REPORT◎千葉 孝

協力:日本サムスン株式会社、ITGマーケティング株式会社

機材協力:ブラックマジックデザイン

 

昨年末、突然発売されたURSA Mini Pro 12Kは、「URSA Mini Pro4.6K G2の後継機は8K」という大方の予想を見事に裏切り、まさかの12K BRAW(Blackmagic RAW)収録という想像を絶するスペックで世界中のフィルムメーカーたちの度肝を抜いた。正直な話、筆者が日々携わる撮影業務ではまだまだ8Kすら珍しく、12Kのフルスペックを必要とする撮影は未知の世界だ。

しかしながら過去を振り返ると、10数年前にRED ONEが初上陸した時も4K/RAW収録というスペックに戸惑ったものだ。だが今や当たり前に4K撮影が普及しているわけで、近い将来、12K収録がごく普通のことになる時代が来るのかもしれない。

いろんな意味で話題を振りまいたURSA Mini Pro 12Kであるが、実用性の観点から言うとやはり気になるのは、12K/BRAW収録という未知の大きさのファイルサイズの扱いをどのように安全かつ効率的なワークフローに組み込んで行くかということであろう。

URSA Mini Pro 12Kの記録メディアはSDUHS-II)、CFast 2.0USB接続の外付けSSD、別売りのURSA Mini Recorderで使用可能な2.5インチU.2 SSDなどとなっている。ただしブラックマジックデザインのカメラユーザーであればよくご存知だと思うが、解像度、フレームレート、RAWの種類、コーデックによって収録可能なメディアは変わってくる。

以下の図はURSA Min Pro 12Kの最高解像度(17:9 DCI)におけるコーデック、フレームレートごとのデータレートとブラックマジックデザインでの推奨メディアリストのステータスを整理したもの。(リストで明記されているものを○、データレートに対しメディアの実効速度が足りないものを×、不明なものを???としている)

▲UHS-IIは312MB/s(書き込み250MB/s程度)、CFast 2.0はほぼSATAⅢなので書き込みは500MB/s程度が上限のため、5:1 30pや8:1 50pは収録不可

(データレート、収録時間は以下のURLにて算出)
https://www.blackmagicdesign.com/products/blackmagicursaminipro

これを見ると、それなりのデータレートが必要とされる固定ビットレート5:1や8:1で30フレーム以上の収録を行うには内蔵カードスロットのメディアでは対応できず、USB-C 3.1 Gen2拡張ポートを利用したURSA Mini Recorderなどの活用が前提となることがおわかりになるだろう。

 

▲URSA Mini Recorderは本体とバッテリーの間に装着する。

ブラックマジックデザインからは過去にもURSA Mini用のSSDレコーダーが発売されていた。大きな違いは旧モデルが2.5インチSATA規格のSSDを使用するのに対し、今回の新モデルはU.2規格のSSDを使用することだ(従来のSATA規格SSDも使用可能)。また、旧モデルはカメラ本体のHD-SDI端子を占有する仕様であったが、新モデルはURSA Mini Pro 12K側面のUSB-C(10Gbps)コネクタを使用してレコーダーに接続するため、より撮影現場での使い勝手がよくなっている(抜け防止ロック付の専用ケーブル付属)。

今回はテスト用にITGマーケティング社より、PCIe 4.0 M.2 NVMe SSDSamsung 980 PRO 1TB」並びにPCIe 3.0 M.2 NVMe SSDSamsung 970 EVO Plus 2TB」をお借りして検証した。

というのも、U.2 SSDSamsung製では983 DCTが推奨リストにラインナップされているが、もともとはサーバー用の製品であるため、入手しにくく、価格も2TB10万円近くする。

980 PRO」「970 EVO Plus」は同社から発売されているNVMe M.2 SSDであり、SATAⅢの実効転送速度600MB/sに対し、980 PROは最大5,100 MB/sとなっている(970 EVO Plusは書き込み速度最大3,300MB/秒。共に有効なPCシステム構成下におけるメーカー公称値)。

