ドローンやジンバルでお馴染みのDJIから新たに登場したのはなんとジンバル内蔵のシネマカメラ。多くのユーザーの度肝を抜いたインパクト満載のカメラをCMを主戦場に活躍する広告カメラマンはどう評価するのか? 実際フィールドに持ち出して触ってみたインプレッションとともにこのカメラの特徴や機能について紹介していきたい。

テスト●本村 仁(博報堂プロダクツ)/構成・文●編集部・萩原

 

DJI Ronin4Dで本村さんが撮り下ろした作品

「心異 / kokorokoto」

 

<作品概要>

普段の生きていく中で、一人でニヤつくぐらい調子がいい時や、いろんな事にムカついてイラつく時、どうする事も出来ないことへの不安感で叫びたくなる時、そんな心の機微を撮影しようと思いました。辛いことも多いですが、「苦しみを認識する事によって幸せを感じる事が出来る」という言葉を知り、とにかく前向きに頑張ろうという気持ちでつくりました。

こころ‐こと【心異 心殊】

1.心が変化するさま。2.趣が格別であるさま。 印象が並々でないさま。

<キャスト・スタッフ>

モデル:浅賀夏希/企画・監督・撮影:本村 仁/撮影助⼿:加部壮平、MJ/制作:吉田芽未/ヘアメイク:⾕川⼀志(KIND)/カラリスト:⼩原茉莉/協力:坂場真美、松岡佑樹/

 

DJI Ronin 4Dカメラ各部解説

 

カメラやジンバル操作が可能なハンドグリップ

 

5.5インチの液晶モニターを搭載

5.5インチのメイン液晶。1000nitの輝度で日中屋外での視認性も高い。撮影画面。左上からISO/絞り/シャッタースピード/フレームレート/ND/WB/タイムコード/解像度の設定があり、タッチパネルもしくは、それぞれの項目ごとに物理ボタンで選択し、側面のホイールで調整できる。液晶背面にはピーキング、LUT(Rec709、HLGのほか、好みのLUTも当てられる)、フォルスカラーのボタンを備えている。

 

直感的でわかりやすいメニュー画面

液晶側面のHOMEボタンを押すと録画やモニター、ジンバルなどの各種設定にアクセスできる。写真は録画設定。センサーサイズや記録フォーマット、フレームレードなどが一覧できる。シンプルでわかりやすい。

 

現場での時短・人員削減にも一役買ってくれる 痒いところに手の届くカメラ

ARRIやREDをメインに扱うハイエンドなCM制作の現場では、移動撮影の際にMoVIや Ronin2などの大型のジンバルを使ったり、Steadicamを用いてオペレーターにも入ってもらい、撮影することが多かった。広告カメラマンの本村 仁さんに発売前の試作機をテストしてもらい、そのインプレッションについてお話を伺った。
「これまでの現場ではレンズ交換に15分はかかっていました。ところが、DJI Ronin 4Dではレンズだけを交換するため、バランス調整にも時間がかからず、レンズ交換のたびに『AutoTune』をかければ、レンズに応じた適切なモーターパワーを自動で設定してくれます。アプリを使わず本体内だけで完結できるのは素晴らしい。スムーズにレンズ交換できるのは現場の熱量やテンションを遮断することなく撮影を続けられるのでとてもいいですね」

 

レンズ交換・セッティング時間が大幅短縮

純正のマウントはDJI Inspire2などでも使われているDLマウント。24/35/50mmが対応。

円筒状のレンズを交換するためロール軸のバランス調整が不要なのでレンズ交換もスムーズ。

「Stabilizer」から「Auto Tune」を選ぶとレンズの重量に応じて自動でモーターバランスを調整してくれる。

 

 

マウント交換でEマウントとLeicaMマウントにも対応

Leica Mマウントユニット(27,500円)

 

Eマウントユニット(価格未定・サードパティから発売予定)

