先月6月28日に発売されたX-T50。今回、富士フイルムから同日に発売されたXF16-50mmF2.8-4.8 R LM WRと合わせてレンタルすることができたので、映像制作者の観点からレビューしていきたい。

REPORT◉エマーク
広告代理店にて主にプロモーション業務に従事後、フリーランスとしてプロモーション、デザイン業務に携わる。現在はマルチクリエイターとして映像制作、株式会社TOMODY COO としてオンラインLive配信サービス「WRIDGE」の開発・運営を行う。
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左:X-T50 右:X-T5

X-T50は富士フイルムのX-Tシリーズのミドルクラスに位置する。従来機であるX-T30IIがフラグシップモデルのX-T4とほぼ同性能であったのに対して、X-T50はフラグシップ現行機のX-T5とほぼ同じ性能となっている。

さて、今回は動画性能においてのレビューということだが、結論から先に言ってしまうと「X-T5同様、スチル撮影に最適なカメラ」ということが言える。動画撮影という点においてはX-H2SやX-S20に軍配があがるだろう。


X-T50の動画性能

下記にX-T5、X-T50、X-H2S、X-S20のスペックをまとめてみた。

X-T5X-T50X-H2SX-S20
有効画素数約4020万画素約4020万画素約2616万画素約2610万画素
撮像素子 X-Trans CMOS 5 HRX-Trans CMOS 5 HRX-Trans CMOS 5 HSX-Trans CMOS 4
画像処理エンジンX-Processor 5X-Processor 5X-Processor 5X-Processor 5
ボディ内手ブレ補正7.0段7.0段7.0段7.0段
ファインダー約369万ドット約236万ドット約576万ドット約236万ドット
液晶モニター約184万ドット3方向チルト式約184万ドットチルト式約162万ドットバリアングル式約184万ドットバリアングル式
記録スロットSDカード UHS-II対応SDカード UHS-II対応SDカード UHS-II対応CFexpress Type BSDカード UHS-II対応
冷却ファン搭載可能不可可能可能
動画性能H.265 4:2:2 10bit 6.2K 30p(1.23倍クロップ)4KHQ 30p(1.23倍クロップ)4K 60p(1.14倍クロップ)HDMI RAW出力F-Log2H.265 4:2:2 10bit 6.2K 30p(1.23倍クロップ)4KHQ 30p(1.23倍クロップ)4K 60p(1.14倍クロップ)HDMI RAW出力F-Log2H.265 4:2:2 10bit 6.2K 30p(オープンゲート)4K 60p(ノンクロップ)4K 120p(1.29倍クロップ)HDMI RAW出力F-Log2H.265 4:2:2 10bit 6.2K 30p(オープンゲート)4K 60p(1.18倍クロップ)HDMI RAW出力F-Log2
バッテリーNP-W235NP-W126SNP-W235NP-W235
ボディ質量約476g約389g約579g約410g
左:X-H2S 中:X-T50 右:X-T5


前述したようにX-T50はフラグシップモデルX-T5とほぼ同等のスペックでコンパクトにしたモデルとなっている。センサーは第5世代の裏面照射型高解像4020万画素センサーを搭載しており、X-H2SやX-S20よりも高い解像度を誇る。しかし、こと動画撮影においてAPS-Cセンサーの4020万画素は、暗部にノイズが乗りやすく、また読み出しスピードが遅くなるためローリングシャッター現象が発生したりハイフレームレート撮影時にどうしてもクロップしてしまう。

左:X-T50 4KHQ 30p 中:X-T50 4K 60p 右:X-H2S 4K 60p


また4KHQ(8Kからのオーバーサンプリング)での撮影は高い解像感の映像を撮影できるが60pでの撮影ができない。4K 60p撮影時には8Kからのオーバーサンプリングではない4Kを選択することになるのだが、これが解像感がやや悪く、偽色が発生してしまう。

以上のことから特に4K 60pを多用する方にとってはX-H2SやX-S20の方がオススメできるといえる。


外観・ボディ

X-T50の魅力はやはりX-T5ゆずりのクラシカルなデザインとコンパクトなボディだろう。従来機であるX-T30IIから一新されたボディは両肩が丸みを帯びたデザインとなっている。筆者は普段X-H2SとX-T5を使っているのだが、この2台と比べるとそのコンパクトさがよく分かる。

軍艦部の構成はX-T5とは似ているが、よりカジュアルに使えるように「AUTOモード切換レバー」が追加され、フィルムシミュレーションでの撮影をより楽しめる「フィルムシミュレーションダイヤル」も追加された。ただ、動画撮影においては、頻繁にフィルムシミュレーションを変更することは少ないため専用ダイヤルの必要性は少ないかもしれない。また、静止画/動画切換ダイヤルは排除されているので切替がやや面倒にはなっている。

