TVCMや映画、MVなど幅広い分野で空撮を手掛けるドローンカメラマンの田中道人さん。最近ではFPVドローンを用いた「フリースタイル」での空撮に力を注いでいる。元々GoPro HERO 7ユーザーだった田中さんに新しく発売になったGoPro HERO 8をフリースタイル空撮のシーンで試してもらった。

テスト・写真・文●田中道人(館岡事務所)

 

 

そもそもフリースタイルとは何なのか?

ドローンの「フリースタイル」という言葉に馴染みのない方が多いかもしれません。これは国内では主にレース用途に使用されてきた5インチのプロペラを備えるFPVドローンにGoProのようなアクションカメラを載せてアクロバット飛行を行い、一人称視点で収録した映像を楽しむというもので、2〜3年前から海外のニッチな層で流行り始めたホビーカルチャーです。YouTubeで「FPV,freestyle」と検索すれば、世界中のフリースタイラー達の動画を見られます。

個人的にはFPV空撮とフリースタイルは別のモノとして捉えており、FPV空撮は文字通りFPVドローンによる撮影を目的としていますが、フリースタイルでは具体的な被写体というものがなくカメラワークから見て取れる操縦技術や、まるでドローンがダンスを踊ってるかのようなカメラワークのセンスが映像表現としての意味を持ってきます。フリースタイルと呼ばれるエクストリーム系のスポーツ、またはブレイクダンスやフィギュアスケート等とも、視聴者の視点が一人称か三人称かという違いはあれど主旨としては全く同じモノのように感じています。

筆者はドローンによる撮影をメインに行なっておりますが、始めは空撮用途でのFPVドローンの導入を考えていたのですが、実際に飛ばしていくうちによりディープなフリースタイルの世界に魅了されてしまい、プライベートではひたすらトリック(技)の練習や、もっとイメージに近いフリースタイルができるように機体を自作する日々になってしまいました。

 

進化した手ブレ補正機能を前モデルと比較

今回は、GoPro HERO 8で強化された手ブレ補正機能「Hyper Smooth 2.0(ハイパースムーズ)」が、GoProの使用用途の中でもかなり過酷な部類に入るであろうフリースタイルで、HERO7とも比較しつつ実機検証を行いました。(許可を頂いた場所にて)。また、マニュアル露出撮影時のNDフィルター、画質、カラコレの検証等も同時に行なっていきたいと思います。

 

【GoPro HERO 8 Blackの主な特徴】

GoPro HERO8 Black
50,800円(2019年10月25日発売)

▲最大4K/60p撮影が可能なアクションカメラ。35mm判換算で16mmの超広角から27mmまで画角を切り替えて撮影できる。タッチパネルを備え、シンプルな操作で撮影が楽しめる。

 

【前モデルとの主なスペック比較】

 

3つの検証動画を制作

今回は、次の3パターンの比較検証動画を制作しました。ちなみに筆者は世界のスーパースタイラー達に憧れている下手くそスタイラーです。手ブレ補正の検証には丁度良いかもしれません。

動画①は、HERO 8(ハイパースムーズOFF、カラコレなし)、動画②はHERO 7(ハイパースムーズON、カラコレなし)、動画③はHERO 8(ハイパースムーズON、カラコレあり)

GoProの撮影設定は以下の通りです。

  • 4K/24p SuperView
  • ProTune ON
  • ビットレート:高
  • シャッタースピード:1/96〜192(+NDフィルターで調整)
  • ホワイトバランス:5500K
  • ISO:最小 100・最大 100
  • シャープネス:中
  • カラー:フラット

 

生粋のフリースタイラー達は映像上の表現を動画編集することなく全てリアルタイムに指先で行います例えばスローモーションなんかも突然スローになったかのようにドローンの動きで表現するのです。非常に難易度の高いトリックの一つでもあります。筆者もハイスピード等は使わずに、設定は常にこの一択です。

 

 

手ブレ補正の進化はどうか?

動画① GoPro HERO8
(ハイパースムーズOFF/カラコレなし)

まず動画①。HERO8(ハイパースムーズOFF、カラコレなし)ですが、この状態でも思った以上に滑らかな映像になっているのではないかと思います。これは滑らかなフリースタイルを行うためにはステディカムのように機体のバランス、チューニングそのものを追い込む必要があるからです。しかしドローンが激しく反転した際には目に見えて目立つブレ、ドリフトが映像に現れてしまいます。

 

動画② GoPro HERO7
(ハイパースムーズON/カラコレなし)

次に動画②HERO7(ハイパースムーズON、カラコレなし)は、充分に滑らかな映像になっていると思います。この時点でフリースタイル用カメラとしては完成されています。画質も個人的には好みな質感です。ただし、時々電子式手ブレ補正のスタビライズのトラッキングのズレなのか、映像がカクンとコマ飛びのようになる瞬間があります。

 

動画③ GoPro HERO8
(ハイパースムーズON/カラコレあり)

 

いよいよ動画③HERO8(ハイパースムーズON、カラコレあり、魚眼修正あり)です。これは正しくハイパースムーズでした! 正直なところ実際にフリースタイルに使ってみて全然ダメだったら「この記事どうしよう…」と思っていたのですが、そんな心配をする必要はございませんでした。筆者のフリースタイルも3割増しぐらいでそれっぽく見えてしまいます、フリースタイラー的にはダメですが、映像的には素晴らしいことだと思います。

 

 

 

実際の撮影でも使ってみた

▲SAMARのプロモーションムービー。空撮ではInspire 2と産業用5.7GHz帯VTXのHN1000Tを搭載した業務用FPVドローン機を使って撮影した。2分34秒以降の2カットで撮影したもの。きちんと水平を出して撮影するシーンではInspire 2を使用した。

 

今回、丁度HERO8をお借りしていたタイミングで「SAMAR」という釣り具用品ブランドのプロモーション映像の撮影が、筆者の地元の北海道でありました。良く知っている場所ということもあり、演出・撮影・編集をすべてやらせていただいたのですが、メインカメラのソニーα7 III、DJI Inspire 2による往来の空撮に合わせて、新たな試みとしてHERO8を載せたFPVドローンでも実際に撮影を行いました。撮影時の現場は強風で、ジンバルの無いFPVドローンは風に煽られてブレが出やすくなってしまう条件でしたが、ハイパースムーズ2.0のお陰といっても良いほどの滑らかな映像を撮影できました。Inspire 2とFPVドローンの使い分けも効果的に行えたと思いますので、ぜひ作品をチェックして頂ければと思います。

 

 

【ドローンへの取り付け方法や操縦方法について】

▲HERO8は7よりも大型化しているために7用のマウントには入らずマウントの上半分を切り取りストラップで固定。


▲操縦中の筆者。FPVゴーグルでカメラ映像を観ながら撮影を行う※1。

▲今回、検証動画にはホビー用、CM制作には業務用ドローンを使用※2。

▲写真左がHERO7、写真右がHERO8。PolarproのNDフィルターを装着した状態。

 

※1/フリースタイルドローンでのFPVには無線従事者免許(趣味の場合はアマチュア無線、業務の場合は陸上特殊無線技師)と無線局の開局申請が必要になります。また、機体重量が200gを超えるため、航空法や各種法令、条例を遵守しましょう。

※2/業務用とホビー用の主な違いは、FPVゴーグルで映像を観るための映像伝送装置(VTX)に使用する電波が異なる。業務用VTXでの開局申請は販売店で相談しましょう。

 

 

ビデオSALON2019年12月号より転載