企業のプロモーション映像や番組、CMなどに欠かせないナレーション。スタジオとナレーターを確保した後は原稿をナレーターに共有することになりますが、この原稿の指示がナレーションの質を大きく左右します。Vol.2では原稿をつくる時に注意したいポイントや、「よい原稿」「読みづらい原稿」を株式会社ヴォイスワーク代表取締役の吉村誠一郎さんに解説していただきます。
講師●吉村誠一郎(株式会社ヴォイスワーク代表取締役・道玄坂702スタジオ管理者) 構成・文●高柳 圭
株式会社ヴォイスワーク代表取締役
吉村誠一郎
個人事業として1987年に創業以来、テレビ局のアナウンサーやナレーターとしての業務を中心に行う。自身で番組やコマーシャル、企業のナレーションから、音声合成の音素、e-ラーニング音声など幅広く活動する傍ら、ナレータープロダクション「ヴォイスワーク」、収録スタジオ「道玄坂702スタジオ」を運営する。
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●VIDEOSALON 2021年4月号より転載
わかりやすいナレーション原稿を用意して、気持ちよく読んでもらう
スタジオとナレーターを確保した後、原稿をナレーターに共有することになりますが、この原稿の指示がナレーションの質を大きく左右します。読みづらい、指示がわかりづらい原稿は、ナレーターのモチベーションにも影響してしまうため注意が必要です。原稿の読みやすさ、読みづらさを分けるポイントは、「どのように読むのか」「どこで読み始めるのか」「ナレーションとそうでない箇所の区別」が明確なことです。
まず読み方については、あらかじめ作品の雰囲気を伝え、「どのように読んでほしいのか」を具体的に伝える必要があります。ストーリーのある作品、株主総会のような厳格な場へ向けたもの、聞き手に語りかける表現など、制作するものによって求められるナレーションの雰囲気は異なると思います。また、著名なナレーターの名前を挙げて「誰々風にお願いします」と言われることもあり、意図は分かりますが、本人ではないので難しい指示だと思います。
動画がある場合は、原稿に必ず喋り始めの「時間(タイムコード)」を記載することも重要です。どこで読み始めるのかが記されていないと、ナレーターが動画を見て一言ずつタイムコードを原稿に書き加えるという作業が増えてしまいます。収録時にやり直しをお願いする場合でも、「どこどこ(タイムコード)をもう一度お願いします!」と指示できるので、非常に効率的です。これがないと「何ページの何行目をお願いします…」となってしまいますから。
また、動画ではあらかじめ映像にあわせて、制作側の誰かの声でガイド音声(仮のナレーション)を入れておくのもポイントです。可能であればガイド音声はディレクターが読むと、事前に原稿の注意点が明確になります。声に出して読んでみると、原稿と動画の尺が合わない点や読み方がわからない箇所などが見つかり、現場で添削する手間を省くことにつながります。どうしても自分で読めない場合は、音声読み上げソフトなどを利用してもよいかと思います。
原稿をつくる時に注意したいのが、ナレーションとそうでない箇所の区別、読み方が難しいと思われる言葉の説明です。読む部分と注意書きが同じように書かれていると、どこを読むべきなのか分かりづらいため、フォントサイズや線で区切るなど、見て分かりやすい原稿にするとロスが少なくなるでしょう。
また、固有名詞や名前、地名、専門用語などには必ず振り仮名を付け、アクセントやイントネーションの指示を入れることも大事です。固有名詞のイントネーションだけでなく、通常のセリフであっても「ここを強調」「ここは自然に」「ここはうたいあげて」「ここはゆっくり」など細かい指示があることで、ナレーターの技術を生かせる原稿になると思います。
最後に、収録時に注意してほしいリテイク指示についても触れさせてください。読み上げた後に、特に細かい指示のないまま、「もう一度お願いします」と言われることがありますが、これは避けたほうがよいです。何をどのように読んでほしかったかを具体的に伝えることで、それ以降も制作側の意図を汲んだナレーションが可能になり、収録がスムーズに進行すると思います。
ナレーション収録で一番大事なのは制作に携わる人や会社との信頼関係だと思います。リモートでのやり取りであっても、スタジオスタッフやナレーターの制作に対する心構えは、通常のスタジオ収録と同じです。発注側のスケジュール管理を始めとする事務関連の迅速な対応、原稿や収録時の的確な指示が、ナレーターやスタジオとの信頼感を生み、高品質なナレーション収録につながっていくと考えています。
ナレーターに聞く〜読む側から見たリモート指示の「○と×」
道玄坂702スタジオに登録されている6人のナレーターの方(中村琴音さん、枝塚佳子さん、松本夕紀さん、横山剛さん、兼定将司さん、伊田侑平さん)にご協力いただき、リモート収録や宅録について、ナレーター側からの意見や要望をお聞きした。
Q.読みにくい原稿とはどんな原稿ですか?
