独自のプロセッサを積んだ新型MacBook Proの実力は?M1チップ搭載MacBook Proで DaVinci Resolve 17は快適に動くか?


アップルから登場した新型MacBook Proが映像制作者の間で話題を集めている。DaVinci Resolve 17ではいち早くネイティブ対応を発表し、その処理速度に関心が集まるようだが、実際のところどうなのか?撮影監督・DIT・カラリストとして活動するニコラス・タケヤマさんに試してもらった。

テスト・文●ニコラス・タケヤマ

 

▲アップル自社開発のプロセッサApple M1チップを搭載。MacBook Pro(13インチ)134,800円~

[SPECIFICATIONS]
プロセッサ:Apple M1チップ(8コアCPU、8コアGPU、16コアNeur al Engine)
画面サイズ:13.3インチ
画面解像度:2560 ×1600ピクセル
輝度:500 nits
色域:P3
装備端子:USB-C×2、Thun derbolt 3×2
外形寸法:高さ156×幅304.1×奥行212.4mm
重量:1.4 kg

 

Intel搭載モデルと見た目の違いはない

アップル独自の「M1」プロセッサを搭載した13インチMacBook Pro/MacBook Airが昨年11月17日から販売を開始した。最新モデルでは従来採用してきたIntelプロセッサ搭載モデルに加えて、自社設計のプロセッサを導入したという話だけで目から鱗でびっくり仰天なわけだが…。

そればかりではなく、映像制作に従事している人たちだらけの筆者の周りでは、「どうやらあの小さなボディで8Kの高解像度素材が動く!」ということで話題が持ち切りであった。

「そんなバカな」と、思いつつも海外のネットのレビューを見漁るとそこには本当にサクサクと4Kタイムラインで動画を編集しているおじさんがいるではないか!?

「13インチのMacBook Proで動画編集?」今まで考えたこともない選択肢が現実味を帯びてきた。誤解がないように言っておく。今までもIntelの内蔵グラフィックスの進化のおかげでライトな動画編集であったら、13インチでもこなせた。友人のための結婚式の余興ビデオやホームビデオ等なら、なんの問題もなく作れるであろう。

ただ、日々進化している映像業界で編集を生業にしている人たちにとってディスクリートGPU(グラフィックカード)を積んでいない従来の13インチのMacBook Proはありえない選択肢だったのである。しかし、M1チップ搭載のMacBook Proの登場で、それが覆されたわけだ。

いろいろな妄想が働いた。もしかしたら、重い16インチを持ち運ばずに出先で編集ができるかもしれない。私がよく行なっている出張カラーグレーディングでも荷物を軽くできるかもしれない。ステイホームで気持ちが消極的になっているなか、久々に食指が動いた。

そしてようやく、その13インチの「M1」搭載MacBook Proが手元に届いたので、DaVinc Resolve での使用感等を含めインプレッションをレポートしていきたい。果たして、私の妄想は現実になるのか!?

 

Intel搭載MacBook Pro13インチとの違いは?

今回、レビューにあたってM1搭載のMacBook Proと併売されるIntel搭載モデルも比較対象としてお借りした。まずは見た目の比較から。知ってはいたが、並べてみたらデザインや装備端子など、何ら変わりはない。


▲アップル自社開発のプロセッサApple M1チップを搭載。併売のIntel搭載モデルと並べてみた。見た目はまったく同じ。


▲同じくM1チップを搭載したMacBook Airと。Airは輝度が400nit、重量が1.29 kg、バッテリー持続時間に違いがあるが処理速度は同等。

▲今回はメモリを16GBに増設したモデルで検証した。

 

それでは実際にDaVinciを起動してみて検証してみよう。DaVinci Resolveで書き出しテストをしてみた。手始めにブラックマジックデザイン社が公式で配布している12KのBRAW素材(URSA Mini Pro 12K)をダウンロードしてみた。BRAWなのでDaVinci Resolveに最適化されているとは言え、サクサクと再生できた(下参照)。驚きを隠せない。

お次は少しいじわるを。12KのBRAW素材を3トラックに重ねて再生してみた。この状態でも、ぎりぎりリアルタイム再生できた。タイムライン解像度を下げてみると、それ以上のトラック数もリアルタイム再生できたので、必要充分であろう。そもそも13インチの小さなモニターで8Kをリアルタイムで再生する意味もあまりない。

ノイズリダクションを適用した状態でのリアルタイム再生はさすがに無理があった。そこそこのノイズリダクションをかけると、秒3フレーム程になり、かなりもたついてしまう。しかし、筆者が普段使っているGeForce RTX2080を積んだWindowsマシンでもキツい印象があるので、こうしたエフェクトは書き出し前に適用すればいいだろう。

 

DaVinci Resolveでの再生テスト

▲URSA Mini Pro 12KのBRAW素材をDaVinci Resolveのエディットページに読み込み、再生したところ、リアルタイムにサクサクと再生できた。

▲同じくURSA Mini Pro 12KのBRAW素材を複数トラック重ねて、再生できるかテストした。3トラックまではリアルタイム再生が可能。タイムライン解像度を下げればまだ増やせた。

▲DaVinci Resolveのカラーページで素材にノイズリダクションを適用。重たい処理なので、さすがにリアルタイム再生は難しかった。

 

 

書き出し速度はどうか?

