NHK技研公開2018は5月24日(木)から27日(日)まで


毎年5月末に開催される技研公開が5月24日(木)-27日(日)の4日間、開催される。

情報はこちらから。https://www.nhk.or.jp/strl/open2018/

それに先立って、22日(火)に記者説明会が開催された。

いよいよ今年末にはスーパーハイビジョンの放送が開始され、8Kの実用化が具体的に見えてきた。そんな中開催される今年の技研公開は、これまでのスーパーハイビジョン中心から、その先の世界を見据えてシフトしていくことが鮮明に感じられた。

記者発表の最初に登壇した技術研究所の黒田所長は、2020年に90周年を迎える技研は、これまで、ハイビジョン、衛星放送、スーパーハイビジョンを牽引し、テレビ放送に貢献していたが、これからの3年間(2018年-2020年)は、リアリティイメージング(8Kスーパーハイビジョン、VRなどの空間表現メディア)、コネクテッドメディア(インターネットサービス技術、ネット活用番組制作)、スマートプロダクション(インテリジェント番組制作、ユニバーサルサービス)を3本の柱に、2030-2040年ごろのより豊かな放送、サービス「ダイバースビジョン」の世界を目指すとしている。

ダイバースビジョンという言葉は聞きなれないが、要は、2030年-2040年ごろにはスマートフォンやタブレットはもとより、AR、VR機器や触覚デバイスが広く普及し、テレビの概念は大きく変わっていき、番組やコンテンツの楽しみ方の多様化が進むと予想される。誰もが時間や場所に関わらず、好みの機器を使って、様々なコンテンツを視聴・体感できる世界をダイバースビジョンと呼んで研究を進めていくとしている。それは一見テレビの否定のようにも思える。黒田所長は、「テレビは古いメディアというイメージがある。しかし、テレビとはコンテンツをわかりやすく、臨場感を持って伝えるというのが原点。その原点に立ち返り、どんな送り方、どんな制作方法、どう届けるかを含めて、電波や通信に枠組みにとらわれずにテレビの未来を考えたい」という。

もともと人間の視覚の限界として8Kが設定されていて、その先の解像度を目指すという方向はない。その先としては、まず立体映像は情報量としては大きくなるので、目指す方向ではあるが、「8K」と「立体」の組み合わせ、さらにロボット、IoTとの連携といったサービスの方向に技術進化の矛先は向かっていきそうだ。

 

2030-2040年頃の視聴スタイル

技研の入り口を入ってすぐの展示は、いつものエンターテインメント色は薄れ、よりコンセプト色が強まった。技研の3カ年計画について、説明するコーナーから入る。

さらにその先にいくと、技研が想定する2030年-2040年のリビングにおける視聴スタイルが。壁にはシート型の8Kディスプレイ、手前には、立体映像が視聴できるモニターが設置されている。黒田所長は、「あくまで、今できる技術でやってみた未来」だという。

手前のモニターでは立体動画が見られる。

屋外でも同じように立体映像が見られるというイメージ。

スマートグラスや椅子がミッドセンチュリーというかレトロフューチャーな感じ。

 

音声認識による書き起こし制作システム

その先にいくと一気に現実的なシステムになり、音声認識による書き起こし制作システム。取材映像の発話内容の書き起こしをリアルタイムにやってくれるシステムの研究をすすめている。書き起こした結果は簡単に修正でき、それが局内ネットワークを通じてすぐに反映される仕組み。

白黒映像の自動カラー化技術

記者からもっとも熱心に質問が出たのがこの技術。従来の技術は静止画ベースだったため、動画にした場合、ムラが多く、結局は専門家が1フレームずつ着色していて、数秒の映像をカラー化するだけで数日を要していた。この技術は、NHKアーカイブスなどから収集した大量の映像データを教師データとして学習し、色推定、色修正、色伝播の3つのニューラルネットワークを使って白黒映像をカラー映像に自動変換する。5秒の映像を30秒から5分くらいでカラー化できる。色修正もかんたんで、対象領域の数点を指定するだけで、色を修正できる。

8K 4倍速スローモーションシステム

個人的にもっとも楽しみなのがこのシステム。8K映像を4倍速(毎秒240枚)で撮影・記録すると同時にスロー再生(毎秒60枚)可能な技術。高速アナログ・デジタル変換器を備えた1.25インチ3300万画素のCMOSセンサーを新たに開発。当然センサーは高感度である必要がある。カメラヘッドとコントロールユニットはカメラケーブル1本で接続、CCUからは2本のU-SDIインターフェイスケーブルというもので出力される。

8Kはソニーのカメラもそうなのだが1.25インチの3板というのが現状の技術でバランスがとれるところなのかもしれない。このカメラも1.25インチの3CMOSである。

野球では、クロスプレーもはっきり見られるし、投手の投げるボールの回転までわかるほど。このボールが見える感覚は今まで見たことのないものだった。

 

8K 120Hz映像符号化・復号装置

8Kのフルスペック映像は120Hzであり、スポーツ中継では120p撮影が多用されそうだが、120Hzの8K映像を圧縮・伸長する符号化技術を開発。数秒のディレイはあるが、ほぼリアルタイムに伝送可能。たとえばスタジアムで撮影した映像を圧縮して(1/1000程度)伝送、パブリックビューイング会場などで受け取り、伸長して流すというのが使用イメージ。

 

時間がなく、すべてを取材することはできなかったが、4日間開催されているので、興味のある人はぜひ足を運んでみてほしい。

講堂の8Kシアターでは、HDR、120Hz/60Hzコンテンツを、フルスペック8K対応レーザープロジェクターで上映している。コンテンツはNHKバレエの饗宴2018(120Hz)、サカナクションライブ2017、北米イエローストーン 躍動する大地と命、平昌オリンピックフィギュアスケート(120Hz撮影)。

個人的なおすすめとしてはフィギュアスケート羽生結弦選手のショートプラグラムの映像と音声。シアターの真ん中よりかなり前のほうで見てもらえれば、8K 120Hzのスーパーハイビジョンがいかにスポーツに向いているか、体感できるはずだ。このコンテンツは4K/8K展でも公開されていたが、視界に収まらないくらい前のほうがいいように思った。トップレベルのスポーツ選手の凄さを感じることができる。こういう体験は8Kならではだと思う。(編集部・一柳)

 

vsw