DJIから初の360°カメラを搭載したドローンとなるDJI AVATA 360。DJIのAvataシリーズのラインナップに追加された本製品は、8K/60fpsのHDR動画撮影が可能で、DJIのゴーグルとモーションコントローラーを組み合わせての使用のほか、これまでのDJIの送信機でも操作することもできる。また、撮影後に編集のタイミングで好きな視点からリフレーミングすることができる点でも注目されている。ドローンカメラマンのイナダユウキさんに、早速レビューいただいた。

●レポート
イナダユウキ(コマンドディー)
2015年に九州・熊本でドローンカメラマンとして独立。第72回ニッコールフォトコンテスト ネイチャー部門 単写真入選。自社サービスとしてドローンフィールド「ドローン手形」も展開。ライフワークとして阿蘇の草原の記録を撮り続けている。
=====
前編では、DJI AVATA 360の基本性能や使い勝手について解説しました。
前編の執筆後に色々と飛ばしてみて、良さもあれば、細かな部分で気になった点もあります。
そこで後編では、そうした実使用で感じたことに加えて、DJIのアクションカメラも含めた画質の比較についてもご紹介していきます。
特にドローンユーザーの方が気になるのは、「AVATA 2から乗り換えるべきなのか」というところだと思います。
この点については、答えは簡単ではありません。
それぞれにしっかり良さがあり、細かな部分で思想も使いどころも違うため、どちらか1台で完全に置き換えられるかというと、正直かなり悩ましいです。
だからこそ後編では、単純なスペックの優劣ではなく、実際の使用感や画質の違いも含めて、どんな人にどちらが向いているのかを整理していきます。
それでは、詳しく見ていきます。
入り組んだ環境でのバックショットは革命的
AVATA 360を飛ばしていて特に感動したのが、入り組んだ環境でのバックショットの撮りやすさです。
木々が多い場所や障害物の多い環境では、前進以外のカメラワークは一気に難しくなります。というのも、映像としての画角を確認しながら、同時に障害物も避けなければならないからです。
今までのドローンでも、たとえば被写体を見せながら後ろへ抜けるようなバックショットは撮れます。
ただ、木々など障害物が多数ある中でバックしていくのは、正直かなり怖いんです。モニターで構図を決めたい。でも障害物は目視で避けなければならない。その両方を同時にやろうとすると、どうしても途中で躊躇してしまって、結果としてワークがぎこちなくなったり、滑らかさが失われたりすることがよくあります。
その点、AVATA 360は大きく発想が変わります。やるべきことは、複雑な場所でも安全に飛ばすことだけです。あとから編集で、しっかり被写体を捉えた向きに視点を合わせて書き出せばいい。この考え方に変わるだけで、今までなら怖くて速度を落としていた場面や、そもそも諦めていた方向の映像が、一気に現実的になります。
特に、混み合った場所で滑らかなバックショットを作れるのは、本当に革命的だと感じました。これは単に「あとから向きを変えられる」という話ではなく、これまで撮りたくても安全面や操作の難しさで断念していた映像を、実際に撮れるようにしてくれる変化です。
▼ サンプル映像
AVATA 2とAVATA 360の違いと使い分けについて

