2025年2月27日(木)から3月2日(日)までの4日間、パシフィコ横浜で開催された「CP+ 2025」。本記事では、そこで行われた玄光社のVIDEO SALONとCommercial Photoがプロデュースしたイベント企画「CREATORS EDGE Spring Edition」の神藤剛さんによるセミナーの模様をお届けする。3月2日(日)16:10-16:50にステージCで行われたこのセッションでは、これまで数多くのアーティスト写真やジャケット写真を撮影してきた神藤さんのコンセプト設定からロケハン、当日の撮影手法までを、複数の実例を通して解説していただいた。

レポート●武石 修

セミナーステージのアーカイブ動画





アプリを使って太陽の位置を確認

神藤剛と申します。さっそく最初のアーティストを紹介します。

「僕が見たかった青空」というアイドルユニットです。秋元康さんのプロデュースで2023年6月に結成されたアイドルグループになります。この写真の撮影に当たっては、グループ名が「僕が見たかった青空」ということもあり、「絶対青空が必要でしょう?」 というのが念頭にありました。スタジオで青空を撮影するのはほぼ不可能なので、何ができるかといったら、空が晴れていることを願って撮るしかないんですね。

学校のロケ地はロケーションコーディネートにいくつか見つけていただいて、アートディレクターとロケハンに行きました。

光の方向ですが、青空ということなので基本的には順光で撮らなければなりません。逆光で人の顔を見せると後が飛んでしまいます。順光で23人を撮る引きじりも取れ、どのポジションからベストが狙えるのかを考えながらロケハンをしました。

その中で”Sun Seeker”というアプリを使って、被写体と太陽のポジションを確認し、被写体の位置に立ってどういう状況だと写りやすいかを考えました。例えばAM9時半だと、被写体がカメラを見たときにちょっと目が開きにくいかも、といった具合です。

そうして撮影の時間を導いていきました。10時~11時の間がギリギリ順光で、サイドから光が当たり、メンバーの顔も見え、空の青さも撮れることがわかりました。

もちろん、当日が雨だったときのことも考えて、教室で撮るプランも用意しておきました。雨の場合、窓側は明るくても廊下側に行くほど光が届きにくいことが想定されます。そうすると外から照明を作らないといけないので、校舎の外からHMIで太陽光と同じような光を作れる機材の準備とセッティングを考えていきました。

実際、撮影当日は晴れたので照明機材は一切使いませんでしたね。ただ、当日の天気が読めなかった部分もあったのでかなりの量の機材を運び込みました。

被写体に込められた物語を写す

アーティストさんのコンセプトによってはポジショニングをガッツリ考えておくパターンもありますが、今回は学生というコンセプトの上で自然に撮る構図で進めました。

背の高さで富士山のようなポジショニングにしているのはある程度計算していますが、体の振りなどはあまり決めていません。みんなに向こうを向いてもらって背中をカメラに向けている状態から、「じゃあみんな撮るよ」といって振り向いてもらうことで、振り向いた体の方向を含めて極力自然な形で撮るようにしました。

それからフロアの反射ですよね。「僕が見たかった青空」ということは、「青空の前の物語がある」ということなんだと考えました。「青空」というコンセプトがある上で、その前の事象を1枚の写真に残せないかと考えました。「曇っていたのか? 雨が降っていたのか?」みたいなことを考えたときに、「雨が上がって、僕が見たかった青空が現れた」というイメージの方向で話がまとまりました。

そこで雨が降ったような演出で見せることに。雨上がりという物語が入っているとより「僕が見たかった青空」という名前とともにに強調されるわけです。

ほかの撮影現場でもそうですが、被写体全員の名前を覚えるようにしています。憶えるのは大変ですが、1対1でコミュニケーションしているというのをなんとなく伝えたいなと思っています。「右から何番目の子」みたいには言わないようにと、撮影の時は常に意識しています。

信頼関係を築いて面白い写真を

次は岡崎体育さんのアー写です。体育さんとはデビューの時からずっとご一緒させていただいています。今までジェットコースターに乗ったり、モンゴルに行ったり…と突拍子もないことをしていますが、基本的には体育さんがやりたいと言ったことをもとに、僕たちが一緒に面白さを積み上げていくイメージです。

体育さんと打合せをしたときに、TikTokでツルツルのフローリングを滑りながらポーズを決める動画あって、「俺もこんなことしてみたい」という話だったんですね。最初はMVでやりたかったそうですが、危ないし場所も見つからないなかで「これをアー写でやれないですか?」という話がビジュアルの発端になっています。

