Insta360 Proは37万円という価格帯にも関わらず、最大8Kの2DVRに加え、最大6Kの3DVR映像を1枚のSDカードに記録できる。昨年夏にこのカメラを使った初のMVを手がけたみなさんに現場での使い勝手やワークフロー、演出などについてお話を伺った。
取材・文●青山祐介/記事協力●株式会社ハコスコ
◉Insta360 Proで撮影されたミュージックビデオ・P.O.P 『KISS ME』
双子のヒップホップグループP.O.P(ピーオーピー)の公式MV。Insta360 Proの3DVRの奥行感ある映像に加え、仕上げで空間音声処理を施し、周囲でダンスするキャストを間近に感じながら楽しむことができる。本作は「ルミエール・ジャパン・アワード 2017」VR部門特別賞を受賞した。
ラップグループ「P.O.P」の2人と6人の女性ダンサーがカメラをぐるりと取り囲むように踊るMVは、すべてInsta360 Pro1台で撮影された作品だ。渋谷のスクランブル交差点をはじめ体育館やクラブなど、様々なロケーションの撮影をわずか1日で行なった。
「2年前にGoPro6台を使って疑似体験VRを作った時には、ステッチに時間がかかり、半日でわずか3カットしか撮れませんでした。しかしInsta360 Proなら、リアルタイムステッチングができるからその場でVR映像の確認ができます。結果としてスピーディに撮影することができました」(古田氏)
◉P.O.P『Kiss Me』のワークフロー
◉カメラ1台とアプリがあれば撮影できる
常にダンサーがカメラを取り囲むように踊り、その間をP.O.Pのメンバーが移動する。その動きはいわゆるコンテではなく、俯瞰図と平面図を書いて制作側と演者の間で共有した。映像上の演出で特に気を遣ったのは“視点誘導”だという。
「360度カメラは周囲すべてが映るので、カメラワークで意図を込めるのは難しい。それだけにどこを意図的に見て欲しいという視点の誘導がカメラワークとなるわけです」(中村氏)
視点誘導には、例えばオープニングで正面から登場するダンサーが、すぐに180度後ろ側に回り込むことで360度映像であることを感じさせたり、演者が手にした本や傘で視界を遮った裏で、演者や芝居の入れ替わりを行うといった、細かな工夫が積み重ねられている。
また、演者の立ち位置や動きにも配慮している。例えば、カメラを取り囲むダンサーとの距離感は、曲のテーマが“キス”だということもあり、なるべく近いほうが効果的だが、あまり近いとステッチが破たんしてしまう。そのため、破たんしない適切な距離を保つために繰り返しテストして、演者にその距離を感覚で覚えてもらった。360度撮影なので本番中は、監督やカメラマンは近くで、その演技を見ることもできない。
「演技が上手くできたかどうかは、まず演者が自身の演技にOKを出して、その上でノートパソコンでステッチした映像をチェックする独特なものでした」(三村氏)
昨年行われたこの作品の撮影は、Insta360 Proのプロトタイプで行われている。そのため、「LogやRAWで撮影したい」「もっと色温度の幅があるといい」といった希望もあった。ただ、Insta360はファームウェアのアップデートが早く、それだけに、こうしたニーズに対しては、今後の対応に大きな期待を寄せているという。
◉ステッチは専用ソフトで自動処理
◉3DVR映像の編集はPremiere Proで
Insta360 Proの国内代表代理店であるハコスコでは毎週火曜日に体験説明会を実施中。
申し込みはこちら→https://coubic.com/hacosco/275426/express
※この記事はビデオSALON 2018年8月号に掲載した内容を転載しています。