日本においてはほぼ唯一とも言えるWEBドキュメンタリーの発表の場であり、研鑽の場所でもあるYahoo! JAPAN CREATORS Program。3年前のスタート時から参加されている深田志穂さんをお迎えし、プロデューサーである金川雄策さんが、その経歴や最新作の「The Last Mile」をEOS C70をメインに撮影したときのインプレッションをお聞きしていきます。後編は、EOS C70のオペレーション、映像のインプレッションなどを。購入したばかりの金川さんとどう使いこなしているかという話にもなっていきます。(ムービーは対談のダイジェストです)

協力:キヤノンマーケティングジャパン

前編はこちらから

深田志穂 NYで広告、ファッション業界を経て、フォトジャーナリストとして独立。NY、北京を経て、現在は東京を拠点にビジュアルジャーナリストとしてBBC、CNNなどの海外メディアで映像作品を発表する傍ら、ディレクター・プロデューサー・シネマトグラファーとして活動。受賞歴:トロントLGBTQ FILM FESTIVAL AUDEINCE AWARD (2020)、 the Telly Awards /Silver Winner (2020)、 Webby Documentary Short ノミネート (2020)、 エミー賞ノミネート、 世界報道写真大賞マルチメディア賞受賞、米国記者クラブFeature Photography 最優秀賞受賞など。

Yahoo! JAPAN CREATORS Programで見られる深田さんの作品はこちらから https://creators.yahoo.co.jp/fukadashiho

金川雄策 Yahoo! JAPAN CREATORS Program 短編ドキュメンタリー部門責任者。2004年より全国紙の映像報道記者として、東日本大震災、熊本地震、パリ同時多発テロ事件、ブラジル・リオパラリンピックなど国内外の現場で取材。より深く伝えられるストーリーや映像の可能性を信じて、NY でドキュメンタリーフィルムメイキングを学ぶ。1年間の休職留学中に監督や撮影監督をした作品が、SXSWなど海外映画祭にノミネートされた。2017年ヤ フ ー株式会社 に入社。

 

こんなカメラを待っていた

金川 今回の「The Last Mile」は Yahoo! JAPAN CREATORS Programでも公開されてますけど、ほとんどEOS C70で撮影されたそうですが、使ってみた感じはいかがでしょうか?

深田 こんなカメラを待っていたって感じですね。併用してC300(Mark III)も使うんですけど、C300は重いので疲れるんですよね。現場がラフ、ホームレスの方が寝てる所だったりとか、ストリートで撮ることが多かったので、重いカメラを一日中持っていくってことはハードだったんです。C70は今まで使ってたシネマカメラより軽いので、いろんな現場に持っていけるし、今日はC300にするかC70にするかと選択があったらもうC70!と感じで選んでました。これまではローラーケース持って三脚持ってというスタイルだったのが、このカメラだと今まで写真撮影で使っていたバックパックに、このカメラとマイクと電池とレンズ入れればパッと行ける。それに一脚持つくらいですかね。本当に機動力が高くなったので助かりました。

 

金川 全然違いますよね。ローラーバッグって移動は楽ですけど、現場で取り回しが悪いというか。

深田 そうなんですよ。これだったら肩にかけて自転車に乗って、ホームレスのおじさん探しにいったりとか、おじさんが寝るシーンは地面に腹ばいになって撮れたりもしたんで、それってC300とかだと難しかったなって。

あと被写体との関係性ですね。今回センシティブな被写体だったので、すごい機材装備でいくと警戒されたのかなと。これくらいだとちょっと話しながら撮影できて、撮られてるほうもそんな違和感ないですよね。

金川 確かに今カメラ向けられてますけど、そんな威圧感がないですね。これは不思議ですね。そして深田さんの顔が見えてるのも安心なのかもしれないですけど。

 

深田 自分が機材に圧倒されない。このボタンどうだったっけとか、フォーカスが合っているのか考えてると、気がそがれてしまうので、それを考えずに気軽に操作できるのは良かったです。

金川 ホームレスの方だと、メンタルがダメージ受けてる方もいらっしゃると思うので、そういった方にカメラ向けるのは向ける方も気を使いますよね。そういう意味では確かにベストなチョイスかもしれないですね。

深田 あと、バッテリーの持ちがすごいいいんですよ。1日で小さいほうのバッテリーで1本使うか使わないか、2本持っていれば大丈夫という感じですね。

金川 これも対談の開始からずっと電源を入れ放しなんですけど、あんまり減ってないですね。それは大きいですね。

 

フォーカス関連の機能が秀逸

金川 AFどうですか?  ここ数年でAFが進化して、今やAFで撮るのが当たり前の時代になったと思うんですけど、このカメラは集大成というか結実してきた感があるのかなと思ったんですけど。AFはいつも使ってらっしゃるんですか?

