三幕構成に基づいてシナリオを作ることをChatGPTにお願いする
やみくもに脚本を考えてもらうのではなく「三幕構成」を取り入れてみる
次に2時間の映画作品にチャレレンジしてみようということで、ChatGPTに脚本の相談をしてみたいと思います。やみくもに120分の物語を考えようとすると、なかなか難しくて書けないので、脚本の基本中の基本であり、シェークスピアの時代からの方法論である「三幕構成」を利用してみることにしましょう。2時間という時間で物語を作ろうとすると、ある程度構成に収めないと難しいということで、定番の構成が生まれました。日本では物語を考えるときに「起承転結」という考え方がありますが、「転」の部分を点と捉えれば実は同じことです。
第一幕は主人公が置かれている状況を説明する設定部分であり、一幕の最後に変化が求められる事件が起きます。第二幕は主人公がなにかと闘っていく物語の核となり、ここが時間的には一番長い部分になることが多いです。そしてその最後に物語がひっくり返るような事件が起きて、第三幕では解決に向かっていきます。まずはこういうところで、設定や事件の内容を埋めていくことで、脚本というのは結構作れるんです。作り手の目線で古今東西の映画を分析的に観てみると、ほとんどの映画はこの構成に則っていることが分かります。
「三幕構成を使って」と入れるだけ
では設定を示して、ChatGPTに物語のプロットを考えてもらいましょう。たとえば「若い女性が主人公の映画の脚本を作っています。舞台は東京で、宇宙人が侵略していき、そこから生き延びる物語です。この物語を三幕構成を使って書いてください」と質問してみました。
すると、ChatGPTは、三幕構成に従って、導入部分から対決、そして結末までを一通り箇条書きで書き出してくれました。「三幕構成に従って」と質問に入れるだけで、面白いかどうかは別にして映画らしい展開になりました。ここから登場人物のキャラクターや設定を作っていきますが、それもChatGPTに質問してみます。名前などは候補とキャラクターを提案してくれました。名前を決めて、設定を考えてもらう、というように次々に質問していきます。
三幕構成とは?(2時間の映画を想定して)
2時間ものの映画などは、三幕構成を利用してストーリーが作られていることが多い。第一幕で主人公たちが置かれている状況が説明され、その最後に変化が求められる事件が起き、第二幕ではそれと闘うなど葛藤が描かれる。そして第二幕の最後にさらに大きな事件が起き、物語は解決に向かって動き出す。
たとえば『スター・ウォーズ エピソード4』を思い浮かべて見るとこういう展開になっている。
こちらが示した映画の設定に基づき、「三幕構成」を使ってと指示をすると、「三幕構成」に則って物語の展開を考えてくれた。データベースには三幕構成に言及したものは相当数あるはずで、展開としてはたしかに三幕構成を踏まえているものを提示した。しかもこの映画で描き出せることまで最後に付け加えている。
主人公である綾香の設定を考えてもらう。一瞬にして表示された。こういった設定は、衣装、美術を決める上で必要不可欠になるだけでなく、家族構成など、たとえストーリーに出てこなくても、俳優の役づくりのために背景として必要になるし、脚本家・監督に求められるので、必ず準備しなければならない。
登場人物の名前を決めるだけでもChatGPTは活用できる。この物語の主人公の名前を聞いたところ、一瞬で5つの候補を示し、さらにその名前に紐づいた印象まで提示してくれたのには驚いた。名前は綾香(あやか)とすることにして次の質問に。
この映画のビジュアル作成をChatGPTに依頼した。有償版であれば画像生成にも対応。舞台は東京であり、常にバックパックを持ち歩く運動能力が高い理系の大学生を主人公にした映画のビジュアルが完成。右はさらに登場人物を入れてと要求してできたもの。まだビジュアルがない物語の企画書作成に使えそう。
「物語の13フェーズ」をChatGPTに示唆してシナリオのディテールを作っていく
ChatGPTに「13フェーズ」を教える
脚本にしていくには、さらにシーンを設定し、その場所がどこなのか(柱)、そしてト書き、セリフを具体的に決めていかなければなりません。そこで三幕構成をさらに細分化する「物語の13フェーズ」というテンプレートを利用してみたいと思います。
13フェーズはより細かく分けられていますが、1から3が第一幕、4から10が第二幕、11から13が第三幕に相当すると見なしてよいでしょう。13フェーズに完全に一致する映画というのは、三幕構成に比べれば少なくなりますが、基本的にはこれに当てはめていければ、お客さんが2時間、飽きずに観てくれるという方法論になっています。そこであらためて「この映画の脚本のために13フェーズに基づいて物語を構築してください」と、単に「13フェーズ」という用語を文章に加えて、ChatGPTに質問してみました。すると、項目は完全に一致してはいないのですが、ChatGPTがそれなりに勉強して、13フェーズにしたがって物語を作ってくれました。ここで大事なのは13フェーズというものをChatGPTが知るということですね。
「物語の13フェーズ」とは?
