VFXの実体とは

● リアリティ、存在感=影、陰影、映り、空気感、ハイライト、フォーカスなど

● いかにもリアルに、いかにも本物らしく見せる、思わせる


● 知らず知らずに引き込む、ハッとさせる

● Forced Perspective(強制遠近法)、 Anamor phic Illusion(錯視効果を利用したトリックアート)


● 撮影できない場所、人間のイマジネーションや見えないミクロの世界

● 宇宙空間、未来や古代、ファンタジーなど


何が必要かを「デザイン」、「設計」しなければVFXは“映らない”

実写であればそこに映るけれど、CG・VFXの場合は何かを作って撮影、もしくはレンダリングしなければ映像として映し出すことはできない。VFXには、イマジネーション(想像)と、クリエーション(創造)両方が必要な要素となる。



VFXに必要な知識とスキル

「DCCツール」という考え方

複数のツールを組み合わせることで今までできなかったことができるようになる

最近ではCGソフトという言葉をあまり使わなくなり、DCCツールという言い方をすることが増えました。DCCツールとは、デジタルコンテンツクリエーションツールの略で、3DCG領域において必要な機能が入ったソフト全般のことを指します。

CGの世界も多様化の時代に入り、さまざまなツールを組み合わせることで、ひとつのツールではできなかったものを表現できるようになったり、新たな結果を生み出すことができるようになったりました。なので、ツールごとの特徴や効果、パフォーマンスを熟知した上で、DCCツールをうまく組み合わせていくことがより重要になります。つまり、「Mayaだけ使えればいい」という時代は過ぎ去っていて、MayaとBlenderやHoudiniなどを組み合わせることで、何を生み出すことができるのかを理解することが大切です。

DCCツールにもさまざまなソフトがあります。Blenderは完全無料ということもありCGの世界に入りやすいツールですが、ノードを組まなければならず若干癖があります。その点、昔ながらのトラディショナルなDCCツールという面で、個人的にはCinema 4Dから入っていくのがオススメです。


クリエイターに今後求められること

全体のツールや工程の流れを設計できるようなVFXのスーパーバイザーになるのが理想的

VFXをやっているとどうしてもツールを使うことに注力しがちですが、全体を見渡してみると実写や合成、SFXの現場でできることなど、幅広い知識や最新の表現技術が必要となります。また、工程の流れ(ワークフロー・パイプライン)も理解しなければいけません。つまり、私たちクリエイターは全体のツールや工程の流れを設計できるようなVFXのスーパーバイザーになるつもりで、さまざまな知識を吸収し、経験を広げながらクリエーションを手がけていけるようになるのが理想的だと考えています。


渡部さんが薦める参考書籍

SFX映画の世界(完全版1〜4) 中子真治(著) 講談社刊

60〜80年代の映画紹介と同時に、その映画に使われたSFXの技術をジャーナリスティックな目線から解説している書籍。現在は、絶版となっている。



VES ビジュアルエフェクト ハンドブック(上下巻) Jeffrey A. Okun、Susan Zwerman(編)秋山貴彦(日本語監修)ボーンデジタル刊

ハリウッドのVFX任意団体「VES」が編集した書籍。VFXの技術が分野別にまとめられ、具体的かつ貴重な情報やテクニックが詰まっている。現在は絶版。


もう、誰も教えてくれない 撮影・VFX/CG アナログ基礎講座 I/II/応用編 古賀信明(著)スペシャルエフエックス スタジオ刊

映像制作の基礎習得に重点を置いた書籍。32年にわたる撮影・VFX/CGの経験から、撮影現場の知識が克明に記載されている。現在は絶版だがKindleペーパーバックにて再販予定。


Unreal Engine 5 リアルタイム  ビジュアライゼーション 株式会社モデリングブロス、株式会社スタジオブロス(著)秀和システム刊

Unreal Engineについて解説した書籍だが、CGについても多角的に学ぶことができる。CGのアルゴリズムについて解説している書籍は数少ないため大変貴重。


Cinefex(シネフェックス)

映画中に使われたSFX・VFXについて、制作過程・制作工程を詳細に取材している海外雑誌。翻訳された日本語版も作られていたが、日本語版は2017年に休刊。海外版は2021年に休刊となったが、作品ごとの視覚効果や特殊効果について知ることができる。





「拡張するVFX表現」の学び

プレビズからオンセットビズへ

撮影時の効率化やコストカットに繋がる形に進化した現在のプレビズ

プレビズとは、プレビジュアライゼーションの略で“事前に視覚化する”という意味を指します。90年代頃のプレビズはアニマティクスと呼ばれており、当時はCGで動くビデオコンテを作るレベルのものでした。それが、2000年以降大きな進化を遂げ、単にビデオコンテ化するだけではなく、カメラワークやライティング、レイアウトまで含めたシミュレーションを行い、最終的に撮影時の効率化やコストカットに繋げる形になったのが、ここ20年の間に進化してきた現在のプレビズなのです。

さらに、シミュレーションからオンセットビズへと進化を遂げ、プリプロの中で撮影前にシミュレーションする形から、現場でビジュアライゼーションしていく形に変わりました。これにより、現場で合成した結果をその場で確認することができるようになったんですね。もっといえば、現場で合成して完成まで行なってしまうところまで技術が進んでいて、バーチャルプロダクションなどもその進化を遂げた形のひとつと言えます。