深田 そうですね、現場にもよりますけど結構使いますね。だいたい顔優先で撮ることが多かったかな。あとタッチスクリーンでフォーカスできるので結構使いましたね。

あと、オートフォーカスが追いきれない、暗い現場などでアサインボタンにAF、MFの切り替えを割り当てておけば、認識しないなとなったときにMFに切り替えて使っていました。

金川 画面タッチするのも画がブレてしまうので、レンズの下のボタン、結構触りやすいところにMFを割り当てるわけですね。あとAFは追尾ボタンもありますよね。ロックオンしたものにずーっと追って行ってくれる。

深田 それもわりと使ってましたね。追尾してましたね、ちゃんと。

金川 どういうシーンの時に使ってたんですか?

深田 被写体がこっちに向かってくる時とか、通り過ぎるとか。

金川 昔、そういうのは撮れなかったですよね。

深田 今は本当に便利になりました。あと「AFブーストMF」というのもあるんですね。これはマニュアルフォーカスでありながらもAFがサポートしてピントが合うとマークがつくみたいな。これもいいですし、AF枠は大小選べますし、私はだいたい「小」で撮ってました。これは好みだと思いますけど。

金川 あとキヤノンさんのカメラのマニュアルフォーカスがいいなと思うのは、三角形のガイドが出るのが使いやすいなと思ったんですけど。

深田 はい。これ使いやすいですよね(実際に実演してみる)。あとはマグニフィケーション(拡大)も結構使います。

 

金川 ピーキングは使わないんですか?

深田 ピーキングはあまり使わないですね。

金川 やっぱり画に集中できなくなるからですか?

深田 そうですね、私はあまり個人的にはピーキング、ゼブラは使わないので、アサインを別のものに割り当てますね。

金川 プロフェッショナルのムービーのカメラマンの方々と我々スチルから動画に入った人の違いって、やっぱりピントじゃないですか? 本当にピントをどうやって、さっき言った「追尾」のところがどう撮れるかとか、そこが一番の違いなんですよね。そういったところがお金を出すことでクリアできる。自分の苦手な部分をカバーしてくれるのは素晴らしくありがたいカメラだなと思いますね。

金川 ダブルスロットはどうですか?

深田 使っていましたね。一回一つのカードが終わったらカードに自動的に切り替わる。それはよく使ってましたね。

ハイライトとシャドー部が綺麗に出る

金川 撮影はLogですか?

深田 Logで撮れるのはやっぱりいいですよね。今回グレーディングも自分でやる羽目になってしまったんですけど、その時にどれだけ暗部が残っていて、どれだけハイライトが出てるのかっていうのが自分で確認できたのが良かったです。ハイライトとシャドーの部分が綺麗に出るなっていう印象でした。今回はISOの高いところまで、それこそ1600~6400まで行ってたんじゃないかな。もちろんノイズはありますけど、ちょっと処理して使えないノイズでもなかったので、それは良かったですよね。

金川 露出はウェーブフォームは確認しますか?

