多くのファンを魅了するボーイズグループの人気の背景には、彼らの魅力を最大限に引き出し、より多くの人にその姿を届けるMVの存在が切り離せない。本記事では、数多くのMVを撮影する映像ディレクター・加藤マニさんを講師に迎え、昨年惜しまれつつも解散した「CUBERS」のMVを作例に、ボーイズグループMVのアプローチの仕方や、ファンを魅了する映像をどのように作り上げているのかについてお話を伺った。
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講師 加藤マニ Mani Kato
映像ディレクター。1985年東京都青梅市に生まれる。東京・渋谷を本拠に、インディーズ、メジャーを問わずミュージックビデオ等の映像制作(キュウソネコカミ、Cody・Lee(李)、Tele、忘らんねえよ、Da-iCE、ゆるめるモ!、NMB48、八十八ヶ所巡礼、他多数)を手がける。MV制作は年間50本以上に上る。
MV監督に至った経緯
年間50本以上の映像を10年間作り続け累計で約720本のMVを制作
映像ディレクターの加藤マニと申します。わたしは1985年生まれで今年40歳になるんですが、2008年に専門学校を卒業し、そこから4年ほどはバンドや会社員をやりながら兼業で映像制作の仕事をしていました。その後、2012年にフリーランスとして独立し、現在はMV制作だけで生計を立てて活動をしています。コマーシャルなどMV以外の映像仕事も時々ありますが、90%以上はMVの企画、演出、編集、監督業などをしています。年間50本以上のMVをここ10年ほど作り続けており、最も多いときは1年間で87本の映像を作りました。累計では、約720本のMVを制作しています。
元々は小学4年生くらいのとき、ウッチャンナンチャンのバラエティ番組でポケットビスケッツのMVを見て、「なんでこんなにワクワクするんだろう、自分も作りたい!」と思ったのがMV監督になるきっかけだったように思います。19歳くらいのときに、高校の先輩のバンドに頼まれて映像を撮ったのが最初のMV制作でした。自分自身もバンドをやっていたので、ライブハウスに出ては演奏し、仲良くなった次の出番のバンドをビデオカメラで撮影することで撮影の機会を増やしていました。そうしていくうちに、加速度的に知り合いも増えていくので、中には「レコード会社に所属してデビューすることになったから撮ってほしい」という話もあり、今に至るという形です。
今回の記事では、MVを制作する際の思考法、撮影や演出、編集のワークフローなどについて、これまでに制作したMVを作例としながら実践的なテクニックを解説していきます。
MV制作におけるワークフロー
❶ 受注〜制作準備までの流れ

やりたいこと、やりたくないことをヒアリングし的外れな企画は打ち合わせ段階で排除する
受注については、プロダクションのプロデューサーから 声をかけてもらい、レコード会社の方と打ち合わせをするのが一般的とされていますが、わたしの場合はレコード会社の方やアーティストから直接発注いただくパターンが多いです 。打ち合わせでは 、最初にアーティスト側の「やりたいこと」と「やりたくないこと」をヒアリングするようにしています。例えば、お芝居を伴うものや、楽器の演奏、ダンス、歌唱の有無、コントなど、事前に的外れになりそうな企画はこの段階で排除するようにしています。
企画と構成は、リファレンスと文字コンテで完結させています。字コンテは内容をあまり詰め込み過ぎないよう意識しているんですが、同じ画が2秒以上続くとダラダラ見えてしまうため、例えば8秒あれば4枚分は画が変わるように考えています。ただ、逆に映像にした際にカット割が早すぎて内容がわかりにくくなる場合もあるので、その辺りのバランスを意識するようにしています。
制作準備に関しては、制作会社にお願いすることもありますが、スタジオの押さえからお弁当の発注まで全て自分自身で行うこともあり、さまざまです。
❷ 撮影〜公開までの流れ
フィードバックには基本的に対応するが企画の大前提が狂いかねない修正は避ける
撮影は、基本的に1日で完結するスケジュールにしているため、「押してしまうとヤバい」という意味でもできるだけ最短距離を進むように心がけています。また、天候が雨だった場合のパターンも事前に考えて撮影に臨むようにしています。
編集作業はアドビPremiere Proで行います。字コンテが存在するためゴールが大体決まっているので、そこに向かってプラモデルを組み立てていく感覚に近いですね。
フィードバックは、オフライン編集が終わったものを確認してもらい、意見をもらって対応していきます。基本的には直しますが、企画の大前提が狂いかねないことは避けたいので「そこはこういった意図なので、このままのほうがいいですよ」と伝えることもあります。その後、納品をして公開、Xで画像とともに告知を行うといった流れです。

