レポート●Y2(色彩-SHIKISAI-

大きな進化を遂げて登場したキヤノン EOS C80

今回は先日キヤノンから新しく発表されたEOS C80(以下「C80」と称する)について触れていきたいと思う。このカメラの立ち位置としては現存のシネマEOSであるEOS C70(以下「C70」と称する)の後継機にあたるだろう。

手元に本体が届いた時には、外見だけでは大きな変化が感じられず、C70をマイナーアップデートしたカメラだと思った。しかし、実際には性能が大幅なアップデートがされ、かなりの進化を遂げていたことにとても驚いた。

中でも大きなポイントは、C70では4Kスーパー35mm DGOだったカメラのセンサーが、C80では6Kフルサイズ裏面照射積層センサーにサイズアップしたことだろう。そんなC80を短い時間ではあるが、実際に使用して作品も制作しているので、その際に感じたファーストインプレッションを中心にこのカメラの魅力を皆さんへお届けしたいと思う。

9月10日に発表されたキヤノンのEOS C80。ボディの価格は896,500円(税込)。発売は11月上旬の予定。

EOS C80とはどんなカメラなの?

これはあくまで個人的な見方ではあるが、C80はビデオグラファーがワンオペの現場でも使用できるシネマカメラだと感じる。サイズ感もミラーレスカメラよりも少し大きくなったような感じで、読者の皆さんがイメージするシネマカメラよりはかなり小型ではないだろうか。

シネマカメラといえば、大きな現場で複数人で運用するのが一般的なイメージだと思う。しかし、近年ではドキュメンタリー映像などの密着型撮影などでは、オンオペで小型のシネマカメラを使用する撮影現場が増えている。

さらには制作現場などの業務的な仕様だけでなく、趣味で映像制作している人がSNSなどの発信で小型のシネマカメラを使用するシーンも見受けられようになった。私もそのひとりであり、スチルとムービーを併用できるミラーレスカメラから映像クオリティを次の段階にアップデートしたいビデオグラファーにとっても、C80は良い選択肢になるカメラだと考える。

取り回しのしやすいサイズに加え、カメラ内部でのRAW収録(Cinema RAW Light)、機械式NDフィルターの搭載、シネマ機にもかかわらずオートフォーカスを使用できたりとカメラ単体で撮影にほしい機能がほとんど網羅されていると言える。

本体上部
本体左側面

 

C80で撮影した作品をチェック!

キヤノン EOS C80を使用して実際に撮影した作品。現代アーティストであるMOMOさんの活動と作品への想いについてフォーカスしたショートドキュメンタリー映像。
撮影時の様子。撮影はインタビューも交えて実施された。

カメラ
・キヤノン EOS C80

レンズ
・EF 8-15mm F4 L フィッシュアイ USM +マウントアダプター EF-EOS R
・RF 24-105mm F2.8 L IS USM Z
・RF 100mm F2.8 L MACRO IS USM

XF-AVC Long GOP 422 10bit 4096×2160

 

RF 24-105mm F2.8 L IS USM Z 装着時。

 

やはりカメラは「画質」が最も重要

今回のアップデートで多くの人が気になるのが、6Kフルサイズセンサーによって生み出されるC80の画質についてだろう。シネマカメラを使用する以上、私自身も一番その部分に惹かれるし、期待をしながらカメラを使用した。

結論を先にいうと、やはり「最高の画質」だった。画質についてはそれぞれの好みによる部分もあるので、一概に判断するのは難しいが、私はシンプルに「最高の画質」、そのように感じた。C70を以前使用した時から、画質については正直にかなりの信頼感をもっていた。キヤノンにしか生み出せない唯一無二のルックは、多くの人を惹きつけていた。それは私が作品を作り、周囲のカメラマンやクリエイターから意見をもらっても同じ意見を持ってくれていた。

C80を実際に使用して、アップデートの恩恵を特に感じたのが、解像度の向上とボケ感の違いだ。解像度は純粋に向上し、より鮮明になり、立体感を強く感じた。ボケ感についてはC70と比べて、ナチュラルで滑らかな背景ボケとズームレンズを使用しても以前より大きなボケ感を感じられた。人によってセンサーサイズの違いによる好みはあると思うが、私は圧倒的にC80を推したい。

作例より。背景のボケ感に注目してほしい。
作例より。照明を使用して撮影している。
作例より。

冒頭で紹介した作品では、照明を使用した環境から、自然光を取り入れた撮影、逆光など多くのシチュエーションでの画作りを見ていただけると思う。特にコントラストの強い暗い部分のグラデーションなどは他のカメラにはない魅力を感じる。この作品では、4K 422 10bitという容量を抑えた記録フォーマットで撮影したため、この作品以上のポテンシャルが画質にはあると言って間違いないだろう。