深田 露出は大切ですよね。自分の目で見てるのと、実際にウェーブフォーム(波形)で見るのと違うので、それでちょっと失敗したことがあるので。写真撮る時にヒストグラムはチェックしなくて自分の感覚で撮ってても大丈夫だったんですけど、ビデオの場合はハイライトが飛んじゃうととんでもないことになるっていうのはあって、このウェーブフォームは結構使うようになりましたね。

金川 写真の場合はLogみたいなローコントラストな映像ってあまり見ないですからね。ローコントラストの眠い画で露出を見るっていうのは結構難しいですよね。

 

ラベリアマイク2つ、ガンマイク1本を同時収録できる

金川 あと、オーディオが4チャンネル録れるのがすごいと思ったんですけど、今回どうでした? ただケーブルが特殊なんですよね(XLRとMini XLRの変換ケーブル)。

深田 ちょうどいい長さのものがないんですよね。カメラボディにインプット端子が2つありますので、ひとつはショットガンマイク、ひとつはラベリアマイクで使うことで、私は撮影していましたね。

金川 3.5mmにマイク入力もあるので、2つラベリアマイクをつけて、現場音をガンマイクで録りながら、二人の声を個別に録ることもできますね。ワンマンのドキュメンタリーでの二人の声をラベリアマイクで録るのは難しいのですが、これならカメラだけでできてしまうのは結構大きいかなと思うんですけど。

深田 そこは活用しなかったのが残念ですね、まさにポストで苦労したところです。あの時二人にピンマイクつけたらどれほど楽だったかと思いますね。もう1セット、ワイヤレスを買う必要はありますが。次はやってみたいです。

金川 ちなみにC70についてビューファインダーがないのが心配だという声があるようなんですけど、室内ではピントが合ってるか分かるんですけど、ピーカンの時ってどういう風に対処されてました?

深田 ピーカンのときはさすがに見えなかったので、理想的には金川さんの取り付けてるような感じでモニターを上につけて確認するのが良かったですね。ただ、何かをエクストラで付けたりするのは嫌だったんですよね。このままで行きたかった。

金川 確かにこんな軽いカメラでも上にモニターがあるだけで威圧感出ますもんね。

深田 そうですね、優先順位をどこに置くかですよね。私にとってプライオリティは重さ。ちょっと眩しかったら場所を移るということで対応できました。

 

精神論をもっと語るべき

金川 カメラも自分の身体の一部として使いこなすっていうのはすごい大事だけど、やっぱり人を撮るドキュメンタリーで一番大事なのは、もしかしたら心というか、どう向き合うかということでしょうか。

深田 写真の仲間でいい写真さえ撮れればいいんだみたいな人がいました。やっぱり自分がいい作品を撮ることよりもその被写体のことが大切なんだってことを忘れちゃいけないですよね。自分の作品を優先しすぎて肝心な自分のモチベーション、なぜドキュメンタリーを撮るのか、なんのためにこのストーリーを伝えたいのかということは、絶対忘れちゃいけないですよね。

金川 僕も新聞社の時の師匠にそれは言われました。お前は被写体をどう思ってるんだと。最近の写真を見てると被写体を自分の作品のために使ってんじゃないか、みたいなことを言われて、ハッとしたんですよね。そんなつもりは全然ないんですよ。でも紙面の競合が多い中で、どうにか目立ってほしいという気持ちから、それを突き詰めていくと、どんどん人の心から離れていくところが出てくるのかもしれない。その言葉にハッとして、ああダメだなと。大切なこと忘れちゃいけないなと。

深田 最近そういう精神論は語られないんですかね? 私そういうの語るの大好きなんですけど。テクニカルなことにすごくフォーカスしていて、精神論みたいなのは暗黙の了解なのかわからないですけど、もっと活発に話してもいいんじゃないかなと思います。結局カメラもなんでちっちゃいのがいいかっていうと、被写体の人に負担を与えたくないとか、そういう気持ちからきているので。距離を近くしたいとか、ちょっと話をしたりしながら撮りたいなとか。機材は自分のやりたいことをアシストしてくれるものであるべきだと思います。

金川 確かに。今、ビデオグラファーの人は多くなってきているけど、ドキュメンタリーに進む人が あまりいないなって思っていたんです。なぜそこからこちらに来ないんだろうかと思ったんですけど、今日深田さんのお話を聞いていて、そこは精神論が足りないのかもしれないと。人と向き合うっていうことがどれだけ大変なのかとか、人とどう向き合っていいのか分からない。みなさん、やってみたいんだけどどうしたらいいのか分からないっていう葛藤があると思っています。そこはもっともっと語っていくべきだなと思いました。ぜひこれから精神論も込みのトークをやりましょう! 今日はありがとうございました。

深田 ありがとうございました。

VIDEOSALON 2021年1月号