3月28日に発売を控えた富士フイルムX100Ⅵ。上位機種と同じX-T5と同じセンサー・プロセッサーを搭載した高級コンパクトデジカメ。発売前から予約が殺到し、供給不足の兆しを見せている。スナップシューター・ドキュメンタリーフォトグラファーをターゲットに開発されたX100Ⅵだが、ノンフィクション映像監督として活躍している伊納達也さんに、ビデオユーザー的な視点でこのカメラを評価してもらった。

REPORT◉伊納達也

 

動画レビュー

 

大人気のX100シリーズ最新機は動画機能も強化

富士フイルムの人気カメラX100シリーズに、最新モデルのX100VIが加わった。このシリーズは スナップシューター/ドキュメンタリー写真家をターゲットにしたもので、X100VI発表のプレゼ ンテーションでも「写真を楽しむため」のカメラであることが強調されていた。しかしX100VIは 上位機種であるX-T5と同じ第5世代プロセッサーと4020万画素裏面照射型センサーが搭載されたことで動画機能もかなり強化されており、動画撮影をメインとしたユーザーにも注目のカメラとなった。今回は動画ユーザーの視点からこのカメラの魅力と実際の使い勝手を見ていこうと思う。

 

基本スペックと動画性能は?

まずこのカメラの基本的な部分を確認してみよう。X100IVはX-T5と同じAPS-Cサイズの4020万画素センサーに23mmF2.0(35mm版換算で約35mm)のレンズが組み合わさったレンズ一体型のカメラだ。センサーシフト式ボディ手ブレ補正機構も搭載されており、最大6ストップの補正がかかる。

動画撮影機能についてみてみると、解像度に関しては最大6.2K/30pでの撮影が可能で、6.2Kをオーバーサンプリングして4Kで収録する4KHQという撮影モードもある。しかしこれらの設定ではセンサー全面を使うことはできず1.23倍のクロップがかかる。オーバーサンプリングなしの4K/24、25、30pの場合はセンサーの横幅をフルに使った撮影が可能で、4K/50、60pの場合は1.14倍 のクロップがかかる。カラーサンプリングやビットレートについては10bit 4:2:2、最大 200Mbps。(ただしAll-IntraではなくLong-GOP収録。)

富士フイルムXシリーズの中でも動画と写真両方の使い勝手を両立したハイブリット機X-H2/X-H2Sではなく、写真撮影を中心に作られたX-T5の動画撮影スペックによく似ており、イメージとしては「よりコンパクトでレンズ一体 型になったX-T5」と考えるとわかりやすいかもしれない。Log撮影も可能でF-LogとF-Log2の両方を選ぶことができる。また富士フイルムがこれまで培ってきたフィルムカラーのノウハウを活かしたフィルムシミュレーション機能も搭載しており、人気のクラッシッククロームやクラッシック ネガ、ETERNA/シネマなどに加えて、GFX100 IIから加わったREALA ACEにも対応している。

▲4K/60pや6.2K撮影の場合にはクロップが入る。

 

4段分のNDフィルターが内蔵

私が「X100VIを動画で使っても面白いかも」と思った理由は、このカメラにNDフィルターが内蔵されているという点にある。X100VIには4段分のNDフィルターが内蔵されており、これを動画撮影時にも使用することができるのだ。最近のミラーレスカメラはどのメーカーのものも動画機能が非常に充実してきているが、「コンパクト」かつ「APS-C以上のセンサーサイズ」で「Log や4:2:2 10bitで動画が撮影」できることに加えて「NDフィルターが内蔵されていること」までも全て兼ね備えている機種は非常に稀だった。(筆者の記憶だと多分これまでなかったはず…)

現状、内蔵ND機構があるカメラはセンサーサイズの小さいカムコーダー的なものか、センサーサイズが大きいものだとソニー FX6やBlackmagic Pocket Cinema Camera 6K Proあたりが最も小さい機種だった。動画撮影においてNDフィルターはシャッタースピードや絞りなどを変更せず に露出をコントロールするために必須のアイテムなので、片手で持っても疲れないようなサイズ感のカメラにNDフィルターが内蔵されたことで、これまでのカメラにはできない使い方ができるのでは? と思い、X100VIに興味が湧いたという経緯があった。

