ビデオサロン7月号巻頭でお届けしている「ポケットシネマカメラ4K」を巡る座談会。ウェブでは誌面の都合で一部割愛した前半部分をアップします。
フィルムルックを求め続けたカメラ遍歴
鈴木佑介さんと井上卓郎さんは本誌に何度もご登場いただいていますが、田村雄介さんは初登場です。ブラックマジックデザインのカメラは初代から使われているそうですが。
田村 はい。Blackmagic Cinema Camera、Pocket Cinema Camera、URSA Mini 4.6Kと来てますから正統な流れです。すべて売らずに現場で活用しています。ブラックマジックのカメラはタイムラプスの設定がわかりやすくて、撮り終わるとProResの高画質のムービーができあがっているので、今でも前のモデルを現場で起きっぱなしにしてタイムラプス撮影をしておくことは多いですね。
カメラはブラックマジックのカメラだけでなく、GH5、EOS 5D Mark IVも持っていますし、仕事の現場ではALEXA MiniやRED、シネマカメラ、ハンドヘルドなど与えられたカメラを使っていますから、ほとんどのカメラを現場で使っています。仕事は企業VPやイベントの撮影、CM、たまに映画の撮影など、ウェブCMの仕事が多いです。撮影だけでなく編集から納品まで一人でやることもあります。
もともと私はグラフィックデザインの会社に所属しながら、並行してスチルで舞台やライブなどのステージ撮影をするうちにカメラにのめり込んでいって、デジタル一眼がまだ300万画素の時代からRAW現像をやっていました。映像はDV時代のキヤノンのXLシリーズでライブやイベントの撮影をしたりしていましたが、5D Mark IIで本格的にムービーに取り組むようになりました。案件によってはスチルとビデオの両方をやることもあります。もともと私はグラフィックデザインの会社に所属しながら、並行してスチルで舞台やライブなどのステージ撮影をするうちにカメラにのめり込んでいって、
今回のPocket Cinema Camera 4Kは正式発表される前、バナーが出た瞬間に販売店に予約を入れました。
田村雄介さん
カメラ遍歴の話が出たので、その流れで行きましょう。鈴木さんは?
鈴木 学生時代にローン組んで買ったのがキヤノンXV1。自主制作のために買ったのがスタートで、当時はビデオカメラしかなかった時代です。次に24pで撮れるカメラ、パナソニックDVX100Bを買って、2008か2009年まで、DVX100Bを3台とHVX200を1台使っていました。5D Mark IIが出た当初は一眼はキレイだけど使えないと思っていたんですが、7Dあたりから使えるようになって楽しくなってきて、そこから独学で勉強し始めました。その後EOS 5D Mark III、GH4、ソニーαになって今に至っています。ブラックマジックデザインのカメラはポケシネ(Pocket Cinema Camera)で遊んでみたんですが、Final Cut ProでRAWを扱えなくて、当時のDaVinci Resolveも全然分からないし、データ容量が大きすぎて、こんなの流行らないと思ってすぐ売ってしまいました。ただ、ここ数年、Resolveが使えるようになってきて、今年こそRAW元年だと思うんです。すぐに手にとりたいと思ってPocket Cinema Camera 4Kは2台予約しました。
鈴木佑介さん
井上 僕は海外のスキービデオに影響を受けてビデオを始めたのですが、最初はソニーのTRV10というハンディカムでした。でも、どうしてもああいう画が再現できない。当時2000年くらいでもはあちらでは16ミリフィルムで撮っていたことを知らなくて、ずっと悩んでいたんです。実はREDが出るまでみんな結構16ミリを使っていたんですよね。その後、ビデオカメラではVX2000、DVX100とか使っていたけど、どうも違うなあという思いを抱えたままでした。その後、一度カメラから離れるんですが、またカメラを始めたときは、仕事ではDVでしたが、プライベートではフジカのシングルエイトで撮影して、投射したものを撮影する簡易テレシネをやってました。
え? 2000年代になっても8ミリフィルムで撮ってたんですか?
井上 はい。そのあとに5D Mark IIが出て次の5D Mark IIIでマジックランタンのファームを入れるとRAWが撮れるというので飛びつきました。買って来てすぐにそのファームを入れ、そこでRAWの素晴らしさに気がついて、そこからはRAWばかりで撮っていました。
井上卓郎さん
ところが時代が4Kになって、4K納品を求められるようになったので、ソニーα7RIIを入れたんですが、やはり山の映像だとどうしてもダイナミックレンジが物足りなくて、色をいじるとブロックノイズが出て、どうしようもなかったんです。そんなときにURSA Miniを1か月弱お借りして使う機会があって、いじっているうちにこれしかない!と悟り、ちょうどURSA Mini Proが出たので導入しました。
みなさん発表と同時に予約されたわけですが、様子を見てからという判断はなかったんですか?
