10㎝の長さで指向性を作り出しリアルタイムでノイズ除去するα用オンカメラマイク『SONY ECM-B1M& α7R IV』


REPORT◉大須賀 淳

◉SONY ECM-B1Mサウンドテスト

デジタル信号方式でノイズのリスクが大幅減

最近は、特に一眼カメラを使ってすべての収録を一人で行うビデオグラファーがどんどん増加している。そこで常につきまとうのが「音」の問題。例えばインタビュー収録を行う場合などは、ワイヤレス&ラベリアマイクなどが用意できれば理想だが、様々な都合でカメラに装着されたマイクのみで収録せざるを得ない局面も多いだろう。今回ご紹介するECM-B1Mは、そんな状況を想定して開発された新機軸のカメラ用マイクだ。

▲ECM-B1M本体の上部。8個のマイクユニットが直線上に並んだ大変ユニークな構造で、一見してマイクと思わないかも。各々のユニットから入った音声は内部のDSPで複雑に処理され、倍以上の長さを持つマイクと渡り合える指向性が作り出される。

 

ECM-B1Mは、αシリーズのマルチインターフェース(MI)シュー専用のショットガンマイク。大きな特徴として、今回検証に使用したα7R IVなど対応した機種では、カメラへの伝送を「デジタル信号」で行えるという点だ。世の中に存在するほとんどのマイクは、アナログの音声信号を送信してカメラ内部でデジタル変換するが、マイクからの信号はひじょうに微弱なため、劣化やノイズ混入の可能性が常に付きまとう。一方、ECM-B1Mではマイク内部でデジタル信号への変換が行われるので、先述のようなリスクを最小にすることができる。この方式は、厳しい条件も含めたあらゆる場所で使用されるカメラマイクにはピッタリの仕組みだと言えるだろう。

一方、デジタル入力に対応していない従来のαシリーズでも、本体のスイッチを「ANALOG」にすることでマルチインターフェースシューから直接音声を取り入れることができる。アナログ信号ではあっても、大抵の場合は一聴してわかるほどのノイズ増加や音質劣化が起こることはない。一方、ケーブルが不要なので取り回しもしやすく、端子カバーを開けずに済むので防塵機能もそこなわれない。電源も本体内から供給されるので、電池切れで録音されていない! といった事態も防ぐことができる。信号の方式にかかわらず、なかなか音の方にまで気を回しにくいビデオグラファーにとっては「手軽に品質アップ」という点だけでも嬉しい。

▲本体に装着した様子。ストロボ等よりもさらに小型で、ケーブルも無いため、カメラやレンズのあらゆる操作領域を侵さない設計になっている。ウィンドジャマーも標準付属で、風の心配が大きく減るのも嬉しい。

▲ECM-B1M側でレベル調整をマニュアルに設定すると、本体側の録音レベル調整が無効となるなど、連動して動作。

▲α7R IVのマルチインターフェースシュー(左)。端子自体は従来機と同じものだが、ECM-B1Mなどのアクセサリからデジタル信号で音声を入力できるようになっている。

 

10cmの小型ボディで鋭指向性&ノイズ除去を実現

カメラ上に乗せたマイクでインタビューなどを収録する場合は、向けた方向の音のみを集中的に拾う鋭指向性のマイクを使うのが一般的だ。いわゆるショットガンマイクは「音響管」という構造体を使うことで、前面以外の音を物理的に打ち消している。これは充分に確立している技術だが、指向性を鋭くするにはどうしても一定の長さ(20cm程度以上)が必要となる。リグを組まずにカメラのシューに直接装着すると、レンズの前までせり出してしまい、バランスとしてあまり良いとは言えない感じになってしまう。

ECM-B1Mの長さは10cmとコンパクト。音響管方式でこの長さだと充分な性能を得られないが、ECM-B1Mでは「ビームフォーミング」という技術を利用し、まったく異なる仕組みで指向性を作り出している。ビームフォーミングは、複数のマイクで収録した音を演算して必要な音のみを取り出す方式で、ECM-B1Mは本体上部に1cm間隔で合計8個のマイクユニットが装着されている(音響管方式は、管の内部に1つだけのユニットを装着)。ビームフォーミング方式は、小型化の他にも、音声の周波数帯域ごとの指向性にばらつきが少ないといったメリットもある。さらに、個々のユニットは全指向性(どの方向の音も拾う)なので、1つのマイク内で指向性を切り替えることも可能。ECM-B1Mでは3種類の切り替えが行えるようになっている。

