中国でバズる動画の作り方
ケーススタディムービー ① 『情緒 〜「Re:」 – 小樽の新たな夜明け』
小樽市をデザインと建築の力でリブランディングする福島工務店及びN合同会社によるブランデッドムービー
ストーリー・メッセージ
コロナで故郷に帰れない人の共感を狙った
主人公は、コロナで仕事を失って、実家におめおめと帰ってきた頼りない男という設定で、僕自身が主演を務めています。内容としては、古くなってしまいもうダメだと思われていた実家の薬局を、祖父が新たにカフェとして復活させ、「人も、町も、人生もやり直せる」という強いメッセージを込めた作品になっています。
ちょうどコロナ禍に作ったコンテンツだったこともあり、中国でも「実家に帰りたいけど、コロナの関係で故郷に帰れない」という人が多くおり、そういった人たちの共感を得ようと考えました。最終的には、いつでも迎え入れてくれる自分なりの実家や故郷が誰にでもあり、かつ「小樽っていいな」と思ってもらえるような美しい映像に仕上げようと決めて作っていきました。
クライアント・物語の舞台
小樽に実在するカフェ兼宿泊施設を物語の舞台に
本作は、小樽の福島工務店という建設会社のブランデッドムービーです。小樽には古い町並みや倉庫が多くあるんですが、買い手が少なく結構壊されてしまうんですね。それを止めるため、代表の福島さんが歴史的建造物を買い取ってケアし、メンテをするだけではお金がかかるので中にカフェやホテルを作りました。新しいクリエイティブを入れることで町や建物が生まれ変わるということを大事にするクライアントさんだったので、その想いを中国の人にどう見せるかという部分から企画が始まりました。
制作ポイント ① テンポの良さを意識した構成
● 情報は前半に詰め込む
● テンポよく映像を切り替える
制作ポイント ② マーケティングを意識したキャスティング
● 日本国内における有名インフルエンサーを招き、話題性を高める
動画拡散イメージ
制作して見えたこと
「もうちょっと普通の主人公にしていれば自分のファン以外の人にも作品が広がってもっといいクリエイティブができた、というのが個人的な反省点です。うれしかったのは、日本人が作った作品でも海外の人が喜んでくれるんだと実感できたことです」と山下さん。
ケーススタディムービー ② 『温尋 —温もりを尋ねて—』総再生数100万回以上
別府市の魅力を伝えるTabistによるブランデッドムービー
ストーリー・メッセージ
別府の楽しさ、旅の楽しさ、人の優しさを凝縮
ストーリーとしては、主人公が落としたカメラがずっと録画されていて、いろんな人の手を渡りホテルへと届けられ、再生してみると現地の人たちが自分のために頑張ってくれていたことがわかる、という内容になっています。
「お金がないから旅はやめておこうかな」という人たちに向けて、「予算を多少削っても、日本の旅はこんなに素敵な体験ができるんだよ」と勇気づけるような映像にしてほしいという要望から構成させていただきました。
最初の構想としては、MVのようなものを作りたいと思ったんです。MVであれば言語問わずいろんな人が見てくれて、そこに流れてくる美しい映像に惹かれて聖地巡礼したくなる人も少なからずいるだろうと考えました。その上で、ストーリーにも重きを置き、さらに楽曲も良ければ何度も見てくれるだろうという狙いが本作の特徴です。
クライアント・物語の舞台
由布院ではなくあえて別府を舞台に
Tabistさんは、元々サブスクでいろんなところに宿泊できるインド発の「OYO」というサービスで有名だったんですが、現在はソフトバンクさんに買収され、日本の旅館にもリーズナブルに泊まれるというコンセプトのチェーン店です。特に、バックパッカーや若い人たちに使ってほしいというクライアントさんの想いがあったので、旅先で出会ういろんな人たちの繋がりや不思議な縁をテーマに映像を作りましょうと決めました。
中国からすると湯布院のほうが有名で、別府ってなかなか来ないらしいんです。でも神田温泉の煙が立ち上がる風景を見せれば「絶対行きたくなるだろうな」と思って、あえて本作の舞台には別府を選ばせていただきました。
制作ポイント ① 日本と中国に特化したスタッフィング
● クリエイティブチーム
日中両方のカルチャーに通じたスタッフで制作
本作では僕がクリエイティブディレクターを務めました。ひとつチャレンジとして制作マネージャーと映像監督に中国出身のスタッフを入れています。日中両方のカルチャーを知る人が作ることで、「日本の良さを中国にどう届けるか」を心がけたクリエイティブを生み出すことができ、結果としてとてもうまくいったと思っています。
