検証●株式会社TREE Digital Studio  CRANK / DIT Dept. 板井哲洋/福井淳史
協力●日本サムスン株式会社、ITGマーケティング株式会社

シネマカメラを利用したハイエンドの映像制作現場でSSDはどう活用されているのか? TREE Digital StudioのCRANK(クランク)でDIT業務を担当している板井哲洋さんと福井淳史さんにお話を伺いながら、SamsungのポータブルSSDをはじめとしたSSD製品を現場業務を想定して検証していただく機会を得た。
板井さんには、デジタル・ガーデン所属時代に、SamsungポータブルSSD X5を検証していただいたことがあるが、あれから5年が経ち、さらにカメラの高解像度化、記録メディアの大容量化が進んでいる今、SSDになにが求められるようになったのか、検証しながら明らかにしていく。

(聞き手:編集部 一柳)

CRANKにおけるDITの業務とは

TREE Digital Studioは、2021年に映像制作業界で実績のある会社が統合して新しくスタートした。デジタルガーデンはポストプロダクション、CRANKは撮影、機材レンタルとして実績があったが、TREE Digital Studioの一部署となり、板井さんはDITとしてCRANK事業部の所属となっている。

左からCRANKのDIT  板井哲洋さん、同じく福井淳史さん。

DITの役割は、撮影部(カメラマン)と連携して機材の選定、メディアやデータの管理、LUTの管理、データのバックアップなど。SSDに関わる具体的なところで言うと、撮影現場で記録メディアからデータをSSDにコピーし、オフライン用のデータを作成し、制作部が用意したプロダクションアーカイブ用と編集用のふたつのSSDに本データとオフライン用データをコピーするまで。撮影を進行しながらバックアップをとるが、使用するストレージはできるだけ高速、かつ信頼できることが望ましい。SSDの大容量化が進んだことで作業に使われるストレージは今やすべてSSDになっている。

CRANKではデータのコピー作業はMacBook Proで行なっている。使用する環境としては、AC電源が使える場合と使えない場所があるので、ストレージやリーダーなどはそのあたりの電源環境も考慮して選択する必要がある。またコピーは単純なデータコピーではなく、SilverStackというツールを利用して、コピー時にエラーが起きていないか検証しながらコピーする(ベリファイコピー)。ちなみにオフライン用のデータ作成はDaVinci ResolveでARRI RAWからProResに変換する。

▲ベリファイに対応したデータコピーソフトSilverStack Version.8.6.4

転送レートと記録時間の違いを検証 

CMの現場で今使われることが多いのは、ARRIのALEXA 35。今回はそれを想定して、記録メディアであるCodexコンパクトドライブ2TBから、各SSDにコピー(+ベリファイコピー)し、転送レートとコピー時間を計測してみた。使用したリーダーは2種類。USB-Cインターフェイス(USB 3.2 Gen 2接続)のCodex Single Dock Compact Drive ReaderとThunderbolt 3接続のCodex Compact Drive Dock。ただし後者は別途電源が必要になる。

なお、ARRI社のウェブサイトで公開されている ”Formats & Data Rate Calculator”によると、Compact Drive 2TBを使用した場合のALEXA 35での最高画質(ARRIRAW 4.6K 3:2 Open Gate)におけるフレームレート別のビットレートおよび記録可能時間は以下の通り。59.94pだと約1400MB/sの連続書き込み性能が求められる計算になり、2TB(正確には1.92TB)の記録メディアでも22分程度しか記録できないことになる。

フレームレート 23.976p 29.97p 59.94p
ビットレート(MB/s) 557.5 696.9 1,393.4
記録可能時間(h:mm:ss) 0:56:03 0:44:51 0:22:25

ALEXA 35用の記録メディア、Codex Compact Drive。1TBと2TBがあるが、2TBのほうが書き込み速度が速く、よりハイスピードに対応するなど仕様が異なるので、運用時には注意が必要。

リーダー(ドック)は2種類ある。左がCodex Compact Drive DockでインターフェイスはThunderbolt 3、右がCodex Single Dock Compact Drive Reader(USB 3.2 Gen 2)

転送先のメディアは3種類。Samsung ポータブルSSD T7 Shield(4TB)、同じくT9 (4TB)、そして、ArecaのSSD RAIDストレージARC-8050T3U-6M(約38TB/RAID 5)。それぞれのインターフェイスはT7 ShieldがUSB 3.2 Gen2(10Gbps)、T9がUSB 3.2 Gen 2×2(20Gbps)、ArecaがThunderbolt 3(40Gbps)。Arecaは電源が必要になる。

 素材は、ARRI RAWで、解像度は4.6Kオープンゲート(4603×3164)、フレームレートは23.98fps、データサイズは7クリップで1.22TBとなった。

MacBook ProはM1 MaxでMacOSはMonterey。検証ソフトウェアはSilverStack V.8.6.4で行なった。

右手前がSamsungポータブルSSD T9、同じくT7 Shield、Codex Compact Drive Dock、左上がAreca SSD RAIDストレージARC-8050T3U-6M。

どの方法がもっとも高速にコピーできるのか?

