毎年恒例のNHK技研公開。今年は5月25日(木)から28日(日)の4日間、世田谷区砧にあるNHK放送技術研究所で開催された。今年は開催日程前に開催されるプレス説明会に参加することができず、最終日に一般客と一緒に展示を回ることになった。逆に言えば、一般の方々の反応も身近に感じながらの取材になった。
入り口ではドーモくんがお出迎え。一見人が少なそうに見えるが、中には待ち時間がある体験展示や説明ツアーもあり、毎年のことながら盛況だった。
8Kスーパーハイビジョン、120Hzのライブ中継システムを実演
このところ8Kスーパーハイビジョンが最大の話題になっているが、今年は2020年の東京オリンピックを想定して、スポーツ中継における実用化をイメージしたデモが特徴だった。スポーツにおいては、高精細なだけでなく動きボケが少ないことが求められる。今年のデモの中心は、フレーム周波数120Hzに対応したフルスペック8Kシステムをライブ中継で実現すること。講堂にスケートボードの会場のセットを作り、実際にすべってもらい、それを3板式の8Kスーパーハイビジョンのフルスペックカメラを含むいくつかのカメラで撮影、別会場に中継車を想定したスイッチングルームを作り、そこで実際にスイッチングしながらディスプレイに出しつつ、記録するというデモを1日に何度か行なっていた。
ライブスイッチャーは8Kスーパーハイビジョンに対応した小型タイプを開発。波形モニター、文字合成装置、フレームシンクロナイザーも開発し、それらは144Gbpsのインターフェイス(U-SDI)で接続される。オリンピックを想定した8Kライブ映像制作が見えてきた。
操作パネルはコンパクトだった。
フォーカスはカメラマンではなく、ビデオエンジニアがモニターを見ながら送っている。
昨年までに開発した3板式フルスペック8Kカメラ、超小型8K単板カメラに加え、フル解像度8K単板カメラも120Hzに対応した。センサーは35mmフルサイズだが、ぎりぎりショルダーでいけそうな筐体を実現。
120Hzに対応した8Kシート型ディスプレイ
これは番組技術展などすでに各所に展示、デモされているが、4Kパネルを4枚貼り合わせた8Kシート型ディスプレイを展示。8Kスーパーハイビジョンの大画面高精細映像を家庭で楽しむには、直視ディスプレイ、投射プロジェクターともにハードルはかなり高くなる。巻き取ることができる自発光の有機EL素材を使った薄型軽量のシート型ディスプレイを開発することが普及への鍵を握ると見て、有機ELの素材開発を進めている。
現状ではまだ4枚貼り合わせであり、かつガラスなので、巻き取ることはできないが、将来的には130インチを1枚の有機ELパネルで構成できる技術を目指している。大画面になるほど動きボケは気になるので、フレームレートは120Hzを想定。動きを滑らかに表現できる。
曲げられる素材の有機ELディスプレイ。
全体的には今回は有機EL関連の技術展示が目立った。やはりスーパーハイビジョンを普及させるのは、フレキシブル素材の有機ELパネルが鍵を握るということらしい。
しかし、大型のフレキシブル有機ELディスプレイを作るにはまだまだ技術的な課題がある。技術展示として、高速駆動の薄膜トランジスター(TFT)の研究発表も。以下は、酸化物半導体の一部を導体化させることで、TFTの高速駆動を可能にする技術について説明するパネル。話はかなり難しいのだが、NHK技研としては、日本のメーカーが大型の有機ELディスプレイの開発をストップしているので、より要素技術の開発に力を注ぎシート型ディスプレイ実現に向けて業界に貢献したいという思いもあるようだ。
有機ELの弱点のひとつがグリーンの発色。従来の発光材料+ボトムエミッションでは、8Kスーパーハイビジョンの色域、BT.2020をカバーできていなかった。グリーンの点だけでいえば、そのグリーンは自然界ではほぼ存在しない色だが、その色が出せないとB(ブルー)と結んだ線の色域、たとえばエメラルドグリーンなどを表現できす、実物に近い色彩が出せないことになる。高い色純度の材料を用い、トップエミッション構造を導入することで、極めて高い色純度の緑色発光を実現できる有機ELデバイスを開発。
8Kディスプレイを用いたVRシステムも
8K超高精細映像のバーチャルリアリティへの応用として、世界最小8.3インチの8K有機ELディスプレイを用いたVRシステムを開発した。画像全体としては15K×30Kの超高解像度の全天周静止画像から、ユーザーの視線方向の画像をリアルタイムで切り出して、8K有機ELディスプレイで表示する。従来のVRシステムは表示装置の解像度が充分でないため、画素構造が見えてしまい没入感が失われていたが、8Kディスプレイにすることにより、臨場感と没入感の向上が期待できる。今後は小型化などVRシステムとしての完成度を高め、AR(拡張現実感)やMR(複合現実感)などへの応用を検討していくという。
8Kの240Hzハイスピードカメラと8KのENGカメラ
今やスポーツ中継でのハイスピード撮影は必須。8Kスーパーハイビジョンでそれを実現しようとすると膨大な処理が必要になる。現段階では、8K映像を3300万画素の撮像素子で4倍速(毎秒240枚)で撮影して記録することができる8Kスローモションシステムを実験装置として開発。現状ではまだモノクロだったが、当然カラー化を目指す。
もうひとつは現実的なENGカメラの提案。市販のSDカード4枚に連続1時間以上記録できるシステム。現状普及している技術を利用してこうすれば8KスーパーハイビジョンENGカメラができるというプロトタイプの提案で、もちろんカードの4枚での運用は不便という声もあるので、もっと高速な記録メディアやSSD、さらにもっと効率の良い圧縮技術(H.265)の採用なども考えているという。
左が8Kのハイスピードカメラの実験装置、右が8Kカムコーダーを想定した機能検証機。
8Kハイスピード撮影は現状モノクロの状態。
8KのENGカメラのプロトタイプ。4枚差しのSDカードをEDIUSで直接編集するというイメージ。このショルダーカムコーダーで実現できるのであれば、現状のHDや4Kよりもコンパクトな筐体ということになる。
ソニーとは違う仕組みの電子式可変NDフィルター
電子式の可変NDフィルターといえば、ソニーのFS5、FS7IIに搭載されたものがあるが、NHK技研で開発しているものは、それとは違うものだという。
銀イオンを利用したEC素子を利用し、電圧する印加するとすると還元作用により、電極上に銀が析出する現象を利用して減光する。メリットとしては、透過率の調節範囲が1-80%とひじょうに幅広いこと。現状の課題としては、レスポンスがまだ悪く、応答速度が5秒程度かかること。また現状では濃度によって色むらが発生していた。
ボールの軌跡をすぐにCGで表示するシステム
こちらもNHK番組技術展で紹介したシステム(そちらはゴルフだった)。スポーツ中継での利用を目指したグラフィックスシステムで、ボールの位置を複数のカメラで撮影し、瞬時に位置を算出してCG合成して表示するというもの。ボールの速度と軌道をアタックを打った後にすぐに表示する。これも各要素技術の性能を向上を図り、2020年に東京オリンピックでの利用を目指すとしている。