まずサイズ感と重さについては、AVATA 360のほうがやや大きめです。
2機を並べてみるとその違いはわかりますが、極端に別物というほどの差ではありません。
実際に飛ばしてみた印象としても、通常の飛行における機体の挙動や操作感そのものはかなり近く、AVATA 2からAVATA 360へ移行しても大きな違和感はありませんでした。
機体サイズはAVATA 360のほうが多少大きいものの、通常の飛行に限れば、その差を強く意識する場面はそれほど多くないと感じます。
AVATA 2で潜れるようなラインは、AVATA 360でもほぼ同じ感覚で飛ばすことができます。
ただ、実際に比べてみると、この2機種は似ているようでいて、映像の作り方に対する考え方が大きく異なります。
DJI AVATA 360は非常にユニークで完成度の高い機体ですが、用途によっては DJI AVATA 2 のほうが向いている場面もあります。
つまり、飛ばしたときの第一印象はかなり近いのですが、どちらが向いているかは、最終的には「何を主役にして映像を作るのか」で変わってきます。
違い1:Mモードの有無
ただし、大きな違いとして挙げられるのが、AVATA 2のみがMモードに対応している点です。
AVATA 360も、DJI FPV送信機3に対応していますが、AVATA 2のようなマニュアルモード、いわゆるMモードには対応していません。
Mモードは、ジャイロセンサーによる姿勢補正を弱め、操縦自体は難しくなる一方で、より自由でアクロバティックな飛行を可能にするモードです。MモードでのAVATA 2は、挙動もスピードも通常時とは大きく変わり、FPVドローンならではの独特な疾走感を活かした映像撮影が可能になります。そのため、FPVドローンらしい鋭い切り返しや、飛行そのものの迫力を映像表現として活かしたいなら、AVATA 2のほうが適しています。 飛ばすこと自体の面白さや、操縦のダイレクトな感覚を求めるなら、AVATA 2に優位性があります。
さらに、AVATA 2の映像には、飛行中に機体の向きがわずかに揺らぐ(進行方向に対して傾く)ことで生まれる独特のニュアンスがあります。
この揺れは、単なるブレではなく、結果として疾走感や浮遊感につながっていて、FPVらしい映像の気持ちよさを支えている要素でもあります。
▼ AVATA2でのMモードのサンプル
一方で、AVATA 360はそうした特殊なスピード感や挙動そのものを武器にする機体ではありません。飛行特性そのものを見せる機体というよりは、別の方向に魅力を持つ機体です。
AVATA 360の魅力は、飛行中の挙動で魅せることよりも、360度で記録した素材をあとから編集で再構成できることにあります。AVATA 360は、あとからチルトやロールを作り込み、ひとつの飛行から複数の見せ方を生み出せるという、まったく別の強みを持っています。
360度素材からカメラを振ったり回したりすることで、模擬的にFPVらしい見せ方を作ることも可能です。
ここは好みが分かれるところですが、私自身は、Mモードの映像は迫力がある反面、スピードが出すぎることで情報が流れやすく、映像として見たときに内容が伝わりにくいと感じる場面も少なくありませんでした。
その点、AVATA 360は、ほどよく情報を伝えやすい速度感を保ちながら、それでも十分に迫力のある映像へ持っていけます。
そういう意味では、360度素材から切り出した映像のほうが、実際の使い勝手は良いと感じています。
▼ FPV風のカメラワークだが、速度感を落として被写体をしっかりと見せれる
この違いをひと言でまとめるなら、
AVATA 2が「飛ばして画を作る」機体だとすれば、
AVATA 360は「撮ってから画を作る」機体です。
違い2:NDフィルターの対応
もうひとつの違いが、NDフィルター対応の有無です。
AVATA 360はNDフィルターに対応していないため、シャッタースピードを厳密に管理しながら映像を作りたい場合には制約があります。
さらに、360度撮影のために上下2つのレンズを持つ構造上、光の入り方によっては上下でフレアの出方が異なり、映像が安定しにくい場面もあります。
▼フレアのサンプル

その点、AVATA 2は、NDフィルターでシャッタースピードのコントロールをしやすく、フレアの入り方も比較的ナチュラルです。
屋外で使うことの多いドローンという前提で見ると、AVATA 2のほうが映像の安定感は高いと感じます。
露出を細かく追い込みたい撮影では、AVATA 2のほうが扱いやすい場面があるはずです。
つまり、この2機種はどちらが上か下かという関係ではなく、映像の作り方そのものが違うと考えたほうがわかりやすいと思います。
AVATA 2は、飛行性能やFPVらしい操縦感を活かして、飛ばし方そのもので画を作る機体です。
AVATA 360は、360度で空間を記録し、あとから編集で画を設計していく機体です。
飛行の迫力をそのまま映像に乗せたいのか。
それとも、撮影後に視点を切り出しながら自由に演出したいのか。
この違いが、そのまま選ぶべき機体の違いになります。
画質の比較について
アクションカメラとドローンという違いはありますが、カメラ性能の方向性が比較的近い組み合わせとして、AVATA 2、AVATA 360、OSMO Nano、OSMO 360を同じ環境で撮影し、画質の違いを見比べてみました。

スペックシート上では、それぞれ近い印象を受ける部分もありますが、実際の映像として見たときにどう違うのかは、やはり同条件に近い形で比較してみないと見えてこない部分があります。
そこで今回は、暗部と窓の外のハイライトが同時に入る、ダイナミックレンジの差が出やすい環境で撮影しています。
撮影条件は、ブレ補正あり、歪み補正ありの設定で
AVATA 360とOSMO 360が f1.9、ISO400、SS1/500、
AVATA 2とOSMO Nanoが f2.8、ISO400、SS1/240です。
カラーはすべてD-Log Mで撮影し、DJI StudioでLUTを当ててRec.709に変換しています。