Z軸の耐荷重はジンバルを含めて2kg。ジンバルの重さは1040gなので搭載できるレンズは960gまでとなる。今回の撮影ではLeicaMマウントのシネレンズLeitz M0.8 Lenses(28/50/85mm)、EマウントはカールツァイスBatis 40mm F2.0、Batis 85mm F1.8、ソニーFE 50mm F2.8 Macro、FE 40mm F2.5 Gをテストした。Batisの40mmは今回のテストでは認識できなかった。FEレンズではAF対応レンズはフォローフォーカスなしでもホイールでのMF操作が可能。AFの精度はレンズによって異なる。Leica Mレンズは別売のフォローフォーカスギアDJI Zenmuse X9 Focus Motor(25,300円)とLiDARセンサーを装着すればAF操作にも対応できるが、純正レンズに比べAFの精度は劣る。

 

ジンバルの弱点だった縦揺れを4軸ジンバルとビジョンセンサーで克服

今回これまでのジンバルとは異なり、縦揺れ補正の機能4Dモードが搭載されたが、揺れ補正の印象はどうだったのだろうか?
「通常の移動撮影では広角寄りのレンズを使うことが多いと思うのですが、今回の撮影ではマクロレンズで人物を接写するという撮影も行いました。モデルさんがバレエを踊る公園では段差が30cmほどある階段を歩いてもらったのですが、そんな場面でもまったく縦揺れが起こらずなめらかな移動撮影ができたことには驚きました」

撮影ではときには手ブレの臨場感を求められるシーンもあるだろう。ジンバル内蔵と聞くと、かえってそれが邪魔になるのでは? とも思うのだが…。
「側面のスイッチやハンドグリップのボタンを長押しすればジンバルロックもできるので、手ブレ感を出したいときにも対応できます。ハンドル部のMボタンを長押し中はスポーツモードがONになるので、素早いパンにも対応できました」

 

Rinin 4Dでは従来の3軸ジンバルが苦手としていた歩行・走行時の縦揺れを軽減するZ軸のアームを備えている。カメラ前面と底面にはDJI製ドローンにも搭載されている光学式のビジョンセンサーと赤外線センサーを備え、地形を認識することで強力な補正を実現。左上写真のような階段でも縦揺れを感じさせない移動撮影が可能だった。マクロレンズで人物のアップを狙うという使い方もできた。4DモードはZ軸のロックを緩め、側面の4Dボタンを押すとZ軸のアームが持ち上がる。アームの付け根にある調整ネジでアームが水平になるように設定する。

 

画期的なLiDARフォーカスセンサー

ジンバルの他にも目を引く機能がある。同梱のLiDARセンサーを使えば、他社製AFレンズはもちろん、フォローフォーカスギアと組み合わせたMFレンズをAFレンズとして使うことも可能になる。さらにDJIのドローンやスマホジンバルなどにも搭載されるActive Trackを使えば指定した被写体の追尾も可能になっている。
「大きな現場ではカメラ周りに4人くらいのスタッフがいて、基本的にAFを使うことは少なく、フォーカス操作もフォーカスマンが行います。AFの性能は純正のDLレンズであればそこそこ追従してくれますが、万能ではないので、今回の撮影はダンスシーン以外MFで撮影しています。カメラの液晶画面も明るく、5.5インチと大きいので、フォーカスを追いやすかったですね。また、リモートモニターのワイヤレス伝送も今回、300mほど離れた位置からフォーカス操作してもらう時もあったのですが、遅延や途中途切れてしまうこともなく安定していました」

LiDAR(Light Detection and Ranging)とはレーザー光を照射し、物体に当たって跳ね返ってくるまでの時間によって、物体までの距離や方向を測定する技術。これによって他社製AFレンズやフォローフォーカスギアをつけたMFレンズでもAF操作が可能になる。「Display」メニューの「LiDAR Waveform」をONにすると液晶横にセンサーで測距したデータを俯瞰の波形でフォーカス位置を確認できる。

 

AFを使うためにはレンズキャリブレーションが必要

1.メニューから「Lens」>「Calibration」を選択。NAはフォーカスプリセットが選択されていない状態。「Focus Calibration」を押す2.レンズ名を入力。3.レンズのmm数を入力。4.無限遠の設定。一番奥の背景に合わせて「Record」をタップ。5.次にカメラに近いものにピントをあわせて「Record」をタップ。本来は壁など平面的なものがいいようだ。6.数値を確認してConfirm。7.画面下のCompleteをタップ。

