DJI Ronin-S/Ronin-SCの後継機RS2/RSC2が登場した。同時発売となった両モデルをディレクター・シネマトグラファーのニコラスさんにテストしてもらった。映画・CMからワンマンオペレーションの現場までを手がけるプロの目にRS2/RSC2はどう映ったのか?

テスト・文●ニコラスタケヤマ/モデル●平井早紀(Fungo)

 

 

4.5kgの積載重量に対応するDJI RS2


▲DJI RS2 86,900円(単体) 105,600円(Proコンボ)

▲タッチパネルの液晶を備え、メニュー操作が可能。Proコンボに付属する無線映像伝送装置Raven Eyeを装着して、画面を上からスワイプすればカメラ映像も確認できる。

▲無線伝送装置のRaven Eyeはカメラプレートの下に装着する。

▲カメラプレートの位置を細かく微調整できるノブを搭載。mm単位のバランス調整の際は重宝する。

▲RS2は軽量化を図るためアーム部分の素材にカーボンを採用。

▲スマホホルダーなどのアクセサリーを取り付けるポートを2つ備える。電子接点を備えておりリモート操作用のアクセリーを組み合わせて使える。

 

 

3kgの積載重量に対応するDJI RSC2


▲DJI RSC2  53,900円(単体)73,700円(Proコンボ)

▲RS2はジンバルとグリップを分離できるが、RSC2はジンバルとグリップの間にあるロックを解除すれば写真のように折りたためる。

▲RSC2のProコンボにはキャリーケースが付属する(RS2は単体にもケースが付属)。ケースに折りたたんで収納した状態。

▲RSC2のモニターはカラーではない。モニター側面のダイヤルでメニュー操作をする。

▲RSC2もアクセサリー用のポートを2つ備える。こちらには電子接点はない。

 

 

現場で求められるのはスピード感と安定感

普段、CM等の大がかりな現場からワンマンでのオペレーションまで幅広いスタイルで撮影をしている筆者だが、今回はRS2/RSC2と共に実際の現場でのシチュエーションを想定してどこまで進化を体感できるかを念頭にテストしてみた。

まず、撮影の規模感を問わず、機材で大事なのはスピード感である。現場での1分1秒は非常に大切で、セットアップや微調整、メンテナンス等に時間がとられると、それだけで多くの人に迷惑をかけてしまうことになる。

撮影というのは時間に余裕があるときはあるのだが、急に時間がなくなったりするから不思議なものだ。だからこそ、機材はセッティングが早くできて、動作が安定していることが絶対条件なのだ。それ次第で撮れるはずだったものが撮れなくなってしまう可能性だってある。

かつてジンバルのセットアップは億劫で時間も取られるし、モーターが変な挙動をしたりすることがあったりと、何度も胃が痛い思いをしたことがある。なので、過去の現場では一度組み立てたら、そのまま据え置きで移動していた。

その点、RS2/RSC2はセットアップがとても楽でスピーディに思えた。各パーツの取り付けが容易でバラすのも簡単だ。無駄にネジを回したり等の手間をかける必要もない。クイックシューもアルカスイスとマンフロットの2つの選択肢があり、カメラの取り付けも早い。

RS2に関して言うと、カメラプレートを細かく前後に微調整できるノブが搭載されていて、これが非常に便利だった。ジンバルのセットアップでは大抵、カメラの重心バランスを整えるのに最も時間を取られる。そして、その中でもカメラの前後の位置が一番手こずるのだ。あともう少しで完璧な重心がとれると思ったらカメラの重みでプレートが思いっきりずれたりして、やり直しになったりする…。ノブがあればその最後の微調整で失敗することがなく、これは秀逸な機構だなと感じた。

RSC2はグリップ部分が折りたためるので、RS2よりも、またさらにスピーディにバラせる。両方とも、これだったら小まめに収納したり、組み立てりするのが億劫ではない。

そして、DJIが謳っているTitan安定化アルゴリズムの恩恵か、RS2とRSC2とともにすごくジンバルのトルクが上がったように感じた。これは単純に積載重量が上がったとかいう話ではなく、微振動が減り、安定感が増したといった感じだ。チルトやパンを行なった際のカクツキも減り、ジンバルそのものの性能と完成度も上がった。

また、SuperSmoothモードを使えば、100mmの望遠レンズを使用しても微細な動きを補正してくれる。今回は走りのみでしか試せなかったが、ジンバルを車載したり、ボートの上での撮影等微振動が多いシチュエーションでかなり効果を発揮してくれそうだ。