A.
◎文字が小さい原稿。
◎改行がなく、段落がわかりにくいもの。
◎読む部分以外の情報が多過ぎるもの。次にどこを読めばいいか、すぐに目で追えない。収録中はVTRを目で追いながらCUEランプと原稿も気にかけているので、文字が小さかったり文章が多いと、どうしてもミスしてしまう。
◎原稿になっていない原稿です(苦笑)。海外クライアント案件、特にマニュアル説明ビデオなどに多いのですが、翻訳サイトそのままだったり、改行も句読点もなく、どこで切ればいいのかわからないと苦戦しています。
Q.制作者に対して「こんな対応(または指示など)は嫌だなぁ…」というものはありますか?
A.
◎「この人のような声で」など、声真似を要求されるもの。ものまねは苦手です…。
◎収録の最初から一言一句にこだわられると、そちらに注意が行き過ぎてしまい、全体の流れが悪くなってしまう場合があります。
◎宅録案件をお受けしたときに、一度だけクライアントさまの指定がコロコロと変わることがありました。その度に収録し直してデータをお送りして、日をまたいでからまた雰囲気の指定が変わるという感じで、その時は本当に困りました。
Q.リモート収録や宅録で使用する原稿にこんな工夫が欲しい、またはこんな工夫が嬉しかったという原稿例はありますか?
A.
◎固有名詞や専門用語など、日常では使用しない語句の漢字やアルファベットには「ルビ」を振っていただきたいです。
◎事前にナレーションの雰囲気やイメージなどがあればご指示ください。収録でいただくVTRには声を吹き込むタイミングがわかる仮ナレが入っているものがあると嬉しいです。
Q.ドキュメンタリーを作るにあたって、構成や画作り、ナレーションはどのように作っていけばよいか、初心者向けにアドバイスをお願いします。
A.
◎映像やBGMがあらかた決まっており、仮ナレを入れておいてくださっていると、イメージやスピード感がすぐにつかめ、とても収録しやすいです。映像がない場合は、BGMや絵コンテなど、でき上がりのイメージにつながる関連素材が多ければ、ナレーションの雰囲気をつかむ助けになります。
◎宅録の場合、読み方や言葉のアクセント(イントネーション)をお客様に直接確認できないので、あらかじめ原稿にルビを入れていただいたり、固有名詞や注意してほしい語句のアクセントなどを音声ファイルで送っていただけると、間違いなく音声を収録することができます。全体に仮ナレを入れていただいているとベストですが、そのような語句だけでも確認できれば、数パターン収録したり、あとで修正する必要もなくなるので、結果的に収録がスムーズに進みます。
◎原稿にページ数やブロックナンバーなどがあると進行がスムーズになると思います。「〇ページの△ブロック◇行目をいまよりパワフルに読んでほしい」など。
◎【重要】できれば本番までに資料にじっくり目を通しておきたいので、 原稿・VTRは早めに頂けると大変助かります。
検証2「よい原稿」「読みづらい原稿」を実物比較
吉村さんがこれまで携わったお仕事のナレーション原稿から、「よい原稿」と「読みづらい原稿」を選んでいただいた。手書き文字はすべて吉村さんのメモ書き。「間」をとる部分や読み方などが記されている。
よい原稿の例 ①
資料博物館の案内ナレーション/動画なし
◎冒頭にナレーションに対する読み方の要望が記されている。
◎ナレーターが読む箇所と違う箇所が書き分けられている。
◎固有の地名や人名が多く登場するが、ルビが振られている
◎アクセントや一般的でない名詞のイントネーションについては指示がなかったため、電話で確認を行なった。
よい原稿の例 ②
ブライダル施設のPR動画(クライアント立ち合いあり)
◎制作の趣旨が明確に示されている。
◎縦書きで読みやすく整理された書式。
◎映像に合わせて、ナレーションが必要な箇所の
タイムコードが記載されている。
読みづらい原稿の例 ①
企業のPR動画
◎何を目指した動画であるかの指示がないため、
どのように読むべきか分からない。
◎ナレーションの文言と
そうでない箇所の区別がつかない。
◎動画のどの箇所(時間)で読み始めるのかの
指示がないため、ナレーターが一言ずつ
動画を見ながらチェックしていく必要がある。
読みづらい原稿の例 ②
競技施設のガイダンス
◎エクセルの原稿は、指示を出す側は
PC画面で見ているため管理しやすいが、
読む側は全体を見て収録をするため見づらくなる。
A3などに拡大しても文字が読めないというケースもある。
◎読みづらい原稿はナレーターのストレスになり、
作品のクオリティーが低下する恐れがある。
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●VIDEOSALON 2021年4月号より転載
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