以前の投稿ではInspire 2のカメラ性能についてビデオグラファーの吉田泰行さんにレポートしてもらった。今回はInspire 2の飛行性能について映画やTVCM、ミュージックビデオ等の現場で空撮を手がけるドローンパイロットの遠藤祐紀さんに操作性を中心にチェックしてもらった。

テスト・文●遠藤祐紀(HEXaMedia)/撮影協力●駿河台大学

ソフトな飛行特性、様々な機構を冗長化して安定した飛行を実現

 モーター対角581mmから608mmサイズへほんの少し大柄になった新型Inspire 2の挙動は前モデルのInspire 1に比べてとっても上品な味付けになっています。前モデルではプロポスティックのセンター付近でのピーキーな挙動変化が気になりましたが、新型のInspire 2は機体のコントロールに大きくEXPが入ったゆったりとしたフィーリングに変わっていまして、例えるならばMatrice 600などの大型機寄りの挙動ではあるものの、ゆったりしたフィーリングに終始することなくソフトな操作はあくまでソフトに、ダイナミックな動きが必要な際には充分な機動性を発揮する余裕を持った柔軟な機体に進化しているという印象を持ちました。

Inspire 2各部紹介

①FPVカメラ②障害物検出センサー③フロントLED④カメラ+ジンバルユニットのマウント部⑤電源ボタン⑥バッテリーリリースボタン⑦赤外線センサー⑧ステータスインジケーター⑨バッテリー⑩SSDカードスロット⑪ビジョンポジショニングセンサー

 新しいInspire 2には従来からのビジョンポジショニングシステム(下方)に加えて前方と上方に障害物検出センサーを追加。IMUと気圧計だけでなく、バッテリーもデュアル仕様になり冗長化が図られています。これらによってクアッドコプター(4モーター)を運用する上で懸念されていたワンモーター停止による墜落やバッテリー不具合による意図しない強制ランディングの恐怖から随分と解放されますし、FPVカメラがあることで横ドリーやドリーバックで障害物に接触するミスも運用次第で回避できます(横方向及び後方の衝突センサーは未搭載)。また、コントロール信号ロストによるReturn-to-Home発動時にはフライトコントローラー自身が安全な経路を選択する「スマートReturn-to-Home」と、最大200m先まで障害物を認識して安全なルートを計画する機能が搭載されたのでドローン運用経験の浅いユーザーが陥りがちな致命的クラッシュも避けられそうです。

スポットライトプロに脅威を感じた

 2オペに関して言えばFPVカメラの恩恵で今まで以上に複雑な撮影シーケンスにも余裕で挑めるようになりましたが、新たに搭載された「スポットライトプロ」を使えば、例え1オペであっても2オペ以上に複雑な追尾シーンも撮影可能になりました。正直なところ1オペによる縦横無尽な追尾撮影のスキルは僕の得意とするジャンルであったのですが「スポットライトプロ」を利用した撮影シーンは人間業を超えている部分があって生業的にも脅威を感じました。

▲スポットライトプロでは機首がどの方向を向いていても、カメラは被写体を捉え続ける。機首がカメラの向きと同期するFollowと同期しないFreeを選択できる。また、ジンバルが回転制限に達した時、機体自身をカメラと同じ方向にクイックスピンさせることで、ジンバルの可動範囲に制限されずに被写体を捉え続ける。撮影モードはQuickモードとComposition (構図)モードがある。Quickモードでは、追尾する被写体を選択して撮影し、構図モードは被写体を追尾し始める位置を指定。被写体が事前に設定された位置に来た時に、ショートカットボタンを押すと、追尾が開始される。

中望遠レンズ装着時もFPVカメラで運用が楽に

▲FPVカメラの映像は右下の小画面に表示される

 

▲FPVカメラの映像をタップすると右のように大きく表示することもでき、機体の傾きやホームポイント(離陸地点)の位置も確認できる。

 

 追加されたFPVカメラの映像はDJI GoアプリとHDMIアウトからの外部モニターにピクチャー・イン・ピクチャーで小窓として表示でき、アプリ側であれば小窓をタップして大きく表示することもできます。Inspire 1の時代は長めのレンズやズームレンズを運用する際に非常に狭い画角でしかモニタリングできず、特に45mm(35mm換算90mm)では脳内の地形イメージを頼りに飛行するという、とてもシビアな状況でしたが、広角なFPVカメラ映像を同時に確認できるためとても運用が楽になります。スレーブプロポを追加すればパイロットとカメラオペレーターは別々の映像をモニターできるようですが、今回のテストに間に合わなかったため入手でき次第検証してみたいです。

▲プロポにはHDMIを標準搭載。
▲外部モニターの画面
▲アプリのメニューで外部モニターと接続した際のFPVカメラの小画面の表示位置を選択できる。

テストを終えて

 考えてみればトランスフォームする機体構造、全ての設定や露出などを手元で行えるDJI Goアプリの採用、レンズ交換可能なX5カメラなど、驚くべきイノベーションがたくさん詰まったInspire 1は運用を開始してから既に2年が経過しており、何度かのマイナーチェンジで完成度を高めて来てはいたものの、欲しているクオリティーには程遠い映像品質、スレーブプロポの運用時に通信が不安定になる問題、機体の個体差による安定度の違いなど、そろそろ限界が来ていたことも確かです。

 そして様々な問題や要望を消化して投入された新型のInspire 2は、隅々に考え抜かれたアイデアが詰まっているように思います。5.2K RAWで収録するにはCinemaDNGとApple ProResのライセンスキー(162,000円※X5Sキットを購入すると同梱される)が必要ですし、240GBもしくは480GBのCINESSDのみが5.2K対応だったりと(120GBのSSDには5.2Kで記録できない)すべての機能を手に入れるには、それなりのコストがかかりますが、非常に魅力的なシステムであることは間違いありません。

▲Inspire 2の録画設定。SSDとmicroSDの画質設定を一覧できる。5.2K RAWやProRes収録にはライセンスキーが必要で、PCソフトのDJI Assistantでロックの解除を行う。

 

 

●Inspire 2の製品情報

https://www.dji.com/jp/inspire-2