ライアン・レイノルズが皮肉屋で反抗的なスーパーヒーローを演じる「デッドプール」シリーズ。「デッドプール」シリーズの舞台は、X-Menの世界と隣接しているという設定ではあるが、この2つの世界は全く異なるルックとなっている。同作ではVFXがふんだんに使用されており、また様々な条件下で撮影されたため、EFILM所属のシニアカラリスト、スキップ・キンボル(Skip Kimball)氏は、ジョナサン・シーラ(Jonathan Sela)撮影監督と緊密に協力しあうことで、カラーに対するシンプルなアプローチを確立した。「デッドプール2」の撮影にあたり、シーラ撮影監督は独自のルックの作成を意図していたため、それを反映する上でキンボル氏は全く新しい手法を取り入れることになったという。
「本作のルックは、ジョナサンの希望により、コントラストが弱くソフトで、サチュレーションもそれほど高くありません」
これまでに様々なフォーマットを扱ってきた経験から、キンボル氏は『デッドプール2』の制作において、多様な素材の組み合わせやマッチングにも問題なく対応できたという。
「ルックをバランス調整する上で一番大変だったのは、多くのVFXスタジオから納品される膨大な量のビジュアルエフェクトのショットをシームレスに統合することでした。撮影は、数週間に渡って様々なセットやロケ現場で行われたため、すべてがスムーズで一貫性があるようにすることがメインのゴールでした。例えば、車列の場面は10分に及ぶアクションシーンですが、それを構成する要素はブルーバックや、様々なロケ現場の異なる時間帯に撮影されました」
車列のシーンは、最終的に同氏のお気に入りの場面となった。シーケンスの流れを生み出すチャレンジを楽しんだのだという。
「外部マットとPower Windowを多用しました。また、カメラシェイクやブラーなどのResolveのプラグインを使用して、すべてが一体化するようにしました」
同氏はDaVinci Resolveを使用して、多種多様な素材を扱うことになった同作のワークフローを簡素化したという。
「DaVinci Resolveでは、カメラRAWフッテージを扱え、またVFXを様々な解像度でEXRフォーマットで書き出せます。また、DaVinci Resolveのプラグインはルックの作成に非常に便利ですね。OpenFXプラグインでは、ルックを作成する上でのクリエイティブな開始点を無数の中から選べます」
カラーグレーディングに対する同氏のアプローチは、業界に足を踏み入れた当初、著名なハワード・A・アンダーソン(Howard A. Anderson)氏の会社でアシスタントとして様々なことをこなしたこと由来している。
「ありとあらゆることをしました。フィルムの巻き戻し、シングルストライプ1:1やインターネガティブの作成などです。運転手もしました。RCAのTK35プロジェクターとIkegamiのビデオカメラでデイリーを転送する方法も、そこで学びました。このようなデイリーは、その後ベータとVHSの3/4インチUマチックに転送されました」
新しいタスクは学びの機会だと考える同氏は、カラー調整のシステムに関わる機会が持ち上がった際に、迷わずそのチャンスに飛びついた。
「Rank Cintelを見た時に、これはすごいと思いました。カラーグレーディングは自分の空き時間に勉強しました。極めてクリエイティブで面白そうだと思ったんです」
アンダーソン氏の会社でカラリストとしてのキャリアを始めて以来、キンボル氏は業界トップの監督や撮影監督の作品に多数関わってきた。カラリストとしての代表作には、「ゴーン・ベイビー・ゴーン」、「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」、「きっと、星のせいじゃない。」、「LOGAN/ローガン」、「ダウンサイズ」などが含まれ、すべてのカラーグレーディングに同氏は1989年より愛用しているDaVinci Resolveを使用した。
キャリアを通して、同氏は様々なテレビシリーズ、劇場映画、短編に携わってきており、その違いを楽しんでいるという。特に全く異なる作品に関わることに大きな喜びを得ており、Netflixの人気シリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」や、業界を揺り動かしたジェームズ・キャメロン監督の「アバター」も同氏が手がけた作品だ。多様なジャンルのプロジェクトに携わってきた同氏だが、現在でも基本を学ぶことは職業を学ぶ上で欠かせないことだと語る。
「若手のカラリストに対しては、ツールを理解し、スコープの読み方を学び、デジタルに進む前にフィルムの扱い方を勉強することを勧めます。テレシネのフィルムを扱うことで、今日のワークフローから得られることよりもはるかに多くのことを学べます」
多くの知識とツールを持ち合わせる同氏だが、それでもカラリストとしての特別な技をいくつも隠し持っているわけではないと主張する。
「フッテージを見て、一から手順を踏んで進めていきます。カラーグレーディングは直感に頼っています。撮影監督が捉えたものを浮き彫りにすることから始めるように心がけています。それをベースに、様々な要素を展開させていきます」
残りの部分に関しては、忍耐が大きな役割を果たすと同氏は主張する。
「特定のショットで行き詰まったら、一旦作業から離れて、後で戻るようにしています。停止させずに最後まで再生できるようになるまで、シーンの作業が完了したとは言わないんです」