FUJIFILM X-H1 フィルムシミュレーションを活用してミュージックビデオを撮る


Report◉牧一世 nigoten    Supported by FUJIFILM

MVのコンセプトと撮影設計

今回の作品では、アーティスト本人から「palette」(パレット)という題名にちなんでモノクロからカラーへと色付いていく世界観を演奏シーンとライブペインティングのシーンを絡ませて表現したいというアイデアがあったので、フィルムシミュレーションを活用してアクロス〜エテルナ〜プロビアで徐々に色がついていくような展開にした。外光が美しいスタジオを選び、照明は一切使用していない。現場で撮影しながら、アクロスの階調表現の美しさとプロビアの色彩には感動しきり。動画での評価の高いエテルナは今回つなぎ役に回ったが、アーティストはこのルックが特に気に入ったようで、最後までこれで通してほしいと言ったほどだ。したがってプロビアはフィルムシミュレーションそのままではなく、やや彩度を落としている。

タイナカ彩智「palette」MV

●出演:
タイナカ彩智
http://tainakasachi.net/
植田 志保 ライブペインティング

●監督/撮影:牧 一世
●アシスタント:鈴木 圭介
●メイキング撮影:尾山 翔哉

【使用機材リスト】

本編
FUJIFILM  X-H1×2
FUJIFILM  パワーブースターグリップ ×2
FUJIFILM  XF16mm F1.4 R WR
FUJIFILM  XF56mm F1.2 R
FUJIFILM  XF10-24mm F4 R OIS
FUJIFILM  XF16-55mm F2.8 R LM WR
FUJIFILM  XF50-140mm F2.8 R LM OIS WR
Sachtler Flowtech75
Manfrotto 055カーボン4段 MT055CXPRO4
Manfrotto XPROフルード ビデオ一脚
フルード雲台付 (旧モデル)
PeakDesign リーシュ カメラストラップ L-2
AZDEN SMX-10 (旧モデル)
メイキング
FUJIFILM  X-T2
FUJIFILM  パワーブースターグリップ
FUJIFILM  XF18-135mm F3.5-5.6 R LM OIS WR
■記録
4K(16:9)30p 200Mbps
■フィルムシミュレーション
ACROS
ETERNA
PROVIA
■ホワイトバランス
太陽光
■ダイナミックレンジ
400%

一眼レフからミラーレスへ

世界を席巻した一眼レフムービーの時代は終わり、ミラーレスムービーに移行しようとしている。各メーカーの開発リソースはミラーレス一眼の開発に集中しているように見える。ユーザーとしては、リソースが充分に注がれた製品に投資することが、最も満足を得る確率が高くなると思っている。

日本国民総カメラマンの時代にプロには写真と動画の両方を高いレベルで使いこなすハイブリッドなスキルが求められる。写真には強いが動画は二の次なカメラが多い中、写真と動画、両方の機能を高い次元で両立させたカメラが富士フイルムのX-H1とX-T3だと思う。私はX-H1を2台所有し、ブライダルやWEB動画の撮影にフル活用している。最近では、動画案件ついでに写真も依頼されることが増え、まさに写真と動画のハイブリッドフォトグラファーになってきた。

APS-Cセンサーという選択

いまだにフルサイズ神話が盛んな中「プロフェッショナルなカメラマンに最適なセンサーサイズは何か?」と問われたら、私は迷いなくAPS-Cだと答える。「手軽にボケる」よりも「ボケをコントロールする」こと、要はレンズの焦点距離、被写体と背景の距離感でボケを操ることのほうが大切だし、動画においては被写界深度が深いパンフォーカスに見えることが重要である局面も多い。マイクロフォーサーズという選択肢もあるが、コントロールできるボケの量が少なすぎて「足りない」感が強く、不足がちな光量を確保するのに苦労する場合が多い。カメラはレンズとボディの組み合わせでシステム化された道具である。フルサイズのレンズが現状より小さくできないのであれば、ミラーレス化でボディを小さくできてもシステム全体のバランスは悪いままである。むしろ今回のフォトキナで発表があったフルサイズミラーレスのほとんどがそうであるように、ボディを小さくする方向性に進まないほうがシステム全体のバランスは良い。

