日頃はディレクターとしてCMやMVを手がけながら実写ドラマとストップモーションアニメの2本の縦型ショートフィルムを仲間と自主制作した香取さんに、それぞれの制作の舞台裏と縦型動画ならではのノウハウを語ってもらった。

講師 香取 徹 KATORI TORU

デザイン事務所を経てTHE DIRECTORS GUILDに参加。 実写作品の制作及び、イラストによるキャラクターデザインやアニメーション、ストップモーション、パペット制作も手がける。 CMからMV、ショートムービーまで幅広いジャンルで活動している。

HP ● https://www.d-guild.com/pickupkatori





自主制作チームで縦型動画のコンペに挑戦

僕は子供の頃からイラストを描くのが好きで、デザインの専門学校を卒業してグラフィックデザイナーになったのですが、仕事で映像制作に関わるうちに次第に自分でも映像を作ってみたいと思うようになりました。そこでTHE DIRECTORS GUILDという映像ディレクター集団の面接を受けて合格し、現場で学びながらCM・MVなどのディレクターとして働き始めました。

現在は仕事で出会ったスタッフや役者と一緒に自主制作のチームを作り、普段はできない実験的なことを試し、仕事の幅を広げる場として、みんなで企画を考えて映像を作るという活動を行なっています。メンバーのスケジュールを合わせるのは大変ですが、自主制作の活動は自分の本当に好きな表現を見直したり、クライアントワークの引き出しを増やすのにも役立っている実感があるので、今後も良いバランスで続けていきたいと考えています。

今回紹介するふたつのショートフィルムは、この自主制作チームから生まれた企画です。2年ほど前にチームで『Light House』という4分くらいの実写作品を作り、何かコンペに出してみようという話になったのですが、その時に見つけたのがTikTokと東宝が主催する「TikTok TOHO Film Festival」という縦型映画祭の作品募集でした。そこに『Light House』を縦型にトリミングして応募してみたところ、ファイナリストまで残ることができたのです。

この経験を通して、次はちゃんと企画段階から縦型であることを意識して作ってみたいという流れになり、実写ドラマ『そこに不思議な電話ボックスがあるという』とストップモーションアニメ『灯台守と迷子の幽霊』の2作品が誕生しました。『灯台守と迷子の幽霊』の方は2024年のアニメ・CG賞を受賞しています。今回はこの2作品の制作を通して気づいたことをお話ししていきます。






事例解説1

実写ドラマ『そこに不思議な電話ボックスがあるという』

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shortfilm「そこに不思議な電話ボックスがあるという」 #TT映画祭2024 #ショートフィルム #ショートドラマ #短編映画 #短編ドラマ #映画 #ミステリー #不思議ボックス 出演 金沢直人:サトウヒロキ 田中千尋:イトウハルヒ 金沢リコ:吉村優花 金沢リコ(幼少):いと スタッフ 企画・脚本:永妻優一 撮影:丹波督 照明:山中翔太 録音・MA:うちだまさみ ヘアメイク:茂手山貴子・もりねね 衣装:成田佳代 タイトル:たかはしともや 美術協力:吉次峻平 人形制作:香取徹 ロケーション協力:河島成美 企画協力:雨露山鳥 企画・プロデュース:たかはしともや 監督:香取徹

♬ オリジナル楽曲 – カトリトオル – カトリトオル




ストーリー:死ぬ直前の人にだけかけられる不思議な電話ボックスをめぐる家族の物語。電話ボックスで千尋に電話をかける直人。その直人に電話をかけてきた謎の女(リコ)。3人の通話を通して、直人と千尋の関係、謎の女の正体がだんだんと浮き彫りになっていく。



出演:サトウヒロキ、イトウハルヒ、吉村優花、いと

スタッフ:企画・脚本…永妻優一、企画・プロデュース…たかはしともや、撮影…丹波督、監督…香取 徹 (他スタッフはTiktok概要欄参照)



企画はこうして生まれた

縦型&スマホに合う電話ボックスのミステリー

『そこに不思議な電話ボックスがあるという』は、プロデューサーのたかはしさんと脚本家の永妻さんと一緒にアイデアを出しながら作った企画です。最近お祖父様を亡くされたたかはしさんから、喪失の経験を昇華させるために家族と死にまつわる物語を作りたい、また、最近マーダーミステリーにハマっているので優しいミステリーにチャレンジしたいという提案があり、そのアイデアを永妻さんがシナリオにうまく落とし込んでくれました。

主要キャラクターを演じるのは、普段から自主制作チームの作品によく出てくれるサトウさん、イトウさん、吉村さんです。3人の出演が先に決まっていたので、当て書きのような形で永妻さんに物語を作ってもらいました。

物語を練っていく中で、縦型動画にマッチしやすいモチーフとして浮かんだのが電話ボックスでした。形状として合うのはもちろん、過去・現在・未来それぞれの時代の3人が公衆電話、ガラケー、スマートフォンという異なる種類の電話を使って会話する設定にすることで、スマホで鑑賞する映画としても面白みが出ると思ったんです。見終わった後に大切な誰かに電話したくなるような映画にしたいという想いも込めて演出しました。



縦型撮影のこだわり ①:ひとりの表情を切り取る

一緒の会話より、ひとりの画に向いている

縦型ショートフィルムを撮るにあたり、こだわったポイントがふたつあります。ひとつは、登場人物がひとりの時の表情をいかに印象的に切り取るかということです。

これは縦型の映像を撮る時にいつも思うことなのですが、やはり画面が縦に長いと、人物ふたりの会話シーンを撮るのが難しくなるんです。横幅がないため、ふたりとも画面に入れようとするとすごく窮屈に見えてしまい、演出の上では大きな制約になります。

ただ、今回の作品は電話を通して会話する設定になったため、3人のキャラクターがひとりずつ映るシーンを基本に構成することになりました。

制約の中でどう面白く見せるかも腕の見せどころではありますが、今回はふたり一緒の会話シーンを避けることができたぶん、 ひとりの画をどう切り取るかに専念でき、常にキャラクターの表情に意識を向けながら撮影することができたという実感がありました。この経験から考えても、やはり縦型はひとりの画を撮るのに向いているフォーマットなのではないかと思います。



縦型フォーマットではふたりの会話シーンを撮るのが難しくなる

人物ふたりを同時に画面に入れる会話シーンは、通常の横長フォーマットであれば難なく成立するが、縦長の画面では赤い枠の中にふたりを収めなくてはならず、かなり狭苦しい印象になり、アングルも制限される。入れようと思ってカメラを引くとその分、表情が小さくなってしまう。





それぞれのキャラクターの表情を捉えることに専念した

左から、直人の母・千尋が探していたぬいぐるみを見つけた後の表情、直人が不思議な電話ボックスで亡き母と話している最中に娘から電話を受けた時の表情、直人の娘・リコが父の残したノートを見つけた時の表情。