そしてもう一つ、ECM-B1Mは内部のDSP(信号処理のためのプロセッサ)でリアルタイムに空調などのノイズ除去を行うことが可能だ。最近は、Adobe Premiere Proに入っている「クロマノイズ除去」などリアルタイムにノイズ除去できるソフトも存在するが、同じようなことが収録時のマイク内でリアルタイムに行えるのだ。編集時の手間が省ける以外に、ネット上でライブ配信を行う際にも常にノイズ除去できるという点で便利。処理は8つのマイクユニットからの信号が合算される前に行われるので、原則としてモノラルやステレオに統合されてから行うPC内の処理よりも有利だろう。


▲背面には、デジタル・アナログや指向性、フィルターの切り替えや、レベル調整系の操作スイッチを配置。状態がとても把握しやすく、撮影中もすぐに切り替えが可能で、筆者が知る限りのオンカメラマイクでは最も操作しやすい部類に入る。

 

 

機動力を保ったまま音のフォーカスが劇的に向上

今回は、α7R IVに装着した状態で、街中や室内など様々な状況でテスト収録してみた。入力の音量は自動、マニュアルのどちらでも設定できるほか、アッテネータも内蔵しているのでライブ会場など極端に大きな音の鳴る場面でも扱いやすい。また、標準でウィンドジャマーがついているので、多少の風なら心配せずに屋外で使うことができる。

道路の横などで指向性のスイッチを切り替えると、向けている方向により音が変わるのがとてもハッキリと認識できる。声の明瞭さを得るには音源(話者)にある程度近づく必要があるが、横や後方からの余計な音が減るだけではるかにくっきりと聴きやすくなる。ECM-B1Mは本体内に振動吸収用のショックマウントを装備しており、さらに車の往来が激しい場所ではローカットフィルターをオンにすることでよりスッキリと聴こえるようになる。そして、なんと言ってもインパクトが強かったのがリアルタイムのノイズ除去。室内では、エアコンの空調ノイズなどがかなり低下。モニターのレベルを上げない限りあまり気にならない程度にまで抑えられる。屋外では、消える音(変化が少なく常に鳴っている音)、消えない音(変化の大きい音)が明確にわかれるが、暗騒音が大きく減るので、聴きやすさは大きく変化する。

指向性、ノイズ処理ともにリアルタイムでプレビューできるので、使用するかの判断もその都度行うことができる。例えば、場所によっては空気感を出すために無指向性に切り替えて周囲の音を全て拾うなど、物理的に指向性を作っているガンマイクには不可能な運用も行える。音のキャラクターについては好みの部分になってしまうが、極端なクセはないので編集時に扱いやすい傾向だと言える。このサイズ感でこれだけの性能は今までなかった位置付けの製品なので、αシリーズのユーザーは是非とも試してみることをお勧めする。

▲一般的な鋭指向性マイクと比較テストしている様子。並べてみると、ECM-B1Mがいかにコンパクトかわかる。

 


▲ソニーα7R IV。EC M-B1Mとデジタル接続できるのは現在このカメラのみ(9月6日発売)。今後のモデルでは上位機はおそらくデジタル接続対応になるはず。

 


▲ECM-B1M(35,000円/9月6日発売)ジャマーが付属。

 


▲デジタル接続のMIシュー対応のXLRアダプターキットXLR-K3M(60,000円/10月下旬発売)。XLR2系統とステレオミニマイク端子1系統。マイク付属。

 

本記事の作成にあたってECM-B1Mの商品企画と商品設計の担当者に事前取材をしました。ご協力ありがとうございました。(編集部)

(写真左から)商品設計担当:平澤裕司氏、商品企画担当:大﨑仁規氏。

 

ビデオSALON2019年9月号より転載