ウォルト・ディズニー・ジャパンでは、2017年夏に劇場公開されたスタジオポノック第一回長編アニメーション作品、米林宏昌監督の『メアリと魔女の花』を、DVDとブルーレイの発売・レンタルに合せ、4K/HDR化した4K Ultra HDブルーレイと通常のブルーレイをセットにした「コレクターズ・エディション」を12,000円(数量限定)で2018年3月20日に発売する。


▲『メアリと魔女の花』コレクターズ・エディション:4K Ultra HD+ブルーレイ(数量限定)、12,000円。デジパック仕様/三方背ケース入り。【内容】4K Ultra HD(本編)、ブルーレイ(本編+映像特典)、デジタルコピー、特製ガイドブック(50ページ)、完成台本(縮小版)、米林監督描き下ろしアート。(C) 2017「メアリと魔女の花」製作委員会

それに合わせ、報道関係者向けにパナソニックのHDR対応65型有機ELテレビTH-65EZ1000を使った4K Ultra HDブルーレイの視聴会が開かれた。会場には、HDR化とオーサリングを担当したパナソニックの次世代AVアライアンス担当、柏木吉一郎氏、『メアリと魔女の花』の映像演出を手掛けた奥井敦氏、同じく『メアリと魔女の花』のポスプロコーディネートを担当した古城環氏が列席し、4K/HDR化のポイントを聞くことができた。


▲向って右から柏木吉一郎氏、奥井敦氏、古城環氏。手にしているのは出来立てのパッケージ。(C) 2017「メアリと魔女の花」製作委員会

もともと劇場公開用に作成されたマスターデータは2K/SDR。それを単純に4K/HDR化すると、ダイナミックレンジが広くなり、クッキリ、はっきりしてしまう。また、色空間が広くなるため、気を抜くと発色が良くなり過ぎる。そこで、公開時の柔らかい風合いを残しながら4K/HDR化し、HEVC形式でのエンコーディングにも気を遣ったという。

また、4K/HDR化に合わせ、高解像度、ハイダイナミックレンジによって広がった映像空間に負けないように、元々5.1chで作成された音の空間にも手が加わり、7.1.4ch/DTS:Xとして創り直されている。特に足音や爆発音などに修正が加えられた。


▲メアリの手の中で「夜間飛行」の花が弾けるシーン。4Kの映像では人物や背景の明るさはそのままに、HDR化により、細かい光の粒ひとつひとつに青い輝きが加えられている。(C) 2017「メアリと魔女の花」製作委員会

4K/HDR化の手順は、まず2Kのマスターデータを使ってHDR化する。元データをPQ、BT.2020空間に読み込み、そこからHDRで表現したいパーツを選んでグレーディングしていく。カットごとにマスクデータを必要なだけ作成し、輝度を上げたい部分とそうでない部分を正確に分離。個々の輝度と色調整を積み上げることで、思い通りにHDR化できたという。

次に、HDR化したものを4Kにアップコンバートする。この時、コントラストが上がり、エッジも立ってしまうため、風合いを損なわないようにフィルターを掛けている。最後にジッターとグレインを加え、HEVC形式でエンコードして完成となる。

興味深かったのがカラーグレーディング時の制作環境。マスターモニターとしてソニーの4K有機ELモニターBVM-X300を使ったが、30型では大きな画面で観る場合と印象が異なってしまう。そこで、今回の視聴会でも使用していた65型のパナソニックTH-65EZ1000を常に横に置いてグレーディングしたそうだが、決して見劣りすることはなく、ついにマスターモニターと同じ色が表現できる家庭用テレビが出てきたと改めて感じたそうだ。つまり、この有機ELテレビを買って4K Ultra HDブルーレイのディスクを再生して観れば、マスター制作時と同じ画質で鑑賞できるということになる。何とも楽しみな時代が来たと言うべきだろう。

さて、実際に視聴した感想だが、SDRの映像と比較しながら観たわけではないので正確なことは言えないが、手を加えたであろう部分はしっかり認識できたし、効果的だったと思う。それが行き過ぎかどうかは制作者しか判断できない部分ではあるが、HDR化した映像を見た米林監督は満足していたというのだから、そこは安心して楽しみたい。

制作者の視点としては、これまでのSDRの映像では、白くする事でしか明るさを表現できなかったことに物足りなさを感じていたそうだ。HDRでは色を乗せて明るさを表現できるため、朝日の中の黄色や夕陽の中のオレンジ、光の粒などを表現できる。日本ではまだ、劇場公開用のHDR映像制作環境やHDRで上映できる劇場はないそうだが、公開時にHDR化されていればパッケージ時にも差異はなくなるので、今後のHDR化の動向には注目していきたい。