また、X-T5やX-H2Sには非搭載の内蔵フラッシュも搭載されている。このあたりは外部フラッシュをあまり使用しないミドルクラスだからであろう。

背面はX-T5と比べてシンプルな構成となっているが、設定を頻繁に変えない動画撮影においてはそこまで不便には感じなかった。個人的には問題はないが液晶モニターはチルト式となっている。動画撮影においてはバリアングルの方が使いやすいと感じる方も多いだろう。

メモリーカードスロットはカメラをコンパクトにするためにSDカード1スロットとなっており、底面のバッテリー挿入部に配置されている。

左:NP-W235 右:NP-W126S

残念ながらバッテリーはX-T30IIと同じ旧型の小型バッテリーNP-W126Sになっており、先に挙げた4機種の中で最もバッテリー持ちは悪い。長時間回すことも多い動画撮影においてはあまり向いていないと言える。

X-T30IIでは非搭載であった手ブレ補正が搭載された。X-H2SやX-T5と同じく7.0段の強力な手ブレ補正となっており、動画撮影においても強力な武器となるだろう。


フィルムシミュレーション

富士フイルムのカメラの魅力はフィルムシミュレーションにあると言っても過言ではないだろう。フィルムシミュレーションは主に写真用のアナログフィルムをデジタル化したもので、アナログフィルム時代から優れた色表現を追求してきた伝統をデジタル時代にも受け継いでいる。

その写真用のフィルムシミュレーションを動画でも使用することができるのが富士フイルムのカメラで動画を撮影する最大の魅力だ。もちろんF-Logを使った撮影でグレーディングすることも可能だが、10bit+フィルムシミュレーションで撮影した素材をポストでグレーディングすると、これまた何とも言えない色表現が可能となる。

X-H2Sで撮影した動画の切抜き画像

X-T50では全20種類ものフィルムシミュレーションが搭載されているので、様々なシーンで活用できる。筆者は映画のようなルックのエテルナ、柔らかな階調でポートレート撮影に最適なプロネガスタンダード、カラーネガフィルムのようなエモい画が特徴のクラシックネガあたりをよく使用している。


進化したキットレンズ

長年、富士フイルムのキットレンズとして活躍してきたXF18-55mmF2.8-4 R LM OISがついにリニューアルした。2012年発売と12年も前のレンズとなるので、おそらく富士フイルムでもっとも所有者の多いレンズになる。

筆者はすでに手放してしまっているので画質等の比較を出すことはできないが、以前使っていた際の感覚と実際のスペックで、発売されたばかりのXF16-50mmF2.8-4.8 R LM WRと比較していく。

XF18-55mmF2.8-4 R LM OISXF16-50mmF2.8-4.8 R LM WR
焦点距離18-55mm(換算27-84mm)16-50mm(換算24-76mm)
F値F2.8-F4F2.8-4.8
ズーム機構繰り出しズームインナーズーム
手ブレ補正有り無し
防塵・防滴無し有り
質量310g240g

焦点距離は望遠側が少し短くはなっているが広角側が換算24mmスタートとなった。いわゆる標準ズームレンズの焦点距離である換算24mm-70mmをカバーし、ぐっと使いやすくなった印象だ。F値は望遠側がやや暗くはなっているが、個人的には焦点距離の恩恵のほうがずっと大きい。

ズーム機構もインナーズームとなりレンズが繰り出さないため、ジンバルを使った動画撮影でもバランスが崩れることがないので扱いやすい。

手ブレ補正が非搭載となった。これはX-T50をはじめとする多くのカメラにボディ内手ブレ補正が搭載されたことで、その必要性が少なくなったからであろう。

初めてこのレンズを手に取った時、最初に感じたのがその軽さである。特にX-T50と組み合わせて使った際の軽さにはかなり驚いた。小型のジンバルでの運用も十分に可能である。画質においても4000万画素クラスを解像するのに十分な描写能力を持っている。X-H2で撮影可能な8Kにも使えるだろう。


総括

X-T50を動画撮影機としてみた場合、やはりX-H2SやX-S20の方が扱いやすい。しかしながら、動画機能がダメなのかと言うとそんなことはない。特に8Kオーバーサンプリング4K撮影はX-H2Sと同等の画質を叩き出すことが出来る。4K 60pを多用しないのであれば十分戦っていける性能を有している。

X-T50はスチル撮影をメインとして使い、たまに高画質な動画撮影を楽しみたい方向けのコンパクトなカメラと言えるだろう。

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