これだけ、ジンバルのトルクが上がると、セットアップとメンテナンスも心強い。モーターが弱いとやはりそれだけ気を遣うからだ。RS2であればタッチ画面からのキャリブレーションもスピーディに行えるから非常に便利だ。

 

無線伝送やActive Track、RS2の液晶モニターは便利

RS2/RSC2ではProコンボに付属する無線伝送装置・Raven Eyeを使いカメラの映像をスマホで直接プレビューができる。無線伝送は私の現場でもよく使うが、これがジンバルと一体型のシステムでできるのはうれしい機能だ。遅延も気になるほどなく、スマホで被写体を自動追尾するActive Track 3.0等の操作も手軽に設定できるので、実用性は高い。

ちなみにActive Track 3.0はスマホの画面上で選んだ対象に追従してジンバルがパン・チルトを自動的に行なってくれる機能である。DJIのドローンやOSMO等に搭載されている機能だ。テストしてみて感じたのが、被写体が画面上から消えない限り、追従し続けてくれる。なので、遅めの被写体で障害物等がなければ充分実用で使える。また、広角側では追尾してくれるのだが、望遠気味のレンズだと追いきれないこともあった。

私が今回、特に気に入ったのが、RS2のグリップ部分に付いているタッチパネルの液晶カラーディスプレイ。やはり、カラーなので視認性が高く、今どのモードに入っていて、どの機能がON・OFFされているのか分かりやすい。タッチで操作できるのもスマホ世代の私にとっては直感的で、慣れればボタン式より早く操作ができる。

そして、意外と使えたのがRaven EyeでカメラとジンバルをHDMI接続した上で、液晶画面を上から下へスワイプするとグリップ部のこの小さなディスプレイ上にカメラ映像を出力できることだ。被写体を画角にとらえ、グリップ部のトリガーを1度押すと、スマホに繋げなくとも、この画面上でActive Track 3.0を設定することもできる。

 

RS2/RSC2は痒いところに 手が届く改善が施されている

昨今のジンバルの進化は目まぐるしいものがあり、マーケットも次第に成熟してきた印象がある。正直、今回のテストを行う前まではワンハンドジンバルにこれ以上求めることはなかったのだが、その考えは払拭された。

もちろん、Raven Eyeという斬新な新機能が追加されたのは今製品の売りのひとつで、そこに囚われがちであるが、筆者が今回感心したのは、RS2/RSC2は痒い所に手が届くアップグレードが施されている点だ。前述したモーターのトルクであったり、セットアップ時間の短縮であったり、その他のマイナーアップデートが素晴らしく、ジンバルとしての使い勝手を大きく向上させている。

TILTA等のサードパーティから車載マウントなどRS2関連のアクセサリー機器が今後、続々と登場する予定だが、さらに拡張した使い勝手にも楽しみな製品である。

 

 

RS2とRSC2の主なスペックを比較

 

 

DJI RS2/DJI RSC2の共通点

▲Proコンボにはフォローフォーカス・ズームギアが付いてくる。グリップ部のホイールで操作が可能。

▲3軸すべてにジンバルロックを備える。ピッチ・ヨー・ロール各軸でバランスを取れるほか、持ち運びの際も便利。

▲Raven Eyeを装着すれば、Roninアプリでスマートフォンでのモニタリングも可能。LUTを当てたり、ゼブラやピーキングなどの機能も備えている。スマホホルダーはProコンボに付属する。

▲付属の補助ハンドルを取り付けるためのアタッチメント。ローアングル撮影の際に便利。

▲カメラプレートはマンフロットに加え、アルカスイス互換にも対応。付属のアルカスイスプレートを装着すればカメラの着脱が容易に行える。

▲RoninアプリのLUTのメニュー。ソニーやパナソニック、キヤノンといった主なカメラのLogのコントラストの浅い映像をRec.709の色域で確認できる。カスタムLUTを読み込んで使用することもできる。

 

▲自動追尾のActive Trackをアプリで起動した状態。RS2ではスマホなしでもカメラ映像を表示でき、グリップ部のトリガーを一度押すと被写体を追尾する。

 

100mmの望遠レンズをつけても微細な揺れを協力に補正するSuperSmoothの機能を搭載。被写体の周囲を走ってON/OFFで違いを比べてみた。

 

 

VIDEOSALON 2020年12月号より転載