 


▲正面から3ショットを押さえ、角度を変えて寄りを撮っていく。

 


▲ストラップを活かしながら手持ち撮影。

 


▲一脚を利用した撮影も。

 

Xシリーズを選ぶ理由

富士フイルムのXシリーズはAPS-Cを基準に最適化されたシステム。ボディとレンズの一体感が素晴らしい。写真のJPEG撮って出しの品質において、富士フイルムが他社の追随を許さず高い評価を得ているのは周知の事実である。それは動画でも同じで、フィルムシミュレーションで得られる「撮って出し動画」の品質は、主に色彩の表現において大変優秀である。長年、世界を代表するフィルムメーカーとして、たくさんの個性的なフィルムを世に送り出し、カメラマンの表現をサポートしてきたメーカーならではの技術である。

動画においてもカラコレやグレーディングが一般的になっているが、カメラ単体の機能として色彩の答えを持ち得ているのは他社のカメラにはない大きなアドバンテージだと思う。

ダイナミックレンジ400%機能による豊かな階調表現も素晴らしい。ISOが800スタートになる使いにくさはあるが、そこはNDフィルターで調整してクリアすれば良い。X-T2では動画において400%を選択できなかったので、X-H1とT3で解消してくれたのは嬉しかった。

 


▲X-H1を2台用意し寄りと引きを同時に撮影。マイクを装着しているがあくまでガイドの音声用。

動画でも使いやすいカメラ

Xシリーズでの動画撮影では写真で使われる「親指AF」を動画撮影でも活用できるのが便利。X-H1ではその操作がとにかく快適なのだ。親指AFボタン&フォーカスレバー&ピントの拡大表示ダイヤル。絶妙なトライアングルが生み出す抜群の操作性には感動すら覚える。

また、背面液晶の情報表示が画面の周辺部にすっきりとまとまっており大変見やすい。また、距離指標とヒストグラムの表示は他社にはない使い勝手の良さがある。

愛用しているのがEVFに装着できる純正のビッグアイカップで、まさにムービー用のようなスタイルで、屋外でもサイド光をカットしてくれる。

これはメーカーによって異なる部分だが、Xシリーズは動画RECボタンがシャッターボタンと同じであり、これはハイブリッドフォトグラファーにとっては何より重要かもしれない。撮影で最も重要なボタンが「ひとつ」にまとまっていることは、迷いが生じないという安心感がある。

最適な記録メディアをめぐる議論も多々あるが、UHS-Ⅱ対応のSDカードスロットを2基搭載している点も評価できる。パソコンへのバックアップ時、ビットレートが100MbpsのデータになってくるとUSB3.0のカードリーダーを使っても時間がかかる。その点、UHS-Ⅱのカードであれば速い。意外にUHS-Ⅱ対応のSDカードスロットを2基搭載しているカメラが少ないのもX-H1が希少な点である。


▲純正オプションのワイドタイプのアイカップ、EC-XH Wが動画では便利。これはX-T3にも使える。

 


▲動画撮影時の画面表示。DISPボタンで非表示にすることも可能。

 


▲バーの青い部分が被写界深度内を意味する。ヒストグラムも分かりやすい。

 


▲フォーカスモードをMFにし、FレバーでAFエリアの移動、AF-ONを押すとAFが作動、ダイヤルをプッシュで拡大、回すと拡大サイズ変更。この位置での親指操作が快適。

 


▲ミラーレスカメラの弱点の一つがバッテリーにある。X-H1も同様。動画撮影ではあっという間に減る。そんな弱点を解消してくれるのが強力なパワーアップツールであるパワーブースターグリップの存在。一脚や三脚に乗せた状態でも素早く交換できる2個入りのスライドインは重宝極まりない。3つのバッテリーの残量は液晶パネル、ボディ右肩の液晶部にも表示される。

メイキング映像

 

ビデオサロン12月号より転載。これ以外にも充実した記事が満載!

 

 

vsw