SamsungからGalaxy S24 Ultraが発表されて早2カ月。日頃、撮影機材としてiPhone 15 ProMaxにNDフィルターやSSDを接続し、メインカメラとして映像制作に使用している、iPhoneographerの山﨑拓実さんにGalaxy S24 UltraとiPhone 15 Pro Maxの動画性能の比較テストしてもらった。

レポート◉山﨑 拓実(iPhoneographer)
1998年生まれ、明治大学国際日本学部卒。日英バイリンガル。新卒で太陽企画株式会社に入社した後、フリーランスのiPhoneographerに。現在はBusiness Insider Japan、Gizmodoを運営する株式会社メディアジーンに所属。Business Insider Japan、Gizmodoの映像・記事制作を行いつつ、個人の兼業でのPV、MV制作、配信なども行なっている。XWEB

今回のレビューのセットアップ。上がGalaxy S24 Ultra、下がiPhone 15 Pro Max。

Galaxy S24 Ultraには後述するSmallRigからリリースされた、同機種対応のSamsung Galaxy S24 Ultraケージキット、そしてQuick Release Side Handle、Rotatable Quick Release Adapter for Side Handle、Attachable VND Filterを組み合わせています。対してiPhone 15 Pro MaxにはBeastgrip Proに同社の58mm Filter Mount、そしてNiSiの可変ND True Color ND Vario 58mmと同径のSwift ND16を装着しています。

超広角カメラ(約1200万画素/F2.2)、広角カメラ(約2億画素/F1.7)、望遠カメラ(約5000万画素/F3.4)、望遠カメラ(約1000万画素/F2.4)の4種類が搭載されています。これを触った時に思ったのが、レンズの種類が多いということ。


特に、広角レンズの約2億画素というのは、iPhoneユーザーにとっては驚くべき数字。iPhone 15 Pro、iPhone 15 Pro Maxのレンズで一番画素数が高いのは最高で4800万画素。動画撮影でクロップをしたい時に、S24 Ultraの高画素レンズはとても役に立つでしょう。

ただし、ここで強調しておきたいのは、動画撮影において、高画素のレンズを持つことは必ずしも重要ではないということ。有名なのが、シネマカメラの2大巨頭であるARRIとREDの方向性の違いです。

現在のARRIの最新鋭のカメラである、Alexa Mini LFやAlexa  35のセンサーはそれぞれ4.5Kと4.6K。一方、最近Nikonに買収されたREDのKomodo、Komodo-Xの最大画素数は6K、V-Raptor XL [X] 8K VVは8Kと、同じシネマカメラでもARRIとREDのカメラの画素数には大きな開きがあります。

ALEXA 35
V-Raptor XL [X] 8K VV

これは同社の方針の違いで、ARRIは同社が長い歴史を持つこともあってか、画素数よりもダイナミックレンジを重視した設計をし、伝統的なフィルムによる撮影をオマージュした方法を想定しているに対し、REDはデジタルズームはポストプロダクションでのトリミングを想定しているからだと思われます。

話を戻すと、つまり、S24 Ultraの2億画素とiPhone 15 Proの4800万画素は数字の違いこそあれど、同社の方針の違いであると僕は見ています。

それこそ、GalaxyはAIとハードウェアとソフトウェアを最大限に利用し、クリエイティブなルックを目指しているのに対し、iPhoneは高画素を犠牲にする代わりに、動作を軽くし、ポケットからiPhoneを取り出してすぐに撮影できるという体験に重点を置いているように思います(しかし、後述するようにこの傾向は変わってきているように思いますが)。


SmallRigがついにGalaxy専用のケージを発売

さて、今回の比較に使用する、SmallRigのケージにもメンションしておきたいです。今まで自分はiPhoneでの撮影において様々なリグを使用してきました。AppleのiPhone発表会にはほぼ必ずといっていいほど登場する、発売から10年近く経ったBeastgrip Proから始まり、SmallRigのユニバーサルリグ、そして最近発表されたTilta Khronosまで、様々な機材に触れてきました。

Beastgrip Pro
今年5月のAppleのiPad発表イベントに登場したBeastgrip Pro

SmallRigのスマホ用ケージキット3155B


Tilta Khronos


特にSmallRigのケージは、ちょうど自分がiPhoneによる映像制作を始めた2年前あたりからじわじわとシェアを伸ばし始め、いまではBeastgrip Proと並んでAppleのiPhone発表会の常連となっています。

