前編『【レビュー】DJI RS5最速レビュー RS4から何が変わった? 使用感の進化を検証』では、RS4からRS5への進化点を中心に見てきた。後編となる本稿では、RS5で新たに強化・追加された強化インテリジェントトラッキングモジュール、電子ブリーフケースハンドル、Z軸インジケーターの3点にフォーカスし、実際の撮影現場でどこまで使えるのかを検証していく。
いずれもRS5を象徴する新要素だが、共通しているのは、撮影者の負担や判断を分散させる方向で設計されている点だ。

レポート●奥山貴嗣(ミル・フォトワークス)
1986年生まれ、関東在住のフォト・ビデオグラファー。雑誌編集・広告制作を経て2025年に独立。企業ブランディング映像の制作などを手がける傍ら、実務経験に基づく撮影機材レビューや記事執筆も行なう。
https://ivory278853.studio.site/
RS5 3つの新要素
◼︎強化インテリジェントトラッキングモジュール
画面上で被写体を選択するだけでトラッキングが可能。最大約10mまで離れた距離に対応し、一時的にフレーム外に出たり向きが変わったりした場合でも再認識して追従する。
◼︎電子ブリーフケースハンドル
ジョイスティックや各種ボタンを備えた固定ハンドルで、操作性が向上。高低差のあるアングルでも無理のない姿勢で撮影しやすい。
◼︎Z軸インジケーター
ジンバルが揺れを補正する機能ではなく、歩行時の上下動を可視化するための指標。撮影者自身が歩き方やスピードを調整する判断材料になる。
以下では、これら3要素が実際の撮影現場でどこまで使えるのかを、実写テストをもとに検証していく。
強化インテリジェントトラッキングモジュール
●構図維持をジンバル任せにできる


RS5で大きく注目されているパーツのひとつが、強化インテリジェントトラッキングモジュールだ。被写体を認識して追従する仕組み自体はRS4 Miniですでに導入されていたが、RS5では認識対象や操作方法が拡張・整理され、より本格的に現場投入することを前提とした仕様へと進化している。なお、筆者はRS4 Miniを所有していないため、ジンバルのトラッキング機能を使うのは今回が初めてとなる。そういう意味でも、実際の撮影現場でどこまで使えるのかは正直楽しみなポイントだった。
今回の検証では、実際にモデルに立ってもらい、ジェスチャー操作によるトラッキング開始から、歩行・方向転換・オービット撮影までをひと通り試した。

トラッキングの開始は被写体によるジェスチャー、もしくはジンバル本体のタッチスクリーンから任意の被写体を選択するだけ。手順は簡単で操作に迷うことはなかった。一度トラッキングが有効になれば、あとはジンバルが自動で被写体を追従してくれるため、撮影者は動きに集中できる。

最初に感じた印象は、「思っていた以上にしっかり追いかけてくれる」というもの。中でも印象に残ったのが、被写体が一度カメラに背を向けた状態でも追従を続けた点だ。顔認識が外れた瞬間に追従が不安定になるケースを想像していただけに、この挙動には少なからず驚かされた。
その後、被写体の周囲を回り込むようなオービット撮影も実施。一定の距離を保ちながら円を描くように動いても、フレーミングが大きく破綻することはなく、追従も安定している。
●継続使用で検証していきたいポイント
1)暗所での挙動
公式スペックでは動作に最低照度条件(20ルクス)が設けられており、光量が限られる環境では挙動に影響が出る可能性がある。今回は明るさを確保できる条件での検証だったため、今後は屋内や夕方以降の撮影など、照度が下がる状況での追従安定性も確認していきたい。
2)背景が複雑なシーンでの認識精度
人物の背後に情報量の多い背景や、色味の近い被写体が存在する場面では、認識がどこまで安定するのかも気になるポイントだ。機械学習ベースのトラッキングである以上、条件によって挙動が変わる可能性はあるため、実際の現場での検証を重ねたい。
3)被写体条件による追従の違い
今回は人物を対象とした追従しか検証できなかったため、サイズが小さい被写体や、極端に速い動きを伴う撮影など、条件を変えた際にどの程度挙動が変わるのかは、継続的に見ていく必要がありそうだ。
●実用性の判断
速い動きや複雑な構図作りには対応しきれない場面もあったため、正直なところ万能と言えるレベルではない。だが、現場で使う前提としては十分に実用に足る性能だと判断した。
少なくとも本機能は「おまけ」ではなく、人物撮影を中心としたワンオペ運用で積極的に使っていきたい完成度になっている。置き撮りやセルフ撮影、少人数体制での撮影であれば、撮影者の負担を確実に減らしてくれるだろう。
電子ブリーフケースハンドル
●操作を持ち替えずにボタン操作を完結させる

電子ブリーフケースハンドルの最大の特徴は、ブリーフケースポジションのままジンバル操作を完結できる点にある。ジョイスティックや各種操作ボタンがハンドル側に集約されており、ジンバル本体を持ち替えることなく、普段と同じ感覚で操作できる。従来のハンドルでも高低差のあるアングル自体は作れたが、構図調整やパン・チルト操作を行うには、一度持ち替えるか、本体側に手を伸ばす必要があった。電子ブリーフケースハンドルではその工程が不要になり、姿勢を保ったまま細かな調整まで行える。派手さはないが、撮影の流れを崩さないための実用的な進化と言える。
●注意点:旧モデルとの互換性はない
一点注意したいのは、この電子ブリーフケースハンドルはRS5専用設計で、従来のRSシリーズとの互換性はない点だ。機能的には納得できる内容ではあるが、追加購入を検討しているユーザーは、この点を把握したうえで判断したい。
Z軸インジケーター
●補正ではなく「指標」

Z軸インジケーターは、ジンバルがZ軸、いわゆる縦揺れを直接補正する機能ではない。歩行時の上下動を可視化し、今の動きが安定しているかどうかを撮影者にフィードバックするための指標だ。実際に使ってみると、歩幅やスピードを意識するきっかけには確かになる。とくに移動撮影では、自分では安定して歩いているつもりでも、表示を見ると意外と上下動が出ていることに気づかされる場面があった。
リアルタイムで見続けながら撮るというよりは、たまにチラッと確認する程度の補助的な情報として捉えるのが現実的だろう。
縦揺れを補正する画期的な機能ではないが、撮影精度を底上げするための意識を高めてくれる存在という印象だ。
RSシリーズ主要モデルの仕様比較
最後に、RS5を含むRSシリーズ各モデルの主な仕様を一覧にまとめておく。本記事で触れてきた変更点や立ち位置の違いを、スペック面から俯瞰したい場合の参考として見てもらえれば幸いだ。

まとめ:個人カメラマンの負担を減らし、撮影精度を底上げするRS5

後編で取り上げた3つの新要素は、いずれも個人カメラマンやワンオペ撮影を想定し、撮影時の負担を減らしながら画の安定性と精度を高める方向で設計されている。
トラッキングモジュールは構図維持の一部を任せられる存在として実用的な水準にある。電子ブリーフケースハンドルは無理のない姿勢での操作を可能にすることで、撮影体勢の自由度を広げる。Z軸インジケーターは直接的な補正は行わないものの、撮影者自身の動きを客観的に見直すための指標として機能する。
いずれも派手さを狙った機能ではなく、日々の撮影を少しずつ整え、その積み重ねで撮影精度を一段引き上げていくための改良だ。RS4で完成度の高さを感じていたユーザーにとっても、その延長線上にあるアップデートとして納得しやすい内容と言えるだろう。