また、主要スタッフそれぞれが日本の美術大学を卒業しており、本作の舞台となる別府市のNPO法人「BEPPU PROJECT」が手がけるアートプロジェクトにも造詣が深い人材となっています。
制作ポイント ② バズらせる仕掛けを張り巡らせる戦略性
主人公 Gagako
話題性のあるキャスティング、中国のトレンドに合わせたテーマ設定、中国の若者に刺さるBGMの選曲など、それぞれにバズる種を植え付け、完成作品が注目を集める仕掛けを随所に忍ばせた。
中国の人気インフルエンサーを主演に起用
主人公には、中国のインフルエンサーであるGagakoさんを据えました。彼女が演技をできるかどうかがわからなかったので、もし演技が苦手だった場合に彼女のファンを悲しませることになってしまうと思ったため、本編では台詞のない構成にしています。また、台詞をなくすことで撮影のスピードも上がりました。
音楽は、中国ですでに流行っている楽曲を中国の有名VTuberに日本語でカバーしてもらいました。中国の楽曲権利を管理している会社にお願いして、改変OKのリストを入手して、そのリストの中から監督とともに作品のテーマに合わせて楽曲を選定し、日本語の歌詞へと翻訳したという流れです。
制作して見えたこと
「Tabistさんのインド人スタッフたちからも大変好評で、日本のクリエイティブで中国のみならず、いろんな国の人たちに感動を届けることができるんだとわかったことが大きな収穫でした」と、山下さん。
これからインバウンドムービーを作るなら
インバウンドムービー制作のポイント
インフルエンサーの課題や挑戦したいことを理解し提案する
インフルエンサーという存在は、今や動画を作って終わりではなく、何万回、何十万回という再生回数や膨大なコメント数を含めての施策が当たり前になってきている時代です。例えば、企業アカウントなどが海外に向けていきなり情報を発信してうまくいくかというと、普段から現地の人に向けて発信をしていなければ難しく、どうしてもインフルエンサー頼みになってしまう部分が少なからずあるかと思います。
インフルエンサー側も「こんなことがしたい」「こういうところが辛いんだよな」など、それぞれが課題を持っています。また、「演技に挑戦したい」「歌を歌ってみたい」など、いろんな挑戦をしたいと考えている人も多くいるため、その人がやりたいと思っていることをうまく提案できれば、金額度外視で引き受けてくれることもあります。そういったことも踏まえ、インフルエンサーのインサイトをどれだけ知っているかが鍵となります。
人間の生臭さや作り手の不完全なものがファンとのコミュニケーションに繋がる
動画には、作り手の匂いや分かりやすい感動がとても大事な要素になります。映像を専門としている方であれば、人間の生臭さや作り手の不完全なものが動画に入ってくると、どうしても調整したくなりますよね。でも、インフルエンサーのチャンネルで動画を流すということは、 その人のファンが視聴するわけなんです。せっかくのコミュニケーションの痕跡を機械的にゼロにしてしまうということは、見ているファンとのコミュニケーションを遮断することになりかねないんです。
このあたりのバランスは、そのインフルエンサーとファンがどういう関係であるかによっても変わるので、インフルエンサーと何かをやるときはその部分についてしっかりと話し合う必要があると考えています。ファンをいかに喜ばせるかという部分で、最低限のファンのエンゲージメントを獲得しつつ、その動画がファン以外にも楽しめるものであれば、既存の枠から広がっていくかと思います。
海外発信する際の制作費の半分が補助される
ストーリーがある作品を海外に向けて発信する際には、その制作費の半分が補助される制度「J-LOD」を利用するのがおすすめです。特に、ブランデッドムービーなどを作る場合は、こういった制度を利用してクライアントさんとタッグを組み、一緒に映像を作っていけると非常にいいんじゃないかなと思いますね。
普遍的なフォーマットをうまく描くことができれば視聴者の共感性が高くなる
ネット社会の移り変わりは早いので、変に時代のネタを突っ込むと数年後に振り返ったとき古く見えてしまいます。極力、安易な流行は取り入れず普遍的なものを作っていくほうが、いつ見返してもいいものになります。