 

単体で撮影ができる自由さが何よりの魅力

そんなことを考えながら、実際にX100VIを持ってスタジオの周りを撮影してみた。まず何より嬉しかったのは「何も周辺機器を持っていかなくてもいい」ということだ。これまで小型のミラー レスカメラでは、気軽に撮影しようと思った時でも屋外での撮影ならばカメラボディの他に最低限レンズとNDフィルターは持っていっていた。

X100VIはレンズ一体型であり4段のNDが内蔵、さらに手ブレ補正機構も入っているので、このカメラだけ持っていけば撮影が成立してしまうという手軽さが嬉しい。内蔵NDは可変のものではなく一枚のみのため、より厳密なコントロールが 必要な場合はやはりこれまでと同じように外付けで可変NDフィルターなどを使う必要があるが、 それでも晴天の屋外など明るい環境では4段のNDはあるのとないのとでは、できることの幅が大きく変わってくる。

▲NDフィルターのON/OFFはメニューから行うが、ボタンやダイヤルにもアサイン可能なので撮影中にワンタッチでON/OFFできる。

 

バッテリーの持ちも悪くない

コンパクトなカメラであるX100VIは搭載されているバッテリーも小型のものになっている。Xシリーズの上位機種であるX-H2やX-T5で使われているバッテリーの容量は2400mAhだが、X100VIは1200mAhのものが使われており、バッテリーの持ちがどのくらいになるのかは気になっていた。4K/24pで動画を連続収録してみたところ、1時間26分で収録が止まり電源が落ちるという結果になった。

メーカーの公式サイトでX-T5の連続撮影電池寿命が約130分(4K撮影時) と表記されていることを踏まえるとX100VIの結果はかなり良く、電池容量から想像していたよりかなり長く撮影ができた。電池の持ちが悪いことで有名なBlackmagic Pocket Cinema Camera 4Kを愛用していた私としては、十二分に問題なく使えるバッテリー持ちだと感じた。

 

コンパクトボディであるが故の欠点も

そんな素晴らしい撮影体験ができるX100VIだが、動画撮影に使う場合には使いにくい部分もやはりいくつかある。そのほとんどはボディのコンパクトさとトレードオフな部分でもあるので、このカメラを使いこなすためにはこれらの使いにくいポイントをうまく乗りこなすことが求められるだろう。

一番の問題はボディ底部にある。X100VIでは底部にあるバッテリーの蓋が三脚穴と近すぎて三脚プレートをつけると蓋を開けることができないのだ。小型なPeakDesignのアルカスイスプレートでも無理だったので、ほとんどのプレートが蓋を塞ぐことになるだろう。そしてこのバッテリー蓋の中にはSDスロットもあるため、バッテリー交換だけでなくSDカード交換の度にも三脚プレートを外す必要がある。この問題はSmallRigから発表されたX100VI用のL字グリップやケージでプレートの設置場所をずらすことなどで解決は可能になりそうだ。しかしせっかくのコンパクトさが犠牲になること、三脚プレートの設置位置が光軸からずれてしまうことなどの問題もあり、何を優先するのか悩ましい部分でもある。

▲コンパクトすぎるが故にバッテリー蓋と三脚穴との間が非常に近くなっている。

 

他の問題は端子類に関するものだ。このカメラには2.5mmステレオミニジャック、USB Type C、HDMIマイクロ端子の3つの入出力端子がある。HDMIがマイクロ端子であることは、このサイズのカメラで外部モニターを使う場面はあまり思い浮かばないのであまり問題とは言えないだろう。(カメラよりモニターのほうが大きくなることが多そうだ。)注意が必要な点は、マイクを繋ぐ場合、端子が2.5mmのものであり一般的な3.5mm端子用のマイクを使うためにはアダプ ターが必要であること、そしてイヤホンを繋ぐためにもUSB-C端子からアダプタで変換をする必要があるということだ。

