Blenderのモデリングからレンダリングまで
VFXは自分の頭の中にあるものを描けるという部分が一番面白い
僕は小学生の頃に映画『ALWAYS 三丁目の夕日』を見てVFXを知り、当時から映像を作っていましたが、仕事として始めたのは高校の終わり〜大学生になってからです。なので、映像制作を始めて16年、PhotoshopやBlenderとはかれこれ13年以上の付き合いです。
その後、たまたま『ALWAYS 三丁目の夕日』の山崎 貴監督と交流があったので、「仕事をください!」と言いに行ったところから本格的にスタートしました。他でもコンポジターとしても仕事をしていましたが、山崎監督が手がけた西武園ゆうえんちのアトラクション『ゴジラ・ザ・ライド』にCGアーティストとして参加できたことで仕事の幅が広がりましたし、『ゴジラ-1.0』につながるきっかけでしたね。まさか4年間ほどで、『ゴジラ-1.0』の仕事をさせてもらえるとは思いませんでした。
僕のキャリアは特殊な例かもしれないですけど、実写クリエイターの方にもVFXは有効な表現手法だと思います。先ほどお話ししたとおり、企画や撮影の部分も絡んでくるので、実写クリエイターの方も現場を回すために知っておいて損はないはずです。
あと、「環境撮ります」と言っているCG部が現場で何をやってるのか理解するだけでも、いろいろスムーズに理解できる部分はあるのかなと思います。
個人的に、VFXというのは、自分の頭の中にあるものを描けるという部分が一番面白いところだと思います。テクニカルなところに関しては誰でも言語化できるし、誰でも習得できるべき技術だと思っているので、これからCGアーティストを目指さない人でも、ある種遊びのような感じでも構わないので、VFXをやっていただけたらうれしいなというふうに思っています。
文字が浮き出るような効果を狙ったモデリング作業
モデリングをしやすくするために、カメラからトラッキングした実写映像を投影。あとは「ゾ」の文字になぞるように平面を変形させていく。今回は「ゾ」が浮き出すような映像を狙っているため、文字のフチからほんの少し内側を狙ってなぞり、平面を押し出すことで立体にする。
平面の変形と押し出しの組み合わせで「ゾ」を作ったが、このままでは無機質な立体物となっている。実写素材で黄色い「ゾ」を再現するためには、マテリアルを追加し、ディティールを転写する必要がある。ここで使うのが「ベイク」の機能。画像テクスチャに実写素材の黄色い部分を写しとる(焼き込む)ようなイメージで、色だけでなく道路のひび割れなども再現できる。
モデルが上下する簡単なアニメーションをつけてレンダリング
「ゾ」のモデリングが終わったら、アニメーションをつけていく。今回は道路から「ゾ」が浮かび上がるシンプルなものなので、動きの始点と終点に位置のキーフレームを打つことで、簡単な上下のアニメーションをつけた。ここまできたらレンダリングをするが、注意点はシャドーの設定。オブジェクトのプロパティの中にある「シャドーキャッチャー」をオンにすることで、「ゾ」のモデルと「ゾ」が落とす自然な影を別でレンダリングすることができる。レンダリングする際には出力の設定で「OpenEXR マルチレイヤー」を選択。ビューレイヤーのパス内にある「シャドーキャッチャー」もオンにしておく。Blenderの作業はこれで完了。あとはFusionでの合成作業に入る。
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合成のためにおさえておきたい色空間の話
色空間とは色という“感覚”を数値で表現したものですが、これが合成で大切な概念になります。色には物体、光源、観測者の3要素が必須ですが、観測者はあくまで“感覚”でしかありません。そこで、色を定量化するためにXYZ表色系という色の表現方法が生まれました。そのひとつがCIExy色度図です。これは人が感じられるすべての色の範囲を表しています。
たとえば一般的なモニターで使われているsRGBという色空間の範囲は色度図の三角形の部分。赤の部分の角は表示できる一番赤い赤、つまりRed100%、コンピュータの色は8bitで表されるのでPhotoshopなどではR255のときの赤です。高色域モニターはこの三角形が広くなるので、同じRed100%でも、モニターによって表示される色が異なります。