また、日本ではTikTokなどで若者向けの恋愛ショートドラマが流行りですが、中国では「若い頃から恋愛するのはけしからん!」という風潮があるため、学園恋愛ものなどはなかなか流行りません。ヒットしやすいのは家族もので、家族の絆のような普遍的なフォーマットをうまく描くことができると視聴者の共感性が高くなります。
中国の課金型ショートドラマの流行
気になったユーザーが課金して「いつの間にか全部見てしまう」というしくみ
現在、中国ではインバウンド動画とはまた別の動画ビジネスが盛り上がっています。というのも、bilibili動画などはYouTubeと違い、動画がいくら再生されても億万長者になれるような広告収入は得られない仕組みなんです。なので、中国のインフルエンサーは、動画は作るけれど基本的に企業案件をやっていかなければならず、広告をいかにもらうかが生活のための手段でした。
ただ、ここに来て「ユーザー課金型ショートドラマ」というビジネススタイルが増え、何十億円という売り上げが上がっています。どんな形でマネタイズをしているかというと、まず一気に80話分とかを作るんです。それを、1話あたり大体2〜3分ごとにひたすら小分けにしていきます。日本のウェブトゥーン漫画アプリと同じように1話、2話は無料、「3話目からは課金してくださいね」という形式で、気になったユーザーが課金していくと「いつの間にか全話分を見てしまった」というような仕組みになっています。
このトレンドの流れは、コロナの影響で制作スタジオのプロたちが暇になったことがきっかけでした。ちょうどその頃、中国のインフルエンサーたちがショートドラマをTikTokなどでアップし始め、手の空いたプロたちが参戦したことでショートドラマのクオリティが一気に上がったんです。それにより、「ショートドラマって面白いな」と課金する人が増え、今ではインフルエンサーを交えて一緒に儲けていくという流れが中国では起きています。ただ、「このままだとTikTokを儲けさせているだけだ」と気づいた中国人チームがショートドラマ専用のアプリを作って日本や東南アジアに進出してきているのが現状です。
“人の匂い”が残る動画作りを
ファンと共有できるストーリーを前提に映像を組んでいくことが重要
日本のプロクリエイターが作る映像を100%の質とすると、僕が作る映像はプロの作品に遠く及びません。どちらかというと、ファンとのコミュニケーションに軸を置いたもので、映像の質で言えば70%程度のものだと思います。その代わり、量があったり、温度感があったりすることで、 不思議と90%程度のクオリティの動画よりもファンの心に響くことにここ10年ほどで気づきました。
自治体では、よく美しい映像を撮影した素材を繋げて音楽を流してPR動画として使用することがありますが、今や綺麗なだけの映像では響かない時代になっています。それだけでは“人の匂い”がしないため、再生数が上がらないのが現状です。つまり、100%完璧なクオリティで作りきるか、70%程度の質でもコミュニケーションに重点を置いたもののどちらかでないと、再生数が伸びない時代になっています。なので、70%の質を90%まで引き上げる努力は、意味を成さない場合が多く、ファンとのコミュニケーションを共有できるストーリーを持っているのであれば、それを前提に映像を組んでいくことのほうが重要なんです。
中国ではいかに視覚的な快楽を作りそれを消費してもらうかが主流になっていく
「いいものを作れば誰かが見てくれる」という映像の世界は確かにあるんですが、中国ではそうではなく「いかに視覚的な快楽を作って、それを消費してもらうか」がより主流になっていくんじゃないかと思います。もちろん、いいものを作ってお金をもらうことは芸術の世界において非常に美しいことではありますが、その一方でインスタントなコンテンツを見たいユーザーに対して、需要に沿った作品を作っていくこともクリエイターや制作会社がやっていかなければいけない仕事なのかなと考えています。
誰に向けて作るかで映像の種類はまったく変わってきますし、中国に向けたローカライズをするときはそういったことを理解できる人間をチームに入れることで、着地の確率が非常に高くなります。そういった意味でも、僕もローカライズの仕事を今後もどんどんやっていきたいと思っていますし、日本のチームの皆さんから学ぶこともまだまだたくさんあるので、ぜひ一緒に中国に向けての動画作りをやりたいですね。また、「何かワンアイデアほしいな」「ちょっとアクセントがほしいな」「いつもと違ったことがしたいな」など、何かお悩みがありましたらぜひ気軽にお声がけくださるとうれしいです。皆さんとご一緒できる機会をお待ちしています。