ローランドは5月23日(木)と24日(金)の2日間、東京秋葉原の東京オフィスにおいて、ローランド業務用AV機器の新製品内覧会を開催した。映像関係の製品ということでビデオスイッチャーがメイン。特に新製品の4K入力対応のスイッチャーV-600UHDを中心に紹介した。
また初日は「イベント現場における4K HDR映像活用セミナー」と題し、AV機器ジャーナリストの小寺信良氏と石丸隆氏(株式会社シーマ常務取締役)を講師に迎え技術セミナーを開催した。
V-600UHDについて
新製品紹介では、ローランドの平瀬氏がV-600UHDの機能について説明。V-600UHDは4K HDRマルチフォーマット対応のビデオスイッチャーで、入力はSDI系が2系統、HDMIが4系統、出力はSDIからPGM出力、HDMIから3出力が可能。内部処理は10bit 4:4:4。音声はSDI(16ch)、HDMI(2ch)が6系統、XLR(2ch)が1系統。その特徴は、ULTRA SCALERと名付けたマルチフォーマット映像信号処理により、HDR/SDR、色域、解像度の異なる入力があっても、最終出力に変換して出力してくれること。ローランドではHDR/SDR変換まで含めたスケーラーのことをULTRA SCALERと読んでいる。
現在は2K(HD)での運用がほとんどであっても、そこに4Kが入っていて、将来は4K入力、4K出力になるとすると、移行期には、4Kと2Kが混在して運用されることになる。現在から移行期、そして将来にわたって使用できるスイッチャーがV-600UHDになる。
もうひとつ、4K活用の提案として、4Kの高解像度を利用して4K映像から切り出してHDを作り出せることを応用して、4Kカメラ1台から最大8台分のカメラ映像を抽出できる機能を採用した。これは最大8つの切り出しができるので、たとえば角度をかえた4Kカメラ2台からそれぞれ4つのカメラ映像を切り出すといった使い方もできる。この切り出し機能をROI(Region of Interest)と言う。今はほとんど知られていない用語だが、今後は一般的になっていくかもしれない。
技術セミナー「イベント現場における4K HDR映像活用セミナー」
後半は、小寺氏と石丸氏によるトークセッションが行われた。
小寺氏はまずローランドのスイッチャーについて、「音楽ライブイベント用途から入ってきたこともあり、他社のブロードキャスト向けのスイッチャーとは性格が違うところがある。ネット中継の比重が大きく、仮設で2時間くらいでセットアップしてイベントを配信してすぐに撤収するといった、テンポラリーな現場で使われている」という。そういった現場で好まれるのは、放送用スイッチャーとは異なり、バラバラな入力ソースをコンバーターなしで扱えるということ。というのも、コンバーターを1つ入れることで検証箇所が2倍になるからだ。そうなるとさすがに2時間のセットアップでは難しい。ローランドのスイッチャーは入力それぞれにスケーラーが入っていてフォーマットを意識せずに使えるというのが現場で重宝されるところ。
つまり「やっつけ仕事に強い」というのがローランドのスイッチャーの特徴である。
石丸氏は、「制作においては4Kが増えているが、こういったイベント映像演出の現場での4Kの割合はおそらく半分もいっていないのではないか」という。ところが素材としては4Kが増えており、また出力側のプロジェクター、テレビ、モニターも4K対応のものは多い。つまり入出力は4Kになりつつあるが、その途中が4Kにできないことがほとんどで、そういったHDから4Kへの移行期の現場にV-600UHDがマッチするという。例えば高価な4Kスイッチャーを導入できないスポーツイベントには最適。
もう一つはこういったイベント収録、配信でのHDRの重要性だ。
最近、展示会やイベントで高輝度のLEDパネルが使われることが多くなってきた。ブロックを壁のように組み上げる自発光のデバイスで、背景に映像を映し出し、その前に出演者が並ぶといったスタイルのイベントが急速に増えているという。
その時、カメラでの撮影では背景の映像に露出を合わせざるを得ないが、そうなると、手前側の人物は暗く潰れてしまう。
HDRというと、つい高輝度の再現のことばかり考えてしまうが、イベント中継ではこう考えたほうがわかりやすいのではないかと小寺氏は解説する。
左側が制作におけるSDRとHDRの概念イメージ。つまり高輝度側の情報をより多く捉えられるということ。しかしイベントの現場では、高輝度を露出内に収めて撮影するため、暗部のほうをどれくらい表現できるのかと考えたほうがいい(右側)。つまりHDRであれば、バックの映像も人物も正しい色で再現できるというのが、イベント現場でのHDRのメリットになる。実際、今のイベントは前述のように高輝度のLEDパネルが急速に増えており、HDRカメラでないと対応できなくなっている。最近のカメラはほとんどが4K HDRになっており、最終がHDアウトプットだとしても、4K HDRをサポートできるスイッチャーがあれば、最終の画質クオリティは労せずして大きく向上することになる。
また、4Kカメラを導入することにより、最終がHD出力であれば、前述のROI機能を活用して、1つの4Kカメラからいくつかの画角を切り出し、入力素材として使うことができる。
これからのイベント映像演出を考えると、4KとHDRへの道はマスト。V-600UHDを導入することでリーズナブルな価格で4K HDRを導入でき、いち早く4Kの領域に慣れていくことができる。まさに今あるべきスイッチャーであり、できるだけ早く導入すべきだろうということでトークセッションが締めくくられた。
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