今度は筆者が現在、実際にオフラインからオンラインまで編集した2分半のプロジェクトデータを開いて、こちらも書き出ししてみようと思う。タイムライン上にはFusionのコンポジット(テキストアニメーション)やデザイナーさんからのPNGデータや先ほどのタイムラインと比べて実際の利用シーンに近いであろう。

Intel搭載のMacBook Pro 13インチと比べ、2.6倍程書き出し時間の短縮がみられた。さすがに筆者が普段使いしているPCに書き出し時間には及ばなかったが、2分半のプロジェクトデータを3分ほどで書き出したので概ね満足。16インチのMacBook Proのベースモデルくらいの書き出し速度は出ているのではないだろうか?

書き出し速度とセンサー温度


▲2分半のプロジェクトデータの書き出し速度を比較した。自作のRTX2080搭載のWindows PCには及ばなかったものの、Intel搭載MacBook Proと比べてみると、約2.6倍の速さで書き出しできた。写真下は書き出し中の各種センサーの温度。平均して60℃程で推移していた。

 

 

実際に仕事で使ってみた印象

前述のとおり、筆者はよく出張カラーグレーディングなるものをしている。編集スタジオや時にはグレーディング環境が整っていない会社に出向き、立ち合いでグレーディングを行うのである。あらかじめ素材を頂き、ある程度下地を作ってから現場に出向くので、そこそこのマシンスペックが必要だ。一昔前まではそれこそデスクトップPCを毎回車で運んでいた。

それが、ここ最近やっと16インチのMacBook Proでもほとんどのニーズは応えられるようになったので、徐々にノートでのスタイルに移行している。

今回、それを13インチのMacBook Proで代替できないかと大実験してみた。どうせ、スタジオに入ってしまえばモニターは別で繋げるので小さければ小さいほうが良い。

が、ここにきて唯一にして最大の欠点を見つけてしまった…。それは現時点でM1搭載のMacでは外部モニター出力がひとつだけということだ。立ち合いグレーディングの際、画面のひとつは確実にプレビュー用に用意しなければならないので、残った小さい13インチの画面で作業する必要が出てくる。

そこで普段から使っているUltra StudioやDeckLink等のスルーアウトができる再生デバイスを使ってみたら、問題なくプレビュー画面を直出しでき、作業用のモニターも別に確保できた。

グレーディングをしっかりしたいという方はこうした再生デバイスがあったほうが色が正確に出るので用意するのがベターなのだが、M1搭載のMacBook Pro/Air単体で立ち合いありのグレーディングがしたいという方はその点、注意が必要かもしれない。

それ以外のことは普段使っている、MacBook Pro 16インチ(GPU: Radeon Pro 5600M)とほぼ遜色のないレベルで作業が行えた。さすがに書き出しの速度は少し劣るが、価格差やボディサイズも含めるととても満足度が高い。

とはいえ、現状ではM1 Siliconに対応していないプラグインやソフトがあるので、そのあたりは対応を待つしかないが、DaVinc Resolve単体で使う分には問題ないと言えよう。

 

外部モニター出力が複数必要な場合には再生デバイスと組み合わせるのがおすすめ

▲クライアントやディレクター立ち会いのカラーグレーディングなど、モニター出力が複数必要な場合はスルーアウトのついた再生デバイスを使うとよい。写真はブラックマジックデザインUltraStudio 4K Mini。

 

 

なんと言ってもバッテリ駆動時間の長さと電源効率の良さ!

マシンのパフォーマンス以外に付け加えたいのが、バッテリーの駆動時間の長さである。現行の上位モデルに匹敵するパワーを持っていながらして、筆者の体感でも2倍から3倍のバッテリーの持ちを感じられた。

書き出しの温度も平均して60℃くらいで推移していて、ボディに触れられないくらい熱くなるようなこともない。そして、なんといっても静穏性が高く、静か。本当に書き出しをしているのか疑うレベルであった。

さらに電源を繋いでいなくてもそれほどパフォーマンスの落ちがみられなかったのも嬉しい誤算だ。従来のハイエンドノートだと、映像制作等のマシン要求度が高いタスクを行うと、AC電源を繋いでいないと電源供給が足りなくなってパフォーマンスが急激に落ち込むことがある。特に残りの電力が少ないときは再生が一切できなくなることもありその落差は顕著だ。

そんなこともあってか、従来のハイエンドノートだと持ち運べるという利点があるが、結局出先で電源を確保する羽目になるのである。だからカフェで動画編集なんてもってのほか、コンセントがないとすぐ電池が足りなくなってしまっていた。それが13インチのM1搭載Macならカフェでも安心して編集できる(16インチほどの威圧感もなく)。

 

まとめ

以前、MacBook Pro 16インチが発売した時もそうだったが、最近のアップルの公式サイトを見ると、いかに自社のFinal Cut Pro Xを押しのいてアップルがDaVinc Resolveを推しているのが分かる。今回のM1搭載のMacでも発売と同時に既にDaVinc Resolveではこの新しいプロセッサに対応しており、いかに両社で連携がとれているのかが伺える。

ソフトウェアがハードウェアに最適化がさらにされるとここまで処理が効率化され、そして総じて性能の向上が図れるのかというのが今回の率直な印象であった。今後、M1しかりMacのSiliconプロセッサを搭載したモデルにも多いに期待だ。

 

 

VIDEO SALON 2021年3月より転載