◎この記事は、書籍『ネット時代の動画活用講座』(玄光社、2015年刊)からの転載です。
ネット時代の動画活用講座 2-4 ─ 撮影講座
「モノ」を撮影する
商品から趣味の作品まで、様々なモノをネット上に公開するケースは多い。モノをきれいに撮影したいというニーズは多く、カメラ量販店などに行くとライトがセットになった小型撮影セットが販売されている。当然これらは動画にも応用できるが、ただ撮影しただけでは写真とあまり変わらない内容となってしまう。
そこで今回は、動画ならではの特徴を活かしたモノの撮影方法をご紹介しよう。
道具の使用法を説明するなど最初から動きを伴う場合はもちろんだが、静止しているモノであっても動画を使うことで違った見せ方ができる。スライドショーのように様々な角度から撮影した静止画を連続して表示するのも手だが、時間軸に沿った連続する変化を動画として収めると、写真では伝わりにくい固有の雰囲気を伝えやすくなる。
特にサイズの小さいモノは、大掛かりな設備や高価な道具がなくともちょっとした工夫で実現できるので、ぜひとも、それぞれの手法を試していただきたい。
静止画との差別化ポイントとは?
動画と静止画では、情報としての特性から技術的な点まで様々な差異が存在する。そのポイントを再確認して、動画ならではのメリットを最大限に活かす手法を考えよう。
モノを印象的に撮るなら「近づかない」こと
モノを撮影する場合、つい対象物にぐっと近づいて撮影しがちだ。しかし、画面内で同じくらいの大きさになるように映しても、特に広角(ワイド)と望遠(ズーム)各々の設定時には見え方がまったく異なってしまう。特に、レンズ交換等のできない一般的なビデオカメラでは、この特徴を意識した撮り方が必要だ。
▲【左】対象物に近づき、ワイド寄りの設定で撮影した例。広い範囲の背景が明瞭に映ってしまい、雑然として肝心なモノの印象が薄れてしまう。【右】ズーム(テレ)端の設定、対象物が同じくらいの大きさになるように、離れて撮影。背景の範囲が狭くなった上にボケも得られ、よりモノが印象的åに浮き立った。
▲【左】機械など細部までクリアに映したいものを、カメラ自体を移動させながら映すような場合には、ワイド側のほうが安定した撮影が行える。【右】対象物は静止させ、背景に動くもの(ここでは水槽)を持ってくることで、モノを引き立てつつ動きによる雰囲気も演出している。
低コストで超接写映像が得られる「接写リング」
小さなモノを接写する場合、カメラやレンズの「最短撮影距離」以下になるとピントが合わなくなってしまう。一眼カメラであれば専用のマクロレンズも存在するが、少々値が張る。そこで「接写リング」という器具を使うと、それよりかなり安価に超接写撮影を行うことが可能となる。
▲検証に用いたレンズでは、これ以上近づくとピントが合わなくなる。静止画は画素数が多くトリミングできる場合も多いが、動画はそれをやるとそのカットだけ画素が足りずに大きくボケてしまい、事実上、不可能である。
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▲【左】「接写リング」は手持ちのレンズとカメラの間に装着することで最短撮影距離以下での撮影が可能となるもの。今回使用したのは、ケンコーのマイクロフォーサーズカメラ用接写リング。【右】同じレンズに接写リングを装着した撮影例。高さ1cm程度の箱を画面いっぱいに映すことが可能となった。
動きと光の変化でモノを演出する
自ら動作しないモノに動きを付ける際は、ただ動かすだけではなく「光の変化」を意識した演出を行うと、より印象的な映像を撮影できる。手に入れやすいもので実行できる例をご紹介しよう。
●電池式の回転台
▲今回は、プラモデルなどを展示する際に使う電池式の回転台を使用。模型店などに行くと大小様々なものが販売されており、サイズの小さなものは1,000円以下程度で購入できるものもある。
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●回転撮影では陰影をつけたライティングで
▲モノを回転させて撮影する際は、全体にフラットに光があたっていると、平坦で印象の薄い映像になってしまう。思い切って半分くらいが影になるような陰影を付け、光のあたる部分が逐次変化すると重厚感が出てくる。
▲撮影の際はモノ自体を回転させるのに加え、照明器具を回転台に乗せて光を変化させても面白い効果が得られる。対象物ごとにどちらが合うか試してみよう。
100均グッズでドリー風ショット
本格的な撮影では、レール上でカメラを移動させるドリーという器具でアングルが直線的に移動するような効果を作る。デスクトップレベルの撮影なら、100均グッズなどでもそれに似た効果を得ることが可能だ。
●アルミシート
▲今回使用したのは、食器棚用のアルミシート。30cm幅で5mの長さがあり、反射面は光の当たり方を補助するレフ板としても使える。
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●反射板の効果もある移動撮影レールになる
▲シートの上にモノを乗せ、机の端を支点にしてゆっくりと引くと、ドリーを使用したような直線移動のショットを撮影できる。カメラをシートに乗せても良いが、モノの側を移動させたほうが安定した映像になりやすい。
小型プロジェクターを利用したゴージャスな照明効果
最近はプロジェクターを使って建物などに映像を照射する「プロジェクションマッピング」が流行しているが、格安の小型プロジェクターを利用して、もっとシンプルな手法で、背景と照明を一度に作り出す手法をご紹介しよう。
▲素材は動画、静止画のどちらでも可能。編集ソフトなどを使って、画面の一部に白丸の部分を作成しておく。
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▲天板が白地のテーブルなどに照射し、白ヌキの部分にモノを置くと、スポットライトを当てたようにその部分だけモノ本来の色で撮影できる。応用範囲はかなり広いだろう。
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▲シンプルなグラデーションなどでも、かなり面白い効果となる場合もある。もちろん、モノ自体に色を被せるような演出も可能だ。
「Vine」を使ってモノを多角的に撮影する
「Vine」はスマートフォン用のビデオ撮影アプリで、Twitterが公式アプリとして採用している。最長6秒を動画を「つぶやく」ようにネットで公開できるのが特徴だが、断続的に撮るだけで複数カットが1つのビデオになるので、モノを複数の角度から撮って手軽に公開するのにもピッタリだ。
❶Vine使用中の様子。画面上を指で触っている間だけ録画が行われるという、直感的で容易な操作を採用している。❷Vineは、旧来のビデオテープに録画するように、断続的に撮影したビデオが編集などを行わなくとも1本に繋がっていく(最長6秒)。1つのモノも、様々な角度から少しずつ撮影することが可能だ。
❸撮影が終わるとVineのWebサービス上に動画をアップロードでき、そのままTwitterやFacebook上で公開することもできる。❹投稿された動画は、閲覧者のブラウザ上で軽快に自動ループ撮影される。キッチリ撮る動画とはまた別に、手軽に素早くモノの紹介を行いたい際に効果的だ。
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