極彩色の世界〜ビジュアルコンセプト〜
バイブルとイメージボードで作品世界の解像度を高める
世界観の構築では、チーム内で「バイブル」と呼んでいる世界観のルールや登場人物の性格等を設定した資料を作成しながら、美術監督の久保友孝さんとキャラクターデザインの村上 泉さんに数多くのイメージボードを描いていただきました。久保さんには世界観を、村上さんにはリタをはじめとする登場キャラクターたちの性格や生きている様を描いてもらいました。
本作のオリジナル要素である「ダロル」とは、異星人が地球に送り込んだ巨大な花です。正確には、侵略対象の星をテラフォーミングする植物型バイオボットという設定で、原作の「ギタイ」から大きなインスピレーションを得ています。プロジェクトの最初期に、ダロルのイメージを描けたことで、作品の方向性が固まっていきました。
また、本作の極彩色の大地にもモデルがあります。エチオピア北東部のダナキル地方にある「ダロル火山」です。世界で最も標高の低い陸上火山として知られるこの地は、黄・緑・オレンジ・赤といった強烈な色の酸性泉や塩の堆積物が広がる地熱地帯で、「ダロル」という名もここから取っており、現地の言葉で「溶解」「崩壊」を意味します。








カラースクリプトの活用
物語とルックを時間軸でコントロール
主人公リタの心情によって同じ場所でも色味を変えたいという考えから、美術監督の久保友孝さんにカラースクリプトを描き起こしていただきました。カラースクリプトとは、プリプロダクション段階で使われる視覚ツールで、シーンごとの色と照明を計画的にまとめたものです。これによって、感情の流れや全体の視覚的一貫性を事前に確認できます。本作が初めての試みでしたが、久保さんのクオリティが素晴らしく、シーンごとの色味や雰囲気を早い段階でスタッフ間で共有できました。色彩設計の鈴木このはさんには、カラースクリプトを元に膨大なシーンカラーを設計していただき、おふたりのおかげで生まれた独特な色彩は本作の大きな魅力になっています。
カラースクリプトに取り組んだもうひとつの理由が、本作がタイムリープものであること。同じシーンが何度も登場するからこそ、リタの心情に沿って色味を変えることで、使い回しに見えないだけでなく、各シーンの感情に応じたビジュアルストーリーテリングを実践できると考えました。




背景美術と各種設定
背景美術
映画の土台となる背景美術は、美術監督の久保さんをはじめとする美術スタッフの方々の素晴らしい仕事によって描かれています。 久保さんとは世界観設定のラフを元にお互い集めた写真資料や画集などを見ながら、 表現手法やコンセプトを試行錯誤しました。 特にリタの闘いの場となるダロルに浸食されたエリアは、 この世に存在しない景色を創造する必要があったので久保さんのクリエイティブが本当に心の支えでした。 ねばり強く取り組んでいただいた甲斐あって美しさと怖さを兼ね備え、 そして主人公リタの心を反映した素晴らしい美術が生まれました。



キャラクターデザイン
村上さんによる個性的で愛らしい表情と美しいシルエットのキャラクター達によって、この映画が特別なものになっています。 最初に主人公 ・ リタの大まかなイメージを自分から提案させていただき、 そこから村上さんによってどんどん素晴らしいスタイルへと洗練されていきました。

メカデザイン
メカ類のデザインは、出雲重機さんにご担当いただきました。 どのデザインもしっかりとした考察に基づいたコンセプトと遊び心がバランスよく織り交ざって成り立っています。中でも、 リタたちが装着する「機動ジャケット」は、 アニメーションさせる上で映える機能やギミックを盛り込んでいただきました。

アニメーション
STUDIO4℃の作画の流儀を、3DCGでも貫く
映画の全編を3DCGアニメーションをベースに作ることは、自分たちにとって大きな挑戦でした。最初に決めたのは、ワークフローと表現様式のどちらもこれまでSTUDIO4℃が培ってきた作画のリミテッドアニメを踏襲することでした。そこでまずは、アニメーションディレクターを務めていただいた中島智成さんに、村上さんのイメージボードを参考に「歩く、走る」等の動き、「笑う、怒る」といった表情などのテストアニメーションを作ってもらいました。この段階から手応えを感じていたので、アクションやギタイなど、さまざまな動きの方向性を見定めていきました。
アニメーションディレクター中島智成氏による、リタの表情付け注意事


上図のほか、途中段階のCGアニメーションに対して、表情のブラッシュアップなどを作画監督の笠原由博氏が参考として描き入れた資料も用意された。 各フレームで押さえるべき重要なポイントを具体化できたことで、CGアニメーションを一定の水準に保つことができたという。
動きのルール決め
テクノロジーの進化によって、3DCGでもアニメーターの個性が出せるようになりました。ただし、一本の映画として一定の範囲に収める必要があるので、いくつか指針やルールを設けました。これらのルールの下、アニメーション演出の中村幸憲さん、アニメーションディレクターの中島さんと徳丸尚人さんが各アニメーターの特徴や個性を考慮しながら、担当するカットを割り振ることによって、良い意味で“均一性のない”CGアニメーションが生まれていきました。



アニメーションのワークフローを図示したもの
<1> Vコンテ

<2> レイアウト

<3> アニメーション完成形

<4> 作画エフェクト(原画)

CGレンダリング
二値化することで作画アニメの質感に近づける
本作ではカラー素材をライン込みで二値化した上で、撮影時に縮小して画を馴染ませることを想定してMayaのソフトウェアレンダリングでやや大きめのサイズに書き出しました。これは、撮影監督を務めてくれた中島隆紀くんの「基本的に作画アニメと同じ感覚で撮影したい」という意向に基づいたアプローチになります。
レンダーパス
基本となる7種類の素材。作画アニメでは、二値化された素材にAfter Effectsでスムーシングをかけて撮影を行うのが主流のため、本作では同じ手法を採ることで今で培ってきた撮影ノウハウを生かすことができた。
<1> ノーマル色

<2> 影色

<3> 影のマスク素材(1)

<4> 影のマスク素材(2)

<5> スペキュラ

<6> バイザー部分のマスク素材

<7> 擬似的なオクルージョン

撮影(コンポジット)
フィルムノイズと美しい光の表現
撮影の方向性については、CGI監督の中島くんと一緒に色々なアニメ作品や実写映画、彼が持っている写真集などを参照しながら、このフィルムのイメージを詰めていきました。何度も試行錯誤を重ねてもらった結果、アナログなフィルムノイズの質感と美しい光の表現が合わさった、温かみのある映像が生まれました。撮影されたカットを見たスタッフが口々に「映画になった!」と言ってくれたのが、とても嬉しかったです。下図は、レンダーパスの素組みに対して画面設計を行なった例です。カットごとに多岐にわたる工夫を凝らしているので、いつか本作の撮影手法を深掘りする機会がつくれたらと思っています。
ブレイクダウン
<1> セル/3Dキャラクター

<2> キャラクター色を低彩度に

<3> セル / 作画エフェクト

<4> 発光処理を追加

<5> セル / 3Dキャラクター(ギタイ)

<6> パラを追加。ギタイの色を低彩度に

<7> 煙素材を追加

<8> ラインの明度と発光表現を調整。フィルムノイズを追加した完成形