スタジオでライティングを組んで、下にビニールが敷いてあります。この脚立に乗ってバケツでローションをかけるという、本当に昔のコントのようですよね。ただ、一発勝負なんです。服も1着しかないですし、2回目をやろうと思ったらヘアメイクの直しで1、2時間掛かってしまう。

ライティングは1番のストロボで左右から背景を照らしています(下図参照)。2番はローションに当たってキラッと感を出しているライトで、しっかり止まって見えるように閃光速度を速くしています。

3番のライトは人物を見せるためのライトですが、これだけだとシャドウが落ちすぎてします。そのため、シャドウを起こすための柔らかい光を正面から入れています。ほかの光が回ってこないようにするために、周りは黒いパネルで囲いました。

実際のことを言うと…本当に落としたかった場所にローションが落ちなかったんですね。狙いは顔の上にかかっているけど「何も付いていません!」みたいな顔が一番面白いんじゃないか? という話だったんです。

いざやってみたら、やや後ろに掛かってしまって顔に全然かからなかった。「あ、ヤバイ」と思って、スタッフも一瞬止まってしまいましたね。もう1回スタイリングして、ほかのジャケットを着ようかとも思ったときに、「シャンプーのCMみたいに、夏の日差しを感じているように気持ちよく頭を振ってみて」と言ってみたんです。

その時にネタのようにやってくれたのがこれです。目もつむっているし、何なのかよくわからない液体が伸びているしで、アー写としては不成立だと思います。でも、制作チーム含めて体育さんも面白がってくれて成立したということです。

このノリをアー写にしてしまう体育さんと、彼との信頼関係があってのことだと思います。「神藤が言っていることだったら面白くなるかもしれない」と信用してもらっている部分があって、それがマッチしてできた1枚ですね。

ハイスピードシンクロで空の色味を出す

最後はアーティストの久保田利伸さんです。子供の時から知っている憧れの人です。そのような方と初めてご一緒させて頂いたのが、the Beat of Lifeという配信用のジャケットです。

アートディレクターから、歌詞に「so bright go fly」というのがあるので、そこから連想された「建物に腰掛けて夕陽を全面に浴びている」ビジュアルの提案がありました。かつ、配信用なのでスマホの小さい画面で見ても伝わるインパクトのあるビジュアルにしたいということもあり、グラフィカルで配色も楽しめる画を作ることになりました。

撮影場所は品川のハウススタジオです。ここでも”Sun Seeker”を使って、屋上の久保田さんの立ち位置から見た陽の位置を考えて撮っています。

今回、時間帯的にビル影に若干隠れる16時過ぎくらいの時間を狙いました。人物が影になるのでよりストロボの光を引き出しやすくなるんですね。この時間だと本人の目も開くというメリットもありました。
そういう条件をいろいろ加味してロケハンをして、ここがベストだねと撮影場所が決まりました。

今の技術があれば後から合成もできるし色を乗せる事もできます。ただ久保田さんはグルーブ感を大切にしてみんなで一緒にセッションをしていくことが好きですから、現場で結果を見ながら士気が上がるようにしたかった。できるだけ、現場で一発でできることをやろうと決めていました。

画像確認はCapture Oneというソフトでテザーをして、上の階でiPadで見られるようにしました。ライティングは日中シンクロをしなければなりません。陽がある中でストロボを使う技術なので、昔はレンズシャッターのカメラやNDフィルターを使ったりしました。皆さんの持っているカメラでも同調速度が1/125秒とか1/250秒以下のものが多いと思います。

ところが、このProfotoの機材を使えばハイスピードシンクロと言って1/4,000秒や1/8,000秒でも使えるようになるので、外光を暗くできます。その分ストロボとの光のバランスが取れるので、こうして空の色を生かした構図ができるということですね。

久保田さんは高いところが苦手で、座っているときにスタッフがズボンを持っていました。怖い場所だと思いますが、久保田さんが何よりも頑張ってくれて大変だっただろうという面もありましたね。

久保田さんのYouTubeチャンネルにこのときのメイキングが載っています。今回の話を聞いた上で見てもらえればどういう風に撮っているかがわかるので、一度見ていただければと思います。

以上となります。本日はありがとうございました。



CREATORS EDGE2025は10月9日(木)開催!




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