 

無線伝送で遠隔操作も可能

カメラに別売のトランスミッター(44,000円)を取り付けると、7インチ液晶モニターDJI High-Bright Remote Monitor(162,800円)で見通し4kmの無線映像伝送に対応できる。今回の撮影ではハンドグリップを取り付けて、遠隔でフォーカス操作した。このモニターは1080/60fpsでの映像伝送に対応し、HDMIやHD-SDI出力も搭載。

 

自動追尾のActiveTrack Pro機能

液晶横の「Track」をONにして、画面上の被写体を指でなぞるとActiveTrack Proで追従する。バレエのダンスを踊るモデルの周囲を縦横無尽に動きながら撮影。AFは純正のDLレンズであればそこそこ追従してくれるものの、一度外れるとリカバリーに時間がかかった。

 

ダンスシーンは4K/120fpsのハイフレームレート撮影

HOMEメニューでセンサーサイズをSuper35mmに設定したうえで、撮影画面のフレームレートの設定を開く。「SLO」をONにし、PROJECTで再生、SENSORで記録のフレームレートを指定する。120fps記録を24fps再生すると5倍スローの映像として記録される。また、23.976/29.97/59.94fpsなどのドロップフレーム選択時はハイフレームレート撮影ができない。

 

DJI Ronin 4Dのカメラとしての操作性はどうか?

案件の規模によってシネマカメラからデジタル一眼までを使い分けることもある本村さん。DJI Ronin 4Dのカメラとしての操作性はどう見えたのだろうか?
「メニュー画面がわかりやすくて説明書を読まなくてもひと通りの操作ができます。普段は仕事で広告写真を撮ることが多く、35mm判の画角に慣れているので、フレームレートによってはクロップされてしまいますが、フルフレームのセンサーというのも僕的にはうれしいです。レンズもマウントユニットを変えれば選択肢が広がりますし、露出やフォーカスアシストも基本的なものが備わっていて、痒いところに手が届くカメラだと思います。レンズ交換が容易なのに加えて、NDフィルターが内蔵されているのも現場でのセッティングを短縮する意味でもうれしいですね」

今回は主にDJI Ronin 4Dでの撮影にフォーカスし、レポートした。このカメラで記録したProResRAWの画質やワークフローについても今後の誌面やWEB等でレポートしていきたい。

 

NDフィルターを内蔵

ND 2 (0.3)〜ND 512 (2.7)の9ストップのNDフィルターを内蔵しているのも慌ただしい撮影現場でのセッティング時間を短縮できるうれしいポイント。

 

撮影アシスト機能も充実

ピーキング

Focus Mag(拡大フォーカス)

波形モニター

フォルスカラー

露出のアシスト機能は波形モニターとフォルスカラー(映像を輝度別に異なる色で表示)を搭載。フォーカスアシスト機能にはピーキング(赤・青・緑を選べる)と拡大フォーカス(2倍・4倍)を備えている。「Display」メニューの「Focus Assistant」>「Focus Button Funcition」で「Focus Mag」に設定するとPEAKボタンに割り当てられる。

 

今回テストした6Kモデルの記録フォーマットとメディアによる制限

ProRes RAWや6K/60fps録画ができるのはPROSSD(1TB:90,200円)のみ。CFExpressは4K/120fps記録に対応するが最大6K/30fpsまで。外付けSSDは最大4K/60fpsまでとなる。また、フルフレーム時48fps以上のフレームレートでは通常17:9のアスペクト比が1:2.39にクロップされる。

 

 

本村 仁

博報堂プロダクツ フォトグラファー。1986年⼤阪出⾝。ビジュアルアーツ⼤阪 写真学科 卒業。広告写真を中⼼にTV・WEB CMなどの動画撮影も⼿がける。その⼈の持っているキャラクター性や良さを残す事を意識し、⼈と向き合うことを大切に広告・作品制作を⾏っている。朝⽇広告賞準グランプリ、APAアワードなど受賞歴多数。

WEB●https://photocreative.jp/photographer/hitoshi_motomura/profile/

 

●DJI Ronin 4Dの製品情報

https://www.dji.com/jp/ronin-4d