▼映像でご覧になりたい方はこちら
ぱっと見た印象としては、どの機種も全体の雰囲気は大きく破綻しておらず、一見すると大きな差はないようにも見えます。ただ、細かく見ていくと、それぞれの特徴がしっかり出ています。
まず暗部と窓外のハイライトのバランスを見ると、OSMO 360とAVATA 360の360系は、明るいレンズの恩恵もあってか、全体としての情報量はしっかり残っている印象があります。
一方で、AVATA 2とOSMO Nanoも十分健闘しており、特に大きく見劣りするという感じではありません。
このあたりを見ると、最近のDJI製品全体で、映像の基礎体力がかなり揃ってきていることを感じます。
ただし、AVATA 360については、中心部のシャープネスが他の機種と比べて少し甘く見える場面がありました。
これについては個人的な推測ですが、AVATA 360は上下2つのレンズで360度を記録する構造のため、水平方向の中央付近が、ちょうど2眼をつなぐ処理の影響を受けやすいのではないかと感じています。
つまり、一般的なカメラであればもっともおいしいことが多い正面0度付近のディテールが、AVATA 360では構造上少し不利になっている可能性があります。
ここは、360度カメラとしての仕組みを考えるとある程度仕方のない部分ではあるものの、映像として見ると少し惜しいと感じました。
ただ、その一方で、AVATA 360はそもそも1枚の完成画をそのまま撮るためのカメラというより、空間全体を記録して、あとから必要な画角やカメラワークを切り出していく機体です。
そう考えると、正面の一部分だけを静止画的に厳しく比較したときの弱さが、そのまま機体全体の価値を下げるわけではありません。また、実際には動きのある映像として使う場面が多いと思いますので、この中心部の解像感の差が常に強く気になるかというと、そこまで多くはないとも感じました。
静止比較では見える差でも、運用の中ではそこまで致命的にはなりにくい、というのが正直な印象です。
シングルレンズモードでは見え方が変わる

一方で、シングルレンズモードは考え方がかなり違います。こちらは360°全体を記録するのではなく、レンズの向きがかわり正面の1レンズで撮影(もう1個のレンズは利用しません)し、撮って出しで使いやすいmp4として記録されます。つまり、通常のドローン映像に近い感覚で扱えるモードです。
ちなみに上記と同条件でシングルレンズモードで撮影した画像がこちらです。ディティールが明らかに上がっています。

ただしこのモードでは、前編で記載しましたが、送信機の組み合わせによってレンズの可動域に制限があるため下向きの角度によっては、360度モードで撮影して切り出す必要があります。
ディティールを取るか角度を取るかを、360度モードかシングルレンズモードで選ぶ必要があります。
まとめ もし1台だけ選ぶなら
AVATA 2とAVATA 360は、それぞれに明確な強みがあり、どちらか一方に簡単に優劣をつけられる関係ではありません。
飛行そのものの気持ちよさや、FPVらしい独特の疾走感、映像の安定感という意味では、AVATA 2に魅力があります。
一方でAVATA 360は、360度素材を活かして、これまでにないカメラワークをあとから設計できるという、まったく別の強みを持っています。
そのうえで、もし私が1台だけ選ぶなら、DJI AVATA 360を選ぶと思います。
理由はシンプルで、これまでにない未知のカメラワークを作れること、その自由度がやはり大きな魅力だからです。
さらに、前編でも触れたように、ゴーグルだけでなくモニター付き送信機で気軽に飛ばせることも大きなメリットです。
360度カメラ搭載機でありながら、必要以上に身構えず、ぱっと持ち出して飛ばせる。この扱いやすさは、実際の運用ではかなり効いてきます。
通常の空撮機としても使いやすく、それでいてアクロバティックで見たことのないカメラワークまで狙える。AVATA 360は、その両方を高い次元で成立させている、満足度の高いドローンでした。
▼ スペックシート
| 項目 | DJI Avata 360 | DJI Avata 2 |
| 離陸重量 | 約455 g | 約377 g |
| サイズ(L×W×H) | 246×199×55.5 mm | 185×212×64 mm |
| 最大飛行時間 | 約23分(定速飛行時) | 約23分(定速飛行時) |
| 最大風圧抵抗 | 10.7 m/s(スケール 5) | 10.7 m/s(スケール 5) |
| 最大水平飛行速度 | 12 m/s(ノーマル) / 18 m/s(スポーツ) ※Mモード非対応 | 8 m/s(ノーマル) / 16 m/s(スポーツ) / 27 m/s(マニュアル) |
| 内部ストレージ | 42 GB | 46 GB |
| 映像伝送システム | DJI O4+ | DJI O4 |
| 最大伝送距離(日本) | 10 km(MIC:障害物、干渉なし) | 10 km(MIC:障害物、干渉なし) |
| 検知 | 全方向(360°モード時) / 前方・下方(シングル) | 下方:ビジョン/ToF、後方:ビジョン |
| イメージセンサー | 1/1.1インチ スクエアCMOS × 2(各6400万画素) | 1/1.3インチCMOS(有効1200万画素) |
| 焦点距離(FOV) | 7.8 mm相当(FOV:200°) | 12 mm相当(FOV:155°) |
| 絞り | f/1.9 | f/2.8 |
| ISO感度 | 100-25600(8K@30fps以下/シングル) | 100-25600 |
| 動画解像度 | 最大 8K/60fps (360°モード) | 最大 4K/60fps (4:3) |
| 動画フォーマット | OSV / MP4(H.265) | MP4(H.264/H.265) |
| 最大動画レート | 180 Mbps | 130 Mbps |
| カラーモード | 標準、D-Log M | 標準、D-Log M |
| EIS | 全景バーチャルジンバル(360°) / RockSteady(シングル) | RockSteady 3.0+、HorizonSteady |