シナリオアナリストの沼田やすひろさんがヒットしている映画などのエンタメ作品を分析してたどりついたという、成功している物語の展開。ゲームやアニメ制作者も参考にしているテンプレートだが、映像制作者はこれをもとに映画を分析しても面白い。著書やYouTubeチャンネルもあるので、詳しくはそちらを参照してほしい。
アウトラインを作り、セリフを考えてもらう
次にこの物語に厚みをつけていきます。第一フェーズについて具体的にシーンを書いていってもらいます(質問2).すると自宅から通勤、職場、友人との昼食のシーンなどを提案してくれました。連続ドラマなどで脚本の各シーンを3、4人で分担して作ることがあって、そのときに分担するときに「アウトライン」を決めるのですが、それがまさにこんな感じです。このシーンでどういう場所でどういうことが起きるのかということをGoogleドキュメントなどでリレー形式で書いていくのですが、それがまさにこのようなレベルのものなんです。続いて第二フェーズも同様に考えてもらい、そうやって最後までアウトラインを作っていきます。
最後までできたら、シーンごとに脚本を作ってもらいます。脚本とは、3つの要素でできています。「柱」と「ト書き」と「セリフ」です。この3つの要素を書けばいいだけなんです。たとえば第一フェーズのシーン1であれば、柱は主人公のアパートですね。次の内容が「ト書き」ですね。ここはセリフがないので、これでもう脚本ができます。
質問4では、シーン3:職場のトラブルについて行動とセリフを書き出してくださいとお願いしました。このときに前の主人公の設定のところでもやりましたが、登場人物の設定をそれぞれきちんとやっておくことが重要です。キャラクター設定をしっかりやっておくと脚本に深みが生まれてきます。ChatGPTは会話型AIなので、ストーリーとかキャラクター設定で整合性がとれないことがありますが、そこは調整してあげればいいんです。つまりこちらが気がついて書き直してももらえばいい。
そこで質問5では、登場人物のキャラクターを変更して、書き直してもらいました。完全にAIに任せて最初から完全なものができることはないので、大枠を決めて、細かいところを詰めていく。矛盾点があれば修正していくという順番で進めていくとよいと思います。
AIをどこに活用すべきか?
今回実験的にアウトラインを作って、脚本のところまで作ってもらうところをお見せしましたが、私は今現在、仕事としてこういうことをやっているわけではありません。ChatGPTではどうしてもベタな物語、ありがちな会話しか提示してくれませんから。自分がいざ作ろうとしたら、今までないものを作りたいと思っていますし、みなさんもそうですよね。でも実際に1文字も出てこないときがあるんです。そんなときにたとえば脚本家が作ってくれたベースがあるのとないのとでは大違いです。ゼロから生み出すのは大変でも、1さえあれば何がダメなのかは見えてきます。「これだとキャラクターはおもしろくないから、こっちに変えてみよう」と考えることができます。もし長編映画を脚本家に書いてもらうと1カ月はかかり、そこから検討して直していく作業になり、お金も時間もかかります。であれば、ChatGPTにたたき台を作ってもらうのもアリなんじゃないかと思います。
私はオンラインサロンでいろいろな人の脚本を読む機会があるのですが、物語になっていない脚本が結構あるんです。ここまで書くだけで相当苦しかったんだなと想像できるのですが、物語を成立させるところに力を注ぎすぎてしまって力尽きて、クリエイティブな部分に到達していないんです。であれば、最低限、物語として成立している脚本があって、それをどうやって面白くしていくかということに力を注いだほうがいいのではないかと思うんです。
私は編集が速いし得意なんですけど、ドラマの編集ではエディターを必ず入れるんです。自分でドラマを編集すると繋がったことに満足して先に進めなかったりするので、エディターに繋いでもらったものを見て、そこからどうやったら面白くなるかを考えることのほうに力を注ぎます。そちらにクリエイティビティを発揮すべきだと思うんです。同じように、脚本にしてもアウトラインをベースにセリフを一回書かせてみて、それをどうやって面白くするかということを考えていく。そのたたき台を作るということをChatGPTにやってもらうといいのではないでしょうか?