企画の考え方について
MVを撮る前に考えること
ファンを喜ばせたい気持ちが強く「こういうのが見たかった」というMVにしたい
企画を考えるにあたっては、まずファンがポジティブに受け入れられる内容にすることが大切です。例えば、7m!n『Flower princess』のMVでは、手を引かれてエスコートされながら大切なものを取り返しにいくという、スパイの金庫破りのような内容のMVを主観目線で作っています。「失われたものを取り返しにいく」という見え方にすることで視聴者が応援しやすくなりますよね。
また、わたしはご新規さんへの名刺代わりとなるような映像作りが自分の担当ではないと思っている節が少しあって、どちらかと言えば既存のファンを喜ばせたいという気持ちが強いため、「こういうのが見たかった」というMVにしたいと常に考えています。何らかの新しさを入れることは重要なのですが、”残したいベタ”というものを考える必要があります。ボーイズグループなら歌って踊る姿、バンドなら演奏している姿が一番格好いいですよね。それを完全に排することはせず、どこかしらに演奏シーンや、リップシンクなどを残し、それ以外の部分で新しさを工夫して見せるようにしています。先のMVには、「シアターに忍び込み、ロッカールームでライブ衣装を見つけ、それに着替えてステージの上でパフォーマンスをしながら金庫の鍵を持つ人を探す」という展開があります。その中でダンスやリップシンクを見せることができれば、ファンの皆さんにも納得いただけるんじゃないかという考え方です。
そして、現実的に可能な落としどころを意識するようにしています。いい映像を作ることは大前提ですが、予算やスケジュールにも限りがあるので、落としどころを見つけられないまま風呂敷を広げないようにしています。監督したあるMVのコメント欄に書かれた好きなコメントで、「冷蔵庫の中にあるもので作った一番うまいチャーハンみたいなビデオだな」というのがあって、割と冷蔵庫の中にある食材でおいしいものを作ることが得意なタイプかもしれません。

イメージを形にする方法
「したいこと」をまっすぐ描くのか何かに置き換えるのか、あえて真逆に描くのか
基本的には歌詞と、アーティストがこのMVにおいて「したいこと」は何なのかを考えるようにしています。それに合わせて、まっすぐ描く、何かに置き換える、あえて真逆に描く、といった3種類の方法を用いています。
ニガミ17才『ただし、BGM』のMVではアーティストのしたいことをまっすぐに描いていて、「ゴミ袋を光らせたい」というアーティスト側の喜ぶ道筋をそのまま一緒に歩いていくというパターンでした。Tele『花瓶』のMVでは、歌詞自体が一緒に住んでいる女の子との喧嘩といった日常的な内容なので、それをそのまま再現するとフォーク的な見え方になり過ぎてしまうと思ったんです。なので、花瓶を投げて割ってしまう女の子とその相手を、何らかの不思議な力によって花瓶を割るエスパーの女の子とそれを研究している人に置き換えています。先の7m!nのMVでは、歌詞をそのまま再現してしまうと、ラブソングのMVとしてこってりし過ぎる部分があったため、手を繋いだりはするけれど、全く非現実的なスパイアクション物の主観にすることで真逆のコントラストにしています。こういった3種類の方法でイメージを形にしています。
その他には、映像の展開は曲の展開に合わせることを意識しています。具体的には、サビの回数分盛り上げる必要があること、落ちサビで何をするかということのふたつです。例えるなら、漫画のコマ割りだけがすでに終わっているというイメージで、起承転結の位置を曲の展開に合わせるようにしています。