ソニーのα シリーズのフラグシップ機・α1 の後継機 α1 II が約3年9カ月の時を経て、昨年12月に登場した。最大 8K/30p に対応した α1 II は前モデルからどんな進化を遂げたのか? 8K映像の撮影を得意とし、各社メーカーのカメラを使い分ける羽仁正樹さんにテストしていただき、その使用感をレポートしてもらった。

テスト・文 羽仁正樹(Saha Entertainment)
家電量販店ディスプレイやカメラメーカーのデモ映像制作、TVCM 向けの映像を手掛ける。8K 撮影をスタンダードとしており、日本の絶景、都市空撮、都市風景の映像を世界に向け発信中。使用カメラは、REDのHELIUM 8K S35 やニコンZ9、ソニーα1、FX3、Qoocam3 Ultra、DJI Avata2、GoPro など。過去に使っていたカメラはキヤノンEOS R5、ブラックマジックデザインBMPCC 6K、パナソニックGH5S。カメラ、ガジェット好き。

ソニー α1 Ⅱ
オープン価格 (実売990,000 円) ボディのみ
2021年3月発売されたα1の後継機。有効約5,010万画素の高解像と、ブラックアウトフリーでのAF/AE 追従の最高30コマ/秒の高速連写、歪みを抑えた撮影を実現するアンチディストーションシャッター、AIを活用した最新の被写体認識AF機能などを搭載したフラッグシップモデル。動画撮影機能は、最大8K/30p、4K/120p に対応。最適化されたアルゴリズムによる電子式手ブレ補正機能と、光学式5軸ボディ内手ブレ補正を併用した手ブレ補正モード「ダイナミックアクティブモード」を搭載。液晶モニターは約210万ドット、3.2 型の高精細大型液晶パネルを採用。
α1 IIで撮り下ろしたテスト映像
前モデルから使い勝手が向上した α1 II

私は普段は日本の絶景を8K撮影することをライフワークにしている。前モデル・ソニーα1のユーザーでもあり、8K/30p映像やタイムラプス撮影など日々仕事で使っている。今回その後継機であるα1 llを使用する機会をいただき、FE28-70mm F2 GM レンズやFE85mm F1.4 GM ll もお借りできたので、夕方から夜の都市風景、ポートレート撮影でテストした。
α1との違いで、まず目に留まったのは、モニターサイズの違いだ。大きくなって見やすくなった。3型が3.2 型になり、数字上では分かりづらいが、日々α1 のモニターを見続けている筆者には、とても大きな違いに感じた。特に動画撮影時の16:9 映像が見やすくなった。また、α1で不満だった液晶画面の稼働が、ティルトだけではなくバリアングルも可能な4軸マルチアングルになったことで縦動画撮影、ハイアングル撮影や自撮り撮影もしやすくなった。α1を選ぶのは動画も写真も1台でキレイに撮りたいというユーザー層だろう(動画だけならα7S lllやFX3、写真だけならα7R V を選ぶので)。 モニターが縦に稼働することによって縦写真も非常に撮影しやすくなった。

次にモードダイヤルの変更。α1 ll はダイヤル側面に写真・動画・S&Q (スロー&クイック)が設けられており、即座に切り替えできるようになった。動画と写真を撮るハイブリットシューターにとって、動画と写真のモードを行き来することは非常に多い。α1 ではモードダイヤルをグルグル動かすことに煩わしさを感じていた。特に水中撮影などでは水中ハウジングでモードダイヤルをA (絞り優先オート) から S&Q に何度も変えることは、グローブをしていて大変だったと共に、貴重なシャッターチャンスを逃していた。同様に今年登った、富士山や北岳での寒い環境でもモードダイヤルの使いづらさを感じていたので、この変更は嬉しい限りだ。また、α1 では動画モードにした際、さらにメニューを開いて、P (プログラムオート)、A、S (シャッタースピード優先)、M (マニュアル露出)を選択しなければいけなかったが、α1 ll は1回の操作で写真と動画のモードを選べるのも良い。


そしてオートフォーカス性能。α1 ll の被写体認識性能の向上から、AFの信頼性が前モデルのα1より格段に上がったと感じた。暗い環境での被写体や人物への追従性が素晴らしかった。作った動画のほとんどをAF のみで撮影したが、安心してAF が使用できると感じた。またひと昔前までソニーのカメラは動画撮影時にAF-Cしか使えず、ピントを固定したい際、毎回マニュアルフォーカスに変えていたが、タッチ操作はON にして撮影時のタッチ機能でタッチフォーカスを選ぶことで、ワンタッチでMF に変えることができるようになった。今回の作例でも止まった風景を撮る際はタッチフォーカスを使用している(従来のように撮影時のタッチ機能をタッチトラッキングに選ぶこともできる)。