さらにこれらの端子類がカメラのグリップ側に位置しているため、マイクやイヤホンなどを繋ぐとカメラグリップをしっかりと握ることができなくなってしまう。個人的にはこの端子の位置が一番悩ましく、マイクを繋いで撮影する際にはカメラのグリップ以外の部分 を持って撮影を行うために何らかの工夫が必要になりそうだと感じた。

▲入出力端子がグリップ側にあるので、マイクやイヤホンを繋ぐとグリップが握れない。

 

汎用性がないからこその魅力があるカメラ

X100VIが映像制作を仕事として行う人のためのカメラではないことは誰の目にも明らかだろう。 レンズ交換ができないため様々な焦点距離に対応することはできず、コンパクトボディであるが故に使い勝手の汎用性も高くはない。しかしその汎用性を割り切って捨てることで、このカメラには他にはない独自の魅力が宿っている。それは「いつでも使えるメインカメラ」であるというこ とだ。

昨年iPhone15 Proが発売された時、私はこれと同じような期待を感じた。ProResやApple Logが搭載されたことで、「いつも持ち運んでメインカメラとしても使えるカメラがきた!」と思ったのだ。しかし実際に半年ほど使ってみると、その期待通りの使い方はなかなかできなかった。自分の意図した映像を撮るためには外付けでNDフィルターをつける必要を感じたし、ちょっと固定して撮りたいという時にもアダプタやケースがないと三脚に固定できない。ProResやApple Logで撮影できる画質は素晴らしいが、逆にいうと撮って出しの画質には「iPhoneっぽさ」が残っていて、そのままですごく綺麗というわけではなかった。思ったよりも必要なものや手順が多く「いつでも綺麗に」は撮れなかったのだ。

そういった意味で、私はこのX100VIこそが「いつでも使えるメインカメラ」となりうる可能性を持ったカメラなのではないかと思っており、特に日常や普段行なっていることをドキュメンタリー的に映像を使って発信していきたいという人にこそオススメしたいと感じている。

最近では、様々な仕事やプロジェクトを持っている人が、ドキュメンタリー的に自分の活動を映像で発信するということが珍しくない。大工や庭師、トラック運転手、スポーツ選手、農家、整備士などなど、あらゆるジャンルの人たちが従来のYouTuber的な番組風映像ではなく、自分たちの仕事の日常をいわばセルフドキュメンタリー的にSNSで見せていくことも多くなっており、人気を博している。

こうした用途にこのX100VIはちょうどいいのではないかと思う。メインの活動を阻害しない気軽さとサイズ感でありながら、撮れる映像のクオリティは高く、写真撮影にも勿論使える。また、周辺機器を繋いだり、三脚で長時間撮ることが多くなければ、前述したような 欠点も気にならないだろう。

映像作りは、家族や恋人などとの思い出を残す「記録」としての用途と、しっかりと売り物としてのクオリティや結果を追求していく「仕事・作品」としての用途の両極端に目的が分かれがちで、写真のように「ただ撮ることを楽しむ」ことや「自分の立場だからこそ見えたものを映像を使って共有する」というような、記録と仕事の間のような映像制作がまだそこまで発展していないという状況があるのではないかと私は思っている。 このX100VIというカメラは、日常の中に「撮って、発信することを楽しむ」という要素を持ち込 んでくれるカメラな気がしており、私はこのカメラがこれから映像制作の新しい楽しみ方を生んでくれるのではないかと密かに楽しみにしている。

 

▲天面のダイヤル類はX-Hシリーズとは違い、写真向けな構成。

▲レンズは前機種X100Vから引き継がれた23mmF2.0のもの。ミラーレスではなかなか難しい内蔵NDとボディ内手ブレ補正の両立もレンズ一体型ならでは。




▲X100VIで撮影した映像から書き出した画像。フィルムシミュレーションのクラッシッククロームで撮影し、編集時に少しコントラストなどを調整。

 

◎製品詳細

https://fujifilm-x.com/ja-jp/products/cameras/x100vi/