AIを使った派手な映像生成が注目を集めるなか、実際のVFX制作の現場ではどのようにAIが活用されているのでしょうか。本稿では、20年近くにわたりコンポジターとして第一線で活躍するエヌ・デザインの阿美伸一さんが、コンポジットワークを中心とするVFX作業におけるバレ消しなど「目に見えない工程(下処理)」へのAI活用術を紹介します。
※この記事で紹介しているAIツールの情報はMV制作時の2025年12月のもので、ツールの仕様やバージョンが現在のものと異なる可能性がございます。
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講師 阿美伸一
コンポジター。株式会社エヌ・デザイン所属。2007年からコンポジターとして、さまざまな作品に参加。2025年からAI VFXの可能性を探り、日々模索中。【主な参加作品】『グラスハート』(25)、『極悪女王』(24)、『サンクチュアリ -聖域-』(23)、『First Love 初恋』(22)(※全て、Netflixシリーズ作品)

エヌ・デザイン
2001年設立。「常に進化した表現」をモットーにハイエンドフルCG、リアルな実写表現を得意としたCGプロダクション。映画、ドラマ、ゲーム、遊技機、PVなどあらゆる媒体で活躍し、国内外で高い評価を得ている。
イントロダクション ~AIに触れ始めたきっかけ~
不安を抱くだけでは、何も変わらない
私がAIを試し始めたきっかけは、「不安」でした。2023年から2024年にかけて、生成AIが映像制作の分野でも急速に進化していきました。コンポジットしかやってこなかった私には、VFXという仕事自体がなくなってしまうのではないかという強い不安があり、上司や先輩にも相談を重ねました。そして行き着いた結論が、「自分で使ってみないことには何も始まらない」ということでした。そこで2025年初頭、ノードベースで生成AIを制御できる「ComfyUI」をローカル環境に導入し、VFX表現への応用を試し始めることにしました。
実際に触り始めると、見方は変わっていきました。AIは私たちの仕事を根こそぎ奪うものではなく、助けてくれる便利なツールだということが分かってきたからです。今の私の立場はシンプルで、「VFXかAIかではなく、映像制作のツー ルがひとつ増えた」という感覚で取り組んでいます。
今回ご紹介する手法は、派手な画づくりへのAI活用ではありません。バレ消し・ロトスコープ・トラッキングといった「下処理」に生成AIを取り入れることで、本来の画づくりに費やせる時間を増やすことが目的です。少し前の生成AIは、一見では良い雰囲気の画像や映像を生成してくれるけど、実は変えてほしくない部分まで変わってしまうなど、実用にはほど遠い段階でした。しかしここ数ヵ月でAIの精度が飛躍的に向上したことに加え、コンポジター視点で利用するコツもつかめてきたことで実用レベルに達しつつあると実感しています。AIに抵抗がある方でも、画づくりに直接関わらない下処理への導入であれば、試してみる価値は充分あるのではないでしょうか。
今この時代にAIをどう活用するかを模索すること自体、なかなか面白い経験だと感じています。使わずにいる間にも周囲はどんどん活用を進めていくので、自分だけ取り残されてしまうのもイヤですよね? VFXアーティストも積極的に触れていったほうが結果的に良い気がします。