2種類のリーダーと3種類の記録メディア、ベリファイの有無でコピー時間と転送速度を計測してみる。そのルートをまとめると以下の通り。

結果はこのようになった。

コピー先
ストレージ
リーダー コピー方法 コピー時間
(h:mm:ss)
転送速度(MB/s)
Areca SSD
RAIDストレージ
Compact Drive
Dock(Thunderbolt 3)
NonVerifiCopy 0:10:11 1998.00
VerifyCopy 0:20:08 1975.70
Single Dock Compact
Drive Reader (USB 3.2 Gen 2)
NonVerifiCopy 0:20:40 985.30
VerifyCopy 0:41:32 972.30
T9 Compact Drive
Dock(Thunderbolt3)
NonVerifiCopy 0:22:04 922.70
VerifyCopy 0:42:18 919.90
Single Dock Compact
Drive Reader (USB 3.2 Gen 2)
NonVerifiCopy 0:27:52 730.90
VerifyCopy 0:42:34 909.10
T7 Shield Compact Drive
Dock(Thunderbolt 3)
NonVerifiCopy 0:23:42 858.90
VerifyCopy 0:45:52 808.20
Single Dock Compact
Drive Reader (USB 3.2 Gen 2)
NonVerifiCopy 0:25:43 791.80
VerifyCopy 0:44:24 856.50

▲転送速度はSilverStackに表示された数値

コピー時間には倍以上の差がある

どのケースもコピー時の転送速度はノンベリファイでもベリファイでもそれほど差はないが、ベリファイをかけることによりコピー時間は約2倍になる。

最速のパターンはThunderbolt 3対応のリーダーを利用して、Areca SSD RAIDストレージにコピーした場合で、ベリファイコピーであっても約20分でコピーが完了する。もっとも時間がかかるのはスペックどおりT7 Shieldで、リーダーがUSB 3.2 Gen 2でもThunderbolt 3でも、約45分と倍以上の時間を費やしてしまう。

撮影メディアからストレージへのコピー時間比較

▲ベリファイコピーで比較

T9のインターフェイス規格であるUSB 3.2 Gen 2×2はMacBook Proで対応していないため、T9とT7 Shieldは速度・時間ともにほぼ同じ結果となった。MacBook Proをメインで使用しているため、T9の恩恵を享受するにはアップルの対応次第になるだろう。

DITが撮影現場でRAIDストレージを使用する際には別途電源が必要となるため、特にロケなど屋外での使用を想定した場合は、利便性に優れるポータブルSSDを使用することが多い。しかしポータブルSSDはその高速性能とコンパクトさ故に、大容量コピーや外気温が高い場合に熱暴走を起こすことがあったという。そのため、常に小型の扇風機やファンで冷やしながら使うことになり不便だったが、T9やT7 Shieldは熱ダレに強い製品設計を行っていることもあり、冷却なしでも安心して使用することができた(SSDの特性上、連続書き込み時などにファンなどで冷却を行うこと自体は有効な熱対策ではある)。

RAIDストレージは電源が必要となるが筐体にファンが組み込まれており、データコピーの安全を最優先で考える場合、冗長性にも優れるSSD RAIDにすべきであると、今回の検証であらためて感じた。

▲Areca SSD RAIDストレージは4ピンのDC入力端子も備えているので、たとえばVマウントバッテリーをホットスワップで利用できるプレートから電源供給して運用することも考えられる。

今回、2種類のリーダーを使って検証したが、当然Thunderbolt 3対応のリーダーのほうがメディア、外部ストレージのスペックを最大限に引き出せるので結果はよかった。しかしこのリーダーはSSD RAIDと同じく、別途電源が必要となる。

それぞれ一長一短があるので、メリットとデメリットをまとめてみた。 

SSD RAIDストレージ(40Gbps / 10Gbps) ポータブルSSD T9(20Gbps) ポータブルSSD T7 Shield(10Gbps)
Thunderbolt 3 リーダー(40Gbps) 別途電源は必要だが、転送速度、データ冗長性、大容量化の面で優位 リーダーの電源が必要かつホスト(PC)がUSB 3.2 Gen2x2非対応の場合SSDの速度がボトルネックに リーダーの電源が必要かつ、SSDの速度がボトルネックに
USB-C リーダー (10Gbps) リーダーの速度がボトルネックとなり、10Gbpsが上限となる USBバスパワーのみで使用可能。インターフェース速度は10Gbpsまで USBバスパワーのみで使用可能

CMの撮影現場で、ARRI ALEXA 35を使う時は2TBのメディアを3枚持参することが多い。1枚を使っているときに記録済のメディアをバックアップすることができ、万が一、1枚に不具合が出ても対処できる。バックアップ用のSSDは6TB以上、8TBあると安心だ。CRANKの場合は、1案件ごとにSSDを空にしてすぐに再利用しているが、複数のプロジェクトに携わるような個人のDITであれば、ArecaのSSD RAIDストレージくらいの容量があると安心だろう。

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https://www.itgm.co.jp/product/ssd-893-raid.php
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https://www.amazon.co.jp/dp/B0BSQSNKYF/(Amazonサイト)