加えてガンマ(伝達曲線)もあります。これは明るさの変化具合です。我々が見ている光はリニアで、直線的な動作をします。しかし、コンピュータの中で扱われる光は、実は直線的ではありません。ソフト側で明るさを歪めて、ハード側(ディスプレイ側)で打ち消すことで、モニターの表示上で現実と同じ状態にしているわけです。この他にも、ダイナミックレンジを保つ伝達曲線としてLogがあります。LogもsRGBも、そのままでは明るさが歪んでいるので合成時はリニアライズという前処理が必要になります。ただ、そのままだとディスプレイの逆の伝達曲線によって表示上明るさが歪んでしまうので、最終的にまたRec.709などのガンマをかける必要があります。
そうは言っても何だか分からないし面倒…と思うかもしれませんが大丈夫です。入力と出力の色空間さえ意識していれば、あとは勝手にうまいこと扱ってくれるACESという素晴らしいシステムがあります。これだけ意識しておさえていれば、Fusionで合成する際に色が勝手にうまく合うようになります。
DaVinci ResolveのFusionで合成する
入力と出力の色空間を合わせれば簡単に合成できる
DaVinci Resolveの設定からカラーマネジメントを選択。カラーサイエンスが「ACEScct」になっていることを確認し、ACES入力トランスフォームと出力トランスフォームを意識するだけで、DaVinci Resolve側でちょうどいい色に合わせてくれる。また、Blenderでレンダリングしたデータを読み込む際に色に違和感が出るのは入力の色空間が正しくないから。入力トランスフォームをsRGB(Lenear)に変換することで、自然な色合いにマッチする。
DaVinci Resolveの合成用ツールFusionに背景の実写素材を読み込んだら、Blenderで作ったCGを乗せていく。「ゾ」の立体モデルと影のデータのふたつをレンダリングしたので、まずは立体モデルのデータを乗せ、レイヤーの項目で「rgba」を選択。これだけで立体モデルの合成が完了する。次にシャドウのデータも同様の手順で乗せていき、レイヤーの項目「shadowcatcher」を選択する。
シャドウのデータは乗せると影以外の部分が真っ白な状態に(左画像)。これはBlenderのシャドウキャッチャーレイヤーが乗算処理を前提に作られているため。シャドウのデータを乗せたマージを選択し、適用モードを「通常」から「乗算」に変更。影がないといかにも合成っぽい映像(下1枚目画像)だったが、自然な影が落ちることで実在感が出る(下2枚目画像)。
グレーディングは作業用の色空間を噛ませてから行う
VFXの作業が終わったら最終のグレーディングへ。ここでも入力と出力の色空間に注意して進めていかなければならない。グレーディングを行うノードに入る前にカラースペース変換で入力ガンマをACEScctにしておくこと(出力はここではCineon Film Log)、グレーディング後のカラースペース変換でACEScct(入力はここではRec.709)にしておくことが必要になる。
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A.
Editページではレイヤーを積み重ねていく形になりますが、Fusionページでは素材の相互の関係をより細かく調整できるので、できることの幅がまったく違います。あと、Editページで合成をやろうとすると複合クリップが大量に生まれてしまいますし、動作も重くなってしまうので、そもそもFusionのほうが向いている、ということです。
A.
自分で撮るのも全然ありなんですけど、良いカメラで撮影されたRAWやLogの素材がおすすめです。スマホで撮影したものは色空間や焦点距離が特定できなかったりするので、いろんな制約から難しくなると思います。ActionVFXというサイトには、VFX練習用の素材が無料公開されているのでオススメです。
A.
色空間さえ合わせられればだいたいマッチするんですけど、カメラによって若干特性があるので注意が必要です。まあ、色温度と露出を合わせれば同じ色に持っていくことは可能だと思いますが、iPhoneのように非公開な部分が多く、定量化できないスマホは色を合わせるのに苦労することが多いです。
A.
VFXには“魅せるVFX”と“インビジブルVFX”の2種類があって、魅せ方は無限にあります。映えという意味では、現実にはありえない、頭の中を描けるのがCGやVFXの良さですよね。ただ一番大事なのはストーリーテリングの部分。その上でVFXの技術が乗ってくると面白い映像になるかなと思います。