Logの設定が独立して可能に

また、動画撮影時に使うLog 設定に関して。α1 llになってメニューの中にLog撮影設定なるものができ、Log 撮影のON/OFF をここで選べるようになった。正直慣れてしまったが、従来のようなピクチャープロファイルでPP7、PP8、PP9 とか選ぶのは面倒くさかったし、分かりづらかった。初めて使う人はとても悩むだろう。キヤノンEOS R5 II は以前のソニー機に合わせたのか、EOS R5 ではLog 設定が独立メニューであったのに、EOS R5 II はピクチャープロファイルに入ってしまった。おかげでEOS R5 II の設定ミスをして、Log 撮影モードし忘れ、撮り直すことになった。ここで全カメラメーカーに言いたいのは、Log 設定メニューは独立してあったほうがいいということ。
ビルからの風景の様子


新たに登場した注目のレンズも合わせてテスト
ソニー FE 28-70mm F2 GM


オープン価格(実売498,300 円)
絞り開放で人物を撮った時の立体感が素晴らしく、まさしく珠玉の1本。動画ユーザーには、ぜひともほしい1本。今まで単焦点レンズを使って表現していた世界が、この1本で実現できそう。解像度も高く、α1 ll との組み合わせは鬼に金棒。
ソニー FE 85mm F1.4 GM II


オープン価格(実売295,900 円)
動画の作例では、花火大会のシーンで使っているが、明るいレンズがあるとISO を上げないで済むので結果ノイズの少ない映像が撮影できる。また、ポートレート写真も、このレンズで撮影したがピントが合った所のシャープ感とボケのバランスが素晴らしく、ポートレート撮る人には間違いない1本だ。
撮影を終えてα1 llに思うこと
α1で不満だった点がブラッシュアップされて、より完成度の高いカメラになった。FE28-70mm F2 GM は素晴らしく、開放F2 にも関わらず軽量な上、1本でこんなに楽しめるレンズはなかなかない。α1 ll が既に今注文しても納期が見えない状況なので、まずはこのレンズを手に入れてα1で使いたいと思った。α1 ll の不満点は、他者の競合カメラが8K/60p RAW 内部収録に対応している中、相変わらず8K/30p H.265 でしか撮れないところだ。また、露出補正ダイヤルの印字が削られてしまい、α1 ユーザーは上面を覗けば、アナログ的に設定が確認できる点がよかったのに残念。
これは要望だが、インターバル撮影(写真の連番)した時に、毎回新規フォルダを作って番号をリセットしてほしい。毎回SSD にコピーした後、どこから、どこまでが1セットのタイムラプス写真なのか選ぶ作業が大変なのだ。また、S&Qで120pしか選べないと50Hz帯(東日本)ではフリッカーが出てしまうので100pも選べるようにしてほしい。
他社の8Kカメラと比べてみた
ソニーFE 28-70mm F2 GM とキヤノンRF28-70mm F2 L USM を比較









比較テストで見えたこと
キヤノンEOS R5C、EOS R5 ll、ニコンZ9 などの、8K が撮れるカメラとα1 ll を比べてみた。特にキヤノンRF28-70mm F2 とFE28-70mm F2 との比較をした。結論から述べると、解像度に関しては、α1 ll → EOS R5 ll → EOS R5C という順番になった(8K/24p H.265 10bit 4:2:2) 。
α1 ll とEOS R5 ll に関しては大きな差はないが、50 インチの4有機EL テレビで見たら、違いがわかるというレベルだ。EOS R5C はEOS R5 ll と同じレンズを付けているのにも関わらず、周辺が解像しなかった。
また、前ページで紹介した暗い中での人物瞳認識AF もα1 ll は前モデルと比べ精度が向上していたが、EOS R5 ll とも高いレベルで認識していた。人物が後ろを向いた時の頭部認証も素晴らしいレベルだが、一瞬EOS R5 ll がピントを外した。なおR5C はほぼ認識しなかった。
続いて、Z9 にマウントアダプターETZ21 を使って比較。ソニーレンズは電子処理で歪みや周辺光量などを後処理しているので、補正が効かないZ9 では解像度で大きな差が出た。筆者は度々Z9 にFE14mm F1.8GM やFE35mm F1.4GM などを使用するが、ここまで差は出ないので、レンズによって相性があるのかもしれない。いずれにしても、EOS R5C、EOS R5 ll、Z9 は8K/60p RAW が撮れる。今回はH.265 で比較したので、機会があればRAW で撮った映像とも比較したいものだ。それから筆者が仕事で行う撮影で一番重要視するポイントは熱で止まらないカメラ。今回は冬の撮影だったのでどのカメラも撮影中に止まることはなかったが、そのあたりもテストしたい。
FE 85mm F1.4 GM IIをニコンZ9に取り付けて比較







● 今回のテストの8K素材をVIDEO SALON.webで配布中