鈴木 高価なシネマカメラなら慌てないけど、これは値段が値段だから、予約しないと手に入らないと思って。初期ロット云々言う前に機会損失のほうがもったいない。いやだったら売ればいいんですから。
田村 製品が出てこないことに関してはブラックマジックデザインにだいぶ調教されてるんで、ぼくは。とくにURSA M 4.6Kのときはすぐ予約して6月発売のアナウンスだったのが、届いたのが翌年の3月ですから。
そのあたり、ブラックマジックデザインの北山さん、今回はどうですか?
北山 ブラックマジックデザインは常にベストを尽くす会社で、それは変わっていないのですが、製造に関しては年々安定してきています。このカメラは9月に出したいと思っています。
ブラックマジックデザイン 北山壮平さん
実は企画の段階から私は関わっていて、入社した2カ月後に本社に行って、こういうカメラがいいと思うという叩き台を出して、プロジェクトリーダーとも検討しました。それから2年たたずに、ここまで形になったわけで、開発陣は素晴らしいチームだと思います。デュアルISOまで入れて来たのは、わたしにとっても棚から牡丹餅で、先進の技術でも入れられるものはどんどん入れるという発想ですね。
映画を学ぶ学生にぜひ使ってほしい
北山 価格なのですが、弊社CEOのグラントはもっと安く、10万円近くにしたかったようです。限界ぎりぎりまでコストを削ったけど、3、4万円が縮められなかった。だからDaVinci Resolve Studioをつけたんです。つまりカメラは実質10万円ちょっとと考えることもできます。学生などこれから始めたい人の初期投資をできるだけを抑えたかったのです。いずれにしてもResolveは必要になりますから。
鈴木 わたしの大学(日芸)のときは卒業制作はフィルムだったのですが、フィルムは支給されないので、みんなでお金を出し合ってフィルムを買っていました。失敗したら借金して買ってた。ポケシネ4KはPCやカードなどは必要でトータルの金額は変わらないかもしれないけど、消耗品にかけるんじゃなく、後で残るのもにかけられるからいい。学生には最高にいいですよ。
北山 映像学科の学生さんに使ってほしいんです。学校で買った高価なカメラはみんなで使うカメラですけど、個人が持てるカメラであれば、自分で撮影して、家で編集して、グレーディングすると確実に腕は上がります。未来が違ってくると思うんです。
井上 アメリカって学生がフィルムを回して撮っていた、日本ではなかなかできなかった。学生がもてるカメラって重要で、しかもそれがRAWで撮れる。
RAWを体験してほしい
スチルでのRAWはハイアマチュアでも普通に現像していますが、動画のRAWはほとんど馴染みがないです。
北山 RAWからカラーグレーディンをするとカメラの良し悪しがほんとによくわかるんですよ。「撮って出し」だとメーカーにいいように調理されているんで気がつかなかったことが明らかになる。カメラの評価が変わる時代がくると思います。
井上 多くの人がポケシネ4KでRAWを体験することで、誤解した発言がいっぱい出てくるでしょう。RAWはノイズが多いとか…。
北山 ノイズリダクションをかけるのをメーカーのエンジニアに任せるのか、自分でやるのかという違いですね。でもノイズリダクションがかかったようなRAWがあるのも事実ですし、8ビット、10ビット、12ビットの違いもあります。
鈴木 つまり一口にRAWと言っても、触っていて楽しいRAWと楽しくないRAWがある。そのあたりの違いは色をいじると顕著に出てきます。私もセミナーに大金を費やし、ミニパネルを購入してセカンダリーを覚えて表現したいルックを作れるようになって分かってきました。ただRAWで撮っただけでは楽しくない。
井上 H.264とRAWの違いは、写真でいうJPEGとRAWの違いと同じ。まず、騙された思って、体験してもほしい。失敗する人もいっぱい出るでしょう。そこから続けられる人が数%でもいれば、このカメラは入り口としての存在意義はあります。一眼の登場で、ビデオは一段レベルが上がった思いますが、RAWで色をいじることで、もう一段上がる時代が来たと思います。
鈴木 そこで知っておかなければならないのは、グレーディングのこととか、PCやストレージのこととか、一気に増えるから、ポケシネ4Kの発売までの3、4か月、みんな勉強したほうがいいです。
今から周辺環境含めて準備しておかないと間に合わないですね。
続きはビデオサロン7月号をお読みください。
次号ビデオサロン8月号では田村雄介さん(2台予約!)の準備状況(リグ、レンズなど)をじっくりとお届けします。