 

そして、これは実際に使用することはなかったが、とても嬉しい大きなアップデートがあった。それはベースISO12800の追加だ。簡単に言えば、夜間や室内などの光量の少ない場面でも明るく撮影できるようになったということだろう。これは個人的にとても大きなアップデートであり、以前から一番搭載してほしかった内容である。今回の撮影では使用する場面がなく、しっかりと検証はできなかったが、恩恵を受ける場面が多くあることは間違いない。

ベースISO12800が追加され、3段階で調整ができるように。

 

キヤノン独特のリッチな色味について

キヤノンの特徴といえば、やはり「色味」は外せないだろう。昔からキヤノンのカメラについて「色味が良い」「スキントーンがナチュラル」と言った色に対する意見を耳にする。しかし、私がよく耳にしていたのは写真の話であり、「動画はどうなんだろうか?」と疑問を抱いていた。だが、キヤノンのミラーレスカメラからシネマカメラなどを複数に渡って自身で使用していくうちに、キヤノンの色味にとても魅了された。

特にC70を使った時の衝撃を今でも忘れられない。撮影した素材をPCで確認するたびに心が高揚したのを覚えている。「ナチュラルなのに世界観を強く感じる」という、とても複雑で一見すると矛盾したような印象を私は受けた。さらにC80はその色に磨きがかかり、C70以上にそれぞれの色がとても洗練されているように感じた。

一番強くその印象を感じたのは、インタビュー撮影した素材をカラーグレーディングしたときだ。唇の色に注目すると微妙な輝度や彩度の違いを捉えており、よりリアルでリッチな色味を再現している。

作例より。インタビューシーンのカラーグレーディング中に色味の良さを実感したという。

 

EOS C70と比較してどうなのか?

正直に言うとC70との違いについては良い意味で変化は感じられなかった。C70の時点でかなり使いやすく完成されたカメラだと思っていたので、その良さが継続されている印象だ。

例えばカメラのサイズ感についてだが、カタログスペックでは本体の重量がC70が1190g、C80は1310gと120gほどC80が重い。だが、撮影中に手で持っている感じはほとんど変化は感じなかった。フルサイズのセンサーへと中身が大きくなったのにも関わらず、本体の大きさはほとんど変わらないため、C70と同じ取り回しができるのはとても嬉しいポイントである。  重量やサイズ的には、軽量なレンズを使用している場合であれば、DJI社のRS4 PROなどのジンバルに乗せての運用も可能である。

撮影中の様子。今回の作例撮影時は手持ちや三脚などを用途によって使い分けた。

 

C80の動画に特化したカメラ機能

これからは私のようなビデオグラファースタイルのカメラマンもC80のようなシネマカメラを手にすることも増えると思う。C80は普段私が使用しているミラーレスカメラとは根本的に用途の違いがあり、構造や機能についても違いが顕著に感じられる。

まずは、内蔵型の機械式NDフィルターだろう。動画撮影には必須とも言えるNDフィルターがカメラ本体に内蔵されていることによって、レンズ交換を要求されるタイミングでもNDフィルターを付け替える必要がなく、スムーズに撮影に復帰できる。

次に各種ボタンの配置と数だ。C80は写真機能がオミットされているので、ボタンに配置されている機能の割り振りが動画用に特化している。このおかげで撮影中に必要な機能がボタンにほとんど用意されており、メニューからわざわざ探す必要がない。

NDフィルターは左側面のボタンで操作できる。

 

C80のポテンシャルは底が見えない

今回C80を使用して、あらためて感じた率直な感想としては「底がまだまだ見えない」ということだ。

カメラのポテンシャルがまだまだ眠っていて、今の自分の実力では完璧に使いこなせていないだろう。モニターに映るC80独特の画は撮影時の気分を高揚させてくれるだけでなく、次の撮影ではもっと使いこなしたいと思わせてくれる。

そんなカメラに出会えることはとても稀有であり、とても嬉しい発見でもある。

世界中のクリエイターがC80を使用し、これからどんな作品が生まれるのか今からとても楽しみだ。

 

シネマティックビデオグラファー。

2019年に旅コンテンツをメインに映像制作を開始し、1年半後に前職を退社。現在はフリーランスとして東京を拠点に、観光、スポーツ、アパレルなど幅広い業界の映像制作に取り組む。同時にSNSコンテンツクリエイターとしても活動しており、InstagramやYouTubeなどで映像を発信。

日本では珍しい、壮大な自然をとらえたシネマティック表現と、映像を引き立てるカラーグレーディングを得意とする。自身の活動を通して、「動画」や「映像」の本質的な魅力、素晴らしさをより多くの人に伝えていくことを目指している。

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