改めてChatGPTに質問をしてみる。物語の13フェーズに基づいて物語を構築してほしいとお願いすると、13の項目に分け、なんとなくそれに沿った展開を一瞬にして考えてくれた。それぞれのフェーズがかならずしも一致しているわけではないが(たとえば、13フェーズではフェーズ8が試練になっているが、回答では6になっているなど)。ただ順番に読んでみると、たしかにストーリーらしきものはできている。
ここから脚本としての厚みをつけていくために、序章の第一フェーズ(日常と悩み)について、シーンの作成をお願いしてみる。すると、自宅から通勤、職場、友人との昼食のシーンを提案してくれた。そのなかには、「彼女のアパートは小さく、少し乱雑であることが示される」とか、「電車の窓から見える東京の風景が映し出される」というように映像で描写することを想定した表現があるのはいいところ。
第一フェーズが終わったら次に第二フェーズも同じようにシーンの作成をお願いしてみた。すると事件発生の過程をシーンに分けて提示してくれた。ここで「シーン1」という記述になってしまっているのだけは残念だが、話の展開としているは第二フェーズのシーンについて、場所と内容を提案している。単にシーンを作るだけでなく、このフェーズの意味合いについて、「物語の転換点として機能し、以降の物語のトーンと方向性を設定します」という解説までつけてくれる。
それぞれのシーンについて、さらに行動とセリフ、つまり脚本書きをお願いしてみる。場所や登場人物の設定をまず明確にした上で、シーンの流れと具体的な会話の内容を書き出してくれた。ありがちな会話ではあるが、ここでは主人公の職場でのストレスと対人関係の問題を強調するという目的には合致する。
書き直してもらうこともできる。シーン3:職場のトラブルの部分を同僚Aのキャラクターを、いつも味方になってくれる人という設定に変更して、書き直してもらったものがこちら。(改訂版)という表記が現れた。ちなみに質問は丁寧に敬語でしたほうがいいと言われている…。
最後にこの映画のビジュアルが考えてとお願いしてできたのがこちら。ChatGPTの有償版ではビジュアル生成もしてくれる。
A.
13フェーズより三幕構成で考えたほうがいいでしょうね。特に二幕目が重要になります。失敗しがちなのは、一幕を丁寧にやりすぎて、たとえば15分のうち10分を使ってしまうこと。むしろ一幕は1、2分で終わらせてもいいと思います。一幕と三幕は短くても成立するので、その分、二幕を充実させること。
一幕でふたりがカフェで待ち合わせをして、話をしてイライラするシーンがあるとします。それをそれぞれがカフェに入ってくるところから描くと時間がかかってしまいますが、いきなり、カフェで向き合っていてイライラしているシーンを描けば、視聴者はふたりがカフェで落ちあって話をしていることは推察できます。うまく端折ることで一幕を早く終わらせることはできます。「遅く始まって早く終わる」というのは、ひとつのテクニックですね。
A.
文章に関してはChatGPTでもう満足しているので、他に使っていないですね。画像生成AIに関しては、一時期Stable Diffusionを使っていろいろやっていましたが、今は使っていないです。画コンテにしても、いろいろなAIサービスを試したのですが、逆に時間がかかるという感じでした。そこで、今はリアルタイム3D制作アプリであるUnreal Engineを勉強しています。
A.
ChatGPTじゃなくても、セリフは一番難しいです。僕も得意じゃないので、えらそうなことは言えません。あとChatGPTの場合は、どうしても翻訳口調なところもあるので、書き直したほうがいいでしょうね。
どうしたらリアルなセリフを書けるのでしょうか。マクドナルドにいくと隣の席が近いから、そこで自分の耳で人の会話を聞くというのが一番いい訓練かもしれません。世の中の人がどういう話し方をしているのか。いかにもドラマの脚本にありがちな話し言葉なんて誰も使ってないですから。だから一番よくないのはドラマの会話をコピペしてしまうことですね。ChatGPTはそもそも世にあるシナリオのデータからひっぱってくるので、いかにもドラマのような会話になってしまうので要注意です。
A.
脚本家を目指すにしても、作った脚本で自分で撮影をしたほうがいいです。そしてそのフィードバックを受け取ること。料理のレシピを考える人が、料理をしないということはありえないのと同じで、脚本を書く人は一度その脚本で現場で撮ってみるべきです。脚本というのは映像作品の現場の設計図でしかないんです。そこが小説との大きな違いです。脚本はそれに基づいて、俳優が芝居をする、美術は小道具を読み解く、助監督は現場を動かさないといけない。ものすごく重要な設計図なんです。動きやセリフは俳優とセッションしないとわからないものなのだということは、自分もいやというほど体験してきました。現場で失敗することで学んだほうがいいと思います。
その脚本ですが、日本の脚本ではなく、アメリカの脚本から学ぶといいでしょう。データベースとして揃っていてアクセスできるようになっています。しかも、それこそChatGPTで翻訳できてしまいます。アメリカの脚本はト書きが長くて、そのト書きで雰囲気を作り出すんですよね。部屋の描写にしても、その映像がどういう効果を作り出すかということをちゃんとわかって書いているということが感じられる脚本なのです。