシリコンフォトダイオード、金属配線、カラーフィルタ、オンチップマイクロレンズで構成されており、光を電気信号に変換し、信号電荷を蓄積する機能はシリコンフォトダイオードで行なっていた。
 有機CMOSイメージセンサーでは、レンズからの光を電気信号へ変換する働きを有機薄膜が担い、信号電荷を蓄積し、電気信号の読み出しを行う働きを下層に設置された回路部で、おのおの完全独立に行う形になっている。

●有機薄膜の恩恵

 光吸収の効率のよい有機薄膜を採用することで、0.5μmまで薄膜化を実現。従来のシリコンフォトダイオードでは2~3μm程度の深さが必要になり、光線入射角が30~40度に制限されていたが、薄膜化により、60度の広い入射光線範囲を実現した。斜めから入射する光を効率よく利用することができ、混色のない忠実な色再現性を可能にする。このことでレンズの設計自由度が増し、カメラの高性能化、小型化にもつながるという。
従来のイメージセンサーでは、各画素にシリコンフォトダイオード以外の部分に光が入射するのを防ぐため遮光膜を設置していたが、受光部分の面積が制限されてた。しかし、有機CMOSイメージセンサーでは、センサー面上で受ける光をすべて有機薄膜で受光できる。これにより、従来比1.2倍の高感度した。

●フリッカーも出ない1画素に明暗2つの感度検出セルを搭載

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▲1画素2セル構造技術。1セルは高感度セル。高感度画素電極、小蓄積容量、容量結合型ノイズキャンセルで構成される。セル2は高飽和セル。低感度画素電極、大蓄積容量、従来型ノイズキャンセルで構成されている。
 有機薄膜イメージセンサーでは、1画素内に感度の異なる2つの画素電極、信号電荷蓄積量の異なる2つの容量、2種類のノイズキャンセル構造のセルを設置した。明るいシーンと暗いシーンを異なる構成のセルで同時に撮像することで、一回の撮像で、従来のイメージセンサに比100倍のダイナミックレンジである123dBを実現できるという。
 高飽和セルでは、低感度の状態で読み出しする時間以外は、常に信号電荷の蓄積を行なっているため、現在、ドライブレコーダーで発生する交通信号の撮像欠けによるLEDフリッカーや多くのビデオカメラで発生する蛍光灯によるフリッカーが発生しない構造になっているという。
 また、有機CMOSイメージセンサーは、有機薄膜と電荷蓄積部を金属配線で接続する構造で蓄積電荷を完全に読み出すことができない。そのため、画素(信号電荷蓄積ノード)リセット時のリセットノイズの影響を受けるという課題がある。独自の半導体デバイス技術と新たに『容量結合型ノイズキャンセル回路』の開発により、発生したリセットノイズ自体をキャンセルする構成も開発したという。
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▲広ダイナミックレンジ化技術を使った撮影イメージ

グローバルシャッターで歪みなく撮れる

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●有機薄膜の感度制御によりグローバルシャッター機能を実現する
『光電変換制御シャッター技術』

 従来のイメージセンサーでは、画素内にメモリを設けることでグローバルシャッタ機能の実現を図っていたため、画素内に追加したメモリ部が光電変換部面積を圧迫して、グローバルシャッター機能搭載時には飽和信号量が減少してしまうという課題があった。
 今回開発した「光電変換制御シャッター技術」では、有機薄膜にかける電圧を調整し、光電変換効率を制御するだけでシャッター機能が実現でき、画素内に新たな素子追加をすることなく飽和信号量の減少を抑えられるという。
 さらに画素のゲインを切り替える回路に備えられた「高飽和画素技術」によって、従来のグローバルシャッター機能を備えるCMOSイメージセンサーに比べて、約10倍の飽和信号量を実現できる。また、センサ駆動の設定を切り替えることで、一般的なカメラに採用されているローリングシャッター動作も可能になっている。
 この技術によって、明暗差の大きいシーンで画質劣化やシャッター歪みのない画が撮影できる他、ストロボなどによるフラッシュバンド、LEDフリッカーといった問題を解消できるという。
●露光毎の感度を可変とする「感度可変多重露光」技術
 従来の多重露光撮像では複数枚の画像を同時に取得するものの、同じ感度設定で画像取得をしていた。これを有機薄膜にかける電圧量や時間を変化させることで感度を可変にできる「感度可変多重露光技術」を新たに開発。
 この技術の開発により、1回の撮像で動体速度に合わせた最適露光が得られる。これによって下の写真のように高速に動くプロペラのような動体・文字認識が可能になる他、ボールが弾む写真のように時間に応じた感度濃淡を付けた撮像を行うことで動き検出時の進行方向情報が取得できるという。
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▲一回の撮影で動体速度に応じた最適露光ができ、露光時間が長くならずブレのない映像が撮影できる。これによって動く被写体の文字が判別できる


●広ダイナミックレンジ技術
http://news.panasonic.com/press/news/data/2016/02/jn160203-3/jn160203-3.html
●グローバルシャッター技術
http://news.panasonic.com/press/news/data/2016/02/jn160203-2/jn160203-2.html