形状的にはケースなしのM.2なので、当然このままではURSA Mini Recorderには使用できない。そこで2.5インチU.2接続するためのアダプタ「ICY DOCKM.2 NVMe SSD to 2.5” SSD Converter Adapter」にて変換しU.2接続した。

▲NVMe M.2 SSDの「970 EVO Plus」を2.5インチU.2変換アダプタに取り付ける。

▲左から、2.5インチ SATA SSD2.5インチU.2 SSDのコネクタ形状。接続インターフェースが異なるため、互換性はない。

▲NVMe M.2 to 2.5インチ U.2 SSD変換アダプタのコネクタ形状。

 

テストは「980 PRO 1TB」「970 EVO Plus 2TB」ともにブラックマジックデザインの「URSA Mini Recorder推奨SSDリスト」に記載されているカメラ設定に則り、「12K  DCI Blackmagic RAW 8:1」、プロジェクトフレームレートを 30と50それぞれで20秒のクリップを20回繰り返し収録し、最後にSSD容量いっぱいまでの長時間収録を行なった。

 

12K DCI Blackmagic RAW 8:1設定 20秒クリップ 20テイク収録 最大容量まで収録
(フォーマット時残量)
980 PRO 1TB / フレームレート30 ○(36分)
980 PRO 1TB / フレームレート50 ○(21分)
970 EVO Plus 2TB/フレームレート30 ○(73分)
970 EVO Plus 2TB/フレームレート50 ○(44分)

 

今回のテストでの結果は以上のようになった。筆者のテスト環境下ではフレームレート30と50ではドロップフレームは確認できなかった。それにしてもさすがに2TB SSDだと12Kという途方もないレゾリューションのRAWファイルでも73分も収録できるのは圧巻だ。

長時間の収録になりがちなドキュメンタリーやライブなどで重宝されるのではないかと思う。

また、ここで注意したいのはテストに使用した「970 EVO Plus」はブラックマジックデザインのSSD推奨リストには記載されていないことだ。しかしながら今回筆者の行なったテスト環境下においては問題なく動作した。スペック的にも同社の推奨する他社SSDと変わらないこともあり、導入検討対象に加えても問題ないかと思われる。

参考までに市場価格は「980 PRO 1TB」が¥25,232、「970 EVO Plus 1TB」が¥18,970となっており(2021/06/29 Amazon調べ)、安くなってきたとはいえ、まだ売値10万円ほどで推移している同容量のCFast 2.0カードと比較するとかなりコストパフォーマンスは高い。

収録したSSDからPCへ取り込む必要があるが、U.2 SSDなので何らかのアダプタが必要になる。今回はICY DOCKのU.2 NVMe SSD to USB 3.2 Gen 2アダプタを使用した。PC側コネクタはUSB 3.2 Gen2になる。

この状態で最後に「980 PRO 1TB」と「970 EVO Plus 2TB」の速度をCrystalDiskMarkで計測してみた。

 

980 PRO 1TB(USB 3.2 Gen2変換)

 

970 EVO Plus 2TB (USB 3.2 Gen2変換)

USB 3.2 Gen2変換がボトルネックになっているため、980 PRO970 EVO Plusの性能差は微差という結果である。後述する通り、複数枚保有する前提であれば、最新規格に対応している980 PROと比べて比較的安価な970 EVO Plusを選択するのも大いにアリかと思う。

筆者は発売当時からURSA Mini4.6K G2を運用し、今でも愛用している。正直、手持ちのCFast2.0カードが8枚もあれば通常の撮影に支障を感じることは今までなかった。

しかしながら12K収録となると話は変わってくる。4.6K撮影においてSSD収録は特別大容量が必要になる撮影に使用が限られていたが、12K収録をメイン機と据えるならば1TB以上の大容量な高速U.2 SSD数枚は必須だと感じた。高画質、高精細化が進む中、膨れ上がる記録メディアのコストと収録後のデータの取り回しも意識しつつ、自分にあった最適な運用を考える時代もそう遠い未来ではなさそうだ。

※テストはあくまで筆者の環境下においての結果であり、すべての環境下で動作を保証するものではありません。

 

 

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