パイプラインのすすめ

複雑に入り組んでいる工程にパイプを繋ぎひとつの新しい設計手順を確立する

パイプラインとは、元々の意味でいうとワークフローのことで制作の工程にあたります。単に制作工程というと、現場で撮影をして、収録をして、編集をして、といったトラディショナルなワークフローを思い浮かべますよね。そうではなく、パイプラインの要素には制作工程以外にデータ管理や、データのコンバート、マシン管理、リソース管理、作業管理などの情報が含まれます。つまり、複雑に入り組んだ工程にパイプを繋ぎ、ひとつの新しい設計手順を確立することをパイプライン設計といいます。プロジェクトによって毎回パイプラインの流れは変わるので、どことどこを繋げばいいか、何のツールをどこに組み合わせていくか、何のデータがどう流れ込み、どんな変換が必要になるのかなどを理解し、設計できるようになることが重要です。


パイプラインの4つの要素

ワークフロー制作工程、ツール操作の手順の設計


データ、ファイル、ディレクトリーの構造、格納場所環境設定、ファイル名称のルール設計


データの流れ、コンバート変換、最新データ更新のルール設計


進行管理、スタッフの管理、運用アセットマネージメント(マシン、リソース、データなど)


●モーションキャプチャーのパイプラインの例

モーションキャプチャーのパイプラインでは、VICONというモーションキャプチャーシステムが、最終的に①ゲームエンジンに届くのか、②プリレンダリングでDCCツールに届くのかによって、それぞれデータの流れが変化し、間で使用するツールも異なる。



●バーチャルプロダクションを含むパイプラインの例

バーチャルプロダクションとは、撮影現場にCGやゲームエンジンなどを持ち込み同時に撮影を行うことの総称。パイプラインも従来のプリプロやポスプロの工程とはまったく変わり、現場の中で同時に撮影を行う形態へと変化している。





大学が取り組むVFXの学び



東京ビッグサイトで行われた「プロジェクションマッピングアワード2022」にて審査員特別賞を受賞した作品。新入生8名が制作期間約5カ月の中で、モーションキャプチャー、アニメーション、合成、エフェクト、編集、音楽、SEまでの作業を経て、ビッグサイトの特徴である逆三角形の壁面にプロジェクションマッピングを投影。ボルダリング競技の世界選手権を行うという設定の映像が上映された。(©東京国際プロジェクションマッピングアワード実行委員会)

使用ツール: Motion Capture + Character Creator, Cinema 4D, MotionBuilder, After Effects, Premiere Pro




コニカミノルタプラネタリウム直営館名古屋・池袋の待合スペースホワイエの映像を制作。第1弾の夏篇が好評だったため、第2弾としてハロウィンをテーマにした秋篇が制作された。キャラクターの動きはモーションキャプチャーにて制作。衣装はCinema 4Dでクロスシミュレーションし、Alembicフォーマットで書き出し、Unreal Engineにてリアルタイムムービーとして収録された。現在、第3弾も鋭意制作中。

使用ツール: Motion Capture + Cinema 4D + Unreal Engine, After Effects, Premiere Pro


55インチのモニターにUnreal Engineで作った映像を映し出し、その手前に1/24スケールのミニチュアジオラマを設置することでバーチャルプロダクションを再現。VICONをカメラトラッキング用に使用し、撮影カメラはスライダーに乗せて左右に動かしている。学生たちがバーチャルプロダクションのパイプライン設計やデータの流れを理解しながら進めることで、知見を深めることを目的として制作された。

使用ツール: Motion Capture VICON, Unreal Engine + 実写合成





LEDを模した液晶モニターを背面と床面に配置。リアルなボール(赤丸部分)を中心に置き、その周りをARのバーチャルなボール(白丸部分)が円を描くように転がって行く描画。ARのボールは途中で液晶の中に潜り込み、背面の液晶モニターに映し出されるLEDの青いボール(青丸部分)へとすり替わる。背面の液晶にはLEDのボールとLEDの影が映り、手前に来た際はARのボールと床面の液晶にLEDの影が映し出され組み合わさるといった斬新な表現。「まだまだ実験段階なので、今後バーチャルプロダクションのスタジオとも協力して、実際の人間とバーチャルのアバターを組み合わせた実験をしようと考えています」と渡部さん。

使用ツール: Motion Capture VICON, Unreal Engine + 実写合成


● 解説動画




「拡張するVFX表現」の未来

「コンポジット」から「コンビネーション」の時代へ

その分野の中でVFXがどう繋がっていくのか見極めることが大切

VFX表現が拡張していき、新しい表現になりつつあることを私たちも学びながら実践しています。VFXは「コンポジット」から「コンビネーション」の時代へと変化してきています。つまり、単なる合成エフェクトのVFXから、さまざまな要素を組み合わせて結合させていくコンビネーションの時代にVFX自体が入ってきているのかなと私は考えています。より理解を深めるためにもパイプラインを設計しつつVFXを作り出していかなければならないし、すべてを理解するVFXのスーパーバイザー的なクリエイターが日本からもっと出てきてほしい。ぜひみなさんもVFXに対する理解度の高いクリエイターになっていってくれれば嬉しく思います。

また、VRやARなどXRの普及によって、VFXのあり方も変化していくはずです。ただ、VRやCG、またはゲーム、映画、CMといった縦割りに区別することはもはやナンセンスで、まったく別のジャンルやツールが横軸の中で繋がっていくような見方をしていかなければと感じています。つまり、何かの普及によりVFXがどうなっていくかを考えるよりも、その分野の中でVFXがどう繋がっていくのかを見極めることが大切なのかなと考えています。