去年のiPhone 15シリーズ発表に伴って公開されたOlivia Rodrigoの『get him back!』のMVのメイキングに登場したSmallRigのケージ 


また、基本的にどのようなスマホにも対応するケージのみならず、iPhoneだけに対応したケージも数年前からSmallRigは販売をしていたのですが、今回なんと、S24 Ultraに対応したケージがSmallRigから販売されました。

SmallRig iPhone 15 Pro Max用モバイルビデオケージ

SmallRig Samsung Galaxy S24 Ultraケージキット


このキットにはケージ本体と、Moment Tマウントレンズバックプレート、17mmネジ付きレンズバックプレート、67mm磁気フィルターバックプレートが付属しています。

最近リニューアル販売された同社の67mmマグネットVNDフィルター、そしてハンドルを組み合わせることが可能です。

Samsung Galaxy S24 Ultraケージキット、そしてQuick Release Side HandleRotatable Quick Release Adapter for Side HandleAttachable VND Filterを装着


また、ハンドルを回し、トップに装着することでサイドハンドルからトップハンドルに移行することもできます。


実際に撮影してみた

前述のリグを付けた状態で、実際に撮影をしてみました。Galaxy S24 Ultraは純正のカメラアプリがかなり細かく設定できるので、それを使用し、iPhone 15 Pro Maxではもはやお馴染みのBlackmagic Cameraを使用しました。

Galaxyのカメラアプリの操作画面。色温度、露出、fps、コーデックなどかなり細かい設定ができます


簡単にS24 UltraとiPhone 15 Pro Maxを比較してみました。時間帯、色温度、シャッタースピード、fpsは全て統一しています。

S24 Ultraカメラ0.6倍(原寸大の画像はこちらをクリック
S24 Ultraカメラ1倍(原寸大の画像はこちらをクリック
S24 Ultraカメラ3倍(原寸大の画像はこちらをクリック
S24 Ultraカメラ5倍(原寸大の画像はこちらをクリック
S24 Ultraカメラ10倍(原寸大の画像はこちらをクリック
iPhone 15 Pro Maxカメラ 1倍
Apple Logで撮影し、Apple公式のLUTをアプライしたのみ(原寸大の画像はこちらをクリック
iPhone 15 Pro Maxカメラ 5倍
Apple Logで撮影し、Apple公式のLUTをアプライしたのみ(原寸大の画像はこちらをクリック
iPhone 15 Pro Maxカメラ 15倍
Apple Logで撮影し、Apple公式のLUTをアプライしたのみ(原寸大の画像はこちらをクリック


ぱっと見違いがお分かりいただけましたでしょうか? S24 UltraはAIによる補正や輪郭強調、色調補正がかなり強く入っており、コントラストも強めとなっています。一方、iPhone 15 Pro MaxのApple Logでは、そういったスマホ内での補正が極限まで抑えられたものなので、輪郭や色調はかなりシネマカメラに近いといった印象ですね。ここが、前述したAppleのiPhoneを取り出してすぐに撮影出来るという体験に重点を置いているという従来の姿勢から、本格的なシネマカメラをスマホなりに目指しているのではないかと思う所以です。


一方夜は?

Galaxyと言えば夜の撮影に強いというイメージがありますが、果たして。

S24 Ultraカメラ1倍(原寸大の画像はこちらをクリック
iPhone 15 Pro Maxカメラ 1倍
Apple Logで撮影し、Apple公式のLUTをアプライしたのみ(原寸大の画像はこちらをクリック


ここはGalaxyのAI補正が活きていますね。コントラストや輪郭の強調が良い方向に作用しています。空のグラデーションの豊かさに注目していただけると分かりやすいです。逆にiPhoneはもはやほとんどセンサーのサイズと少しのノイズリダクションで夜の撮影と戦っているようなものなので、物理的な問題に差し掛かっています。

SmallRigからもS24 Ultraのケージがリリースされ、この比較撮影をした直後にBlackmagicからAndroid版のBlackmagic Cameraもリリースされました。iPhoneのみならずスマートフォン業界全体で、本格的なカメラ撮影が行われようとしています。これからどんなことが起きるのか、楽しみです。

Galaxy S24 Ultraの製品情報